~さわやかに香る風~

~さわやかに香る風~

鏡の中のボク page(1)



真実の世界。
 偽りの世界。
 見つめる世界。
 見つめられる世界。
 見つめているのは自分だけ?
 見つめているのは本当の自分?
 真実は鏡のみぞ知る。
 この物語は、その真実をみた者たちの話である。
 そう、世界は一つではないという真実を。
 偽りはないという真実を。




~プロローグ~


 十一月。ぽかぽか陽気のなか、あたたかい日差しが差し込む洋室十畳のリビングで、一人の女性がテレビのとある番組に釘付けになっていた。
 四十代前半のこの女性。
 テレビを前に、おせんべいにかじりつきながらも、その目はすべてを逃すまいと一時の隙をも見せない。
 間食の習慣がありながら、幸いにして太ってはいないものの、よく見ると化粧の乗りも厚く、しわ隠しのためにパウダーを塗りたくった形跡があり、それはまさに「おばさん」を象徴するものであり、十分にその要素を持ち得ている。
「今回は前回よりもグレードアップして、ティッシュを収納できるケース、さらに便利な小物入れまでつけちゃいました!」
「…でも、気になるのは、やっぱりアレですよね?」
テレビの画面上には、顔をしかめた、わざとらしい演技をする女性タレントが映っている。
 その演技に、自信満々といった感じで応える男性商人。
「いえいえ。ご心配には及びません。今回は、手軽に利用可能なクシをおつけいたしまして、お値段は…」
なかなか次の言葉を言わずにじらす商人。
「…いいです! 言っちゃってください!」
 目を覆う女性タレント。二人のわざとらしい演技は続く。
「ええ。それでは、改めて発表させていただきます。こちらの商品のお値段は、現在セール中につき、なんと…!」
 ジャジャン!
「わぁ~お!」
 テレビの前の女性は、おせんべいの入った口を大きく開けて叫んだ。
 『テレショップおばさん』。
 彼女は一部の人々からこう呼ばれていた。
 確かに彼女はそう呼ばれるにふさわしい人物であった。…いや、そう呼ばれなければならない、といったほうが正しいだろうか。
 彼女はその呼び名通り、テレフォンショッピングに関しては鬼だった。
 そのテレショップを通じてこれまで手に入れた商品は何点となったのか、今となっては彼女以外、誰も知らない。もしかしたら、あの番組にエキストラとして出演しているのでは、という噂まで立つ始末だ。
「…これよ。これを待ってたのよ、わたしは!」
 そして今回も、新たなお買い得商品に目を光らせ、立ち上がった。
 テレショップおばさんの手元には、日に照らされたペンとメモ帳が静かに光を放っていた。


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