詩 」の常連投稿者、柴田トヨさんの処女詩集。
処女と言ってもトヨさんはもうすぐ100歳、明治44年生まれである。
明治、大正、昭和、平成と一世紀を生きてきました。震災や空襲などさまざまな怖い体験もしてきました。B29(米国の爆撃機)の空襲のときには乳飲み子を抱え、防空壕の中でおっかなくて、おっかなくて。死ぬかと思ったこともありました。イジメやうらぎり、さびしさなどから、死のうと思ったこともありました。
今、一人暮らしの私の家にはヘルパーさんが週六日、六十四歳になる息子の健一が週一日来てくれますが、正直に言えば、ヘルパーさんや倅が帰るときはさびしく、悲しくなります。
でも私はその度に歯を食いしばり、自分を“叩いて叩いて”(叱咤激励)自分に言い聞かせます。「くじけるな。頑張れ、頑張れ」って―。
九十歳をすぎて出会った詩作で、気づいたことがあります。どんなに辛いこと、悲しいことがあっても、私は両親や夫、倅、嫁、親戚、知人、そして多くの縁ある方々の愛情に支えられて、今の自分があるんだということです。
だからどんなにひとりぼっちでさびしくても考えるようにしています。「人生、いつだってこれから。だれにも朝は必ずやってくる」って。
一人暮らしニ十年。私しっかり生きています。 「朝はかならずやってくる―私の軌跡」
私 1
九十を過ぎてから
詩を書くようになって
毎日が
生きがいなんです
体は やせ細って
いるけど
目は 人の心を
見ぬけるし
耳は 風の 囁 きが
よく聞こえる
口はね
とっても達者なの
「しっかり
してますね」
皆さん
ほめて下さいます
それが うれしくて
またがんばれるの私
返事
風が 耳元で
「もうそろそろ
あの世に
行きましょう」
なんて 猫撫 で声で
誘うのよ
だから 私
すぐに返事したの
「あと少し
こっちに居るわ
やり残した
事があるから」
風は
困った顔をして
すーっと帰って行った
先生に
私を
おばあちゃん と
呼ばないで
「今日は何曜日?」
「9+9は幾つ?」
そんな バカな質問も
しないでほしい
「柴田さん
西条八十の詩は
好きですか?
小泉内閣を
どう思います?」
こんな質問なら
うれしいわ
忘れる
歳をとるたびに
いろいろなものを
忘れていくような
気がする
人の名前
幾つもの文字
思い出の数々
それを 寂しいと
思わなくなったのは
どうしてだろう
忘れてゆくことの幸福
忘れてゆくことへの
あきらめ
ひぐらしの声が
聞こえる
ことば
何気なく
言った ことばが
人を どれほど
傷つけていたか
後になって
気がつくことがある
そんな時
私はいそいで
その人の
心のなかを訪ね
ごめんなさい
と 言いながら
消しゴムと
エンピツで
ことばを修正してゆく
くじけないで
ねえ 不幸だなんて
溜息をつかないで
陽射しやそよ風は
えこひいきしない
夢は
平等にみられるのよ
私 辛いことが
あったけれど
生きていてよかった
あなたもくじけずに
貯金
私ね 人から
やさしさを貰ったら
心に貯金をしておくの
さびしくなった時は
それを引き出して
元気になる
あなたも 今から
積んでいきなさい
年金より
いいわよ
思い出 2
子どもと手をつないで
あなたの帰りを
待った駅
大勢の人の中から
あなたを見つけて
手を振った
三人で戻る小道に
金木犀 の甘いかおり
何処かの家から流れる
ラジオの歌
あの駅あの小道は
今でも元気で
いるかしら
朝はくる
一人で生きていく
と 決めた時から
強い女になったの
でも 大勢の人が
手をさしのべてくれた
素直に甘えることも
勇気だと わかったわ
(私は不幸せ......)
溜息をついている貴方
朝はかならず
やってくる
朝陽もさしてくる 筈 よ
秘密
私ね 死にたいって
思ったことが
何度もあったの
でも 詩を作り始めて
多くの人に励まされ
今はもう
泣きごとは言わない
九十八歳でも
恋するのよ
ゆめだってみるの
雲にだって乗りたいわ
50歳を超えてから、折り返し地点をすぎた残りの人生をどう過ごすか、死ぬ時にどんな人間になっているか考えるようになった。いまさら大金持ちになったところで、あの世に持っていかれるものではない。遣り残した夢もない。やりたかったこと、行きたかった所、食べたかった料理も、欲しかったグッズも特にない。なんと欲のない人生か。
それでも知りたい知識は無限にある。人は死ぬまで生きている。死の瞬間まで模索し、成長する。
「汝自身を知れ」とは、ギリシャの哲人ソクラテスの至言。
自分とはなんであるかを追い求めて、このブログを書いている。“詩”を作ることも、自分を開拓する方向で同じ意義があると思う。ボケ防止に役立つというレベルの話ではない。
悔いのない人生とは、何をしたかではなく、どのように生きたかであると思う。
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