ほぼ日刊三浦タカヒロ。

「総合学習で古代米栽培:名取市」


 小学校の総合学習において古代米(紫黒米)を栽培する取組みが、人と人とが
つながり合うことによって学区内生消提携ともいえるひろがりをみせてきている
のでご紹介したい。 

 名取市のほぼ中央に位置している増田小学校。創立130年あまりの歴史の中
で、農耕地中心であった周辺環境が、近年急速に開発が進んできている地域であ
る。数年前よりPTAの方々の協力を仰ぎながら、3aの苗代田にて総合学習「田ん
ぼのがっこう」を3年生120名3クラス、田んぼの生き物探しを中心に食べ物
のつながり、生き物のはたらきを学ぶ古代米栽培を展開していた。
 アカガエルやヤゴなどを探し学校で育て、生き物との関わりを考えた取組みが
道徳教科書宮城県版(4年生:東京書籍)に掲載して頂いてもいる。

 20年度より5年生の総合学習の取組みをお手伝いすることになり、3年生の
ときに田んぼでともに汗を流した子どもたちと再会することとなった。地域の環
境とかかわる「田んぼ発環境レポート」と題し「持続可能な環境を守ろうとする
子ども」の育成を目的に、古代米栽培生産、そして加工、商品づくり、販売接客
まで、「お米の田んぼから食卓まで」を地域と連携して学ぶこととした。
 田んぼで古代米栽培(ペットボトル栽培と田んぼ作業を同時並行)をすすめ、
グループ単位で水、生物多様性、土壌、地域の歴史などそれぞれテーマを追求し
レポートを作成。田んぼにおいては代掻き(泥遊び)、手植えの田植え、手取り
除草、手刈りの収穫、はせがけ天日乾燥作業を実施した。

 食育や地産地消、「食事バランスガイド」の取組みをライフワークとされてい
る、フードデザイナーで農水省選定「地産地消の仕事人」の宮地徳子さんにも多
大な協力をいただいた。
 古代米のマーチャンダイジング、粉にしてパンや麺にするなど商品企画、販売
計画や接客実習を対応していただいた。
 12月には名取三越(現在は閉店)の受入れ協力を得て「増田小学校5年生に
よる古代米販売体験総合学習~田植えから商品販売まで~」として販売体験。
ラッピングや商品説明ポップも自分たちで考え手づくりした。
 名取三越では、お店の歴史DVD、三越の販売員としての態度、身だしなみ、言
葉遣い、表情、動作などプロとしての指導をうけ、実際の販売実習では販売品目
ごとに役割分担し、自作のチラシを配ったり試食配りも行った。そして売り場の
バックヤード共同厨房では、試食づくりお手伝いも経験。「米をただ売るだけで
なく、米粉を使ったパンや麺など商品化されることでの広がりを子どもたちに感
じ取ってほしい。」と語っていた宮地さん。
最初は緊張でぎこちなかった子どもたちもしだいに笑顔がこぼれはじめ、「自分
たちがつくったものを買ってもらえるなんて、とてもうれしい」と興奮気味に話
してくれた。
 子どもたちが店頭に立ったのは午前中だけではあったが、3日間開催で用意し
たものはほぼ完売。特に米粉パンは、初日は控えめに用意した50個が20分で
完売。一同びっくりして2日は倍増し、100個用意したがこれも40分で完売
してしまい『ないっ!』と多くの父兄の方々よりご指摘をいただいた。勢いに
乗って3日目はさらに倍の200個にしたがこれまた即日完売という大賑わいで
あった。宮地さんは「この子どもたちの活動をきっかけに、家族の方々の地産地
消への認識が深まってほしい」と目を細め、大きな期待の視線を子どもたちに寄
せていた。
 この収益で2月に、増田小OBで古代米粉をつなぎに利用して頂いているJR名取
駅前の手打ち蕎麦「宗」さんを招き、小学校教室にて収穫感謝祭を開催。「名取
のセリたっぷり古代米粉入そばがき汁」を社会貢献価格で提供いただいた。
同時に宮地さんによる売上げ個数発表と食育と地産地消講話。子どもたちは真剣
に耳を傾けていた。3月に総まとめとして環境レポート発表会を開催し、20年
度の総合学習の取組みは大団円を迎えることができた。

 我が家の零細小規模農家経営として見れば、必ずしも利益にはならない取組み
ではある。古代米栽培は他品種稲との確実な区分管理を求められるし、総合学習
受入れ農家向けの幾ばくかの公的支援はあるがご近所農家さんの理解と支援は期
待できない。そしてできた古代米を買い取ってくれる「白馬に乗った王子様」は
やってくる兆候すらないという状況。
 しかし、それを補ってあまりある成果を実感している。一つは子どもたちの顔
つきが変わる場面に立ち会えたという喜び。食農教育、起業教育、ESD教育
(キーコンピテンシー:鍵を握る能力ともいうらしい)などそれぞれが独立して
取組まれているが、この増田小の取組みでは、理解ある親など地域の方々と熱意
ある教職員たちが連携し子どもたちは「農業や環境」「料理」「接客」など多く
の刺激をうけ、それぞれの関心をひろげることが発見できたと思う。
そしてもう一つは地域がつながり始めるきっかけとなりつつあるということ。お
りしも名取市内では特産野菜のセリに焦点をあてた取組みが盛んになっている
が、古代米についても増田小学校学区内での小さな取組みが静かに広がりつつある。
 前述した蕎麦屋さんでは古代米粉をつなぎに、イタリアンレストランでは古代
米粉をパスタに、お菓子屋さんではマフィンに。春から幼稚園などの給食にださ
れるパンにも、「小学校の先輩が栽培した古代米粉入パン」として供給される予
定にもなっているとのこと。買い支えていただく仕組みづくりはこれからになる
が、長いスパンでこの取組みを歯をくいしばって続けていくことで、子どもたち
の食育、地域とつながる「食べ物がどこから来るか」という生きた教材になるか
もしれないということに、都市近郊零細農家として未来へ期待を禁じ得ないほど
感動している。
 農商工連携、地域食産業クラスター、社会起業やコミュニティビジネス、ス
ローフード、ローカリズム、CSAなど耳に新しい言葉ばかりが聞こえてくる昨今
ではあるが、地元の地域資源共有の意識と世代間の食べ物を介したつながりづく
りにむけ、本質を見誤らないよう丹念に地域目線で取組んでいきたいと心を新た
にしている。


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