せいやんせいやん

せいやんせいやん

その8(10話)


【和彦爺さんの受難】


和彦爺さんが家族に見守られながら静かに目を閉じると──


「オリャアアア!」

「げぽっ!」

「デリャアアア!」

「ぶげっ! い、痛いっ。なにをするんじゃあ」

「ダアアア!」

「うぐっ! だ、誰じゃあ、おまえは」

「忘れたのかあ!

 ぼくは、六十八年前におまえにイジメられて自殺した、松岡幸一だあ。

 エイヤアアア!」

「おえっ!」

「やっと会えたね。ウォリャアアア!」

「ばふっ!」

「お礼はたっぷりするからね。ドリャアアア!」

「うがっ! ううう……。年寄りをいじめるのは、や、やめろ」

「うるさいなあ。ぼくはあたまにきてるんだからね。ソリャアアア!」

「ぱほっ!」

「ゾビャアアア!」

「むへっ!」

………


半世紀後のあの世では、逆イジメが横行しています。

お心当たりのある方はお気をつけください。

          (「あの世シリーズ」より)






72
【玉音ラップ】


ドンドン ピカドン おー 朕ちん

ドンドン ピカドン おー 朕ちん

あ~らあら 戦争 負けちゃった

何百万も 死んじゃった

許してちょーだい ごめんなちゃい

米英中ソ 強いんだもん

特に~ 米の ピカドン二発

ぶったまげーたぜ だ~めだこりゃ

朕は~ 単なる 傀儡よ

帝国軍に か~つがれた

頭のハエも 追えんのに

東亜のリーダー? 笑っちゃう



ドンドン ピカドン おー 朕ちん *

ドンドン ピカドン おー 朕ちん *

諸般の事情を かんがみて

共同宣言に 応じましょ

朕も~ 人の子 災禍をみるに

身が張り裂けそう 胃が痛い

ここが~ み~なさん 正念場

朕と~ 手をとり 輪になって

堪え難き~を 堪えちゃって *

忍び~難きを 忍びましょ *

神州不滅を 信じましょ

明るい 未来を 築きましょ

(以下、*くりかえし)



   ──玉音ラップ(歌:DJ.ヒロヒト)

        一九四五年八月十五日正午






73
【襲撃】


本日未明、市内西の県境にある老人ホームが襲撃された。

襲撃犯はすべて未成年だった。

彼らは鉄パイプやバットでお年寄りや職員を袋叩きにし、

カネめのものを盗んで逃走した。

ほどなく捕まった彼らのリーダーが、

警察の取調室で吐いた言い訳を以下に記す。

「おおい。なんでオレたちが捕まらなきゃならねえんだよ!

 敬老の日はきのうだろ?

 きのうだけお年寄りを大切にすればいいんだろ?

 どうなってんだよ? さっぱり分からねえよお!

 釈放しろ! 人権蹂躙だあ!

 パパを呼べえ!

 パパはなあ、警視庁のえらい人なんだぞお!」






74
【時空郵便】


最近、時空郵便屋さんを介して、戦国武将と手紙のやりとりをしている。

先日あるものを送ったら、今日その返事が来た。

その返信文を現代風に訳して以下に記す。

『こんにちは。君の送ってくれたものを読んだよ。

 ぶったまげたよ。拙者も武将として策略をめぐらすが、君には勝てない。

 君は素人作家と称してお話を書いているそうだが、

 これほど突拍子もない悪行を考え出すとは、よっぽどの悪人なんだね。

 あまりの陰険さに、拙者、吐き気を催した。

 残念だが君とは友達になれない。では、これにて』

とんでもない誤解だ。私が送ったのは、新聞だ。






75
【大隈田博士は正気か?】


あの悪名高き大隈田博士は、

ほんとうにマッドサイエンティストだったのだろうか。

彼は秘かに細菌兵器を製造し、たった一年で人類を滅亡させた。

地下研究室でひとり生き残った彼は、

「仕上げだ」とばかりに、毒薬を服んで自殺した。

彼は本当に狂っていたのか?

博士の最期の言葉。

「おれこそが、正真正銘のエコロジストだ」






76
【一事が万事】


お盆休みです。いい天気です。

サラリーマンの政夫さん、小四の息子とキャッチボールを始めました。

あれあれえ、通路に斜めに立ちましたよ。

お互い、他人のうちの塀をほぼ背にしていますよ。

これって、捕りそこねたボールを後ろの塀に当てて、

取りに行く手間をなるべく省くためですねえ。

そんな政夫さん、子供が就職するまでの家庭計画に

祖父母・父母・義父母の年金収入を組み入れています。






77
【あの世~由紀夫の場合】


由紀夫がトラックに轢かれて即死すると──


「兄貴ぃ~、お勤め、ご苦労さまです!」

舎弟がいた。

「おぅ! 勇次ぃ~!」

深呼吸してみる。

ひさしぶりのシャバの空気は、うまかった。






78
【あの世~久仁彦の場合】


久仁彦が定年退職した翌日に突然死すると──


「で、おまえはなにもん?」

神様がいた。

「………」

答えられないでいると、

「わあああぁぁぁ~~~~~」

下界にもどされ、また自分探しの旅が始まった。

とりあえず、

「ゲロゲ~ロ」

カエルから。






79
【しろい犬】


しろい小犬が 春をくわえてきました

ふにゃふにゃして 持ちづらくて

やっとつかんだら 少しあたたかい

まるで こんにゃくみたいだな

でかしたぞ のら犬くん

ごほうびに 冬をあげよう

ヒヤっとして きもちいいぞ

なになに いらないワンだって

しろい小犬は 走り去りました

ぼくの右手には春 左手には冬

えーいめんどくさい まぜちゃえ

すると雷が鳴って 夏がきました






80
【打ち上りっぱなし花火】


「あっ、兄ちゃん、花火だ」

「おっ、ほんとだ。きれいだなあ」

夜空に花火が上がっている。

真っ赤で、地面を照らすほど大きな花火だ。

ひまわりのような、菊のようなかたちだ。

三十秒くらいすると、勢いが弱まった。

消えるのかなと思ったが、間隔をあけてちいさい火を放っている。

やがて火の玉だけになり、ホタルのように数回明滅して、

ボタッと地面に落ちた。

「さあ、寝よう」

「うん、兄ちゃん」

アリの兄弟は巣穴に消えた。




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