しろねこの足跡

しろねこの足跡

ひかりのいえ4


学校内にある郷土資料室は、開拓の歴史から、戦争の様子まで細かな資料が保存してあった。

そしてその中に、近隣の住民から寄贈された、昔の日用品や日記、手紙等も一緒に保管されている。

私の中の遠い記憶がかすかによみがえった。
祖父がなくなったとき、祖母の遺品と一緒に珍しい昔の玩具や日記、手紙を寄贈するための式典に参加した覚えがあったのだ。

母は、自分では持っていたくなかったようだ。でも捨てることもできなかったのだ。

そばにはいたくなく、捨てられもできない過去。

私は、郷土資料室専属の学芸員に事情を話し、保存庫に一緒にいれてもらった。

古紙の独特のにおいに、時がさかのぼるような感覚を覚えた。

学芸員は、あまりなれない手つきで検索ラックを手繰り寄せていた。
「いったん寄贈すると、めったに見返しにくる遺族の方はいないですね。あまり先祖や家系に執着する風土でもないですしね。」

私は、遺族という言葉が口のなかでざらついた。
私は遺族なのだろうか。
祖父はともかく、祖母は私が生まれるすっと前になくなっている。知らない人なのだ。

なんだか、鍵のついた日記をむりやりこじ開けるような気がして、一瞬学芸員の後をついていくのに怯んでしまった。

「ありました。陣内喜一さん、スミ子さんですね。」

私は、そうです、と言った。声はかすれていた。
喉が渇いているのに気づいた。



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