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1662年5月1日、京の都を大地震が襲いました。現代風に言えば、これはそのときのルポルタージュです。漢字で書くと要石。といっても作者が直接見たものはあまりなく、ほとんどが伝聞によるもの。文体はどことなく方丈記を思わせ、また、仮名草子らしく落ちの狂歌をつけやすいようなエピソードを選んだふしがみられます。妻と間違えて尼を連れ出し、三行半を突き付けられた男。混乱に乗じて空き巣に入る不届きもの。流言飛語が横行し、なかにはUFOを見たというような人も出てきます。ある神社があまり揺れなかったということで、ご利益を求めてその神社に人々が殺到。のみならず神社に生えている草木すべてむしったり折ったりして持って帰ったので、お上がとうとう頭に来て、懲罰するぞとふれまわったとか。傑作なのは神社で宣託している氏子たちです。いかにももっともらしく人々に神々のお言葉を伝え、戒めと心構えを説いているのですが、余震が起こるとあわてて神木に登って曰く、「神は昇天された」。こういうのを読むと、阪神・淡路大震災にしても今度の東日本大震災にしても、江戸時代と違って現代の日本人はよく教育されているなあ、と思わずにはいられませんでした。新編日本古典文学全集 64【1000円以上送料無料】新編日本古典文学全集 64/谷脇理史
2013.03.31
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「愛情13」金子 光晴 生まれて始めてのことを、女はされる。男は、新米の教師が、教壇で化学の実験でもしてみせるやうになんど繰返しても、覚束ない手つきだ。 男は、女の手をそつとにぎつて、愛撫し、それを頬にくつつけ、それとなく、しづかに導いてヅボンのうへからさはらせる。 それから、もつとさまざまなおろかしい真似をやつてのけるが、男が、いけすかない男だからでも女が、いやらしい女だからでもない。女の顔に、ハンカチーフをかけて男は、こころをおちつけるためにたばこの火をつけて、吸つてからおもむろに、女のホックをはづす。男は、いちいちびつくりしてみせ、ばかみたいに上ずつた声で、言ふ。「これがおへそといふものかい」てめへだつてもつてゐるくせに。「純愛」詩の次は「性愛」詩を。金子光晴といえば詩集『鮫』など反骨精神で有名な佳作が多いのですが、こういう「好色」な詩も書く一休禅師なみのエロじいさんでもありました。これも、余計な解説は不要な詩ですね。詩集『愛情69』(タイトルからして隠微です)からの引用です。--------------------こういう詩を御紹介したあと何ですけど。変なコメントに対する対処について。「無料動画」…ねえ。せっかくですけど、間に合っています。確かに、「ワーキング・ガール」見てますけど。必要ありませんから。そういうコメントは中身も見ずに即刻削除します。ご苦労様。
2005.03.16
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彼女の短編には毒がある。まるでサキのように。…「事件の後に」一座にとって厄介者だった女を殺った真犯人は誰か。みんな役者なんだよねえ。「血兄弟」義兄弟ならぬ実の兄弟は、お互い擦りあっていたのでした。「婚姻飛翔」かなり本格。女王蜂と番えるのはたった一匹の雄蜂というが…真相を見抜かれた後の豹変が見もの。「カップの中の毒」毒は入っていませんでしたが、もっと大事なものも入っていませんでした。「ジェミニー・クリケット事件」誰が誰に真実を伝えるかで変わる読後感。こちらの方が原文だという。著者の意地の悪い、悪夢のような結末を一ダースも見せられたあとではそれも納得。個人的にはアメリカ版の方が好きである。「スケープゴート」犯人は彼だった。間違いなかった。ただ演出があった。また少年は知らなかった。自分の実の父親を。「もう山査子摘みもおしまい」読者(神)には犯人が分かっている。けれど人々は嘘をつき…クリストゥは十字架にかけられる。「スコットランドの姪」二転三転する展開。スコットランドの姪が本当は誰なのか、最後の一行で明らかになる。「ジャケット」アリバイ作りのための証人が命取りになるとは。三文作家の末期。「メリーゴーラウンド」因果は続くーよーどーこーまーでーもー♪「目撃」彼女が真実を知りかつ沈黙を選んだのもまた、神の御業であろうか?「バルコニーからの眺め」妄想にとりつかれていなければ、完全犯罪だったのにね。「この家に祝福あれ」キリストの再臨を信じたばかりに…ブラックな結末と皮肉なタイトル。「ごくふつうの男」サイコな男を扱うコツ。「囁き」法の目はかいくぐれても、人の口に戸は立てられぬ。「神の御業」娘をひき逃げした犯人に、この量刑では手ぬるすぎる…【メール便送料無料、通常24時間以内発送、午後1時までは当日発送】【中古】 招かれざる客たちのビュッフェ / クリスチアナ・ブランド / 東京創元社 [文庫]【メール便送料無料】【あす楽対応】
2016.03.09
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「女の戦い」永瀬 清子式がこれからという時姑になるべきその人が私の前にぴたりとすわり立札みたいに四角に言葉を選んで云ったのです「あの子はこれまでいつも我ままに育てましたけえあんたもこれからあの子の云う事はようても悪うても絶対さからわんで下さいよ」おお何たること、今まで聞いたこともないその云い草私の家では誰も彼もまず理性的(まとも)であったからまちがった事を云う人には、たとえそれが父であろうと母は「あなた、それはほんとはこうじゃあないでしょうか。」とちゃんと云った父も「おお、それもそうだな」と考えてくれたそれが家庭というもののデグニテイではないだろうか。「そうても悪うても」さからえぬなんてありうることか。私は天地がひっくり返ったように感じたがこの女(ひと)と結婚するのじゃなく、だから、ここで喧嘩すべきじゃないと判断して黙って笑っていたのだ。でもむしろ茫然としていたとも云えよう。あとで考えれば姑もその時は弱者わが子をとられる必死の瀬戸際今云わなければ生涯云えぬと心決めて云ったのかそれにしても大上段の大憲章(マグナカルタ)私に対して大きな重石をずしりとのっけようとしたのだ居流れた私方の伯母や叔母たちも一斉に「清子が何と答えるか」とキッときき耳をたてたしかし私が一言も云わず笑っていたので「さすが よい度胸」と逆によい点をくれた。よい事をよいと云うのは当然無理な事を無理と云うのは相手を一人前と思うから。彼は殿様じゃないぞ、私は腰元じゃないぞそうした思いが常に渦巻き「私も私の希望をのべさせて貰いましょう」と私は自分をはげました私の越えた山坂合わぬ歯車をかみ合わそうと幾度衝突し喧嘩したかしれない彼を矯正することそれはその時私の一大事業だったのだ彼はまじめ彼は純真、それでも我ままに育ってすぐ起きる癇癪彼はすぐ私を「馬鹿モン!」とどなり食卓をひっくり返すこの魂とつき合って何と歩調を合わせたらいいのかワイシャツを着せるのはいい上衣を着せるのもいい。真顔でネクタイをしめてくれと云われても私はとまどう。自主的な家庭に育って来てこびたりだましたりできない青竹みたいな私もし私が私でなければこんなに苦労ではないのだろうか私を変えるとしたらどう変える?「やさしくあれ」「にっこりして涼しい声で『ハイ』と云え」と友だちは教えてくれたわかっていても私には長い長い難行だったけれどやがて単身赴任の命が来た。オールマイティの会社から。彼はそんな事はできないと怒り狂い会社をやめてやるとあばれた手当り次第に投げとばし、重い重い碁盤も碁石も共に庭にむかって散乱した。そして襖の骨もへし折れてしまった。「そんなにいやなのならおやめやさるほかないわ」と私は嘆息して云った、五里霧中のこれからの生活に絶望しながら。その時息子が父親に近づいていき しずかに「じゃあ僕は大学に行けなくなってもいいの?」と云った。あばれている夫の手がふっとゆるんだその時、息子は「お父さんは今やめてはいけない。お父さんは僕たちの生活を守ってくれなくてはいけないのだ」ときっぱり云った子に甘い彼は息子の言葉にくずおれいやいやながら本社へむかったのだ。息子がはじめて私のマグナカルタに抵抗してくれたのか。けれどもそれと同時に私も亦夫が決して今まで思っていたような強者なのではないとはじめてさとったのだ。旧帝大をたやすく卒業して人々は彼を肩で風切ると噂しているでもそれは大きな思いちがい、或は裏がえしの姿だったのだ彼と一緒に本社へ出向き独身の一室に彼を一人残して帰った時彼をはじめてかわいそうでかわいそうでたまらなく思った彼の魂はよるべなくいつも助けを求めている。彼は波にゆられる藁すべのようにさびしくいつも私を呼んでいたのだ。姑の言葉はその時別の光線で浮びだした性格? 病気? おお決して治癒しない孤独彼の母は母の心でそれをすでに知っていたのか――一人都会にくらして、やがて彼はすこしは「世間」を知るであろう仕事の成功、つき合い、阿諛それでも彼の心は慣れないなぐさまない私は彼のため祈るほかなく彼の魂は決して治癒できないさびしさである私が彼を矯正しようと思ったことは無意味であり無限の暖かさ それのみが彼を生かすのであろう彼に味方し彼に助力できるのはただ私だけ そして子供だけ雛をつれている母鳥のように彼の母は彼をわかっていたのだつまりは式の前にその助力を私に頼みたかったのだマグナカルタはこの時氷解し彼はただ私の心を呼んでいる一人の孤独な男であった。一生の私の大仕事は長く苦しくそれまで元日がくるたびに今年こそよい私、やさしい心でありたいと祈り願っていたのにそれでも私は癒らなかったそれは心の底では彼を批判し彼こそ私より先に癒るべきだといつも思っていたから――。この時からはじめて私は雪解けの中に立つことができたのだ。いまや彼の母親と同じに私は「常に彼の味方としての自分」をはじめて自覚した。それこそ私の最大の仕事。私が愛のことばに飢えるように彼も朝顔の蔓に支柱がいるようにそれが要るのだ、彼が朝顔であることを誰が癒せようか。私の父母はひとりでに楽しい家庭が築けたのに私は長い長い悩みののち、ようやくその理解へ辿りついた。やがて五十五歳の停年が来て彼が私のもとへ帰って来た。彼は二度とつとめはしないだろうそして彼はようやく嫌いな人間関係の「社会」をのがれ、今までの私の代りに慣れぬながら百姓になってくれた。物云わぬ相手は、泥にまみれて草を除り、薬を撒く彼に、おもむろに応えてくれ労働による収穫はわずかながらも彼の手に。彼に代って私はつとめはじめた。私は資格なく学歴なく、それでも日々よろこんでつとめた。「社会」は私には自然の森と等しく 新しい興味があり発見がある。おお世の中に難解な人よりむつかしいものがあろうか。しかしいつしか彼は私にやさしく、そして歯車はやがて噛み合いはじめた。お互の魂はなごみ、それをお互いに受けとり又相手に返した。私は彼の作物であり、彼は私の作物である。お互いの小川ははじめから清くせせらいでいたのにそれでも人間は悩みすれちがい、思いすごしそして苦しみにがい水を飲むおお私は何を見落としていたのだろうか 何を悩んでいたのだろうか彼が亡くなってから私の若い友が「ご主人はとてもやさしい方でしたね」と云う「あなたはあの人に会わなかった筈なのになぜわかるの?」と私はきいた。「私が、あなたと一緒に出かけるためお誘いに伺った時、ご主人が『今日は冷えるからコートを着てゆけよ』と居間から大声で云われましたあなたは『私はそんなに寒くはありません。それにすぐ車にのりますから』と云って靴をはかれました。ご主人は『風邪をひくよ、コートを着ていけよ』『おいコート、コート』『コート』とくり返し大声で呼んでいられました。私たちの車が出ていくまで。」と云った。おおそうだった自分のこと以上に彼は心配してくれたのだ。でも私はまるでそれをきっと何でもないつまらぬ事のように――。いつも過剰の愛が彼を不器用にしそのことが又私を愚かにした。不器用ではあってもお互いに決して見失わなかったこと山路はけわしかったのにすこしずつ魂は歩み寄ったこと難問は次第にほぐれ圭(かど)ある私も又いつしかやさしくありえたこと最後に世にもおだやかな顔で彼が逝ったことこれが私の半生の経歴だった今は誰にもとりかえ得ないところの――--------------------------当初から、締めはこの一篇と決めていました。詩としては散文の一歩手前のところを、絶妙な構想と行分けと表記とで見事な詩情を醸し出しています。あるいはご主人には自閉的傾向があったのかもしれません。国語教師としては、脱字かなと思える箇所もありましたが、そのままにしました。詩集『あけがたにくる人よ』の掉尾を飾る作品です。【送料無料】あけがたにくる人よ
2011.11.15
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『キングダム』最新号の話である。韓非子に対して李信は言う。「善悪は立場によって変わる。善人も悪人に、悪人も善人になったりする。変わらないのは火だ。命の火と、思いの火だ。戦場では敵味方がお互いの正義をぶつけ合う。その正義を支えているのは、お互いの火だ。思いの火だ。勝った者は負けた者の火を飲みこんで、ますます大きくなっていく」個人的に、先の日米戦争を思い出した。アメリカは日本を飲みこんで「正義」になったのだ。日本もドイツやイタリアと組んだのがそもそも間違いだったのだが。閑話休題。韓非子は言う。「それは美しい。だが、たとえ中華がひとつになろうとも、血で血を争う戦いが終わるわけではないぞ」「そうだ。だからこそ、法治国家を作るんじゃないか」李信。「人間は愚かだからな」「愚かだが、悪じゃない。性悪だと断ずることは、諦めと一緒だ。性悪なら、どうしようもないから捨て置けばいい。でもそうじゃないだろ。法で国家や社会を運営していこうというのは、そこにより善きものへの意志があるからじゃないか。愚かな人間でも、こうすれば社会や国がもっとよくなる、そういう熱い思いがあるからこそ、おまえも一生懸命考えて法家の第一人者になったんだろ。より善きものへの希望の火、それこそ人の可能性を信じる、性善説の証拠じゃないか、韓非子」実際に将軍と法家の間でこのような問答があったかどうか。それは知らない。なかなか興味深いネームだったが、ひとつだけ気になる点があった。それは、民主主義に非ざる法治国家は、容易に専制的な人治国家になってしまうということだ。古代・中世の法は、権力者を肥やし、民を縛るものであった。近代法の要は言うまでもなく「憲法」。これは国民の権利の保証を謳った面もあるが、第一に権力者を縛るものだ。国を運営する者が権力を乱用し、暴走しないように定めるべきものが「憲法」である。とはいっても、この原則は、「西側」でしか通用しない。そのことは、ロシアや中国や北朝鮮の現状を見れば一目瞭然だ。日本だって、改憲と言えば聞こえはいいが、権力者を縛るというより、国民の行動規範を定めた、いわば皇室典範の国民版なもののようになるおそれがたぶんにある。それくらいなら、今の憲法を後生大事に護った方がよっぽどましだ、とさえ思う。まあ、先の問答が史実であれ創作であれ、興味深いことに相違はない。ただ作品の部隊は古代中国であり、今の中国ですら現代の衣を被った王朝国家でしかないことを思えば、登場人物たちの理想は理想として、法の運用の結果がどうなるかはすでに目に見えている。したがって、読者としては、漫画の展開の面白さを追求するにとどめておいた方がよさそうである。韓非子(第1冊) (岩波文庫) [ 金谷治 ]
2023.06.13
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小説のドラマ化作品である。はっきりいって、よくできている。 勿論、改変はある。最大の改変は、神谷弁護士の性別が変わったこと。だが、それがかえって良かったと思う。原作至上主義者からは反論が出るかもしれない。しかし、テレビは視聴率が命だ。どんなにいい原作でも、あまりに男くさいお話では、視聴者が限定されるおそれがある。それだけではない。弁護士を女性に変えたことで、新たなドラマが生まれた。さらに、佃社長の元妻の出番を多くして、仕事と家庭の問題もクローズアップさせた。いい嗅覚である。語弊を恐れずに言えば、ビジネスドラマだった小説の持ち味を踏まえ、人情ドラマを加味した脚本。それが2011年版のテレビドラマ『下町ロケット』だと思う。瑕疵がないわけではない。最終的につくだ製作所のバルブが採用された決め手については、小説の方がよりシビアで現実的だし、ドラマの水原本部長は社長の顔色を窺うだけのつまらない男にすぎない。そのために、ドラマでは例の買収話が宙ぶらりんのまま尻切れトンボに終わってしまっている。その代わり、財前部長はかなりポイントが上がった。奥さんを心臓病に設定したのもよかった。それがなぜなのかは、原作を読んだ方でないとわからない、そういう仕組みになっている。なかなかにくい演出である。小説は小説、ドラマはドラマ。「みんなちがって、みんないい」とは限らないが、原作と違っているからと実写版を認めないのはいくら何でも狭量にすぎるだろう。[DVD] 連続ドラマW 下町ロケット DVD《送料無料》羽岡佳/連続ドラマW 下町ロケット オリジナル・サウンドトラック(CD)蛇足を二つ。佐藤二郎がいい味を出している。『電車男』でも思ったけれど、この人には本当にこういう役がよく似合う。相島一之もいい。『やまとなでしこ』のおちゃらけた上司より、『図書館戦争』やこういう映画でその場を仕切る役どころの方が板についていると思う。
2016.03.25
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「付けぼくろ」J・D・ベレスフォード誰が誰を殺し、なりすましたのか?「山の秘密」C・ボベット絞首刑を逃れた犯罪者の顛末。「開いていた窓」K・R・G・ブラウンアリバイ作りに利用された男。ネタはありがちだが、読後感がいい。「毒薬の瓶」バーナード・ケープスこれも古典的なネタですれた読者にはトリックがすぐわかる。青酸は実は…「火曜ナイトクラブ」アガサ・クリスティ同名の短編集(邦題は『ミス・マープルと十三の謎』)の冒頭を飾る一篇。「死の日記」マーティン・カンバーランド密室殺人の真相と狂気。「誰がカステルヴェトリを殺したか」ギルバート・フランコウ物語の語り手は作者と同じ名前の【ぼく】。探偵役の女性はおそらく真相を嗅ぎ当てるのだが、犯人の心臓の方が一枚上手だった。「夕刊最新版」ケルマン・フロスト自殺に見せかけた殺人事件。しかしその時刻に届くはずのない夕刊が…「ガーターの夜」アーサー・ホファム幸運の宝石を手放したがらない持ち主がとった方策は。オチはまるでルパン三世。「《セブン》の合図」ジョン・ハンターある凶悪犯罪組織の最期。前口上通りの意外な結末を堪能すべし。「犯罪の芸術家」デニス・マッケイルおしゃべりモデルとボール紙でできた金庫箱。「圧倒的な証拠」バロネス・オルツイ突然現れ、裁判にも勝った家督要求者の正体は? 危機一髪氏が活躍する珠玉の短編。「ラングトン事件」グラディス・セント・ジョン=ロウ愛に破れた男の絶望と復讐譚の真相。「動機」ロナルド・ノックス《晶文社》ロナルド・ノックス 編 ; 宇野利泰, 深町真理子 訳◆探偵小説十戒 : 幻の探偵小説コレクション 【中古】afb【メール便送料無料、通常24時間以内発送、午後1時までは当日発送】【中古】 探偵小説十戒 幻の探偵小説コレクション / ロナルド・ノックス / 晶文社 [単行本]【メール便送料無料】【あす楽対応】
2016.03.26
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眠れない。夜中に目が覚めたが、今朝ばかりは「山月記」を聴いても眠れない。夏休みの胃癌検診を数時間後に控えて、喉が渇いているのに水の一滴も飲めないのが原因である。毎晩のように聴き、毎晩のように朗読していると、いろいろ気がつくことがある。対句的なリズムについては前にも書いたが、李徴の独白は「さしすせそ」の音が鍵になっている。「詩」「羞恥心」「自尊心」などがキー・ワードになっているから当然だが、虎の口から人間の声が出てくるのだから、やや不自然な発声になってもおかしくない。それをこの摩擦音が効果的にしている。以前、時代的に「山月記」はカフカの「変身」の影響を受けているのだろうと書いた。今でもそれはそうだと思うが、同時に、スチーブンソンの影響のことも考えると、これは中島版「ジキル博士とハイド氏」でもあると思った。一日の中に必ず数時間は、人間の心が還って来る。その人間に還る数時間も、日を経るに従って次第に短くなって行く。まして、己の頭は日毎に虎に近づいて行く。ついでに言うと、白く光を失っていく月は、人間の心を失っていく李徴の象徴でもあるだろう。…
2011.08.01
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「ロング・グッドバイ」寺山 修司 1 血があつい鉄道ならば 走りぬけてゆく汽車はいつかは心臓を通るだろう 同じ時代の誰かが 地を穿つさびしいひびきを後にして 私はクリフォード・ブラウンの旅行案内の最後のページをめくる男だ 合言葉は A列車で行こう だ そうだ A列車で行こう それがだめなら走って行こう 時速一〇〇キロのスピードで ホーマーの「オデッセー」を読みとばしてゆく爽快さ! 想像力の冒険王! テーブルの上のアメリカ大陸を一日二往復 目で走破しても 息切れしない私は 魂の車輪の直径を メートル法ではかりながら 「癌の谷」をいくつも越え捨ててきた 血があつい鉄道ならば 汽車の通らぬ裏通りもあるだろう 声の無人地域でハーモニカを吹いている孤独な老人たち! 木の箱をたたくどこからとなく這い出してくる無数のカメたち! 数少ないやさしいことばを預金通帳から出したり入れたりし 過去の職業安定所 噂のホームドラマを探しながら 年々、鉄路から離れてゆく 2 おっ母さんが狂った 汽笛狂いだ 水道の蛇口をひねるといきなり発射合図のポーがとどろいた! どこもかしこもポーの時限装置をしかけられたのだ! せっかちさと響き! 「革命の理論」と駅伝マラソン、おっ母さんゆずりの時刻表にせきたてられ 私はきく! 噴出する歴史の汽笛を! 年少労働者たちのダンス教室から テレビジョンのなかで哄笑したミック・ジャガーの喉笛まで ボクシング・ジムのサンドバックから 自殺志願者のガスレンジまで 退屈はカメ それを追い越すウサギは想像力! 急げや急げ! 汽笛がポー! ポー! はオーネット・コールマンの旋律を手に入れた! ポー! はミュートも手に入れた 停年サラリーマンが階段をおりてゆく靴音よりもしみじみと地を這った! ポーは血の中の水雷だ! 暗い海峡の空駆ける見えない大陸横断列車の発車だ! 私はあわただしく書物を閉じる ポー! 私は髪を切る 鵙(もず)がかすめる ポー! 一日は一撃だ クビと雇用 愛と裏切り 二日酔いと生命保険 鬼ばばと一人息子の駅から駅へ ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ウェスターン式便器に腰かけて 水洗のノブを引っぱると長い長い汽笛がポーが水をしぶきだす わが家は親父もおっ母さんもローカル線で 草深いトンネルの中に家具什器から仏壇まで 閉じこめてある ポーは トンネルを抜けて一泣き 田も畑もない一所不在の汽車一家! むき出しのニクロム線の中を走ってゆく熱い主題の電流よ! 私のアパートから刑務所の炊事場まで地中を驀進してゆくガスよ! ほとばしる水道の地下水! そしてまた、告発し、断罪する一〇〇の詩語のひしめきの響よ! それらが一斉に告げる綱領なき革命の時のポーよ! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! 3 タンスの冬着の下から ナフタリンの匂いのしみついたシューリッヒ星図が出てきた 一九二八年十月 発見と共に突然失踪したクロメリン彗星の軌跡が 冬着の下にかくされてあったとは ガウスの天体力学も 刑事も見落としていたホシだ 新聞の科学欄の十一段目の少年池谷薫は クロメリン彗星の軌跡を推理し 算数し 捜索するために 屋根から夜空にかけて 一万マイルの 追跡をはじめる さびしい天体望遠鏡のおとうとよ 暗い天球に新しい彗星を一つ発見するたびきみが地上で喪失するものは何か? 4 走ることは思想なのだ ロンジュモーの駅馬車からマラソンのランナーまであらゆるものは走りながら生まれ 走りながら死んだ 休息するのに駅は必要だ だが どこにも駅はなかった 「つまりあなたは こう訊きたいのですね 駅はどこだ、と」 どこだ どこだ 新しい駅はどこだ、と。 後楽園のブルペン たそがれの名投手金田正一の沈むシンカーのどこだ、と 自殺した株式仲買人の中古ズボンのどこだ、 と とべなかった工業大学の人力飛行機のエンジンのどこだ、と 撞球台の荒野に追いつめられた赤球のどこだ、と 髭を剃り残したボクサー藤猛の表情のどこだ、 と ヤマハオルガンの製造工場の年少労働者にとどく現金書留のどこだ、と 山本富士子が洗いはじめる全裸のどこだ、 と 駅こそは第二の「癌の谷」! 親父の敵! おっ母さんの敵! 私の敵! 政敵! 走る者すべての敵だ、と 5 貰った一万語は ぜんぶ「さよなら」に使い果たしたい どうかわるく思わないでくれ! 速く走るためには負担重量ハンデを捨てねばならぬ たとえ文法の撃鉄で おっ母さんの二人や三人殺したとしても ともかく急げ! 汽笛のなりひびくからには時は今なのだ! ポーは遥かなる同志への連帯の合図 血と麦! そそり立つ肩ごしにふりむけば 見えるのだ一望のポーの車庫! そうだ! いまこそ約束の時と場所にむかって 血があつい鉄道となる朝だ! さあ A列車で行こう それがだめなら走って行こう 一にぎりの灰の地平 かがやける世界の滅亡にむかって!いかがでしたでしょうか。言葉の魔術師寺山修司の未刊詩集『ロング・グッドバイ』からの引用です。自分は映画『書を捨てよ町に出よう』で初めて寺山にイカレました。それから立て続けに彼の映画を映画館で漁ったのを覚えています。もう10年も前の話ですが。これ、単なる魂の叫びではありません。自分の叫びだけでもうんざりなのに、他人の叫びなんかうるさいだけ(笑)。ひとつだけネタあかしをしましょう。「つまりあなたは こう訊きたいのですね 医者はどこだ、と」(つげ義春『ねじ式』より)未刊詩集『ロング・グッドバイ』は全体が魂のビートです。今までに紹介した「詩人の肖像」を轢殺するようなジャズの即興演奏にも似た言葉のエナジーが、破綻スレスレの高等技術で暴力的に連射されてゆきます。これが詩です。甲本ヒロトさんには申し訳ないのですが、わが愛唱する「TRAIN-TRAIN」も、比べると「ロング・グッドバイ」のつたない要約のようにしか見えないな、というのが、(比べること自体に無理があることを承知の上で語る)自分の美学です。百人一詩 その35で紹介した衣更着信「スウィフト」の詩句をもじって言うなら、「しかし 修司よ あなたは人間の悲痛を恐れず 人間を嫌うことによって人間に嫌われることを恐れない 思想を想像に乗せて走らせすぎることや 虚構を見すかされることを恐れない 自分自身の可能と死を歌うことを恐れない 」となりましょうか。ところで、寺山さんはまた歌人でもあり、俳句も書いています。寺山さんの短歌や俳句は、定型という檻に繋がれた猛獣の猛々しさがあって、読んでいてちっとも退屈ではありません。一方、全国津々浦々で詠まれている短歌・俳句・川柳はおおむね、「破綻しない」「まとめる」という嗜好性によって支持されていて、十頁もめくらぬうちに退屈になりあくびが出てきます。所詮は年配者の年配者による年配者のための軽文学なのです。…本当は、自分もこういう詩を書いてみたいのですが、難しい。どうしても破綻することを恐れてまとめようまとめようとしてしまいます。自分の詩もいまだ軽文学に過ぎないのかもしれません。
2004.11.21
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真冬にこんな本を紹介して申し訳ない。その代わり、岩波少年文庫とあるけれども、子どもたちに独占させておくには惜しい珠玉の短編ばかりである。「こまっちゃった」エドガー・アラン・ポー実はこれは翻案である。時計塔の中にボールが入っちゃって、取ろうとしたら首が針に…江戸川乱歩好みの恐怖小説だが、翻案は妙に明るい。原題「ある苦境」。「八月の暑さのなかで」W・F・ハーヴィー「のど切り農場」「暑い夏」と同趣向の話。自分の墓碑銘を見た日が…「開け放たれた窓」サキ嘘を真実だと思わせてしまう小悪魔の力量。岩波文庫の『サキ傑作集』にも収録。「ブライトンへいく途中で」リチャード・ミドルトン最後の一行が効いている。「谷の幽霊」ロード・ダンセイニ(幽)霊を信じる人がいなくなった時、(幽)霊は滅びるのだろうか?「顔」レノックス・ロビンソンよくある題名。ただし、こちらは湖に移った美女の貌に惚れた男の話。ある日その顔は実体化して、二人の間には子供までできたのだけれど、その女性はまたふらりと消えてしまった。いや、そもそも子供などいたのだろうか?「もどってきたソフィ・メイソン」E.M.デラフィールドマリー・ローランサンに捧ぐ。「後ろから声が」フレドリック・ブラウンミステリーのようで実はホラー。「ポドロ島」L.P.ハートリー猫の呪いか、人の手によるものか。「十三階」フランク・グルーバーそのエレベーターはまぼろしの十三階に至る。されど降りる時は…真っ当な理由から蒸留器を求めた人類学者の悲劇。「お願い」ロアルド・ダール赤タイル踏んだら地獄に行くんだよ…子どもは遊びの天才である…「だれかが呼んだ」ジェイムズ・レイヴァー呼び鈴を押したから小間使いはやってきた。しかし女主人はベッドから出なかった。では呼び鈴を推したのは誰?「ハリー」ローズマリー・ティンパリ子どもの愛は惜しみなく奪う。送料無料/八月の暑さのなかで ホラー短編集/金原瑞人【中古】 サキ傑作集 岩波文庫/サキ(著者),河田智雄(著者) 【中古】afb【中古】 あなたに似た人 / ロアルド・ダール / 早川書房 [文庫]【メール便送料無料】【あす楽対応】【中古】ロアルド・ダールの幽霊物語 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
2016.12.04
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苦い小説だ。先に栗本薫の解説を読んでいなかったら、もっと純粋な苦さを感じただろう。太宰治を思わせるような回想とフラッシュバックを多用した手法によって、ついに主人公が真相に気がつくまでの過程はミステリー的ともいえるが、あえてミステリーには分類しなかった。「人生はね、ジョーン、不断の進歩の過程です。死んだ自己を踏み石にして、より高いものへと進んで行くのです。痛みや苦しみが回避できないときもあるでしょう。そうした悩みは、すべての人が早晩経験するものなのですから。主イエス・キリストすら、人の世の悩みに曝されたもうたのですよ。主がゲッセマネの苦しみを味わいたもうたように、あなたもやがて痛みを知るでしょう――あなたがそれを知らずに終わるなら、それはあなたが真理の道をはずれたことを意味するのですよ」中東の灼熱の太陽の下でジョーンは悟った。悟ったにもかかわらず、彼女はそこから逃げて、慣れ親しんだ幻想の中に閉じこもった。その点気の弱い、優しい彼女の夫、ロドニーとどっこいどっこいだ……「エイヴラル、自分の望む仕事につけない男――自分の天職につけない男は、男であって男でないと。ぼくは確信する。もしきみがルパート・カーギルを彼の仕事から引き離し、その仕事の継続を不可能にさせるならば、他日きみは必ず、きみの愛する男が不幸せな、失意の状態に喘ぐのを見て、どうしようもなく苦しまねばならないとね。きみは彼が時ならずして老いこみ、人生に倦み疲れ、希望を失って生ける屍のような生活を送るのを見るだろう。きみがきみの愛、いや、およそ女性の愛にして、その埋め合わせになるほどすばらしいものだと思いあがるなら、ぼくはあっきりいうよ、きみは途方もないセンチメンタルな愚か者だと」蛇足ながら、作者はヒトラーさえも小説のダシにしていると指摘して、拙い筆を擱くことにする。10500円以上お買い上げで送料無料【中古】afb_【単品】_春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38) アガサ・クリスティー中村 妙子
2015.01.11
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だそうです。日本人の1%。数にして100万人。あんまりピンとこない数字です。定義がよくわからないのですが、最低一億円以上の金融資産がある人だとすると。中には事業で成功した人もいるのでしょうが、たいていは高齢者で、銀行員や公務員の退職者ではないかと思います。現役なら医者か政治家か…いわゆる「先生」と呼ばれる人たち。そういえば不具もいわゆる先生族の端くれになったはずなのですが、未だにピンときません。果たしてそんな日がやってくるのでしょうか?
2008.06.25
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松嶋奈々子の出世作『やまとなでしこ』の中国語訳タイトルです。ちょっと昔の作品ですが、不具が好きなドラマの一つです。最初はなんて嫌な女だろうと思っていた桜子さんが、だんだん憎めなくなってくる、その過程が何とも言えません。中国語のタイトルは、このドラマの喜劇性を表現していますが、実はそれは表層的なもので、本質ではありません。欧介君と桜子さんは、実はお互いに惹かれあっています。ただ、幼少時の境遇のせいで貧乏生活に強い嫌悪感をもつ桜子さんはそれを認めたくない、認めれば自分の人生哲学(*)が崩れ去ってしまうから。けれども土壇場で彼女は自分の幸せよりも欧介君の身を案じて式場を飛び出してしまう――そこに至るまでの過程を楽しみに、今でも時々視聴しています。中国語と日本語の漢字の意味の相違を味わい乍ら。なお、本作には韓国語訳もあるので、そのうち、そちらの字幕の方でも視聴してみようかと思っています。(*)「身長や顔なんて、本人の努力ではどうしようもないことじゃない。だけど、お金持ちになるのは本人の努力でできることだわ。遺伝子で男を選ぶのと、後天的な努力を認めて評価するのと、いったいどっちが公平かしら」「恋なんて精神の病気よ。そんなものに惑わされて、一生で一番大切な結婚に対する冷静な判断を失ってしまうなんて馬鹿馬鹿しいわ」蛇足ながら、これは猫好きの人におすすめのドラマでもあります。日本語オリジナルはこちら↓【ポイント8倍】送料無料!!【DVD】やまとなでしこ DVD-BOX松嶋菜々子 [PIBD-7110]【ポイント倍付0930-02】
2011.10.03
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理系の技術者が書いたのだろうと思われるプロパーSF。1927年に上梓された。一読して、ジュール・ヴェルヌの路線を踏襲していることがよくわかる作品。月から地球への帰還についてはウェルズの影響も見られるかもしれない。もっとも『冷たい方程式』のゴドウィンなら、ハンスたちがとった密航者の新聞記者に対する処置を、言下に「甘い」と切り捨てるかもしれない。
2009.06.25
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実話に基づく映画、だそうである。アナベルは、三人姉妹の次女。ある日突然食べ物が消化できなくなり、「乳糖不耐症」(牛乳を飲むとおなかがゴロゴロするやつ)、「機能性胃腸障害」(原因不明の消化不良)、最後には「偽性腸閉塞症」(腸閉塞じゃないのに腸閉塞と同じ症状が出る)という難病名に落ち着く。難病! アナベルと家族の苦闘の日々が続く。ところがある日、木登りしていて木の洞から中に落っこちてしまった。奇跡的に脳震盪だけで済んだアナベルの病気は、なんとすっかり完治していた! というお話。本人は幽体離脱(臨死体験)をして神さまと話したという。嘘か誠か幻覚か、そんなことはどうでもいい。医学的には自然寛解(治癒ではなく寛解なのは再発の可能性があるため)というらしいが、自然な感情としてはまさに奇跡だ。信じたい者は信じればいい。信じない者は口を閉じよ。無作法だ。本人はメガネのぽっちゃりさんだが、映画のアナベルはもう少しスリム。姉妹も両親も実物より多少ブラッシュアップされている…かな?天国からの奇跡【動画配信】[DVD] 天国からの奇跡【映画ポスター】天国からの奇跡 (ジェニファー・ガーナー グッズ/Miracles from Heaven) /REG 両面
2017.10.08
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『ダレン・シャン』シリーズも佳境に入ってきました。作者ダレン・シャンはいわゆるオタクだそうで、今までのお話の流れには『デビルマン』の影響も見られるような気がします。それに、10巻では映画『猿の惑星』が加わった感じです。「ラーテンの運命を決めるのは、あたしじゃない」「じゃあ、誰が決めるんだ?」「ラーテン自身さ」(「精霊の湖」エバンナとバンチャのやりとり)「大切な人が死ぬのは、この世で二番目にひどいこと。一番ひどいのは、そのせいで傷ついて、自分まで死んでしまうこと。心が死んでしまうことよ」(「精霊の湖」トラスカ)「被害にあう人間っていうのはね、他人に頼ってばかりいるからやられるの。被害にあいたくなければ、自分で戦うのよ」(「精霊の湖」アリス)「いったん起きてしまったことは変えられないから、悩んでもむだってこと?」(「精霊の湖」ダレン・シャン)「人間誰しも負うべき荷物があるってもんだ」(「精霊の湖」スピッツ)「友のためなら、命くらい、何でもないさ」(「精霊の湖」カーダ)「昔のお前なんて、どうでもいい。大事なのは、今のお前だろ」(「精霊の湖」ダレン・シャン)ダレン・シャン(10)
2008.04.29
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「炎のうた」大岡信わたしに触れると人は恐怖の叫びをあげるでもわたしは知らない自分が熱いのか冷たいのかをわたしは片時も同じ位置にとどまらず一瞬前のわたしはもう存在しないからだわたしは燃えることによってつねに立ち去るわたしは闇と敵対するがわたしが帰っていくところは闇のなかにしかない人間がわたしを恐れるのはわたしがわたしの知らない理由によって木や紙やひとの肉体に好んで近づき実をすり寄せて愛撫し呑みつくしわたし自身もまたそれらの灰の上で滅びさる無欲さに徹しているからだわたしに触れたひとがあげる叫びはわたしが人間にいだいている友情がいかに彼らの驚きのまとであるかを教えてくれる--------------------『大人になるまでに読みたい15歳の詩⑤ たたかう』より。作品について語る前に、アンソロジーからの抽出について。この『15歳の詩』シリーズには、今までの「百人一詩」「新百人一詩」ですでに紹介した詩も多く含まれています。そういうのは重複になるので選びませんでした。また、なるだけ今まで紹介したことのない詩人をと思っていますが、一人一詩に限定するとこの人にはこんないい詩もあるのに、となり、「発見」に至るまで繰り返し紹介してきた詩人もいます。一方で、名前は挙げませんが、上手いけれどどうもなあ、という詩人もいました。今回初めて紹介する大岡信もそうです。しかし、この「炎のうた」はいい。まるで谷川俊太郎か高野喜久雄の作品のようです。それはまあ冗談ですが、吉本隆明の詩につながる姿勢があります。これもまた「たたかい」なのでしょう。【中古】大人になるまでに読みたい15歳の詩 5 /ゆまに書房/和合亮一 (単行本)
2019.07.22
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突然炎のごとく短歌春の日の燃ゆるが中を往かしめよ二人焼かれて花の上に死なむ 平野真理これやこの一期の命炎立たせよと迫りし吾妹よ吾妹 吉野秀雄君に誓うふ阿蘇のけむりの絶ゆるとも万葉集の歌ほろぶとも 吉井勇君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ 北原白秋呼吸する色の不思議を見ていたら「火よ」とあなたは教えてくれる 穂村弘くれなゐにそのくれなゐを問ふがごと愚かや我の恋をとがむる 与謝野鉄幹襟元をすこしくづせり風入れておもふは汝かならず奪ふ 春日井建たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか 河野裕子きまぐれに抱きあげてみる きみ棲む炎の重さを測るかたちに 永田和宏ガス弾の匂い残れる黒髪を洗い梳かして君に逢いゆく 道浦母都子真葛野も枯れ明るみて男には敵われには思う人ある 馬場あき子人の世の掟は人ぞつくりたる君を思はむ我がさまたげに 片山広子あの夏の数かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ 小野茂樹俳句死がふたりを分かつまで剥くレタスかな 西原天気君はいま大粒の雹、君を抱く 坪内捻典松の花かくれてきみとくらす夢 渡邊白泉殺さないでください夜どおし桜ちる 中村安伸怒らぬから青野でしめる友の首 島津亮づかづかと来て踊子にささやける 高野素十鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし 三橋鷹女七夕や若く愚かに嗅ぎあへる 高山れおな愛かなしつめたき目玉舐めたれば 榮猿丸雪はげし抱かれて息のつまりしこと 橋本多佳子恋びとは土龍のやうにぬれてゐる 富沢赤黄男寂しいと言い私を蔦にせよ 神野紗希秋風や汝の臍に何植ゑん 藤田哲史 川柳暴風と海との恋を見ましたか 鶴彬あのひとをめくれば雨だれがきれい 畑美樹よいひおいふたりで嘘をついたとき 久保田紺たてがみを失ってからまた逢おう 小池正博殴りたくて抱きしめたくて草原に 佐藤みさ子恋人にボタンはずしてもらう初夏 松田京美非常口の緑の人と森へ行く なかはられいこ15歳の短歌・俳句・川柳 1 愛と恋 (大人になるまでに読みたい)[本/雑誌] / 穂村 弘 巻頭文 黒瀬 珂瀾/編
2018.11.15
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24日午前10時頃、愛知県岡崎市矢作町のマンション(15階建て)1階通路で、同市在住の中学3年の男子生徒(15)が倒れているのを通行人が発見し、119番した。生徒は病院に運ばれたが、間もなく死亡した。 岡崎署の発表によると、マンション14階の階段踊り場で生徒のものとみられる靴が見つかった。同署は現場の状況などから、飛び降り自殺とみて調べている。 生徒は両親と兄の4人暮らし。同日午前10時前、自宅で家族と一緒に朝食を食べた後、姿がないことに家族が気づき、探していたという。原因不明(?)の中高生の自殺が相次いでいます。別にこの事件がそうだというわけではありませんし、教師だから思うのかもしれませんが、背景にあるのは「学校裏サイト」の存在ではないでしょうか。インターネットの中では、言葉だけが独り歩きし、悪意が何倍にも増幅されて聞こえてしまうもの。ましてや、思春期といえば多感なお年頃。感受性豊かな青少年ほど、人間不信に陥るのでは、…と思います。その昔、不具は古今東西の名著を友とすることでいじめの危機を乗り切りましたが、その頃は学校裏サイトなんてありませんでしたからねえ。「両刃の剣」とはよく言ったもの。携帯やパソコンは確かに便利なツールではありますが、頭の痛い問題です。こんな本もあることはありますけれど…「学校裏サイト」からわが子を守る!
2010.01.24
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「鳩」高橋 睦郎その鳩をくれないか と あのひとが言ったあげてもいいわ とあたしが答えたおお なんてかあいいんだ と あのひとがだきとったくるくるってなくわ と あたしが言いそえたこの目がいいね と あのひとがふれたくちばしだって と あたしがさわっただけど と あのひとがあたしを見ただけど何なの と あたしが見かえしたあんたのほうが と あのひとが言ったいけないわ と あたしがうつむいたあんたが好きだ と あのひとが鳩をはなした逃げたわ と あたしがつぶやいたあのひとのうでの中で------------きわめて視覚的でありながら聴覚的な詩。見事な現代の相聞歌です。
2010.12.21
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旧訳の『ライ麦畑でつかまえて』で有名なサリンジャーの代表作。以前野崎孝さんの翻訳を手にしたときは、不良言葉が嫌で、三頁も読めませんでした。村上春樹さんの新訳で、初めて読み通すことができました。物語は、高校退学→放浪→帰宅→精神病院という一連の流れに沿って進みます。内容と解説については、旧訳者解説を参考にしてください。ただ解説では本書を『ハックルベリー・フィンの冒険』や『坊ちゃん』と比べていますが、不具の感想は違います。ホールデンは彼らのようにタフではありません。不良になりきれない、むしろ神経症的で純な少年です。村上春樹さんの翻訳のせいかもしれませんが、どちらかと言えば『車輪の下』を連想しました。この小説は今も世界中で読まれているそうです。この齢になって読むと小気味よい諷刺くらいにしか感じませんが、確かに、主人公が大人社会の嘘や俗物性やインチキを糾弾する様は、10代の若者の共感を呼ぶでしょう。もっとも本書に入れ込みすぎるあまり、人を殺してしまった事件もあるようで、怖い話です。その影響力の大きさからも、日本文学でいえば『坊ちゃん』よりむしろ『人間失格』に近い毒があると言えるのではないでしょうか。以下覚書。『アフリカの日々』は『1Q84 BOOK3』にも出てくるが、いまだ読んでいない。村上春樹氏は、本書を念頭に置いてあれを書いたのだろうか。トマス・ハーディの『帰郷』、ヘミングウェイの『武器よさらば』、フィッツジェラルドの『グレート・ギャッピー』(これも村上氏の新訳がある)、いずれも読んでいない。あるいは最後まで読み通していない。読んでから再読すると主人公の気持ちがよりわかるだろうか。『ロミオとジュリエット』についての尼さんとの会話は、思わずにやりとしてしまった。「未成熟なるもののしるしとは、大義のために高貴なる死を求めることだ。その一方で、成熟したもののしるしとは、大義のために卑しく生きることを求めることだ」これを引用したアントリーニ先生は、本当にゲイだったのだろうかね、ホールデン君。百歩譲って先生に男性(少年?)に対する偏愛があったとしても、君だって純な子供(とくに小学生の妹)に対する偏愛的傾向があるじゃないか。だからと言って君は変態ではないだろう、ホールデン君?W・P・キンセラが『シューレス・ジョー』の中でサリンジャーを登場させているのは有名な話だ。一方、本書には『シューレス・ジョー』の主人公、レイ・キンセラの兄弟リチャード・キンセラと同姓同名の少年がホールデンの話の中に登場する。「話のポイントからちょくちょく離れ」る、「ナーバス」な生徒だったそうだ。最後に、本書で不具がもっとも好きな一節を引用して覚書を終わりにする。一度チャイルズに質問したことがある。イエスを裏切ったユダのやつは、自殺をしたあと地獄に堕ちたと思うかと。もちろんさ、とチャイルズは言った。それは僕が彼と意見をまったく異にするところだった。千ドル賭けたっていいけど、イエスはユダのやつを地獄には送らなかったはずだ、と僕は言った。今だって、もし手元に千ドル持っていたら、そっちに賭けると思う。十二使徒の連中なら、それが誰であっても、きっとユダを地獄に送っていたことだろう。それも問答無用の超特急で。でも、なにを賭けてもいいけどさ、イエスならそんなことはしなかったはずだ。【中古(未使用)】キャッチャー・イン・ザ・ライ<未使用本> 【中古】新書 ライ麦畑でつかまえて【画】
2011.07.27
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現在も連載中の同名小説第一部の映画化作品。主演:安達祐実。吉原の人気女郎朝霧(安達祐実)は、生まれも育ちも郭内で、外の世界を知らない。足抜けしようとした女郎が吉原に火をつけて、店は引っ越しを余儀なくされた。ある日仕事仲間の八津に誘われて縁日に行く。そこで鼻緒がとれた草履を直してもらったのが縁で、染物屋の半次郎と恋仲になる。あれほど八津に「男に惚れるもんじゃないよ」と言っていた朝霧が。吉田屋藤衛門は、焼け出される前からの店の常連客であった。朝霧を見出した霧里姐さんを身請けしたのも吉田屋だ。だが霧里はその後まもなく労咳で亡くなってしまう。その後釜に朝霧を、と目論んだのだが…朝霧と恋仲になった半次郎は実は霧里の実弟だった。真相を知るために吉田屋に近づいた半次郎は、実の姉にされたこと、これから朝霧がされようとしていることに憤り、発作的に吉田屋を殺害してしまう。小説では吉田屋は半次郎の実父という設定なので、さらに凄まじい。あわれ逃亡の身となった半次郎。しかし、朝霧の夢であった花魁道中を実現させるために、真夜中に神社に戻ってきて、御用となる。朝霧も捕まり拘束されるが、やがて半次郎が打ち首になったことを知る。呆けたように店に坐る朝霧。ある日八津に「朝顔は幸せだろうかねえ。朝にはこんなにきれいに花が咲いても、直に萎れてしまう」。八津は答えて「幸せですとも。花を咲かせたのですから」。「ありがとう」と言った朝霧は、その後入水した。店の仲間は「間夫に死なれて自棄になったのだろう」と噂する。八津が「違うよ。姐さんは一生分を生きたのさ」。再び縁日。八津が朝霧と半次郎の馴初めの場面の幻を見、朝霧の笑顔が静止画になるところで、暗転。こんな感じ。見どころは何と言っても終盤の「花魁道中」と朝霧のラブシーン。安達祐実のフルヌードが拝めます。井原西鶴、現代に蘇る、ってとこですか。以下関連商品。【送料無料】花宵道中/安達祐実[DVD]【返品種別A】【送料無料】[枚数限定][限定版]花宵道中 特別限定版/安達祐実[DVD]【返品種別A】[DVD] 安達祐実 遊女A-映画 花宵道中 より-安達祐実 秘花 映画『花宵道中』公式ビジュアルブック【2500円以上送料無料】【中古】 花宵道中 新潮文庫/宮木あや子【著】 【中古】afb【漫画】【中古】花宵道中 <1〜5巻完結> 斉木久美子【あす楽対応】 【全巻セット】
2017.08.02
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今度のクライシスの影響は多方面に及んでいるらしい。バリーがギデオンに計算させたら、三兆以上もの変化があった。天文学的な数字だ。たとえばハートリー。一度はフラッシュのタイムトラベルの影響でチームに協力したこともあったはずなのだけれど、それがきれいさっぱり消えて、以前よりバージョンアップしたメタヒューマンとして描かれる。しかもフラッシュはハートリーに「ひどいこと」をしたらしい。???たとえばノロノロの実。以前のメタは男性だったが、新世界ではバージョンアップして女性として登場。チベットから戻ってきたウォリーとともに、やっとのことでやっつける。ウォリーが戻ってきた理由の一つに、スピードフォースの変調があった。実は、今回のクライシスで全宇宙が消滅の危機にあったとき、最悪の事態を避けるために、精霊となったオリバー「スペクター」をスピードフォースに呼び寄せた。その結果がこの世界であるわけなのだが、不純物が混じってしまったためにスピードフォースは本当に死んでしまったというわけ。そこでにわかに活気づいたのがソーンだ。肉体は失ってもどういうわけかナッシュの体を乗っ取り、チーム・フラッシュに復讐を仕掛ける。まずはシスコ。だが肉体がナッシュなので能力は使えず不発に終わった。それでもパイプラインで不敵に笑い、「フラッシュの能力もあと数週間で枯渇する」と予言する。痛いところを突かれたバリーは、自分たちでスピードフォースを作ろうと決心する。ここまで書いて、言及を避けていた事柄に気付く。ひとつは天才ゴリラ、グロッグのことだ。今はアーガスに収容されているが、回復したブラック・ホール・マンのミスに付け込み、意識をバリーと同期させる。汚染はされていないがバリーにとってはよくない状態だ。結局、改心したというグロッグの言葉を信じ、「現世」に舞い戻ることもできたが、かの類人猿はスナートのように、本当に心を入れ替えたのだろうか? フラッシュのためにもそうであることを願う。もうひとつは、アイリスのことだ。本物は、鏡の中にとらわれている。味方のふりをしているエヴァは実は偽のアイリスと通じていて、本物が逃げ出さないように番をしていることが判明した。アイリスはいつ気がつくだろうか。偽アイリスの挙動不審に、ジョーもウォリーも気がつき始めた。うっかり彼女を写真に撮ってその正体に気がついたカミラは、「消されて」しまった。これからどうなるのか。偽のアイリスの野望は何か。まったくもう、次から次へと…THE FLASH / フラッシュ 6thシーズンブルーレイ コンプリート・ボックス(5枚組) [Blu-ray]
2021.08.20
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子どもたちが主人公の映画だから、ファミリー映画と言えなくもない。どちらかというとファンタジー系だと思って借りてきたのだけれど。再生してみて、言語的にロシア語かと思ったらポーランド映画だった。正直言ってよかったと思っている。ルーカスはたぶん小学生。ママと二人暮らし。楽しいはずの自動車旅行が、交通事故で、暗転。目覚めた時ルーカスは膝を傷めて入院中。母親も別の病院で昏睡中だという。祖母らしき人に引き取られて暮らすことになったが、やがて伯母なる人がやってきて、ワルシャワを離れて暮らすことになった。伯母さんはホテルを経営していた。ルーカスは昔母親の部屋だった青いドアの部屋に入ることになった。そのドアが、実は異世界に開くドアだった。最初はナビゲー鳥の青い鳥。もっと奥へ行くと奇妙な古い無人の街があって、悪意あふれる巻き取り屋がいた。巻き取り屋と奇妙な取引をして何とかこの世界に帰ってきたルーカス。しかし翌朝、伯母さんは蜘蛛人間に変貌してしまっていた。…知り合った地元の子どもたちや糸を食べる青い鳥、昏睡しているはずの母親の助力もあって何とか危機を脱出し、巻き取り屋を退治したルーカス。だが現実世界に帰って見れば、今の今まで昏睡していたのはルーカスと、「地元の子どもたち」であったという、夢オチのファンタジーだった。個人的には、ポーランドの風景が見られてよかったなと思ったが、評価は人それぞれだろう。ルーカスと魔法の青いドア [DVD]
2022.09.17
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