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第2巻 『経営計画・資金運用』-2-
2.目標の設定
目標の設定
目標は、事業の経営に必要な様々な活動について設定されなければなら
ない、というのであれば、それはどのようなものであろうか。私は、主なも
のとして、少なくとも次の8つを挙げることにしている。
1.市場の地位
2.利益
3.革新
4.生産性
5.人的資源
6.物的資源
7.資金
8.社員の処遇
である。以下、これらについて、若干の説明を加えよう。
(目標の設定 3/8)
次には“革新”の目標である。
革新とは、経済的成果を高めることを狙いとした、企業の構造的変革である。
企業の収益は、その企業の事業構造によって基本的に決まってしまうので
あって、能率や合理化で決まるものではないことは、「経営戦略篇」ですで
に述べたことである。
事業構造の変革こそ、経営計画の“核”である。社長は、高収益・安定経営
を行なうためには、我社の事業構造はどのようなものでなければならないか
を考え抜き、決定しなければならないのである。これは、社長室にこもって
いくら考えても分かるものではない。
自ら外に出て、市場と顧客の要求をみつけだし、その要求を満たすには、ど
うしたらいいかを考えて決めるのである。
Yレストランの革新は“味”であった。Y社長は努力家で、日夜事業経営に
専念しても、業績は全く上がらず、低業績に泣いていた。Y社長は、毎月毎
月5つの店舗の数字を検討した。そして、原価率の目標に達しない店舗があ
ると、店長を呼びつけて責任を追及していたのである。
私は社長の考え方の間違いを指摘した。『お客様が外食するというのは、味
とムードを楽しみたいからだ。それを、原価の亡者になってしまい、味を忘
れてしまっている。(私は何種類かの試食をしてみたのである)社長が原価
率ばかり要求するから、社員は社長に叱られないように原価に関心の焦点を
合わせてしまっている。この味ではお客様があなたのレストランのファンに
なるはずがない。社長の姿勢が間違っているから業績が上がらないのであっ
て、社員の責任ではない。それを、社員の責任を追及するのは間違っている。
今、あなたの会社でやらなければならないのは、うまい料理をお客様に提供
することだ。各店舗で、それぞれの客層に合わせて、うまい料理を二品ずつ
開発する。この場合に原価は無視すること。「どう工夫しても、我社でこれ
以上の味は出せない」というところまで研究せよ。そこで原価を計算し、売
価を逆算して決めればよい』と。
Y社長は私の勧告に従った。当然、値段が上がって社員はそんな高いものは
売れない、と反対した。私は、『売れるか売れないかは、社員がきめるので
はなくてお客様が決めて下さる。推奨品ということで発売してごらんなさい』
と社長に釘をさした。発売したとたんに売上げ上昇、あっという間に高収益
会社に変貌してしまったのである。
U社は、エレクトロニクス関係の部品の専業メーカーである。U社の高収益
化の目標は、まず第一には、部品を集めてパック化することによる小型化、
あるいはユニット化を図ることであり、最終的には、自社商品としての“機
器”をもつ、というものである。これは、中小企業としての、ごく一般的な
革新の目標であろう。
建築資材商社であるJ社の革新の目標は、商品もさることながら、得意先の
スクラップ・アンド・ビルドであった。得意先の大部分が小企業・・・・・・とい
うよりは“零細企業”あるいは“生業”ともいうべきものだからである。狙
いとするところは、地方の有力建設業者を主力とし、大手建設業者を組合わ
せてゆく、ただし、大手建設業者は、我社の売上高の30%以下とする。・・・
・・・つまり、対外信用を高めるためのイメージ・アップだけにとどめる、と
いうのである。あまり依存度を大きくすると、自主性が損なわれる、という
のである。
L社は、鋼製家具業界の錠前のメーカーであったが、低収益と季節変動とい
う二つの欠陥をもった事業体質を高収益化するために、建築業界の錠前に進
出し、さらに高級化の目標を実現した。
T軽工業では、独自に開発した技術を活用して、家庭器具から住宅付帯構造
物、さらには園芸用品へと、次々に新商品を開発して、強靭な生命力を発揮
している。
S社は、建材から公害防止工事に営業範囲を広げて、飛躍的な高収益を達成
した。
N工業にいたっては、自動車部品から事務用品へと完全に業態転換を行って
生き返った。
M工業も、自動車部品から、ガス器具部品へ変身し、業界一の占有率を確保
して断然たる強みを誇っている。
上にあげた革新は、何れも成長、前進路線での革新である。しかし、革新は
成長路線だけにあるのではない。“縮小”という革新もあることを忘れては
ならない。
K工業は、我社の商品を、業界にさきがけて規格化し、根気強いキャンペー
ンによって、JISならぬ「K社規格」を業界の主流にまでもっていった。
これによって、日本経済の成長とともに発展を続けてきた。ところが、石油
ショックによって昭和49年はGNPがマイナスという事態となった。社長
のI氏は、この新しい事態を分析し、減速経済に対処するために、従来の成
長路線を安定路線へと切り換えた。それは、30%にも及ぶ減員を主軸とす
る事業構造の再編成だったのである。“縮小”というのは成長よりもずっと
難しい。この難事を、見事にやりとげたI氏に、私は敬服の念を禁じえない
のである。
当然のこととして、社長の関心は「我社の事業構造を、どう高収益化するか」
が最大なものでなければならない。
その高収益型事業構造とは、市場と顧客の要求を満たせるような構造という
ことになる。その市場と顧客の要求は、たえず変わってゆく。その要求を満
たすためには、会社自体も絶えず変わってゆかなければならないのである。
もしも、2年以上も我社の事業にこれといった変化がないならば、それは顧
客の要求から次第に離れつつある、と思ったほうがよい。当然、我社の事業
の総点検が必要である。
(「3.革新」以上 次回「4.生産性」)
(「一倉 定の社長学/経営計画・資金運用」P60~P65)
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第1章 社長は自らお客様を訪問せよ
4 セールスマンは本当のことを報告しなかった
B社は、パンと洋菓子のメーカーで、フランチャイズのチェーン店舗を持っ
ていた。
B社長の悩みの種は、売上が思うように伸びないことであった。そして私に
「どうしたら売上が伸びるか」という質問である。
私は「今日初めてあなたの会社に来た私に聞いても答えが出るはずがない。
その答えはお客様が知っているのだからお客様に聞きなさい。それにはお客
様訪問ですよ」とお答えした。「お客様のところへ行っていますか」の返答
は「ノー」であった。毎日会社の中にいて、セールスマンの報告を聞いてい
るというのである。
こういう社長を、私は“穴熊社長”と呼んでいる。穴の外のことは何もご存
知ないのである。そして、大方の社長は“穴熊”である。穴熊社長の考えて
いることは、必ずトンチンカンな方針や指令で、会社が良くなるはずがない。
私の強引な勧めでお客様のところを回った社長は、今まで思ってもみなかっ
たことがそこで起こっていることを、イヤというほど思い知らされたのであ
る。
どの店でも言われたことは「配送時刻をあと1時間、いや、30分でもいい
から早くしてくれ」ということだった。駅前の店などは「出勤の途中買って
行く人が多く、その人に売るものがないから、何とかしてくれ」という希望
もあった。「セールスマンに何十回言っても聞いてもらえないから社長に言
うのだ」と、憤懣をぶつけてきたのである。社長にとっては全くの初耳だっ
たのである。
会社創立以来、何十人のセールスマンが、延べ数百回もお客様から言われて
いるのに、誰一人として社長に報告していなかったのである。
(以下、H16.1.19(月)の日記に続く)
(「社長の販売学 一倉 定 著/産能大学出版部刊」P13~P14)
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その10「一倉 定の社長学/経営計画・資金運用」ほか
2.目標の設定
目標の設定
目標は、事業の経営に必要な様々な活動について設定されなければなら
ない、というのであれば、それはどのようなものであろうか。私は、主なも
のとして、少なくとも次の8つを挙げることにしている。
1.市場の地位
2.利益
3.革新
4.生産性
5.人的資源
6.物的資源
7.資金
8.社員の処遇
である。以下、これらについて、若干の説明を加えよう。
(目標の設定 4/8)
次には“生産性”の目標である。
生産性というのは、「成果に対する費用の割合」であることは、「経営戦略
篇」に述べておいたので、それにゆずるとして、目標として設定する場合に
は、単位当り(パー・ヘッド)として表示すればいいだろう。一人当り売上
高、一人当り付加価値、一人当り経常利益、一坪当りの売上高、という要領
である。
これは、目標として設定するけれども、どちらかというと、実際活動の指標
と実績のチェックのために設定されるものである。すでに述べた目標の第一
から第三にわたる、それぞれの分野の活動の成果の測定といえるものである。
ここで十分に気をつけなければならない事がある。生産性には、量的な生産
性と質的な生産性があるということである。
K社は菓子のメーカーである。ある年に開発した新商品が大ヒットし、生産
が間に合わなくなってしまった。人海戦術で作っているので、量的生産性を
向上させるために機械化が検討された。ところが、機械を使うとその菓子の
優れた風合いである「ふっくらした舌ざわり」がどうしても出ないのである。
K社長は機械化することを断念した。K社長いわく、『かつての私であった
なら、“労働生産性”の亡者であったので、商品の質は二の次で機械化して
しまったに違いない。そして恐らくはこの商品を殺してしまったに違いない。
しかし今はあくまでも“顧客第一主義”に徹しているので、正しい決定がで
きました』と。
私もK社の決定には全面的に賛成であった。その新商品は、現在K社のドル
箱商品であり、見知らぬお客様から何通もの賞賛の手紙さえ来ているのであ
る。実はあまり売れすぎて、売上高比率が高くなりすぎることを私は心配し
ているくらいである。
また、サービス・パーツを十分に準備しておくのは、在庫増大を招くけれど
も、顧客サービスの向上---ひいては我社の信用を高める。
中小企業の社長が“秘書”を持つことは、ぜい沢に見えるけれども、社長業
務の質的向上に大きな役割を果たすのである。
くれぐれも、目先の量的生産性だけに目を奪われて、質的生産性を忘れては
ならないのである。
(「4.生産性」以上 次回「5.人的資源」)
(「一倉 定の社長学/経営計画・資金運用」P65~P67)
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第1章 社長は自らお客様を訪問せよ
4 セールスマンは本当のことを報告しなかった
B社は、パンと洋菓子のメーカーで、フランチャイズのチェーン店舗を持っ
ていた。
B社長の悩みの種は、売上が思うように伸びないことであった。そして私に
「どうしたら売上が伸びるか」という質問である。
私は「今日初めてあなたの会社に来た私に聞いても答えが出るはずがない。
その答えはお客様が知っているのだからお客様に聞きなさい。それにはお客
様訪問ですよ」とお答えした。「お客様のところへ行っていますか」の返答
は「ノー」であった。毎日会社の中にいて、セールスマンの報告を聞いてい
るというのである。
こういう社長を、私は“穴熊社長”と呼んでいる。穴の外のことは何もご存
知ないのである。そして、大方の社長は“穴熊”である。穴熊社長の考えて
いることは、必ずトンチンカンな方針や指令で、会社が良くなるはずがない。
私の強引な勧めでお客様のところを回った社長は、今まで思ってもみなかっ
たことがそこで起こっていることを、イヤというほど思い知らされたのであ
る。
どの店でも言われたことは「配送時刻をあと1時間、いや、30分でもいい
から早くしてくれ」ということだった。駅前の店などは「出勤の途中買って
行く人が多く、その人に売るものがないから、何とかしてくれ」という希望
もあった。「セールスマンに何十回言っても聞いてもらえないから社長に言
うのだ」と、憤懣をぶつけてきたのである。社長にとっては全くの初耳だっ
たのである。
会社創立以来、何十人のセールスマンが、延べ数百回もお客様から言われて
いるのに、誰一人として社長に報告していなかったのである。
それは、情報伝達で必ず起こる“誇張と省略”である。面白いとか、効果的
だと思ったことは誇張し、興味のわかないことや効果が少ないと思われるこ
とは省略してしまうのである。
この場合は省略である。「うちの会社は夜勤で仕込みを行い、翌朝何時に仕
事を始める。これこれの仕事に何時間かかり、製品ができ上がるのが何時、
それを車に積み込んで会社出発が何時になってしまう。今の時刻より早くす
ることはできない」と考えて、「どうせそんなことはできないのだから・・・
・・・」と、報告を省略していたのである。
つぎは、「配送箱が汚い」ということであった。これも初耳であった。小売
店では空箱は店先に積んでおくより他ない。これが汚いのではお客様に不衛
生だという印象を与えるからである。これも、何十回となくセールスマンに
言っているが、いっこうにきれいにならない、というのである。
セールスマンは「お客様はそう言っているが、配送の人間だって遊んでいる
わけではない。昼は仕事をして夕方に回収に出る。空箱を回収して会社に帰っ
た時には、会社はもう夜勤者だけだ。洗いたくとも人がいないのだ」と、全
くの聞き流しである。社長になど報告するような大事なことではない、とい
うことになっていたのである。
3番目には、配送中に揺れるので菓子どうしでくっついて商品価値を落とす。
これでは困るといっても、「味に変わりはないからと言って、引き取ってく
れない」というのである。これも初耳。
その次は「追加注文を受け付けてくれない」というのである。土曜、日曜は
よく売れるのだが、「追加注文を受けてくれない」という。これは私が最初
に指摘しておいたことである。
製造部門というところは、曜日など全く無関心に、毎日同じ数だけ作る。こ
れは、私がしばしば経験して知っていることである。売上が思うように上が
らないというのに、追加注文を受け付けなかったのである。
業務の人間がお客様の注文を聞いて製造部門に依頼すると「業務は注文をハ
イと聞いて受けるだけでいいが、製造は仕込みからやらなければならないの
だ。そんなことはできない」と、受け付けてはくれなかったのである。
こうしたことが何回か重なると、「製造部門では作ってくれないのだから・・・
・・・」ということになって、お客様の注文を断っていたのである。
「製造部長が作ってくれないのなら、何故、業務の担当者はそのことを社長
に報告しないのだ」と思う社長には、人を使う資格はないといえる。
業務の担当者が、もしそれを言うと、社長は製造部長に圧力をかけるに決まっ
ている。面白くないのは製造部長である。「誰が社長に言ったのだ」という
ことになる。誰が言ったかはすぐに分かる。すると、製造部長はその人間を
物陰に呼んで「おまえは自分だけがいい子になりたいのか、月夜の晩だけじゃ
ないのだぞ」と脅かすのである。
それ以降は、陰に陽に圧力をかけてイジメる。とても会社に居られるもので
はない。ついには会社をやめなければならないほどになってゆく。これが会
社の中の人間関係なのだ。観念論をふり回すキレイ事の人間関係論者などに
は分からないことなのである。
私自身が、会社に勤めていた時に、このような目に遭って、いたたまれずに
会社をやめた経験をもっているのだ。
会社の中では、他部門に関係のある事柄は絶対に社長に話すわけにはいかな
いのである。
だから、社長はいくら社内にいて目を光らせても、このような事は分からな
い。しかし、それは、お客様にご迷惑をかける。だから、お客様のところへ
行けば、我社の本当の姿が初めてつかめるのである。
話しをもとに戻そう。
社長は、初めて自分がいかに何も知らなかったかを、お客様訪問によって知っ
たのである。しかし、そこは社長である。直ちに次々と手を打っていった。
社長は、夜勤を充実し、朝の出勤時間を早めて配送時間を1時間早めた。駅
前の店には夕刻にもう一度配送を実施することにした。
汚れた箱の洗浄は、夜勤のパートを入れて解決した。
第3の、菓子のくっつき合いは仕切紙を入れてオーケーとなった。
第4の追加注文は、洋菓子は冷蔵庫にさえ入れておけば、かなり保存がきく
ことを利用した。月曜日から少しずつ作りだめをして、土、日の需要に応ず
るようにしたのである。
正直なもので、売上はたちまち上昇しだした。
社長は「一倉さん、社長は絶対にお客様のところに行かなければダメだ、と
いうことを骨身に滲みて知りました。社長が社内にいて、いくら社員に気合
をかけてもダメですね」と、私に語ったのである。
(「社長の販売学 一倉 定 著/産能大学出版部刊」P13~P17)
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その11「一倉 定の社長学/経営計画・資金運用」ほか
2.目標の設定
目標の設定
目標は、事業の経営に必要な様々な活動について設定されなければなら
ない、というのであれば、それはどのようなものであろうか。私は、主なも
のとして、少なくとも次の8つを挙げることにしている。
1.市場の地位
2.利益
3.革新
4.生産性
5.人的資源
6.物的資源
7.資金
8.社員の処遇
である。以下、これらについて、若干の説明を加えよう。
(目標の設定 5/8)
次には“人的資源”の目標である。
人的資源には、質的資源と量的資源がある。目標として、具体的に掲げる場
合には、量的なものになるのは止むを得ない。質的なものは、量の中に含ま
れると考えるのである。
我社の人的資源はいくらあるか。目標を達成するために、不足することは分
かっている場合でも、十分な人員を確保しようとすれば、たちまち人件費の
高騰である。とすれば、やたらな増員はできない。利益計画の中の人件費の
枠内で考えるより外にないのである。それは限られた人的資源を、どのよう
な活動に、どのように配分するか、ということである。当然のこととして、すべ
ての活動をすべて満足させることはできない。どうしても重点主義をとらざる
を得ないのである。
ところが、ここにあるのが、マネジメント論と称する全く誤った理論である。
この理論は、組織とか職制を第一義に考え、次元の低い日常の繰り返し仕
事に焦点を合わせている。
その理論に従って、人的資源を管理業務に重点的には位置するという、誤っ
た重点主義をとっている会社が多すぎる。管理業務に、いかに優れた人的資
源を投入しようとも、管理に要する費用を賄うに足るかどうか疑わしい程度の
収益をあげることができることは、まれなのである。
優れた社長はこのような誤りをおかさないものである。あくまでも経済的成果
達成に焦点を合わせるのである。
経済的成果をあげる活動には二つある。一つは
今日の収益をあげるための営業活動であり、もう一つは
明日の収益をあげるための開発活動である。
だから、まず、この二つの活動に重点的に配分しなければならない。
次には供給体制の整備に必要な活動部門への配分である。
そして、残った人員を管理部門に当てるのである。
もともと不足する人員を、重要度に応じて配分してゆくのであるから、最後に
なる管理部門の人員が不足するのはいたし方がない。
良くても悪くとも、こうするより外にないのである。このような観点から見ても、
管理は“最小限管理”を指向しなければならないといえよう。
(「5.人的資源」以上 次回「6.物的資源」)
(「一倉 定の社長学/経営計画・資金運用」P67~P69)
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第1章 社長は自らお客様を訪問せよ
5 社長の方針それ自体が、販売を阻害していた
K社は、コンクリートの混和材のメーカーであった。混和材というのは、生コン
の流れを良くするための界面活性剤―――石鹸のようなものである。
売上は極度の不振で、倒産寸前ともいえる状態だった。K社長は「公共事業
が少なくなってきたので……」と言う。これでは、「だから生コンが売れないの
だ」ということになってしまう。「悪いのは需要減であって、不可抗力だから
仕方ない」というのと同じである。
世の中には、こう言う考えを持っている社長が少なくないが、これでは社長な
ど不要ではないか。だから、『今年の見通しは……』というような論文や講演
会がやたらにはやる。私はいつもこれを苦々しく思う。自由経済である限り、
好況と不況はつきものだ。
事業というのは、好況や不況の波を超越して、長期的視野に立って行うもの
である。
私は社長にこの点を強調して、社長自身の態度こそ大切なことを申し上げた。
お客様のところを回っているかと聞いてみると、今までそんなことは夢にも考
えていなかったと言う。それが販売不振の根本原因であることを申し上げて、
「会社を救いたければお客様のところを回りなさい。それがいやなら倒産す
るしか手はない。どちらにするかは社長が決めることであって、一倉が決め
ることではない」と、決めつけたのである。
多くの社長は、コンサルタントというものは、会社の内部を調べて勧告してくれ
るものだと思っているが、これは大間違いである。
業績不振というのは、売上が不調だからであって、内部の仕事のやり方がま
ずいからではないのだ。売上を上げたかったなら、お客様のところへ行って教
わってくるしか手はないのである。
K社長は、お客様のところを回る決心をした。これが会社を救ったのである。
K社長は、お客様―――生コン工場の巡回を始めた。そこでお客様から聞い
た事は、文字どおり“青天の霹靂”であった。
お客様は、K社長の訪問を喜んでくれた。そんなことをする社長などいないか
らだという。だから、できればK社から買いたくなるのだが、それはできないこ
とだという。そんなことをしたら生コンの操業に大支障を来たすからだという。
その訳というのは、次のようなことであった。
混和材業界といえども過当競争である。各社は競って混和材の貯留タンクを
自社の負担で生コン工場に据え付ける。
K社とて同様なことをしなければならない。営業部門から据え付けの許可を
社長に申請すると「そんなものはサービスだから小さなものでよい」と言って、
小さなものしか許可しなかった。これが販売不振の第1原因だった。
小さなタンクのために、使い出すとアッという間になくなってしまう。補充を頼
んでも、すぐに届けてくれない。というのは、K社長の出している“配送効率”
の向上という方針があるために、少量配送では効率が悪くなって社長から
叱られるからである。これが第2の原因だった。
社長の方針自体が販売不振の根本原因だったのである。
社長は愕然とした。
しかし、販売不振の原因がハッキリしたのだから、これを直せばよいのだ。
私は社長と相談した。倒産寸前の会社に貯留タンクの大きなものを据え付け
る余裕はない。それは余裕ができてからということにして、とりあえずやらなけ
ればならないのは、配送効率を無視してお客様の操業に支障を来たさないよ
うにすることである。そのためには、お得意様の数を配送能力に合わせて減
らすことである、ということになった。よくても悪くても、死に物狂いでこ
れを行うより他にないのである。
新しい方針は、たちまち効果を上げ出した。6ヵ月後には対前年比売上30%
増。1年後には何と60%増となった。会社は黒字転換である。
後でのK社長の述話では「お客様のところへ行ったときの驚きといったらなかっ
た。競合会社の貯留タンクは1000リットルかそれ以上もあるのに、わが社
のタンクはたった200リットルなんですからねえ」と言うのであった。
この実例は、いろいろな教訓を含んでいる。まず第1には、たったこれだけ
のサービスで年間60%もの売上増ということは、「他社のサービスもあまり
よくない」ということである。そうでなければ、こんなにも効果が上がるはずは
ないからである。
第2には、K社のような「“限界生産者“(占有率の低い会社)といえども、
お客様の要求を正しく把握してサービスをすれば、大手に勝つ道がある」と
いうことである。「サービスは力に勝る」ということである。
サービスというのは、一般には“オマケとタダ”という意味に使われているが、
正しい意味は「サービスとはお客様の要求を満たすこと」なのである。
社長は「我社の配送サ-ビス」の実態をお客様のところで確かめるだけでも、
売上増大を期待できるかも知れないのである。会社の中にいては分からない
のだ。
第3には“配送効率”を無視してお客様サービスを行うことによって、売上増大
を図れるだけでなく、配送効率の向上を実現できる可能性があるということ
である。
人手不足が激しくなる中で、ともすれば配送サービスが悪くなる危険があるが、
他社とて同様であれば、ここで他社を押さえる戦略が考えられないだろうか。
※ ※ ※
ここで、ちょっと付け加えたいのは、配送効率とか在庫回転率の向上という方
針を不用意に、というよりはやたらに打ち出してはいけない、ということである。
もう一つ、経費節減がある。
この方針を社長が打ち出したら100年目、必ず売上減少を来たすものと思う
べきである。このような方針は、経理担当者を大ハッスルさせる。経理という人
種は、売上増大や収益性増大、付加価値あるいは粗利益の増大や宣伝広告
費、旅費・交通費の役割ということには全くの音痴である。経理担当者に理解
できるのは“費用”だけなのである。だから、費用は少なければ少ないほど
よいと思い込んでいるのだ。
そこに、社長が配送効率とか、在庫節減とか経費節約を打ち出すと、鬼の首
でも取ったようにハッスルする。そして、直ちにそれっらの資料を作って社長に
報告する。社長はこれに乗る。こうなったらもう終わりである。販売活動、
配送サービスなどに大きな支障を来たすのである。
ある靴のチェーン店であったが、社長が在庫節減を打ち出し、おまけに経理
担当に「おまえがよく見てやれ」というとんでもない権限を与えてしまった。
さあ大変、経理は大ハッスルである。たちまち大変なことがもち上がってしまっ
た。チェーン店の中で最も売れる店で仕入れが思うにまかせず、陳列する商品
が激減し、当然のこととして売上減少である。補充仕入れをしようとすると、経理
でダメだと言う。理由は在庫金額が目標値にまで達していないからだというので
ある。
経理の在庫目標というのは、会社の全体の在庫についてであって、店舗ごとに
ではないのであった。在庫は売上不振の店舗のデッドストックやスリーピング
ストックのためで、売れる店には陳列の大不足が起こってしまったのであった。
そのような時に私がお伺いした。そして、さっそく社長に大目玉ということになっ
たのである。
小売店の在庫というものは回転率で押さえるものではないのだ。回転率で押
さえたら右のようなことになるに決まっている。
在庫は“売れ筋”と“死に筋”という分類で、売れ筋は陳列数の増加を行って売り
損ないを防ぎ、アイテムを増加して活性化を行うものなのだ(詳しくは後述)。
死に筋は仕入れないことである
(「社長の販売学 一倉 定 著/産能大学出版部刊」P18~P23)
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その12「一倉 定の社長学/経営計画・資金運用」ほか
2.目標の設定
目標の設定
目標は、事業の経営に必要な様々な活動について設定されなければなら
ない、というのであれば、それはどのようなものであろうか。私は、主なも
のとして、少なくとも次の8つを挙げることにしている。
1.市場の地位
2.利益
3.革新
4.生産性
5.人的資源
6.物的資源
7.資金
8.社員の処遇
である。以下、これらについて、若干の説明を加えよう。
(目標の設定 6/8)
次には“物的資源”の目標である。
物的資源は、一つは原材料であり、もう一つは固定資産である。
原材料については、石油ショックまではごく一部の例外を除いて、全くといっ
ていいほど考える必要はなかった。
それが、石油ショックを境にして、資源不足時代に突入した。これは、急に
そうなったのではなくて、今まで潜在していた資源不足が顕在化したのであっ
て、急に資源不足が起こったわけではない。
資源不足が、われわれの経済活動に大きな影響を与え始めたのは、1972
年(昭和47年)である。この年に突如として世界的なインフレが起こった。
これは、人類が始めて経験する大事件であった。それまでは、特定の国の特
殊事情によって、その国のインフレはあったが、それはあくまでもその国だ
けのものであった。
この、世界一斉のインフレは、資源不足による「一次産品」の値上がりによっ
てもたらされたのである。
一次産品の値上がりを端的に表しているのが「ロイター指数」である。(ロ
イター指数とは、イギリスのロイター通信社が発表している世界の主要一時
産品17品目の1931年9月18日の価格を基準とした指数で、日本経済
新聞の海外氏供覧に、日曜と月曜を除く毎日のっている。ついでに申し添え
ると、これには石油は含まれていない。1931年には、石油は重要な一次
産品ではなかったのである。その石油が、それからたった、40年余りの間
に、最も重要な一次産品にのしあがり膨大な消費量のために、まもなく涸渇
しようとしているのだ。)
ロイター指数は、1971年までは、約500で安定していたのが、197
2年には、750にとび上がった。たった1年で5割上がったのである。そ
の原因は、資源不足である。資源不足ほど猛烈なインフレを起こすものはな
い。アッ!という間に世界的インフレを起こしたのである。
その、ロイター指数は、石油ショックの翌年、1974年2月には、147
9まで上がった。もっとも、石油消費国の総需要抑制による不況で、197
5年末には、1170くらいのところまで下がっている。しかし、いつこれ
が高騰し出すかわかったものではない。資源は増えるどころか、確実に減り
続けているのだ。
資源不足時代に、われわれは如何に対処するか、という命題は、長期的にみ
て最も大きなものである。
資源不足時代には、資源を持っているものが強い。石油ショック以前には、
資源を消費するものが強かった。それが全くの逆転である。
この資源不足によって、時代はどう変わってゆくのだろうか。
大きくは省エネルギー、省資源に始まり、資源開発、資源回収技術の重要度
が高まってゆく。資源不足であるから、好むと好まざるとにかかわらず、統
制経済色が強まってゆくことは避けられないのである。当然のこととして、
資源は確実に高くなり、資源インフレは果てしなく続くのである。
石油ショック以前のインフレは「ケインズ・インフレ」であった。「不況時
に公共事業を起こして需要を喚起する」というケインズ理論は、資源の制約
は考えなくていい時代の考え方であった。もはやこの理論は通用しなくなっ
たのである。
これからのインフレは、資源インフレである。そして、資源インフレは、ケ
インズ・インフレとは比べものにならない恐ろしいものである。
人類の力では、まだこの資源インフレを止めることはできない。資源インフ
レは確実に進むだけでなく、何かのきっかけによって猛烈に燃え上がる。か
つての石油ショックの時の、“狂乱物価”がその好例である。
このような時代に、社長はどのようにして生きるための“我社で必要な資源”
を確保してゆくかこそ大問題である。
企業は永久に生き続けなければならないのであるから、“我社の事業”その
ものを根底から洗い直し、20年~30年後の我社の生きる道を探さなけれ
ばならないのである。そして、その中心は、いつも“資源”にあるのだ。
昭和50年を出発点として考えると、中期的……5年から~10年では、資
源確保のための“実績”づくりが必要である。
短期的……1年~5年では、資源不足それ自体は、あまり問題にならない。
この期間には、社長のやらなければならないのは、長期的に我社の事業をど
うするか、ということと、中期的な対策としての“実績づくり”をすること
である。
実績づくりの具体的な方策としては、2社購買より1社購買に切り替えたほ
うが良いかもしれない。実績が、いざという時にいかに大切なものであるか
ということは、石油ショックの時に、イヤというほど思い知らされているの
である。
とにかく、資源不足は確実に進む。しかし、徐々にである。そのために、こ
れに気づかず、気がついた時にはどうにもならなくなっていた、というよう
なことがあってはならないのである。われわれは、ローマ・クラブの「成長
の限界」の警告を、よくよくかみしめる必要があるのだ。
第6番目の”固定資産”に関する目標については、「経営戦略篇」の、「設
備投資の危険を知れ」のところで述べてあるので、参照していただくとして、
社長は設備投資の基本方針を明確にしなければならない。
何をいつ、そしてどれだけの金額を投資するのか、を事業構造の目標に従っ
て決定するのである。
くれぐれも心しなければならないのは、
不急不要のもの、直接収益を増加させる機能を
持たないもの
は、頑として拒否する姿勢である。
見栄を張ったり、社員の機嫌取りをしたりしてはならない。固定資産投資に
は多額の資金を必要とするのだ。坂本藤良の「倒産学」には、富士製薬の本
社ビルを建てるときに、立派なビルを建てるように主張したことが書いてあ
る。全くあきれかえる話である。事業経営の何たるかを全く知らないのであ
る。
(「6.物的資源」以上 次回「7.資金」)
(「一倉 定の社長学/経営計画・資金運用」P69~P74)
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第1章 社長は自らお客様を訪問せよ
6 お得意先の社長を好きになって
H社は、食品のメーカーで、売り上げの大部分は、ある大手の下請けであっ
た。実質的にはオンリーさんでである。
大手あるがゆえに値段に厳しく、低収益に苦しんでいた。そのために、どう
しても恨みがましい気持ちになってしまう。
私は、こういう会社にお伺いした時は、「いくら値段に厳しかろうと、お得
意さんではないか。そのお得意さんによって、今まで事業を続けられてきた
のではないのか。ならば、感謝の気持ちで誠意を尽くすべきである。それが
できないのなら、そのお得意さんと縁を切るべきだ。縁も切らず、誠意も尽
くさずに、お得意先を恨むのはやめなさい。下請けという業態は、事業経営
のうちで最も難しい“販売”をしていないのだから、低収益が当たり前なの
だ。高収益を得たかったなら、自社商品を持って困難な販売を行うべきだ」
と、申し上げるのが常である。
H社長は、繰り返し何年も私の“社長ゼミ”に参加しているうちに考え方が
変わってきた。そして、「お得意先を好きになろう。特に社長を好きになろ
う。いや、好きなんだ」と思うようになった。自己暗示である。
そして、せっせとそのお得意先に通いだした。
しばらくすると、本当にお得意先の社長が好きになってしまった。むろん、
仕入れ担当者も、である。
得意先の社長とは、今までやったこともないゴルフまで、いっしょにする仲
になったのである。すると、みるみる注文が増え出した。価格は厳しいけれ
ども無茶な値段ではなくなってきた。
H社の業績は、確かか足取りで好収益化を始めたのである。
(「社長の販売学 一倉 定 著/産能大学出版部刊」P24~P25)
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その13「一倉 定の社長学/経営計画・資金運用」ほか
2.目標の設定
目標の設定
目標は、事業の経営に必要な様々な活動について設定されなければなら
ない、というのであれば、それはどのようなものであろうか。私は、主なも
のとして、少なくとも次の8つを挙げることにしている。
1.市場の地位
2.利益
3.革新
4.生産性
5.人的資源
6.物的資源
7.資金
8.社員の処遇
である。以下、これらについて、若干の説明を加えよう。
(目標の設定 7/8)
次には“資金”の目標である。
事業経営では、普通、利益から生れる内部留保金と減価償却と引当金の一部
という資本蓄積だけでは、増大する資金需要を賄いきれるものではない。
どうしても、外部からの資金を導入する必要がある。外部からの資金導入は、
増資と長期借入金である。
まず増資である。これは、最も望ましいことではある。しかし、その前提と
して、利益を上げなければならない。利益が上がらなければ増資はできない。
株主が承知しないからである。増資を円滑に行うには、2割配当が望ましい。
最低でも1割2分程度は必要であろう。
ところで、どの程度の払込資本金が必要であろうか。一応の基準としては、
メーカーでは月商と同額以上、流通業者では月商の3分の1以上である。
右の物差しをメドに、増資計画をたてるべきである。とはいえ、これは大変
なことである。中小企業の場合は、ほとんどがオーナー社長であるだけに、
払込金の捻出が大変である。
T社長いわく、『私は増資資金を銀行から借りているけれども、その返済に
年中キューキューしています。毎月もらう給料から、税金と借金返済にごっ
そり引かれて、手取りは5万円以下ですよ。うちの会社で給料の手取りが最
低なのは私です。女房がボヤイていますが、ムリもありませんよ』と。
だから、増資資金も、ある程度以上になると、オーナー社長や同族だけでは
賄いきれなくなる。どうしても外部の協力を必要とする。金融機関や取引関
係に対する持ち株の要請や、社員持株制などがその手始めであり、ついには
株の公開ということになるわけである。
とにかく、自己資本の充実のための重要な一環である増資を、どのようにす
るかは、どうしても長期的な視野から、その方針を決定しておかなければな
らないのである。
月商1億円で払込資本金500万円という会社を見たことがあるけれども、
これでは、社長の脳ミソの質を疑われても、いたし方がないといえよう。
過小資本の弊害は、まず第1には他人資本に依存する度合いが多いために、
金利負担が多く、不況時には借入金返済のために資金繰りのピンチを招く危
険が多いことである。つまり、不況抵抗力が弱いということである。第2に
は、相当高率の配当をしても、その絶対額が小さいことである。これは、一
面においては資金の外部流失を少なくして内部留保に有利ではある。しかし、
社長たるものは、事業規模に見合う資本金で、これに高率配当をするだけの
覚悟と見識をもつべきである。そうでないと、事業経営に真剣味が足りなく
なるのだ。これが恐ろしいのである。さらにもう一つ、相続税の問題がある。
税務署の「株の評価」は、その会社の純資産(資本金と内部留保と引当金)
を株数で割ったものを基準とする。過小資本であると、1株あたりの評価額
が額面の何倍にも飛び上がる。株主は、長年にわたってごく僅かな配当金し
かもらわないのに、相続税はガッポリとられる、ということになる。大切な
株主に、このような迷惑をかけるのは、「恩を仇で返す」ようなものである
ことに思いをいたすべきである。
「配当金は税金を払った残りから払わなければならないのに、支払利子は損
費として計上できるのだから、借入金のほうが有利である」という考え方に
一理あることは事実ではある。しかし、それは物事の一面しか見ない理論で
ある。物事というものは、全面を見て判断しなければならないことを忘れて
はならないのである。
次は長期借入金である。運転資金は短期借入金に依存し、設備資金は長期借
入金で賄うのが最も常識的である。(場合によると、長期運転資金のご厄介
にならなければならないこともある。)
設備投資の場合に、自己資金があるからといって、不用意にこれを設備に投
入してはならない。というのは、設備をすると、当然のこととして、供給能
力が増加し、そのための増加運転資金が馬鹿にならなくなる。この点を計算
に入れている会社は殆どないといっていい。下手をすると、運転資金の不足
に悩まされることになる。
私は、たとえ自己資金で賄える場合でも、設備資金は全額、長期借入金によ
ることをすすめる。資金が余ったら、その分だけ、支払手形や割引手形を減
らせば済むのであるし、これが、資金繰りの安全度を増すことになるからで
ある。詳しくは、資金運用計画のところでふれることとする。
(「7.資金」以上 次回「8.社員の処遇」)
(「一倉 定の社長学/経営計画・資金運用」P74~P78)
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第1章 社長は自らお客様を訪問せよ
7 販売不振の原因は生産褒賞金だった
O社は、佃煮のメーカーだった。。
業績不振で、社長はどうしていいか分からなかった。
初めてお伺いした朝、事務室の脇の通路を通って社長室に入るようになって
いたのだが、その通路と事務室の境は背の低い書棚で仕切られているので、
私が通路を通れば仕事中の社員の目には自然に私の姿が見える。ところが、
誰一人として私に挨拶も目礼もしない。
これはボロ会社共通の現象である。来客に挨拶するとしないとでは、会社の
印象が天と地ほど違うのである。
「仕事中は外来者に挨拶しなくてもいい」というような教育をするのは、明
らかに間違いである。“気が散って仕事に支障をきたす”ということらしい
が、冗談じゃない、そんな仕事のやり方をしたら、1時間と持たないはずだ。
K社などでは、郵便配達の人にさえ、おしぼりとお茶を出す。夏などは冷や
したおしぼりに冷たい麦茶である。
だから毎年、年賀状は幕のうちに配達される。幕のうちに見る来年の年賀状
の味はまた格別だという。
「我社に来る人は、たとえ乞食であってもお客様である」というのが、K社
長の方針である。超優良会社の面目である。
話をもとに戻そう。
O社長の社長室に入った時に、すぐ目についたのが“生産効率表”である。
O社長の説明では、生産褒賞金を出しているという。
生産褒賞金だろうと、販売歩合であろうと、特定の活動に奨励金を出すこと
は間違っているのだ。奨励金を出すと、社員は必ず奨励金が最大になると思
われる行動をとる。つまり、社長が経営権も指導権もすべて放棄してしまっ
ていることなのである。これが会社に大きな害毒を流すのである。O社も例
外ではなかった。
O社長の話というのは、コストであるとか在庫であるとか、経費であるとか、
すべて内部管理に属することばかりであった。
それは、経営学と称する経営学にあらざる内部管理学であり、多くの社長は
これが経営学であると思い込んでいるのだ。これで会社をダメにしてしまう
のである。
事業の経営というものは、我社の製品(商品)またはサービスをお客様に提
供し、報酬をいただくことによって成り立つのである。したがって、その活
動の対象はお客様であって、内部の仕事のやり方がどうであれ、我社の製品
(商品)またはサービスがお客様に受け入れられなければ何にもならない。
O社がこれであった。
O社の最大の問題は販売不振だったのである。O社の製品の何かが、お客様
の要求に合わない点があるからだ。
それが何であるかは、社長が自らお客様のところへ出かけて教えてもらうよ
り他に方法はないのである。
私は、O社長にお客様のところへ行くことを勧めた。O社長にとっては、全
く考えてみたこともないことであった。会社の内部の仕事のやり方にしか関
心がなかったし、これが経営だと思っていたのだから無理もない。
O社長は、頭の切り換えにかなりの時間を要したが、ついにお客様のところ
へ行くようになった。そして、我社の製品の売れない理由を知ることができ
たのである。
ある日の食品店訪問で、ちょうど社長がいて、その社長がO社の製品の売れ
ない理由を教えてくれたのである。
その社長は、O社のパックを1つ取り上げて製造年月日を示してくれた。半
年ほど前の日付だった。お客様は3ヶ月以上たったものは、なかなか買って
くれないのだそうだ。
競合会社のものは、3ヶ月以上たっているものは少なかった。セールスマン
が定期的に巡回してきて、3ヶ月以上たったものは回収していくからである。
こうした小売店の態度に対して、「売れないと分かっているものなら、なぜ
返品しないのか。返品してもらえば古い日付のものは売れないということが
分かるのに、小売店の怠慢である」と思われる社長は明らかに間違っている。
何百種類、いやそれ以上もの多種多様の商品を扱い、接客、現品管理、記帳、
店舗清掃など仕事は多い。その中で商品全部について製造年月日を調べて古
くなったものを取り除くことなどは物理的に不可能なのである。
だから、これらは納入する業者がやるのである。事実、優れた業績を上げて
いる会社では、みなそれを行っているのである。
話をもとに戻そう。
何故こんなことになってしまうかというと、これが先に述べた奨励金制度で
ある。
製造部門が最大の奨励金を得る道は、製造ロットを大きくするのが最も手っ
取り早い方法である。売上高の大きな商品を、腐りにくいからと3か月分も
4か月分も1度に作る。その途中で在庫切れの商品ができても、こんなもの
の割り込み生産などはしない。それが、お客様に迷惑をかけることなど絶対
に考えようとはしなくなる。
売上げの多い商品を次々に何か月分も作るのだから、在庫は急増する。する
と、今度は在庫過多だということになり、営業部門に社長の圧力がかかって
ゆく。営業部門こそいい迷惑である。
でも、売らなければならないのだ。そこで、大幅な値下げ販売ということに
なる。そうしなければ、問屋は買ってくれないからである。こうして、製造
部門で上げた生産性向上によるコスト低下の数倍、数十倍の値引きをしなけ
ればならなくなる。
O社の過剰在庫と問屋の過剰在庫が重なって、小売店の店頭に品物が並んだ
時には、もう3ヶ月以上になってしまう、ということになっていたのである。
社長は初めて自分の誤りに気がついたのである。
(「社長の販売学 一倉 定 著/産能大学出版部刊」P26~P30)
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