ああ、じれったい!
私は始め、上のほうばかり探していました。雛たちが曲がりなりに
も宙を飛んでいなくなったからです。
我が家の柿の枝と、川向こうの土手から長くのびてきている桜の枝
とが、こちらの土手の真上で深く交差しています。台風一過の青空が、
深緑の間から散らばったガラスの破片のようにキラキラのぞいてい
ました。
(いたいた!)
と思ってよく見ると、それは雛ではなく重なり合った葉の造形でした。
あせっているので、ちょっとしたものが探している雛の形に見えてしま
うのです。
どこかで低く変な調子でカエルが鳴いています。さっきからずっと鳴い
ています。
ふと少し離れた土手の斜面を見て驚きました。 ヒヨドリの雛があど
けなく遊んでいるではありませんか。そう、草の葉をしゃぶったりして
あどけなくです。
そっと近寄っていくと、とたんに、いつきたのか親鳥がフェンスの上で
けたたましく鳴きだしました。頭の羽毛を逆立て、今にも飛びかかって
きそうです。私は恐ろしくなって、あわてて家の陰にかくれました。
様子をうかがっていると、親鳥は地面におり、雛のそばまでいって低
い声で鳴きだしました。
(あっ、カエルの声!)
さっきまで聞こえていたのとまったく同じ、あのカエルの声...。
私は勘違いしていたのです。カエルの声と思ってきいていたのは、実
はこのヒヨドリの声だったのです。
するとこんどはその同じ声が、なんともいえない哀調を帯びてきこえ
るのでした。甲高くてやかましいときより何オクターブも低い声。あたり
に聞こえるのをはばかるような、そしてどこか優しさと厳しさをあわせ
もった声。
よく見ると、親鳥は尾羽が少ししかありません。
(ボロボロ母さんだわ!)
やがて母鳥はフェンスに飛び移り、またグウェ、グウェとカエルに似た声
で必死に雛に呼びかけます。
「ハヤク、コッチヘキナサイ。ハヤクハヤク。ドウシテ、オカアサンノイウコ
トガキケナイノッ。サア、ハヤクツイテイラッシャイ」
そしてまた雛のいる土手の斜面におりてくるのです。その繰り返しです。
しかし、無邪気な雛は、いっこうに母親の思うようにはならないのでした。
猫の親だったら、こんな場合、子猫の首筋をくわえて安心できる場所に
連れて行くことができるのに...。
(ああ、じれったい。はやくしないと、猫や蛇にたべられちゃうわよ)
ヒヨドリをよろしく【十七】 見たっ、母… March 30, 2007 コメント(10)
ヒヨドリをよろしく【十六】 救いの神 March 25, 2007 コメント(12)
ヒヨドリをよろしく 【十五】 保護したけ… March 21, 2007 コメント(14)
PR
Calendar
Comments
New!
つれりんさん