その三 ゴンと源爺


クマやウサギやいのししを山で鉄砲で打って猟をします。

源爺の左目は昔クマに襲われて大怪我をしたとき見えなくなりました。それでも源爺は右目一つで猟をしています。

ある日源爺は山に仕掛けたわなを見に行きました。そこにはこぐまのゴンがかかっていました。


大きな親熊なら銃で撃って担いで帰ろうと思っていましたが、小熊だったので源爺は考え込んでしまいました。

「そうだ、命までは取らないで、隣町のサーカスに売りに行こう」源爺は仲間を呼んできてゴンを鉄の格子の檻に入れ車の荷台に乗せました。

「源爺、夕方から雨になるらしいよ、明日にしたらどうだね?」仲間の猟師に言われましたが「いいや、今夜中に隣町まで行ってくる、隣町での興行ももう少しで終わるって言ってたからな」

けれど源爺が車に乗り込むと大粒の雨がポツリポツリ降ってきて車が走り出すと前も見えないくらいの土砂降りの雨になりました。


隣の町まで行くには山道を越えていかなければいけません。
細い曲がりくねった山道を源爺の車は進んでいきます。

とうとう雷も鳴り始めました。源爺の目の前で雷がピカッと光りました。思わず目がくらんだ源爺がハンドルを切るとそこはガードレールでした。

そしてガードレールにぶつかった源爺の車はがけの下にまッさかさまに落ちていきました。


どれくらい時間が経ったでしょう。雨はすっかり上がって朝になっていました。

ゴンが目を覚ますとがけに落ちた衝撃で檻が壊れてゴンは岩の上に投げ出されていました。幸いにも怪我はありません。

わなにかかったときの傷が少し痛いだけです。
見回すと側に源爺も車から投げ出されて倒れています。

ゴンはそっと近づいて源爺の顔を舐めてみました。すると源じいが「うーん」と声を上げました。源爺が目を覚ましました。


「そうか、がけの下に落っこちたんだな。」
そのときゴンのお腹がグウッと鳴りました。


源爺は「お前、腹が減っているのか、俺を食う気か?」
ゴンは首を振りました。ゴンは人間が大好きなクマです。


「お爺さん、歩ける?」源爺はそっと立とうとしましたが立てません。足の骨を折ったようです。源爺は「ダメだ、立てねえ」



ココから1番近い源爺が猟のとき使う小屋まで行けば薬も助けを呼ぶ無線もあります。けれども足の骨が折れた源爺はそこまで行けません。

ゴンは「ボクに掴まるといいよ」優しく言いました。源爺は目を丸くして「お前のような優しいクマもいるんだな。俺はお前を売り飛ばそうとしたのに」


「いいから、ボクに掴まってゆっくりゆっくりだよ。」
長い時間をかけて休み休み二人は源爺の山小屋を目指して歩き始めました。
頭の上にお日様が来る頃ようやく山小屋につきました。


扉を開けると小屋の中から干した魚と木の実を持ってきて源爺はゴンに渡しました。「世話になったな、コレ持って帰ってくれ」


ゴンはお腹がすいていたので貰った食料をすぐに食べました。その様子を見ていた源爺はとても優しい目をしていました。


源爺は傷の手当てをして無線で仲間の猟師を呼びました。
そしてゴンに「山に帰れ。もう捕まるんじゃないぞ」

ゴンは山道を歩いて帰っていきました。源爺はポケットからタバコを出して火をつけました。一服吸いながらゴンが帰っていく後姿を扉にもたれて見送りました。

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