第1話 走り出す前に聞け
「先輩。お客様に、いつもの道と違うと言われました」
営業所へ戻ってきた新人が言った。
「いつ言われたんだ?」
「大きな交差点を曲がったあとです」
「それじゃ遅い」
「でも、行き先はちゃんと聞きましたよ」
「行き先と、そこまでの道は別だ」
同じ目的地へ向かうにも、道は一つではない。
距離の短い道。
混雑を避ける道。
お客様が普段から使っている道。
「お客様から希望を言ってくれればいいのに」
「言わない人もいる。運転手なら、いつもの道で行ってくれると思っている人もいるからな」
「じゃあ、どう聞けばいいんですか?」
秋雄は答えた。
「ご希望のルートはありますか」
「いつも使っている道はありますか」
「この二つを、走り出す前に聞くんだ」
「ナビを設定してからですか?」
「目的地を確認して、ナビで場所とルートを見る。その上で、お客様の希望を聞けばいい」
「特に希望がないと言われたら?」
「自分が使う道を伝えてから走り出す」
新人は、小さくうなずいた。
「道を間違えないために聞くんですね」
「それだけじゃない」
秋雄は言った。
「お客様と運転手が、同じ道を考えているか確認するために聞くんだ」
車が走り出してからでは、戻るにも距離と料金がかかる。
「ルートの食い違いは、走り出す前なら防げる」
秋雄は新人を見た。
「だから、走り出す前に聞け」
明日10:00に更新
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