『なんて事だ・・』
その兵の屍は、剣で切り殺されているのではなく、心臓を抉りとられ、息絶えていたのだ。
『どんな奴なんだ?』
妙な遺体に、今まで一度も感じた事のない恐怖感が全身を襲った。
そして血が騒ぐ。
とにかく並大抵の相手ではないことは、禍々しい気と残虐な兵の死体で伺えた。
上の階に向かうと、数人の悲鳴とも言い難い呻き声が王妃の間から聞こえてきた。
呻いている者も、彼が駆けつけた時にはもう既に息絶えていた。
シュヴァ-リエの足が止まった。
シュヴァーリエをこんな目に合わせた張本人の、あの王妃も肝を抉られ、すでに息を引き取っていたのだ。
幼い頃から憎くて憎くて仕方がなっかった王妃が、今、自分の目の前で、無惨な死に様を見せている。
その死に様は、王妃も侍女もなんら変わりはしない同じ屍だ。
シュヴァ-リエは王妃の変わり果てた姿を凝視した。
これで自分はこの女に蔑まれる事もない。
シュヴァ-リエは常々この女が死ねばどれだけ済々するだろうと思っていた。
ずっとどこかで願っていたかもしれない。
だのに何故か現実にはそう思えなかった。
こんな惨い死に様を目の当りにすれば、そんなものなのかも知れない。
自分の感情の整理もする暇もなく、シュヴァ-リエは王の塔へと急いだ。
狙いはそれしか有りえない。
王の間に近づくにつれ、益々身の毛が逆立つ邪悪な気配が全身を襲った。
シュヴァ-リエが王の間の重い扉を一気に開けると、王の側近部隊が足下に見るも無惨な姿で横たわっていた。
シュヴァ-リエはゴクリと息を呑んで、その死体を掻き分け、奥の間へと進んだ。
彼の目に飛び込んできたのは、王の頭を片手で鷲掴みしにした男の後ろ姿だ。
その男は全身に幾人もの帰り血を浴び、羽織った黒いマントは血色に染まり、身体から血が滴っていた。
シュヴァ-リエもかなり背はあるが、彼ですら上を向かないといけないくらいの大きな身の丈。
シュヴァ-リエの気配に気付いた男が、彼の方を振り向いた。
ゾッとする様な鋭い目つき。その瞳の色は紫紺。
まるで夜叉のように常人離れした面差し。
頭には黒い角が両サイドから生えていた
『やはりジェネティカ族の魔人・・か?』
シュヴァ-リエはそう解釈するしか、この者の姦しき姿を、理解する事が出来なかった。
間違いなく途轍もない威圧感はその男から発せられる気だ。
「その手を離せ!」
シュヴァ-リエの声に、男の紫紺の瞳が彼を凝視した。
「まだ生き残っていた奴がいたか、くだらない。とんだ時間の無駄だ。ここにも奴はいない!」
嗄れた低い声。その紫紺の瞳は背筋に寒気が走る。
「センタの手の者か?」
それでもシュヴァ-リエは臆する事なく言った。
「センタ?・・あぁ、ここの前に殺った国の事か」
平然と男は言った。
センタの雇った者でないとすれば、この男はいったい何の為にこの国を独りで襲う様な事をするのか、全く理解出来ない。
「誰を探している?」
『レオン王子の命か?』
刹那の間、脳裏に色んな事が浮かんだ。
シュヴァ-リエの言葉に男は冷酷そうな笑みを浮かべた。
「ライアンと言う名の男だ。この大陸のどこかの王家にいる筈だ。この国は強い奴が多いと聞いたんでな、ここに間違いないと見込んだんだが。
まぁ、俺にしてみればどいつもまったく相手にならんがな」
男の言葉に、シュヴァ-リエはいささかムッとした。
シュッドの兵力を馬鹿にされたのだから、いくら無表情の彼とて、捨て置けない台詞だったのだろう。
しかしシュヴァ-リエは男が言う 『ライアン』と言う名を、ヴェルジェの譫言で聞き覚えがあった。
偶然の一致なのか、そう珍しい名でもないが、この男とヴェルジェを逢わせてはいけないのは肌で感じた。
「ライアンと言う男など、この城にはいない。この大陸の他国の王家にも存在しない」
シュヴァ-リエは冷静を装いながら言った。
「奴がこの星に来ている事が十九年かけて、漸く判ったんだ。
早いとこ見つけだして息の根を絶やさないとな」
男はまるで独言のように呟いた。
「何の事を言っている?」
シュヴァ-リエは男の理解出来ない言葉に訝りながら聞いた。
「貴様に関係ない」
そう言うと男は、鷲掴みしていた王を、まるでゴミのような扱いで壁際の方へ無造作に放り投げた。
そしてシュヴァ-リエの方を見ると非情な笑みを浮かべ、彼に向かって目にも止まらぬ速さで襲いかかって来た。
咄嗟にシュヴァ-リエが攻撃を、グレ-トソ-ドと腕で交わした。
その勢いにシュヴァ-リエは後ろにズズッと後退した。
「ほう、俺様の攻撃を交わせたカオスの者は貴様が初めてだ。
どうも妙な気配が貴様からすると思えば、ア-トル・ディ-オの使い手か。
そいつは俺様が手に入れる予定だったのだがな・・・『真の悪』の為にな。
まぁ、貴様が命を落とせば、ア-トル・ディ-オも新しい使い手が現れるまでは封印されるであろう。その時に頂くさ」
『命を落とすだと?』
シュヴァ-リエが心の中で考えた。
男は血に滴る自分の指を舐め、ニヤッとした。
その瞬間、激しい痛みが全身を襲った。
シュヴァ-リエは片足をガクンと床に落とし、口から血を吐いた。
さっきの攻撃で腹部を深く切り裂かれていたらしい。
あまりの速さに痛みが後にしか感じられなかった。交わした手が、刹那遅ければ間違いなくあの一撃で、他の兵同様に肝を抉りとられ命を落としていたであろう。
「まあ貴様等、どうでも良いわ。暫し命拾いしたな。死に行く様を存分に味わえばよい。
俺の攻撃を交わせたお前に対しての手向けだ。
俺の腕で屍になったものの魂は、永劫に彷徨う運命だ。
せいぜい神にでも祈ればいい。片目男」
悪魔のような男は、また氷のような冷酷な笑みを浮かべた。
人の肝を抉り、殺めるのを楽しんでいる殺人鬼。
その目で、なんとか床に膝まつき、倒れずにいるシュヴァ-リエを見下すと、もの凄い突風と共に姿を眩ませた。
激痛と今までの疲労で目が霞んで見えるシュヴァ-リエには、どうやって男が消え失せたのか最早考える余裕すら無かった。
シュヴァ-リエは息が切れ、目眩がし、倒れそうになるのを、なんとかグレ-トソ-ドと片手を床につき、立ち上がろうとした。
その時、微かに声が聞こえた。
「シュ・・ヴァリ・・・」
自分の名を微かに呼ぶ声のする方を振り向くと王が辛うじてまだ息を留めていたのだ。
「シュヴァ・・リエ・・ここへ・・」王の言葉にシュヴァ-リエはふらつきながら、重い身体を近づけた。
『カオス43』へ・・・・To be continued
このお話は私が作成したものなので、勝手に他へ流したり、使用するのは絶対止めてね。
★ めから読むなら1 朱鷺色の章 1 Prologue の扉へどうぞ★★続きを読むなら 『カオス43』 8暗黒の章(刹那) へどう ぞ★
連載小説『カオス』に登場するLOVELYTOYの… October 8, 2006
『カオス46』 9琥珀の章(葛藤)2 September 9, 2006
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