目が離せない
どのくらいたったでしょうか。
しびれをきらした私は、ついに勇気をふるいおこしました。恐るお
そる雛に近づいていったのです。
とにかくこのときの私には、このまま放っておいたら雛がいとも簡
単に猫や蛇に襲われてしまう、ということしか考えられませんでした。
母鳥のあわてふためきようといったらありません。耳が痛くなるほ
どの絶叫をくりかえしながら、私に接近しては離れます。
「だめよっ、つついちゃ。おばさんはこの子を助けてやるんだからねっ」
そんな私の強いさとしが通じたかのように、母鳥は頭上で騒ぐだけで、
実際には私を襲ってはきませんでした。
それでも雛をつかまえる一瞬の怖かったこと、むき出しの肌が粟立つ
ほどでした。
母鳥は、悲しそうな叫び声をあげながら、雛を胸にした私のあとを、
つかず離れず追ってきました。
空家同然の離れ、小さな中庭、私たちが休暇を過ごしている母屋、
それらのわきを通り、そして白樺のある猫の額ほどの前庭へ―。
1990年当時
そこへ、ちょうど夫も門の外からもどってきました。
なんと、彼の手の平の中にも、雛がいるではありませんか!
その子は、はす向かいの生垣にしがみついていたそうです。
母鳥が私たちの頭上を旋回しながら、
「コドモヲカエシテ、ハヤクカエシテ」
と休みなく叫びつづけています。
とにかくいま二人の手にいる二羽を巣にもどして、親を安心させる
ことにしました。
親といっても、父親のほうの姿は朝からまだ一度も見かけないような
気がします。どうしたのでしょうか。昨夜の強い雨風の中で、何か
事故でもあったのかと、気がかりでした。
それに、行方不明になったままの二羽の雛のことも頭から離れません。
台風のさなかにいなくなったとおもえる一羽は、ほとんどあきらめては
いましたが…。
ともかく、いまふたりの手の平にいる二羽の雛を巣にもどしてやることが
先決です。
ところが、夫がなんど試みても、二羽ともすぐに巣から出てきてしまう
のでした。どっちもどこかへ飛んでいこうとする気などぜんぜんないの
ですが、枝のあちこちをヨチヨチ動きまわるので、地面に落ちてしまう
のではないかと目が離せません。
そのうち本当に一羽が落ちてしまいました。
母鳥は、近所迷惑なほど騒ぎ続けています。
このままでは、雛たちは間違いなくは母鳥の目の前で、猫にやられてし
まうと思いました。
思案の結果、親鳥には気の毒だけれど、私たちは二羽の雛を、一時、
鳥籠に入れることにしたのでした。
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つれりんさん