小説『心のカケラ』2

小説『心のカケラ』2
ある時、ヤサにとんでもない知らせが届いた。
「川島さん、あなたは先週、絵のコンクールに応募しましたね? おめでとう!あなたは300人の中で選ばれました!」と先生が急にヤサの元にやってきて大きな声を出し
た。みんながヤサの方を向いて、「おめでとうヤサ!よかったじゃないか。」と言ってくれた。
そのときヤサは、まだ信じられない気持ちでいて、「あぁ・・・。」と言うしかなかった。
確かにうれしかった。でも、もし足が思うように動いたら、とっくにその辺を駆け回っていただろう。
そのことを考えると、また涙が出てきた。
ヤサはもうどうすることもできないでいた。
家に帰って、早速 親にコンクールで優勝したことを伝え、その後にベッドにまたバサッと寝そべって、そのまま眠ってしまった。近くの電信柱にとまったアブラゼミが、ジージーと高く鳴いていた。
不思議なことに、また夢の中で少女の声が聞こえた。
「ごめんなさい、こんなことに巻き込んでしまって。」
「なんかよくわからないけれど、何か役に立つことがあれば・・・。」
「ありがとう、でも実は、あなたの方が失った大切なものは大きいのよ。」
ヤサは夢の中にして驚いた。なぜか夢なのに、意識できているのだ。「じゃあ直接明日、あなたに会いに行くわね。」
「えっ?」・・・・。
そこで目が覚めた。 まだ夜は明けてはいなかった。
一瞬驚いて飛んでいくセミの声が、夜の静まり返った町に響いた。 しかしヤサは朝になるのをじっと待たずにまた寝てしまった。 今度は夢は見なかった。
そして朝、朝食を済ませてまたふかい不快な気持ちになりながら学校へゆっくりと進んだ。
もう通学路には生徒たちが大勢通り過ぎていった気配と、セミの声だけしか残っていなかった。
授業中だと思うので、そっと階段を上がっていく。
ヤサは教室に入ってから小さく「おはようございます・・・。」とあいさつ挨拶をしてから席にゆっくりと着いた。
後ろの黒板を見ると、
「転入生あり!」と書いてあった。 ヤサはドキッとした。
「えっ? まさか・・・。」心臓がドキドキした。
まさか夢で会った少女だったら、もしそうだったら、きっと気絶してしまうだろうと思ってしまった。
「さあ、みなさん、新しいこの学校の生徒としてやって来た子を紹介します! 清水夢子さんです!」ヤサはドキッとした。まだ姿はわからない。声を聞かないと・・・。
「みなさん初めまして!私は九州の一番南、鹿児島県から来ました。これからどうぞよろしくお願いします。」
わっと拍手があがった。 やはり夢で聞いた「あの声」だった。その清水夢子とやらは、ヤサの方を少し向いてウインクをしたかのようにニコッと笑った。
ヤサは「あ・・・。」と言うしか、もうほかになかった。
気がついたらヤサの隣の席が空いている。
いつも隣にいる席の友達は、一つ後ろの席へ移動していた。
夢子は先生にコショコショとどこの席かを聞いた後に、トコトコとヤサの方へ近づいていった。
そして隣の席へ・・・。
「よろしく。」急に夢子がヤサに話しかけてきた。
「あぁ、どうも。」と小さく答える。
「清水さんにはお母さん、お父さんがいません。中学生でも一人暮らしで、とてもかわいそうだと先生は思います。だからみなさん、仲良くしてあげましょうね。」と先生はみんなに伝えた。「あ、あの・・・。」ヤサは恐る恐る夢子に問おうとした。
するとすぐに夢子は、「後で詳しく説明するから。」と少し いばったような口調で言った。しかし、ヤサの足のことは全く気にしていないようだった。
そして休み時間、夢子がヤサの元へやってきた。みんなに聞こえないように小さく言った。
「実は、この清水夢子って、ぎめい偽名なの。本当の名前は私にはわからない。鹿児島県出身というのもみんなうそなの。どうしてここに転入できたかはともかく、私、あなたのためにここへ来たの。まあ、自分のためというのもあるけどね。」
ヤサはどういうことなのか全くわからなかった。
「大切なものって・・・。」とヤサは聞いてみた。
すると夢子(名前がないのでこれにしておこう。)は考えたようにしてから、ゆっくりとした口調で言った。
「大切なものは、私にはわからない。でも、それは、心とか、命とか、そういったものよ。」ヤサは考え込んだ。
「僕が、心を失ったって・・・?」
「そう、大きなものをね。」その後は夢子とは話は
しなかった。やはり、夢子はこの一日中、ヤサの足のことは一切言わなかった。
その日の夜、ヤサは自分が心をなくしているということを考えていた。 「なんで、どうして僕がこんな・・・。」
そう思っていても仕方がなかった。なにもできることがないのだから。明日は土曜日だ。近所のおばさんのところへ行く予定なので、半分楽しみで、半分ゆううつだった。
暗い部屋の網戸の外から月がこちらを見ていた。
風が静かにスーッと入ってくる心地よさを感じているうちに、ヤサは眠ってしまった。
次の日、ヤサは松葉杖をつきながら家族と近所のおばさんの家へ行った。「あらまぁ、優ちゃん!」
おばさんが驚いた顔をして台所の出入り口からヒョコッと顔を出した。
おばさんはいつもヤサのことを「優ちゃん」と呼ぶ。
「まあ、もうそんなに大きくなったのねぇ・・・。」と感心しているようだったが、ゆっくり下を見て言った。
「優ちゃんかわいそうね、私も足は動かしづらいけれど、優ちゃんは全然だもんね。」
そして少し間を空けてからリビングに案内された。
みんなを座らせてから麦茶を出すやいなや、
「あ、そうだ。」と言ってまた奥へ行ってしまった。
「これ、優ちゃんにあげる。水晶なの。足が治るようにって。」
それは、テニスボールほどの大きさの、磨かれた水晶玉だった。
「優一の足はもう戻らないのかどうか、まだちょっと分からないんですけど、もしかしたらもう・・・。」
ヤサのお父さんが説明すると、みんなの表情が曇った。
しばらくの間、家族はヤサのことを話してから、この前 鹿児島県に行ったときのおみやげをおばさんに渡した。
ヤサは「鹿児島県と言えば」と心の中で思った。「夢子は鹿児島県出身って・・・、ああそうか、あれは嘘とか言ってたな。」 急に夢子のことが気になった。
改めて彼女は何者なんだろうかと思った。
「それじゃあそろそろ。」
と言って帰る準備をしようと立ち上がったとき、
「イタッ!」とヤサは声を上げた。
「え?どうしたの優一。足が痛いの?」
「感覚が全然ないから、痛いはずはないんじゃないの?」
と家族はみんな疑問を持った。
「そうだった。あの夢を見てから足が少し治ったんだ。」とヤサは思い出した。あの時より痛みがましていた。
帰り道、松葉杖をついていたのだが、石につまずいてしまい、松葉杖をはなしてしまった。しかし、そのまま二、三歩松葉杖なしでトコトコと歩いたのである。そしてすぐにバタッと倒れてしまった。「わ、あ、あ!」とヤサ自身驚いてしまった。松葉杖がなければ一歩も歩けないはずだが、少し治っているという完全な実感を得たのである。
「すごい!きっとあのおばさんからもらった水晶が力を出したんだわ。」とヤサのお母さんは一人でよろこんでいるようだった。
でも家族みんな驚いていた。


----この続きは、小説『心のカケラ』3でご覧ください。----


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