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2007年05月03日
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1.ある若者の日記(1)

○月○日

天気は晴れ、山は一面の銀世界。

朝日を反射し輝く様は、まるできらめく宝石のようだ。

ああ、何という美しさだ。本当に来てよかった。

下界でのことが皆嘘の様に思える。

ただ一つ残念なのは、この光景を彼女と一緒に見れないこと・・・

いや、いかん、彼女を忘れるために来たのだった。

なかなか煩悩からは自由になれないものだ。




今日は天気が荒れ模様なので大事を取り山小屋で待機。

窓の外は吹雪だ。

自分以外誰もいない山小屋に、風の音だけが響く。

自分自身を振り返るのにはちょうどよい機会だ。


俺はこれまでのことを思い返してみた。

彼女が自分以外の男とも付き合っていた。

それがそれほど悪いことなのか。

「あれはただの遊び」

そう彼女は言った。

(素直に受け止めればいいじゃないか)

そうつぶやく自分がいる一方で、



という自分がいる。

俺はどうしてよいかわからなくなった。

だから、ここに来た。

ここから降りる頃にはきっと心の整理も付いているだろう。

どちらを選ぶにせよ・・・




天気は回復した。先を急ごう、まだ、行程の三分の一しか

来ていないのだ。


山に来て一週間が過ぎた。さすがに、余裕はなくなってきた。

だが、気力と体力の限界まで自分を追い込むのが、この旅の

目的なのだ。

山から下りる頃には、きっとすべての雑念が消え、心は答えを

見つけているだろう。


午後になり天気が少し怪しくなってきた。今日は早めにビバーク

しなければならないかも知れない。


2.恋人の日記(1)

○月○日

あの人が姿を消した。

アパートは引き払われ、携帯もつながらない。

会社には長期休暇届けが出されていた。

今頃どこにいるのだろう。


○月○日

自分が軽率だったことは認める。

本当に大切なものが何かを見失っていた。

でも、あの頃は少し退屈だった。

でも、今はっきりと自分の気持ちがわかった。

もう遅いかも知れないけど、今ならはっきりと言える。

だから、もう一度だけ会いたい。会ってそれを伝えたい。

たとえ、その結果がどうであっても・・・


3.ある若者の日記(2)

○月○日

山に来て二週間、いろいろな想念が現れては消えた。

だが、次第に心はクリアーになってきたような気がする。

彼女のことについても、心の中のわだかまりが消えてきた

気がする。

むしろ、なぜあんなにこだわっていたのかがおかしくさえ

思える。

厳粛な自然の中にいると、人の営みというものが何とも

せせこましいものに思えてくる。

もっと広大な沃野を心の中に築かなければならない。

もう、彼女を許すとか許さないとかいうことは問題ではない。

俺は彼女を愛している、ただそれだけだ。

それ以外の何かは枝葉末節の出来事に過ぎない。

一番大事なことは心の奥底にある本当の気持ちが何かだけだ。


4.恋人の日記(2)

○月○日

あなたがいなくなって三週間、だんだん気持ちが落ち着いてきた。

所詮ものごとはなるようにしかならないって、誰かが言っていたけど、

本当にそうだと思う。

今目の前にあること、起こることが現実、ここにある自分の生活が

すべて。

いつか、時が解決してくれる。

言い古された言葉だけど、きっとそうだと思う。

だから、私は待とうと思う。おばあさんになるまで、まだ時間は

あるのだから。

少しだけ気になることがある。

夕べの夢で何か不吉な夢を見た気がするのだ。

内容はまったく覚えていないのだけど、目覚めた時に何か悲しみの

ようなものが、まるでワインの澱のように心の底に残っていた。


5.ある若者の日記(3)

○月○日

気づいた時、俺は雪に隠れているが、大きな岩があるらしい場所に

倒れていた。

どうやら、雪崩に巻き込まれ流されたらしい。

そして、この岩に脚をしたたかに打ちつけたのだ。

だが、この岩がなかったならこのまま谷底まで落ちていただろう。

それでも今いる場所は、走行ルートからは随分下がったところだ。

立ち上がろうとしたら激痛が走った。

骨折しているようだ。

元のルートに戻るのは多分無理だ。

だが、まもなく夜になる。

俺は痛む脚を引きずりながら、とりあえず、安全と思われる場所まで

移動し、何とかテントを張った。


夜になり、脚の痛みは増す一方だ。

やがて吹雪になってきた。テントの周りは次第に雪が積もってきた。

下手をするとテントそのものが雪に埋もれてしまうかも知れない。

だが、もはやどうしようもない。

俺は今できるベストは何かを考えた。

答えはすぐに見つかった。

手紙を書くことだ。

俺は彼女への手紙を綴った。

手がかじかみまるでミミズがのたくったような字だ。

そこに、この登山の間に起きた心の変化を、そして彼女への思いを

すべて正直に綴った。

そんな風にしている内に吹雪の音が止んだ。

だが、それは決してよい兆候ではない。


やがて、テントは雪に埋もれるだろう。

でもそれも仕方がない。

いつか雪が溶け、誰かが俺を見つけるだろう。

そしてこの手紙が彼女に届く筈だ。

そして、心のわだかまりが溶けたことを彼女は知るのだ。


6.恋人の日記(3)

○月○日

あれから半年が過ぎた。

彼からの連絡はない。

でも、もう私の中にあせりはない。

いつか、きっとわかってもらえると思う。

私があれからどうしているかは、すぐに彼にもわかるはずだから。

その日がくれば、きっと、雪が溶けるように彼のわだかまりも

解けると思う。


○月○日

私も山に行ってみよう。

不意にそんなことを思った。

彼が以前、山登りが好きだと言っていたことを思い出したのだ。

いつか一緒に登ろうと言って写真を見せてくれた山。

私は今初めての登山の準備を進めている。

そうすることで何かが変わるかも知れないとかすかな期待を胸に

抱きながら。


(了)





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最終更新日  2007年05月04日 03時49分34秒
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