青藍(せいらん)な日々

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第46話 もうひとつのシングルハンド



久し振りに、ある造船所から連絡が入りました。40フィートのシングルハンド艇を建造しているから興味は無いか?という事です。このサイズをシングルで、しかも楽に操船できるのは大型志向の方々には朗報です。詳細を見ますと、やはり、ステアリングポジションから、ワンタッチのボタン操作で全てをコントロールできるシステムになっています。セールの展開から、収納、トリミング、全てボタン操作なのです。このシステムは以前にもご紹介致しましたドイツのディスタンシアと同じです。欧米は次のステップに入ってきたと感じずにはおれません。

昔々、ヨットを始めた頃、サイズは小さく、木造で、高価だった。それがFRPの発明によって量産が可能となり、価格が下がる。そうなると、より大きな需要を喚起してきた。同時に大型化への発展となり、究極はメガヨットにまで発展してきた。ところが、一部は一人で乗れるヨットという志向も強くなり、それに対応する小型艇への需要も大きくなり、次のステップとして、大型のシングルハンドという方向性が見えてきた。これからは、大型艇シングルハンドというジャンルが欧米ではもっと増えてくるのではないかと思います。人間というのは、大きな物が好きなんでしょうかね。小さい物から大きくなって、大きくなった弊害から、また小さくして、ところが大きな物への弊害が克服されて、再び大きくなる。このシステムのメリットがさらに広がると、小型艇へも採用されていくのでしょう。それで、多くのヨットが小型から大型まで、どのサイズでも楽に動かせるようになるかもしれません。そして、その先、誰かが、やはり、機械ばかりに頼るのは面白く無い。と言い出して、一部は再び、シンプルな装備で昔ながらの乗り方をする人達が出てくるでしょう。発展して、便利さを享受すると、一方で、発展によって失われたフィーリングを取り戻す為にシンプルに戻る。この繰り返しのような気がします。便利である事は必ずしも、最高のフィーリングを得る事にはならない。便利さへの探求は常に発展を促し、わずらわしさは便利という物に置き換わり、その後でわずらわしかった事の中にも得られるものがあった事を思い出す。発展は便利さを提供するだけでは無く、一方でシンプルさがどんな物であったかを思い出させる事にも寄与しています。だから、最近、スローというが言われるのでしょうね。

日本のヨット界にはまだまだスローという言葉は出てきません。まだまだ発展途上です。欧米で長い歴史の中で発展してきたプロセスを、日本では後から来ているだけに、非常に短い時間で進んでいるように思えます。バブルで一挙に大型化し、次は小型艇の見なおし、今からはその段階に入ってくるのではないかと思います。そして、ヨットがもっと大衆化していき、裾野を広げる。そして次に大型のシングルハンドが来る。これを非常に短いサイクルで行っている。国民性のせいでしょうか、日本はみんな同じ方向に一挙に行く傾向にあるようで、サイクルが短いのかもしれません。

大型のシングルハンドが日本で増える段階にはまだいたっていないと思います。もちろん、一部にはその方向に向かう人は必ず居るでしょう。でも、例外だと思います。まだまだ先の段階です。
もし、万一、これが日本に今の段階で増えるようだと、日本のヨット文化は、益々離れた特別な存在になってしまう。ヨットがまだ馴染んでいないからです。今の段階は、ヨットが本当に我々の中に馴染むことではないかと思うのです。かけ離れた存在から身近な存在になること。そして、次の段階で大型を楽に乗る方向、そしてさらに次の段階で、大型シングル。こんなところでしょうか。
ただ、日本の場合は、次の段階の物が既にそこにある。今無いものが発明されるのを待つまでも無いと言う事。これが急速な発展を促し、その為に本当に自分の物になっていかない。ゆっくりとした発展をすると、その各段階が自分のものとして定着しながら進むのでしょうが、既にある物はそれを急速に変化させていく。まるで、発展途上国のようなものです。

心がついていっていない段階で、機械だけが発展して、惑わされないように、今はヨットを本当に馴染ませる事が重要だと思います。便利さだけが先走りすると、機械はあるが、その機械を使いこなせない、生活に溶け込ませられなくなる。ヨットが本当に馴染んでくると、機械に惑わされずに本当に楽しむ事ができる。今はその時ではないでしょうか。

だから、あえて、シンプルにいきましょうと言います。余計な物を省いて、エッセンスを充分に感じられるようにする。この段階を経ないと、いかに便利になろうと、ヨットを本当に楽しむ事はできないと思うのです。これを経て、初めて、自分に何が必要で、何が必要ではないかがわかると思うのです。

今日、長崎のハウステンボスマリーナに行きました。土曜日、天気は快晴、気温16度、春の陽気です。でも、見かけた人達はパラパラの数名だけでした。欧米ではこんな光景は見れません。でも、良いんです。これも発展のプロセスのひとつであると思うのです。


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