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カテゴリ: 【滝が~】 関連
*****

「……なんだよ……おまえ!」
 俺は突然現れたそいつに向かって怒鳴った。隣にいたタキは、なんとも言えない表情をして、やはりそいつのことを見ていた。
「……タキ」
 そいつが、タキの名前を呼ぶ。
 男だった。長い銀色の髪が爪月に照らされて、キレイ……といってもいい顔立ち。夜の闇にやたらと映えていた。
 くすくすと笑いながら、そいつはタキのことを見ている。
 サラは怯えた顔で、その男を見ていた。
 ……やっきねえな……。

「……タキ、おまえはよほど、火に縁があるようだな……」
「だぁぁぁぁっっ! 無視してんじゃねえよっ!! なんなんだよ、オマエ!!」
「わたしか? わたしはソウゲツ」
 そいつはやっぱり笑みを浮かべながら、言う。あーっ! こういう奴はだいっきらいだ! なんだかんだとカッコつけやがって。
「──────違う!!」
 タキが大声で叫んだ。びっくりした。
「あなたは奨月じゃない! あのひとからは、あなたのような、邪悪な気配はしなかった!!」
「……奨月と接触したのか……ならば……」
 そいつの顔から笑みが消えた。冷たく凍りつきそうな瞳。抑揚のない声。ゾクゾクするくらいの禍々しい気配。
 そいつはす……と手を上げて、何かをつぶやいた。
 瞬間。

 タキの体が黒い霧につつまれた。なんなんだ……? あれ……。
「……く……う……」
「風月の皇子はどこにいる……答えろ」
「……ぅ……しら……な……」
「答えないのか……」

「うあぁぁぁぁぁぁっっっ!」
 がくん・・・・
 タキがうなだれた。
 なんてこった……。
「タキッ!」
 俺は大声でタキの名を呼び、かけよって体をゆすった。だけど返事は全然ない。サラは泣きながら震えて、タキのことを見つめている。
「……つまらんな」
 そいつがす……っと、部屋の中に降りた。全然動かないタキに近寄ろうとしたそいつを、俺は阻む。

 タキとサラに、なんかしてみやがれっ! ふっ飛ばしてやる!
 とにかく俺は必死だった。守らなきゃいけない、守りたい。今の俺を動かしてるのはそれだけだった。
「…………テメエッ!!」
 そいつを睨んで、俺は叫んだ。
「随分好き勝手やってくれるじゃねえか……表に出ろッ! ぶちのめしてやる!!」
「……ほう……おもしろい」
 そいつは窓から下に降りた。俺は呪文を唱えて、水柱をたてる。地下水脈の移動だ。そしてその水を具現化させ、水の龍に。そしてそれに飛び乗った。
「手加減なしだぜ」
「……死ぬぞ……おまえ」
 俺はそいつの足元から、水柱をいくつも立てる。
 ……全然かすりもしない。
 そいつは呪文を唱えて、印を結んだ。

 ……ちょっと……いや、だいぶまずかったかな……こいつに戦いを挑んだのは。
 俺は攻撃系の呪文なんか、知らない。
 水柱を立てた後、水を別の場所に移動させたら、そこに落ちるんじゃないかな、と思ったんだけど、こいつ、浮けるんだよな……。やべぇ。
 呪文を唱え終わった銀髪男が、てのひらをこっちに向ける。聞いたことのない呪文だった。それもそのはず、その手から放たれたのは、灼熱の炎だったのだから。水使いの俺にはまったく縁のない呪文だ。
 とっさに、それを避けた。上手く避けたつもりだった。でも……水龍の首半分、蒸発して消えてしまっている。……やばい。もうハッタリはきかねえ……。
「……ガキのくせに……水龍の召喚ができるのかと……感心していたのだがな」
 そいつは一瞬のうちに、俺の目の前に移動していた。
「違ったわけだな……」
 笑いながら、俺の首に指を絡め、絞めていく。
「……魔力ではなくても、倒せる相手だったな……」
 俺は苦しいながら、相手を睨む。
 すると。
 そいつの服が、ぼう……っと光っていることに気づいた。
 そっと手を伸ばして。そいつの服の併せに手を突っ込むと、何か、かたいものが指先に触れた。俺を小物だと思って、油断しているこいつだ。全然気づいてない。
それに指を掛け、思いっきり引き抜く。首を絞められたままの作業だ。苦しいなんてもんじゃない。
 引き出されたのは、竪琴だった。それも、タキがもっていたものと、まったく同じ。

 あのときの光は……こいつが……。
 コイツが持って行ったってんなら、さっきまでの疑問にも合点がいく。

 だけど、上手く行ったのはここまでだった。俺の指がふるえ、竪琴が鳴る。銀髪野郎がそれに気づいた。抵抗する気力も体力もない俺の手から、それを奪い返し、怒りをあらわにして、短刀を抜き、俺の首を裂く。

 かなり大量の血があふれた。
 死んだな……と思った。
 殺ったと……こいつも思っただろう。
俺から手を離し……俺は地面に叩き付けられる。
終わった……俺はそう思った。

 だけど俺は生きている。俺は地面に、無事に着地していた。
 確かにコイツの短刀が、俺の頚動脈をかっさばいたはずなのに。
 おどろいたのは、それだけじゃない。
 俺の首に手を触れた奴がいた。
 俺は自分の目を疑った。なんだ……これ。

 銀髪野郎は二人になっていた。

*****

「……奨月」
 憎しみを込めて、銀髪野郎が言う。
「……おまえは……いったい」
 新たに現れた銀髪男が、俺の家を滅茶苦茶にしたほうの銀髪男に言った。
「それに……その姿は」
 ムカツクほうの銀髪男の注意は、完全に俺から逸れていた。俺はそのスキに、タキとサラのいる部屋へ戻る。
 その為に水を動かしたせいで、銀髪男がこっちを向き、何かまた呪文を唱えているのを、もう一人の銀髪男が…… あーッ! ややこしい!! ……止めた。

 俺が部屋に入るのを確認してから、新手の銀髪男が呪文を唱える。さっきまで俺があいつに受けていたエネルギーと、よく似てはいるが、まったく違う系統の力。
 なにか……こう……優しいと言うか、あったかいというか、そんなことさえ感じてしまう。
 きっと後から来たほうの男が、タキの言っていた、ほんとうの “奨月” なんだろう。
 そして間髪入れずに、邪悪なエネルギーも放出される。
 ぶつかり合ったエネルギーは、スパークして散った。

 二人は疾風のように呪文を繰り出す。力は互角なんだろう。放たれた呪文はすべて、ぶつかり合ってはじけた。
「……さすがだな」
「わたしは理由のない戦いなど、したくはない。何のために、こんな───」
「貴様に理由はなくても、こっちには大有りなんだよ」
 二人は涼しい顔をしていた。……ってことは、今までのが……小手調べ……か。あんな大呪文言い合ってて……。

 かたっぽが、空に印を描く。もう片方の男も、同じように印を描いた。
「天空の雷よ……その力をここに……示せ」
「暗黒の雷神よ……我が前にその力を……」
 空に稲妻が走っている。輝くたびに、二人の顔が青白く浮かぶ。
「界雷……!」
「壊雷……!」

 ものすごい音を立てて、雷が落ちた。けれどそれはお互いの力で打ち消しあって、やがて消えた。高等呪文だぞ。どっちも。そんなもんを普通に使えるこいつらって……。
「一筋縄ではいかないな」
「……なぜ……おまえが私の姿を……」
「──────なんなら、元の姿になってやろうか?」
 男はそう言うと、自分のその銀色の髪をバサッと払った。すると……。
 銀色の髪は、漆黒に変わり、真っ白な肌は、浅黒く変わっていた。
 しかし。
 しかしだ。
 基本的なつくりはまったく変わっちゃいない。顔立ちも、背丈も、そっくり同じ。変わったのは色だけだ。同じ人間が、色違いなだけに見える。
「……おまえは」
「貴様がそれを知る必要はない」
 黒髪の男が、呪文を詠唱する。

 俺はソウゲツさんに、テレパシーで話しかけた。
(ソウゲツさん、きこえる? 俺、さっきの、三つ編みの)
 ソウゲツさんは俺のことを見た。
(さっきの雷、もう一回落せない? あいつに)
 呪文詠唱があいつよりも遅くなったけど、ソウゲツさんはもう一度、界雷の印を結ぶ。あいつが唱えてるのは、放出される雰囲気から、また炎の呪文だ。あれはなんだか詠唱が長かった。いい感じ。

「暗黒の炎よ……」
 黒い男が唱える。

 ソウゲツさんは最後の印を結び、放出するだけの状態だ。
(打てばいいのか……?)
 ソウゲツさんが語りかけてくる。
(うん、いつでもいい)
 俺が言うと、ソウゲツさんは最後の印を切り、雷が黒髪の男へ走る。
 俺はそこを狙って、水柱を立てた。
 水に雷。えらいことになったんではないだろうか。
 ──────成功? うまく感電してくれた?

「く……」
 黒い男が膝をつく。
「……貴様……!!」
 俺に向けられる、憎しみのこもった視線。
「……死ね」
 低くそう言った、黒髪の男。やばい。呪文がこっちに来る。
「──────!!」

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最終更新日  2010.05.13 10:17:30
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