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気がつけば法律のブログなのにかなり長い間サボっていた。たまに時報は読んでいたんだけどね。とりあえず復帰第1号なので,簡単な裁判例紹介から。[新品] 保証未開始 Apple Watch Series 3 GPSモデル 38mm MTF02J/A [ブラックスポーツバンド] アップルウォッチ 4549995043402今回紹介する裁判例は,ヤフオクで売買契約の成立する時期が争われた事案である(横浜地裁R4.6.17判例時報2540号43頁)。概要は,おおよそ以下の通り。被告の売手は,ヤフオクに高級時計を出品した。事情はよく分からんが,売手は最高値を入れた者と,2番目の高値を入れた者の落札を取り消した結果,原告となる買手が高級時計を9万2000円で落札した。買手によれば,この時計は転売すれば20万くらいの価値があり,買手ははこれを転売するつもりだったらしい。ところが,被告・売手は「この価格では売れません。常識的な価格があると思います。終了時間を間違えました。当方のミスです(ママ)」と連絡してきたのだ。さらに被告・売手は原告・買手に「非常に悪い落札者です」など評価をつけた。これに怒った原告・買手が,①高級時計の転売利益相当額と,②非常に悪い出品者などとされたことへの慰謝料を請求したという事案である。最大のポイントは,売買契約の成立時期である。もし,買手の落札とともに売買契約が成立していたのならば,売手は買手に時計を引き渡す義務があり,これができないのならば損害賠償をしなければならない。この裁判,簡裁から控訴されて地裁にあがったケースなのだが,面白いことに簡裁では売買契約の成立時期について,地裁と簡裁は異なる判断をしていた。簡裁は,要するに落札されたあと,ヤフオクでは買手と売手の間で送料だとか,引き渡しの方法が協議される場合があるという点を重視し,最高落札者は交渉権を得るだけだ,という判断したのである。言うならば,プロ野球のドラフト会議の方式だろうか。一応,こういう考え方もないではないだろう。一方で,横浜地裁はそうしなかった。まず,そもそも論なのだが,規約を見る限り,ヤフーオークションでは売買契約成立の時期について定められていない,というのである。そうすると個別具体的な判断になるのだけれど,本件ではもともと送料は全国一律520円,発送時期は支払から1~2日後,決済方法が事前に決められていたことから,本件では落札後に交渉の余地がなかったとして,遅くとも,原告・買手が繰上で落札者になり,買手がこれを受け入れた時点で売買契約が成立する,と判断した。割と面白いと言えば面白い事案である。個人的には,「こんなもん,申込みと承諾の合致する時期,今回なら落札時点だろう」と考えていたけれど,プロ野球のドラフト会議の方式のように,最高落札者が単に交渉権を得るだけ,という考え方だってあり得るわけだ。実際,あるネットオークションなんかでは落札した後,値下げ交渉を始める者までいるというもあると聞いたこともある。そういう意味で,民法の原理原則に立ち返って考える面白い事例だと思う。学部生に議論させるには最適だろう。さらにこの事件,代理人の名前がないから本人訴訟っぽい。訴額は20万円以下だもん,仕方ないね。それでいて,錯誤の抗弁,重過失の再抗弁など主張整理がしっかりされている。もちろん,これは裁判所が頑張った可能性もあるんだけどね。なお,「非常に悪い落札者です」は簡裁でも地裁でも不法行為と認定されているので割愛した。悪い出品者だとか落札者になると,オークションもやりにくくなるから,名誉毀損的にもそんなもんだよね。距離計 ガーミン epix Sapphire エピックス サファイア (0100258215) AMOLEDディスプレイ採用 ゴルフ 距離測定器 時計 GPS ナビ GARMIN
2023.02.15
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法テラスという機関があって,弁護士費用を出せない人に対して援助してくれる機関がある。弁護士的に,どうしても報酬を支払ってもらえない場合,お客さんに援助申し込みをしてもらうのだが,必要書類がやたら多い。特に面倒なのが,「住民票を持って来て下さい」というの。法テラスの審査に必要なのは,「世帯,続柄,本籍など省略のない世帯全員分」が必要なのだが,普通に窓口で「住民票をください」というと確実に省略されたものが出てくる。弁護士側,というか僕の場合,2021年11月から口座登録用紙が必要になったことを忘れて,取り直しなんてこともある。なので,簡単なリストを作りました。Twitterで写真をアップしたら120いいねくらいがついたあたり,弁護士の皆さんは苦労しているようですね。口頭でお客さんに説明しても資料の取り直しで苦労されたりするので,右クリックして,「名前を付けて画像を保存」し,ダウンロードして使ってください。なお,1ページでまとめて,8割くらいの事案に対応できればいいやということで,住宅ローンの計算だとか生活保護には対応してないです。例外的な事例は普通にあの分厚いマニュアルを読んで対応してください。
2022.09.06
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修習生時代のことである。とある弁護士が「相手弁護士が出してきた書面は,最高の教材だよ。すごい勉強になる」と行っていたのだ。実際にそうだろうと思う。読んでいると,こんなやり方があったのか,と瞠目させられることも多く,当然のように僕もそれをパクって来た。そんな中,意外や,委任状というのはあんまり他の弁護士のやり方を見るということがほぼない。なので,共同受任の事件があれば別だが,僕は誰からも委任状の書式をパクるというのはなかったので,専門書を買ってみた。サブタイトルに「若手弁護士・パラリーガル必携」と書いてあるが,経験上,この手の若手弁護士向けの書籍というのはずいぶん役に立つことが多い。早速,買って読んでみた。目次はおおよそ以下のとおり。第1章 委任状総論第2章 裁判関係第3章 ADR関係第4章 労働関係第5章 会社関係第6章 倒産関係第7章 知的財産関係第8章 行政手続き関係第9章 税金関係第10章 登記・登録関係第11章 公証役場関係第12章 開示関係第13章 刑事関係第14章 綱紀・懲戒など第15章 外国語関係2章以下はほぼ書式なので,読むところと言うのは実際に第1章の総論と,各章の冒頭あたり。それ以外はどんな書式があるのか確認しておいて,必要なときに引っ張り出して確認する形になるだろうか。個人的に感心したのが,控訴審の場合の委任状である。僕の使ってる書式も,日弁連の提供している書式もそうなのだが,不動文字で「控訴・上告の申立」が委任事項として書き込んでいる。そうなのに,実務上では委任は審級ごとと,新たに委任状を求められたりする。ここ7年くらい,「委任状に控訴の場合もできるようにしているのになぁ・・・」と思いつつ働いていたが,本書ではこの点について,書式ではやっぱり不動文字で控訴・上告の申立について書き込んでおきつつも,総論部分で「厳密には控訴審で改めて委任状を提出する必要がないとも考えられていますが,実務上は,代理権を明確にするため改めて委任状を提出することが求められるという運用がなされています。」(本書9頁)と記載されている。やっぱり,同じことが考えていた人がいたのだ,と長年の疑問がとけてスッキリしたわ。ところで,僕が使っている委任状の書式なのだけれど,もう事務所を作ったのが10年くらい前なのでどうやって作ったかよく覚えていない。日弁連か所属弁護士会の書式集か,さもなくば何かの書式集を流用し,少しずつ改良を繰り返して今のものになったんじゃないかな。初期はたまに裁判所から不備を指摘されたりして作り直したような気がする。この手間が省けるのであれば,4000円くらいを支払う価値はあるかもしれない。たぶん,このように弁護士は便利を求めて書式を日々改良しているのだろう。たとえば,僕が使っている破産申立用の委任状だと,「破産申立に必要な書類(固定資産税評価証明書,所得課税証明書等)の取得」を不動文字で打ち込んである。これによって,破産申立の委任状を1つ取っておけば,別途に委任状もいらないし,市役所の窓口で何かを言われたことはない。なお,この点は僕の独自の工夫だからか,本書の破産申立の委任状はそうなってなかった。ちょっと自慢げである。
2021.11.22
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弁護士会では一般消費者からの借金の法律相談について,「クレサラ相談」ということがあるのだが,最近はこの「クレサラ」という言葉が死語になりつつあるそうな。クレジット・サラ金の略なのだが,もしやするとサラ金というのは昨今は流行らないのかもしれない。それはさておき,中公新書『サラ金の歴史』を読んだので感想を書いていこう。サラ金の歴史 消費者金融と日本社会 (中公新書 2634) [ 小島 庸平 ]本書の概要だが,とりあえず目次を引用するとこうだ。序章 家計とジェンダーから見た金融史第1章 素人高利貸の時代第2章 質屋・月賦から団地金融へー1950~60年代第3章 サラリーマン金融と前向きの資金需要ー高度経済成長期第4章 低成長と「後ろ向き」の資金需要ー1970~1980年代第5章 サラ金で借りる人・働く人ーサラ金パニックから冬の時代へ第6章 長期不況下での成長と挫折ーバブル期~2010年代終 章 「日本」が生んだサラ金色々と内容が盛りだくさんである。第2~3章のサラ金黎明期のアコム,レイク,プロミスなどが急成長するあたりの創業者列伝というのは他の本でも読んだので割愛しようか。どんな仕事でもそうだろうが,創業者の先駆的な着眼点や成り上がりっぷりは非常に興味深いところである。特に武富士の急成長やブラック企業体質を描いた第5章なんかは色々と語られているところである。また,本書ではサラ金黎明期以前,1950年代について「素人高利貸の時代」として,そこから歴史を書き起こしているのもおもしろい。意外や,このころは知人から「金を借りる」というのが一般的で,貧民窟では「金貸し」をトップに,順に「使い」,「走り」,「債務者」という形ができていたというのだ。「使い」と「走り」は「金貸し」の代理人として動き,「金貸し」から手数料をもらい,債務者の紹介,貸付,回収,保証を行っていたという。ピラミッド形の重層構造を見ると,まるでマルチ商法かネズミ講のようである。当時は年利470%を超えるというから,そりゃ儲かるだろうなぁ・・・。実際,高度経済成長期以前には,副業として素人金貸しを推奨する論調もあったという。現代の自己啓発本なんかが投資をすすめるように,昔は素人金貸しをすすめる時代が,また脱サラしてラーメン屋をやるように脱サラして金貸しを始める時代があったようである。いつの世にも,人間というのは副業での一攫千金を夢見るものだ。残念なところと言えば,本書では過払金返還請求がサラ金に与えた影響についてはさほどの紙幅を使っていないところかな。というか,僕が弁護士登録をしたのが23年。過払は全盛期をすぎたものの,まだ充分残っていたし,サラ金も大手のアイフル,アコム,プロミス,レイクのほかに小規模なところがいくつかあった。そのどれもが消滅したのだがな・・・。また,特徴として本書の執筆家庭では有価証券報告書等の一次資料や関連書式などを収集・分析するやり方を鳥,サラ金関係者や被害者・弁護士のインタビューをあえて行っていない(本書320頁)。適宜グラフや表の引用がされて客観的な資料に裏打ちされているというところなどいいところもあり,悪いところもあろう。最後に金利の話である。グレーゾーン金利の撤廃や金利引き下げの攻防については,なかなか興味深い。金利引き下げについては,いいことではないかと思うのだが,当時は「金利を引き下げると,債務者がヤミ金に頼ることになり,より被害が広がる」という論調があったということ。結局,ヤミ金被害は広がらなかったというのだが,要するにこれはサラ金が自民党に献金したりすることで圧力をかけていたのだろうが。なお,著者は確たる資料はないものの,2003年の「オレオレ詐欺元年」は金利引き下げの影響があったのではないか,と考察しているのも考えさせられる。サラ金は廃れたとは言え,金貸しはなくなるまい。金利の引き下げで儲からなくなっていると思ったが,かつては個人に金など貸さなかったであろう銀行がカードローンに手を出したりしているし,2020年にはLINEの手がける個人向け融資サービス,「LINEポケットマネー」が月刊申込数でアコムを上回ったという。また給料ファクタリングという新たな形での金貸しも登場してきた。そのうち,これら新たな金貸しトラブルが町弁の所に来るかもしれない。サラ金の歴史 消費者金融と日本社会 (中公新書 2634) [ 小島 庸平 ]
2021.11.21
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かの川本真琴が,「神様は何も禁止なんてしてない」と歌っているものの,現実的の神様は「盗んではいけない」とか「豚肉食べちゃダメ」とか禁止しまくりである。でも,たぶん神様は自由恋愛まで禁止してないんじゃないかと思うけれど,判例タイムズ8月号を読んでいたら,キャバクラにおける恋愛禁止の事案が出てきたので見ていきたい。キャバクラ嬢行政書士の事件簿1【電子書籍】[ 杉原志乃 ]問題となっている事案(大阪地裁R2.10.19判タ1485号185頁)の概略はこうである。原告会社はキャバクラやガールズバーを経営する会社である。この会社では,キャバ嬢に対し,「従業員同士での私的交際を禁止する。これに違反したら違約金200万円を支払う」という内容の同意書を取り付けていた。しかし,被告キャバ嬢は,キャバの副店長と交際してしまったというのだ。そこで,原告会社は被告キャバ嬢に対し,違約金100万円(200万円の一部請求)などを請求したという事案である。僕は,目次を見た瞬間,「こりゃキャバクラ側の敗訴だろ・・・」と思った。パッと見ても,キャバクラ側に弁護士がついておら本人訴訟だもの。こんなものはどう考えても公序良俗違反だろう。もちろん,法的には契約自由の原則というものがあるにせよ,公序良俗違反なものは無効になるはずだ。実際に,裁判所も「人が交際するかどうか,誰と交際するかはその人の自由に決せられるべき事柄であって,その人の意思が最大限尊重されなければならない」としたうえで,「被用者の自由ないし意思に対する介入が著しいといえるから,公序良俗に反し無効というべきである」と判示し,キャバクラ側を敗訴させている。個人的には,交際禁止条項は民法総則の教科書に載せてやりたいくらい典型的な公序良俗違反の案件だと思っていたが,解説を読んでいるとそうでもない,ということに気がついた。解説で触れているのは,芸能プロダクションが女性アイドルに対して交際禁止の契約をし,これに違反した場合に賠償金を請求した,という事案である。アイドルの場合,判例タイムズの解説では2つの事案を掲載している。これを見ると,確かに東京地裁平成28年1月18日判決(判タ1438号231頁)は,芸能プロダクション側の請求を退けているものの,東京地裁平成27年9月18日(判時2310号126頁)では交際禁止の契約が有効とされ,賠償請求が認められている。中身を見ていると,アイドルの特殊性というのがあるのだろう。交際禁止の条項を認めた平成27年判決の方を見ていても,ようするに彼氏がいれば人気がガタ落ちし,商売が成立しなくなるというのだ。しかも,アイドル側がまだ未成年の時点の契約だったりとけっこうエグい。ただし,過失相殺で芸能プロダクション側に4割,アイドル側に6割の過失を認定した上,損害額をかなり小さく認定した上で賠償額を40万円くらいにしているのは裁判所の温情であろうか。このアイドルの交際禁止の条項と,今回のキャバクラの事案は,人気商売であることから似ているといえる。なので,アイドルの平成28年判決と同じやり方でやればともかく,平成27年判決でやらばキャバ嬢側が敗訴していた可能性もある。もっとも,最高裁の判断までが出ていないので,この手の交際禁止の契約の有効性が,公序良俗違反の典型例として民法総則の教科書に掲載される日はまだまだ先のことになりそうだ。さて,話が変わって,ふと思いついたのが不倫の話である。昨今だとオリンピックでメダルを取ったこともある水泳選手が不倫をしたと言うことで,スポンサーから契約を解除されたり,色々と社会的に叩かれていた。冷静に考えると,これも大丈夫なんかなぁ,というところがないでもない。スポンサー側は,アスリートの人気を利用して商売をしようとしたのだろうが,今回のキャバ嬢の案件で東京地裁も,「人が交際するかどうか,誰と交際するかはその人の自由に決せられるべき事柄であって,その人の意思が最大限尊重されなければならない」と言っていたところである。自由意志で交際し,たまたまそれが不倫だったからと言って,契約解除はないのではなかろうか。配偶者間では不法行為としても,直接的にスポンサーを害するわけでもなく,スポンサー側が契約をする前に,万全の身辺調査をしたうえでやるべきではないか,とも思える。もちろん,単純な男女間の交際は適法であるけれど,不倫は配偶者に対しては不法行為である。社会的なイメージは最悪である。この違いは大きくて,スポンサー契約というのは自身を広告塔にするという契約であるから,自身イメージを悪化させないという法的義務があるのだ,と解釈できなくもない。話を戻すがキャバクラというのは労働法を無視しまくったやり方で働かせている店舗は多いようでかなり闇が深い。いや,キャバクラにとどまらず,風俗店全体がそうなのかもしれないけれど。わりと,キャバクラや風俗には養育費をもらえていないママが働いていることも多く,もう少し国やら行政が優しくしてあげてもいいのではないかと思うのだ。キャバクラ嬢行政書士の事件簿2【電子書籍】[ 杉原志乃 ]
2021.08.01
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判例タイムズの2021年4月号(NO.1481)を読んでいたら,発信者情報開示請求の証明度についての論文と,関連する裁判例が2つ掲載されている。いま流行の,というわけでもないが,ちょっと書いておこう。インターネット関係仮処分の実務 [ 関述之 ]まずは,巻頭に掲載されている論文から。東京高裁の部総括,近藤晶昭裁判官の『民事事実認定の基本構造と証明度について』というものだ。色々書かれているけれど,最も言いたいことははプロバイダ責任制限法4条の,発信者情報開示請求の要件にあげられている「権利侵害が明らか」の解釈論だろう。ここで,「権利侵害が明らか」というのは「権利侵害があること」に加え,「違法性阻却事由のないこと」の立証まで必要になる。近藤裁判官によると,発信者情報開示請求の際,従前の運用は原告が提出する陳述書等により,「権利侵害が明らか」という要件は緩やかに認定されていたという。ところが,近年は被告のプロバイダが発信者への照会の結果,発信者作成の陳述書を提出すると,多くの一審は原告側において違法性阻却事由の不存在の立証ができていない,として請求を棄却されてしまうことが多いというのだ。確かに,字義通り解釈するのならば,「権利侵害が明らか」について,多くの一審のように,発信者側から一応陳述書が出てくれば,違法性阻却事由があることが一応程度にはうかがわれる。なので,基本的に被告側が発信者作成の陳述書を出せば,まず原告側の請求が認容されることは難しかろう。近藤裁判官が問題だ,と指摘している点としては,その発信者作成の陳述書の内容が,具体的な日時場所の特定もなく,およそ原告において反論することが難しいと言う点だ。「権利侵害が明らか」,という文言についても,権利を侵害された者が権利回復を図ることがdけいないような解釈運用がされるべきではない,というのである。そこで,近藤裁判官は発信者作成の陳述書が匿名で,日時場所も明らかでなく,反論が難しい場合,実質的証明力を低いとみてよいのではないかと結んでいる。個人的に,ここからが面白い話なのだが,この判例タイムズ4月号,なんと近藤裁判官が担当した発信者情報開示請求にかかわる東京高裁の判決が2つも掲載されている(東京高裁R2.11.11,東京高裁R2.12.19)。ある意味で前記論文の答え合わせというか,あてはめみたいな感じになっているのが面白い。僕は,普通に判例タイムズを読んでいて,「あぁ,巻頭の論文のやり方で判断している裁判例があるなぁ・・・。有力な見解なのかな?」と思って担当裁判官の名前を見て,思わず声に出して笑ってしまった。そりゃ,そういう判断になるわぁ,と。収録されているいずれの裁判例も,一審では原告の請求は棄却されている。主要な理由としては,被告のプロバイダ側から発信者作成の陳述書が提出されているためだ。それを,いずれも近藤裁判官が高裁でひっくり返した形になる。もっとも,,東京高裁R2.12.19については一部の書き込みについて,発信者作成の陳述書以外の資料,たとえば国民生活センターやらの照会結果により,原告についてある程度の苦情相談事例があったことから,開示は認めていない。なので,近藤裁判官といえども,いつでも発信者情報開示請求を認容するとも限らないのであるのだろう。以下は私見であるが,実務上,「権利侵害が明らか」となるのはどういうケースなのであろうかと。裁判例の分析をするにせよ,論文中で近藤裁判官が概要,「近年は発信者作成の陳述書があれば,一審はたいてい原告の請求を棄却することが多いように思う」と述べている。統計はないようだが,裁判官の肌感覚であるから間違いはないだろう。実際のところ,発信者作成の陳述書が出れば原告は敗訴する可能性が高いのだろう。そうすると,1人の弁護士としては,あくまでこの論文と収録されている高裁判決2つは例外的なものだと考えつつ,安易に「発信者作成の陳述書が出たけど,恐れる必要はないぞ!」と思っちゃいけないのだろうな。最後に,このこの問題については,あまりに原告側に酷だということで法改正の動きも出ている。その場合はこの論点が消滅することになるのだろう。できたら,そうなって欲しいものである。インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル 中澤佑一/著
2021.04.06
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田舎の弁護士の顧問先といえば,やっぱり不動産屋が多いだろう。顧客が一見の者ばかりなので,賃料滞納だとか,建物明渡だとかで法的トラブルも他の業種に比べて起きやすいと思う。そんな不動産関係で弁護士法73条違反が問題になったケースがあったので,ちょっと読んでいきたい。まず,問題になった弁護士法73条は,こうだ。(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)第七十三条 何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない。趣旨としては,弁護士ではないものが権利譲渡を受けたと言って,訴訟などによる権利の実現をすることを禁止している。弁護士でない者が,存否に争いのある権利を買い取って,自分で裁判をするということになると,非弁行為の禁止を潜脱する恐れがあるからというわけだ。なお,これをガンガンやってるのがサービサーとか債権管理会社というやつで,特例法があるから許されている。さて,ここまでが前提で,問題になった事案を見ていこう。事案は熊本地裁平成31年4月9日判決判例時報2458号103頁だ。事案としては,原告会社から男性被告に対する建物明渡請求事件である。もともと,問題になった建物というのは被告男性の父親が所有していたもので,息子である被告男性が借りて使っていたものである。これを,被告男性の父親が原告会社に売却し,被告会社が男性に退去を求めた,という事案である。この事案は背景事情がややこしい。もともと,被告男性は建物の所有者であった父親とはかなり仲が悪かったようで,親子で経営していた会社の経営権をめぐって裁判沙汰になっていたりもする。こういうことで,父親としては被告男性を建物から追い出したかったけれど,自分でやるのも手間だと感じたのだろうと思う。普通なら,占有者のいる建物なんて誰も買わないのだが,原告会社はもともとこの手の占有者のいる物件を買い取って,明渡をさせた後リフォームなどもして転売することで利益を得ていたので,ここに被告父親と原告会社の利害が一致したというべきだ。なお,これは被告男性の主張だが,建物の相場は2200円程度なのに,父親は1200万円くらいで売っている。明渡の手間賃と,リフォーム代を抜いたのが原告会社の利益になるのだろう。本来的には,父親の方で弁護士に依頼するなどして,息子を退去させてから建物を売却するべきなのだが,この弁護士に依頼するところを省略したような形になる。色々な論点があったのだが,とりあえず弁護士法の話に限定すると,原告会社からの建物明渡請求に対し,被告男性は「原告会社による建物を取得し,明渡請求をすることは弁護士法73条に反して無効」だと主張したのである。ここで,判決は被告男性の主張を認め,原告からの明渡請求も賃料相当額の損害賠償請求も,権利濫用であるとして,退けた。ここで気になるのが,競売である。建物を競落すると,ここに占有者がいるというのはよくあることだ。民事執行法なんか見ると,この競売不動産にいる不法占拠者をどうするなんて話が普通に書いてある。占有者がいる不動産を業として競落し,占有者に明渡請求をすることが弁護士法違反だとすると,不動産業者は競売に参加できなくなるだろう。これは結論としてまずいのである。この点,判決は「弁護士法73条の趣旨は,主として弁護士ではない者が,権利の譲渡を受けることによって,みだりに訴訟を誘発したり,紛議を助長したりするほか,同法72女本文の禁止を潜脱する行為をして,国民の法律生活上の利益に対する弊害を防ぐことにある」としたうえ,形式的には他人の権利を譲り受けて訴訟等を業とする行為であっても,上記弊害が生ずる恐れがなく社会経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には同法73条に違反するものではない,としている。このあとも色々と言っているけれど,競売については①占有者の占有権限と対抗力の有無について調査がされていること,②買い受けの申し出を広く募っていること,③買受人が占有者への明渡をすることがすでに広く行われていること,などから有効だと言っているのである。正直,僕の興味の対象としてはこのケースその物というよりも,競売との比較の方である。結論として,絶対に占有者がいる物件,つまり他人の権利がからんでいる物件を競落することが弁護士法違反だとは口が裂けても言えないのである。不動産屋の顧問でもやってればぶち当たりそうな問題ではある。頭の片隅に入れておいて損はあるまいな。弁護士倫理の勘所 信頼される弁護士であるために [ 官澤里美 ]
2020.12.02
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2020年11月号の判例タイムズ1476号を読んでいたら,『身体に関する令状実務について(覚書)』という論文が掲載されていた。執筆は柴原和也裁判官。タイトルに(覚書)とあるが,身体に関する令状実務について幅広く論じられており,非常に興味深い。僕が司法試験受験生の頃は,身体に関する令状といえば強制採尿と血液採取くらい抑えておけばよかったのに,いまは「嚥下物の取り出し」だとか,「スマホのロック解除のための指紋認証」だとか,理論は進んでいる。我ながら,スマホすらなかった自体に司法試験に合格してしまってよかったなぁ・・・。判例タイムズ 2020年 11月号 [雑誌]司法試験受験生なら,絶対に読んでおくといいと思う。とりあえず,備忘のために結論部分だけ簡単にまとめてみる。実務だと大事なのは結論だけ,となりがちだけど,受験生なら理論部分がなにより大事なので当然だが原文を読むべきであろう。全部を紹介するのもたいへんなので,とりあえず僕が個人的に気になったのを3つだけ紹介しよう。いずれも問題になった裁判例はないっぽい。論文ではこの流れで書けば,数年後はともかく,現時点で間違いにはなるまいて。・嚥下物の取り出し(事案)覚醒剤入りのパケなんかを飲み込んだ場合などを想定。(要約)捜索差押許可令状でよいという見解が有力。実務的には,嚥下物が何かと確定するため,鑑定処分許可状も必要という見解が多い。捜索差押許可令状でよいというのは,体外に排出されるもので,血液や毛髪のように身体の構成要素でもないから。ただし,尿のようにカテーテルで強制的に排出させることはできない。(感想)消化器官の一番下から採取する強制採尿に対し,一番上の口から取るものだということで強制採尿と似た論理構成のようだ。カテーテルがダメなのに薬で嘔吐させるのはよい,という論調はよく分らん。より身体への影響が少ないからか?・顔貌鑑定(事案)防犯カメラやドラレコの顔貌写真と,被疑者の顔貌写真を対比させるものを想定。(要約)身体検査令状で足りることになる。ただし,同じ撮影条件(撮影角度,距離,明るさ等)の再現のため,鑑定人の指示が撮影に必要ならば鑑定処分許可状が必要になる。直接強制の効力を付与するため,身体検査令状が求められる。(感想)面割り写真なんかよりもずっと高度なことがなされているようだ。じゃあ,あの面割り写真やら,人着(犯行時の服装写真)なんかはどうなっているのか,同意か身体検査令状なんかな。・携帯電話のロック解除(事案)電話帳,日記,スケジュールなどをスマホで確認したい場合。(要約)パスワードの自白の強制と同視し,黙秘権の侵害という考え方もあり得る。黙秘権との兼ね合いからすれば,逮捕勾留されている必要はあるだろう。身体検査許可状で行うことが可能であろう。また,被疑者が,対象スマホを生体認証で解除できるかという検証ということに合理性がある。(感想)「黙秘権の問題との兼ね合いからすると,逮捕勾留されている必要があろう」というのが意味不明である。注釈を見ていると,カリフォルニア州の連邦地裁が,令状を用いても生体認証ロックの解除はできない,と判断しており,孫引きだが,理論に黙秘権を持ち出されると苦しいような気もする。じゃ,「生体認証ロックのないパスワード式スマホ使えば,黙秘権の関係でよくね?」と思ったが,たぶんその場合はパスワードの解析されてしまうから,逃げ切れんのだろうなぁ・・・。判例タイムズ 2020年 11月号 [雑誌]
2020.10.27
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このあいだ,Twitterを見ていたら『多額の資産をめぐる離婚の実務』という,恐ろしくキャッチーなタイトルの書籍が紹介されていた。基本的に,離婚事件と言えば気苦労が多い反面,ほとんど利益が出ないという弁護士にとってはつらい事件なのだが,たまに多額の資産がからむのがある。いっちょ勉強してみるべか,と思い,さっそく購入である。多額の資産をめぐる離婚の実務 [ 三平聡史 ]内容としては,事案をもとに,双方当事者の主張と,和解などでの解決事例を出してくれてる,ケーススタディの形をとっている。この事案はそれぞれ元になる裁判例があるわけなのでリアリティもあって,読み応えがある。ざっと目次を引用すると長くなりすぎたので,今回はパスして,財産分与と婚姻費用・養育費でそれぞれ1つずつ印象に残ったのを述べようか。まず,財産分与だけど,田舎の町弁の僕が経験したことないような論点が多い。なんといっても多いのが,勤務医や開業医の事案がやたら多いのである。そりゃそうか,今も昔も医者は高額所得者の代表選手みたいなものだから。そういうわけだから,開業医について医療法人特有の論点なんか載ってる。たとえば,医療法人のうち,持ち分なしの社団の形態である場合,出資持ち分自体が存在しないので株式会社とは別途の考慮を要するというのだ(本書23頁)。将来,医療法人関係の事案がきたら,是非とも頭に入れておかねばなるまい・・・。そして,財産分与以上に参考になるのが婚姻費用・養育費の論点である。たとえば,こんな論点について解説がなされている。・自己都合での退職・転職による収入減少・意図的な低収入(収入減少)・夫が家賃。住宅ローンを負担していて住居費の負担のないことの扱いこれらの論点は,別に多額の資産をめぐる離婚でなくても,普通にある論点である。だいたい,養育費を支払いたくないがため退職するだとか,意図的に収入を低くする男というのは現実に存在する。また,別居中の妻が住んでいるアパートの家賃を払い続けている夫なんてのもよく見る。こういった論点は多額の資産をめぐる離婚でなくても,普通にある話である。そういう意味で,本書は別に多額の資産をめぐる離婚でなくても,十分に参照になる事案を抑えているというべきで,とりあえず読んでおいて間違いはなかろう。多額の資産をめぐる離婚の実務 [ 三平聡史 ]
2020.10.23
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離婚に関する実務書は多いものの,民法770条5号にいう,「婚姻を継続しがたい重大な事由」(以下,長いので「重大事由」)だけに絞った本というのは珍しい。最近は,不貞慰謝料に特化した書籍や,婚姻費用・養育費に特化した書籍も出ているので,最近のトレンドは特化の時代なのかもしれない。判例に学ぶ 婚姻を継続し難い重大な事由 [ 本橋美智子 ]さて,本書であるが意外に薄い。たったの200頁くらいしかない。それでいて90頁~200頁は参考判例の紹介という体裁を取っているため,重大事由を理論面から掘り下げるところはさほどない。しかも,本書はなぜか離婚慰謝料について章を立てて15頁ほど論じているため,ますます重大事由についての分量は少なくなると言う仕組みである。この点は少しいただけない。ただ,重大事由はさまざまな要因が混在する事例判決としかいえなものを分析し,一定の法則性を見いだすという作業は大変だろうし,究極的には裁判例を紹介してケーススタディをさせる,というほかはないのかもしれないね。そんな判例紹介部分は,著者が要約してくれたり,簡単な評釈を入れてくれるのでずいぶんと助かる。感想として,とりあえず2点ほどあげみよう。重大事由というものを検討するにあたって,事例判決の集積のような裁判例からではなく,学説に触れないわけにはいかないのだが,さまざまな学説が紹介さえれていて,これは興味深い。僕としては,正直言ってもっと簡単に,一方が離婚を求めて1年くらい別居しているというのならば,国家が強制的に婚姻状態を続けなくても良いのではないか,というかなり過激な思想を持っている。ただ,反対説にも傾聴すべき理由はあるのだな,と思い至ったところは収穫である一方で,僕とさほどかわらん考え方の学者がいるというのは心強い。よく考えてみれば,結婚を神聖視して離婚は許さない,という思想は西洋キリスト教のものであり,文化的にそこまでこだわらなくても・・・とは思うのだ。とりあえず,後半の判例紹介パートは綺麗に整理されているので必要に応じて読み返すだろうな,という感じ。本棚に並べておこう。判例に学ぶ 婚姻を継続し難い重大な事由 [ 本橋美智子 ]
2020.09.19
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法律用語にはかなり独特な,一般用語からかけ離れているものも多く,だとえば「善意の第三者」なんかは法学部1年生が真っ先にぶつかるものだろう。この場合の「善意」というのは「事情を知らない」という程度の意味であって,そこに道徳的な意味は全くない。なぜこんな変な言葉使いをしているのかと言えば,ドイツ語の法学用語をそのまま当てはめているからだそうだ。これは事情を知れば,とりあえずは納得できる。ここで,僕が法学部1年生くらいからずっと分らないのが「わら人形」という言葉である(以下,「藁人形」という表記もあるが,引用をのぞき,「わら人形」に統一)。今日現在(2020年9月18日)の判例データベースで,「わら人形」あるいは「藁人形」で検索して,比較的上に出てくる新しい事案から引用すると,こうだ。弁護士報酬を負担してでも)弁護士をいわば「わら人形」として介在させることにより、第2請求が不正請求であることが発覚した場合であっても、弁護士の関与を理由に被告会社及び被告Y1の善意を偽装して責任を回避しようとするためであったと考えられ・・・(東京地方裁判所平成30年11月30日第一法規判例ID29052987)逆に,一番古いものがこれだ。換言すればb漁業協同組合なるものは、その背後に存在するb漁業会の傀儡であり、藁人形たるに過ぎず、単に外部に対する関係に於て別個の存在の如く見えるものに止る(東京高裁昭和24年10月31日高等裁判所民事判例集2巻3号467号)。2つめに引用した昭和24年の東京高裁では,「傀儡であり,藁人形たるに過ぎず」と述べているように,裁判所は「藁人形」あるいは「わら人形」を「傀儡(かいらい)」というのと同じ意味で使っているのが分る。つまり,裁判所は少なくとも昭和24年ころの時点でこういった意味で「わら人形」という言葉を使っており,現在も使い続けていることがわかる。司法試験の受験生の頃に読み込んでいた基本書というものをほとんど手放してしまったのだが,たしか基本書でもこういった使い方をしていたように思う。なぜ,僕がこの「わら人形」に突っかかるかと言えば,法学以外で「わら人形」を「傀儡」と同義語として使う例を見たことがなかったからだ。試しに辞書を引いてみても,「呪いの藁人形」だとか,「藁でできたかかし」などの意味は確認できたが,傀儡という意味で書いてている辞書は見たことがない。なお,ここで「傀儡」(かいらい)というのは何か。この「傀儡」(かいらい)というのはつまり,お手元のスマホで「くぐつ」と打ち込んでみたら「傀儡」と変換されることから分るように,「操り人形」という意味である。よく使われる言葉でなら,「傀儡政治」というのがあるが,実権が名目上のトップではなく,そのトップをあたかも操り人形のように扱う者がいる政治形態を指す。なぜ,「傀儡政治」という言葉が生まれたのかといえば,やはり傀儡,くぐつには最低限の関節がついていて,ヒモなどで動かせるからだろう。一方でわら人形はどうかといえば,関節はついていないのが一般的だ。どう考えても,自在に操れるものではない。そうすると,「わら人形」を「傀儡」という言葉と同じ感覚で使うのは明らかにおかしい。法学的にはともかく,「わら人形」ということばを「傀儡」ということばで使うのは,どうも日本語的には誤っているように思うのだ。なお,1つめに引用した事案だと,傀儡というよりは,責任回避の身代わりというようなニュアンスも見られ,これならばまぁ,いいかな思うところはある。すなおに「傀儡」という便利な言葉があるのに,意味の通らん「わら人形」という言葉を使い続けるのは,どうも違うんじゃないか,とかれこれ20年近く考えているのだが,賛同者が一向に現れない。悲しいことである。からくりサーカス(1)【電子書籍】[ 藤田和日郎 ]
2020.09.18
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田舎で弁護士やっていると,売り上げにかなりの比重をしめることになるであろう交通事故であるが,けっこうマニアックな所も多い。交通事故の依頼を受けると,いつも何かを調べながらやっているような気がするのだが,知識不足を痛感するところである。なので,経験不足を補うために本を読むのだが,今回買ったのは『実務家が陥りやすい交通事故事件の落とし穴』である。実務家が陥りやすい交通事故事件の落とし穴 [ 坂東総合法律事務所 ]内容について簡単に目次を抜き出すと,おおよそこんな感じ。第1章 損害賠償責任 第1 自動車事故の責任 第2 共同不法行為 第3 消滅時効等第2章 損害算定 第1 積極損害 第2 消極損害 第3 逸失利益等 第4 過失相殺 第5 損益相殺等第3章 交通事故と保険 第1 自賠責保険 第2 任意保険 1 賠償責任保険 2 人身傷害保険 3 搭乗者傷害保険 4 無保険者傷害保険等 5 他車運転特約 6 車両保険 7 弁護士費用特約内容的には,。Q&A方式で,架空の事案に対して間違えやすい回答と,正しい回答の2つが提示される,という形になっている。読んでいて,「へへっ,この程度知っているよ」という事案もあるが,「やばっ,俺はこんな勘違いしてるわぁ・・・」と,冷や汗が出るような事案もある。どの事案で勘違いをしていたのか,ここで書くのは恥ずかしいから列挙する気はないが,1つだけ上げるとすると,「飲酒後に刑事罰にならない程度のアルコールを帯びて運転した場合,車両保険はもらえるのか?」という話(本書251頁以下)。この点については,以前のブログでも勘違いをしていた記事を書いたので恥の上塗りにはなるまい(2020年7月22日の日記)このほか,飛び石の賠償はどうするのか,好意同乗で減額されるケースの整理だとか,色々と参考になる。これは持論なのだが,良い例を書いてある本よりも,ときとして悪い例を書いてある本の方が参考になるときがある。「こうしたら失敗する」,というのを知っていればそんな失敗を避けることができるかも知れないからだ。なので,この本は僕にちょうど良かった,というべきだろう。個人的に,僕が一番弱いのは第3章の保険システムのところかなぁ。一回読んだだけだとまだ頭の中で整理しきれていないところもある。すべてを頭に入れると言うより,困ったときに何度か読むために座右においておこう。実務家が陥りやすい交通事故事件の落とし穴 [ 坂東総合法律事務所 ]
2020.08.20
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債権法が大幅に改正されたわけだけれど,施行される前は「施行されたら勉強するよ・・・。」と引き延ばし,施行されたらされたで「瑕疵担保責任の依頼が来たら勉強するよ・・・」と引き延ばしている弁護士はいるでしょうか?僕は実際そんなクチです。ちょいちょい,法律雑誌で改正債権法の要点なんかが紹介されているのだけれど,暇なときにそれを読むくらい。腰を据えてしっかり勉強というのを怠っていた。ので,この4連休,じっくり基本書から読もうかと思ったが,リハビリに軽い読み物を,と『改正民法のはなし』を読んだ。150頁くらいなので2周したが,感想を書いていこう。あまり内容に踏み込むと,法改正の感想になってしまうので,あくまでこれは『改正民法のはなし』の感想である。改正民法のはなし [ 内田 貴 ]まず,著者との思い出を語りたい。僕が内田民法を手に取ったのは,ロースクールに行ってからだ。学部時代は教科書指定されていた我妻民法やら有斐閣アルマなんかを使っていたように思う。内田民法にはいいところ,悪いところがあるだろうが,最大の特徴といえば「条文の並び順に記述されていない」,というところにあるだろう。ほかの我妻民法やら有斐閣アルマは条文の順に説明をしてくれたので自然に条文の並び順が頭に入ったが,内田民法はそうではない。普通は総論をやってから各論というのがセオリーだが,2巻で先に債権各論をやり,その後に3巻で債権総論を扱ったりする。条文の並び順が頭に入らないという点から,初心者には向かないんじゃないかな・・・。ただ,書いてある内容は非常に分かりやすく,中級者以上ならば非常に重宝することになると思う。だからこそ,僕は改正債権法の基本書として,内田民法を選んだわけだ。さて,肝心の内容だけどおおざっぱな目次は以下の通り。第1章 改正作業のはじまりと改正の思想第2章 消滅時効第3章 法定利率第4章 保証第5章 定型約款第6章 債権譲渡第7章 解除と危険負担第8章 瑕疵担保責任から債務不履行責任へ第9章 分りやすい民法ー総則編第10章 分りやすい民法ー債権編総論第11章 分りやすい民法ー契約総論第12章 分りやすい民法ー典型契約編おおまかに,挨拶程度の1章から,特に重要な時効,法定利率,約款等の目玉となるものを扱い,あとは簡単な紹介にとどめる・・・,という感じ。非常にメリハリをつけた構成といえるだろう。そういえば,内田民法では2巻で契約各論を,3巻で契約総論を扱っていたはずなのに,本書の構成だと10章~11章で総論を,11章で各論を使っていたりする。さすがに,内田民法で育っていない人へ配慮したのだろうか・・・。まあ,総論から各論の順で説明してくれた方がとっつきやすくはあるのだからこれでよいが。最大の見どころと言えば,内田先生は民法改正作業にも関与されていたからだが,その思い出話がそこかしこで語られるところだろう。法定利息が市場金利より高いかどうかの話が,いつの間にか逸失利益算定の中間利息控除の論点とからんだせいで,「議論がゆがんだ」(本書27頁)だとか,経済界の反応はどうだったとか,色々と書かれている。また,特に瑕疵担保責任について,「法律家は現状を変えることに反対することが多く,改正に際してはそのようなおかしなことが往々にして生じます」(本書84頁)とか,ボヤいている。この辺はしゃーないよ。僕ら弁護士は,最高裁が法定責任説だと言うから,必死に法定責任説で論文が書けるように訓練してきたのに,唐突に法定責任説をやめると言われたら,やったことが全て無駄になるんだもの・・・。僕は弁護士なので,どうしても現状からの変更については色々と考えてしまう。保証については弁護士会がかなりリードしたらしくが,根本的なところが変わるわけではなく,色々と要件を厳しくしたのは別にいいと思うのだ。ところが,瑕疵担保責任とか危険負担という,不合理な論点のトップ2について論文試験で血を吐く思いで理解不能な学説を頭にたたき込んだのにもかかわらず,「こんなん不合理だから改正しちゃいますわ-」とか言われたら,「あの勉強時間を返せ」,と言いたくもなるよ・・・。特に,危険負担はそのままやると常識外れな結論になってしまうため,受験生を苦しめたと思う。改正によって常識的な結論になるようになったのだが,ここの論点について内田先生は「揉める必要があった論点なのでしょうか」としたうえで,「過去の公表裁判例を見る限り,危険負担によって債務が消滅していることが決め手になって紛争が処理された事案は,私が探した限りでは1件もありません。旧534条の適用が争点になった事件もありません。」(本書79頁)とバッサリだ。本当に,僕が受験生のころに改正してもらえませんでしたかね・・・。その他,色々と読み物としても面白いし,だいたいの改正が頭に入った。このうえで,もう1回基本書を周回してみているのだが,これがなかなか楽しい。僕が勉強したころは書いてなかったネットバンキングの問題だとか,色々アップデートされている。これは法律改正の感想になっちゃうからたぶん書かないとは思うのだけれど。改正民法のはなし
2020.07.27
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車社会である田舎で弁護士をやっていると,酒気帯び運転における絶対の基準として,道路交通法で処罰される基準である「呼気1リットル中のアルコール濃度0.15ミリグラム以上で運転してはならない」というのを頭にたたき込むことになる(2020年時点)。以前は,0.25ミリグラムだったのが0.15ミリグラムになったということもあり,今後厳しくなるかも知れないが,現時点ではこうだ。つまり,呼気1リットル中のアルコール濃度が0.14ミリグラムであれば,道路交通法違反であるとしても,基準値以下なので免停にもならんし罰金もない,ということになる。だが,そうでもない,という事案があるので見ておく。最大10%オフクーポン取得可!先着順!送料無料 キリン 本麒麟(ほんきりん) 350ml×48本48缶(24本×2ケース販売) 1本あたり111.8円税別 麒麟 新ジャンル 第3の生 ビールテイスト 350缶 国産 缶 長S今回の事案は,こうだ(大阪高裁令和元年5月30日判例時報2444号20頁)。被告男性は,ある日の晩,自宅で少なくとも500ミリの缶ビール1本と焼酎の水割り3杯を飲んだ。その翌日,男性は午前8時半ころ,交通事故を起こしてしまったのだ。この事故で相手方が死亡したのも大変なことだが,自分自身も足に後遺症が残るケガをした。なお,事故の直後,警察署で飲酒検知をしたところ,呼気1リットルあたり0.06ミリのアルコールが検出されている。この事故について,被告男性は治療費約20万円,車両保険約190万円の合計210万円を保険会社から受け取っていたのだが,保険会社がこの金を返せ,と不当利得で訴えのが今回の事案である。この事件のポイントは,保険会社の免責条項,「酒気帯び運転をしていると保険金は払いませんよ」という条項が適用できるかどうかというところにある。時報の解説によると,酒気帯びと免責条項について,大きく2つの説があることになっている。①厳格説酒気を帯びていれば,事故との因果関係も問わず免責させる。②制限説政令の定める数値(呼気1リットルあたり0.15ミリ)以上が必要だとか,体内にアルコールを保有している等の認識が必要だとか,ある程度の制限を入れる。この事件について,保険会社は①の厳格説に,被告男性は,②の制限説に立ちつつ争ったのだが,神戸地裁も大阪高裁も,保険会社を勝訴させ,保険会社からの「支払った保険金を返せ」という主張を認めた。理由としては,「酒気帯び運転をしてはならないというのは社会全般の共通認識」であるとしたうえで,「免責条項にいう”酒気帯び運転”という言葉を文言どおりに解するのがであっ相当で,刑事罰の基準と同程度のアルコールを保有する状態で車両を運転する場合とか,酒気を帯びることにより正常な運転をすることができない恐れがある状態で車両を運転する場合などと限定的に解釈するのは相当とは言えない」と言っている。もっとも,大阪高裁は「運転者の責めに帰すことができない特別の理由がない限り」と留保をつけているので,多少のアルコールが検知されていても,なお保険金がもらえるケースはありえるのだろう。といっても,今回の事案は夜に酒を飲んで,翌日朝に事故を起こした,という事案である。お店で飲んで,そのまま車で帰るというような飲酒運転に比べればずいぶんと帰責性は低いような気がするが,これでもダメだというのであるから,どういう場合に「特別の理由」があることになるのか,疑問は尽きない。なお,この事案は上告されているようで,取下げなどなければ最高裁の判断も出そうではある。個人的な見解を言えば,ある程度の客観的な基準はあった方がいいのではないか,と思うところである。今回の事件で0.06ミリがダメだとなったけれど,この数値だけで判断されたわけではなく,見落としがあったので前方注視がおろそかであって,これはアルコールのためと考えられることなどが影響している。そうすると,同じ0.06ミリでも許される場合があるのかもしれないし,基準がいまひとつ分からないことになる。ある程度,客観的な基準はあっていいと思うのだが・・・。これだと0.01ミリグラムでもあったらダメだといもなりかねない。最近はどうか知らないが,僕が免許を取ったころには,道交法の基準を前提にビールをどれだけ飲むと,呼気1リットルあたり0.15ミリ以下になるのは何時間である,みたいな表を見せられたことがあった。たとえば,成人男性がビール500ミリリットル飲んだ場合,だいたい3時間くらいで呼気のアルコールは1リットルあたり0.15ミリ以下になるというの。なので,午後6時の乾杯だけ飲んで,午後10時くらいに解散したあと車で帰れば,道交法的には酒気帯び運転にならない可能性がある。ところが,今回の事件を前提に考えると,そういう行動はしない方がいい,ということになる。道交法のレベルで問題がなくても,事故ったときの保険金がもらえない可能性があるのだから・・・。※Twitterで,「0.15ミリ以下ならば道路交通法問題ない」との表記について,「それでも道交法の違反であり,刑罰が科されないだけです」とのご指摘があり,内容を訂正しております。間違いのないよう木をつけますが,今後ともよろしくお願いいたします。交通事故事件処理マニュアル補訂版 [ 永塚良知 ]
2020.07.22
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一時期はネットで目にすることが多かった「NHKから国民を守る党」(以下「N国」)であるが,最近は大きな選挙もないせいか,以前ほどネット記事を目にする機会は減ったように思う。ただ,N国は判例雑誌の常連ともいえる存在である。NHKの受信料債権の時効期間に関する事例など,さまざまな裁判例を作ってきているが,スラップ訴訟がらみも多い。以前も紹介した事案があるが(過去日記,東京地裁H29.7.19判決),最新の時報にもN国のスラップが載っていたので,簡単に紹介していく。NHKにようこそ!(2)【電子書籍】[ 滝本 竜彦 ]今回の,千葉の事案(千葉地裁松戸支部R1.9.19判例時報2437号78頁)は,こうだ。N国に所属するニコ生主は立川市議選挙に立候補していたが,彼の動画などを見る限り,どうも立川市に居住実態がなかったらしい。それを,あるブロガーが批判するような記事を投稿したところ,ニコ生主がブロガーに対し,名誉毀損として200万円の請求をしたのだ。ひどく特徴的なのは,N国の党首がYouTubeで「この裁判はそもそも勝って,ブロガー君からお金をもらいにいくためにやった裁判じゃなくて,いわゆるスラップ訴訟,スラップていうのは,裁判をして相手に経済的ダメージを与えるための裁判を言うんですよ」などと,訴外であるがスラップを自白するような発言している。その他,求釈明に応じないなど訴訟追行の態度も非常に悪く,裁判所はスラップ訴訟だと認定した。この点は,以前紹介した東京地裁の判決と同じである。なぜ,動画で墓穴を掘ってしまうのか・・・。ただ,普通の裁判例と違うのは,ブロガー側からの反訴に対し,損害額として比較的高額の弁護士費用を認めた点だ。内訳としては,以下の通りで,合計78万5600円。本訴着手金 10万8000円(支払い済み)本訴実費 4万2000円(支払い済み)本訴報酬 34万5600円(支払い予定のもの)反訴着手金 10万8000円(支払い済み)反訴実費 1万2000円(支払い済み)反訴報酬 7万0000円(支払い予定のもの)慰謝料 10万0000円基本的に,損害賠償請求する場合の弁護士費用というのは満額認められることは稀で,せいぜい1割といったところ。今回の事案だと,本訴のスラップ額が200万円で,反訴で認められた慰謝料が10万円だから,本訴分で20万円,反訴分で1万円の合計21万円程度が普通だろう。支払い済みのものだけでなく,支払い予定のものも損害としているあたりも興味深い。ところで,以前の日記で紹介した東京地裁のケースだが,こちらも読み返してみれば,弁護費用の全額54万円が認容されていた。ただ,事案と異なり,反訴という形ではなく,前訴が終わったあと,後訴として前訴にかかった弁護士費用を請求したというものであるが,やはり全額認容である。(なお,不当訴訟とされた前訴でN国が請求した金額は10万円と低額)こうしてみると,今回の千葉地裁と以前の東京地裁の2件で,N国がらみの事件で2件とも弁護士費用全額が損害額として認められている。いろいろ分析してみたいが,よくわからん。時報の,過去のスラップとして紹介されていた,某宗教団体がやった7億円のスラップ(東京地裁H13.6.29判タ1139号184頁)や,伊那太陽光スラップ事件(長野地裁伊那支部H27.10.28時報2291号84頁)はいずれも慰謝料のみ請求されている事案であった。過失を超えて容易に故意まで認定できる事案だとか,違法性の強弱だとか,色々あるだろう。最近,SNSを見ているとスラップとしか思えない訴訟が増えているようなので,このあと裁判例の集積もあるだろう。個人的な見解を言えば,スラップ訴訟の場合,反訴や後訴で損害賠償請求をする場合,かかった弁護士費用の全額を認めてやっていいのではないかと思う。もともと,たとえば今回の千葉地裁の件だけど,普通に裁判所の従来の基準でやるとすれば,スラップで訴えられた時点で,弁護士費用相当額の全額の回収はできず,ある程度の損害が出てしまうわけだから。なので,膨大な資金力をもつ者からすれば,スラップ訴訟をやり放題である。実際,N国はスラップであることを認める動画を投稿するというあたり,勝ち負けを度外視し,相手にダメージを与える手段を洗濯している。なお,色々見ていたが,青森地裁弘前支部H20.3.27時報2002号126頁が,400万円近い弁護士費用を損害と認めている。なかなか,こんな事件はなかろうと思うのだが。(参考→東京地裁の過去日記)NHKにようこそ!(2)【電子書籍】[ 滝本 竜彦 ]
2020.05.20
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日本に住んでいると,「不倫をしたら慰謝料を支払う」というのは当然のことのように考えているが,これは比較法的にはちょっと珍しいようである。日本の学者にもけっこう反対説を唱えている人がいるようだ。では,外国で不倫をした場合,日本の裁判所は慰謝料を支払う義務はあるのかという点について,一つの裁判例が出たのでちょっと見ていきたい。【送料無料】 国際私法 有斐閣アルマ / 神前禎 【全集・双書】事案はおおよそこんな感じ(東京高裁R1.9.25判例タイムズ1470号75頁)原告女性は,夫である被告男性の海外赴任に同行する形で,平成25年にニューヨークへ引っ越したのだ。ところが,その年のうちに夫である被告男性は,同僚である被告女性とニューヨークで不倫を始めてしまった。このニューヨークで婚姻関係が破たんしている。最終的に関係者は全員日本に帰ってきており,被告らは日本でも不倫を継続したのである。この問題について,日本の裁判所で原告女性が被告らに慰謝料を請求したのがこの事案になる。何よりも大事なのが,準拠法を,つまり裁判所が日本法かニューヨーク法のどちらで裁判をするかという問題である。日本法でやれば原告女性は勝訴できるが,ニューヨーク法でやれば原告女性は敗訴する。ニューヨーク法では不貞があったとしても,慰謝料を請求することができないからだ。ちなみに,原審である横浜地裁H30.10.30は準拠法をニューヨーク法にして請求を棄却した。原典が第一法規で読めなかったが,日本に帰国後の不貞は,もう婚姻関係が破たんからと原告の請求を棄却しているようだ。無情だが,なんとも理論的にはスッキリしているとは思う。ところが,これを覆し,慰謝料請求を認めたのが東京高裁である。考え方の順序として,この事案は不倫,つまり不法行為だから準拠法は法例17条により,不法行為の結果発生の土地の法が準拠法になる。日本とニューヨークの両方で不倫をしているわけであるが,結果発生の土地が複数あるとき,「最も重大な結果が発生した土地」を結果発生地とする判断をした。そのうえで,ニューヨークでの生活は3年くらいの短いものであるとか,被告らの不貞はニューヨークから日本まで切れ目無く行われていたとか,日本での不貞はこれからも継続するとか言って,準拠法を日本にした。・・・結論は分からないでもないが,理由付けがいまいちよくわからない。不貞がはじまった土地こそが重大な土地だとするのが自然のように思う。また,ニューヨークで婚姻関係が破たんしたとまでいえるし,日本での不貞はあくまで惰性というか,もともとあったのが続いているだけだ。確かに,被告男性は不貞後に悪意の遺棄があったとかで,やってることはけっこうひどい。判例タイムズの解説を読んでいても,類似の裁判例がないようだから比較のしようがないが,結論ありきで準拠法を日本法にしているような気がする。なお,この東京高裁でもカバーできない問題はけっこう残っていると思う。たとえば,この事案で被告らがニューヨークに定住すればダメだろう。また,海外で現地女性と不貞をするというのであると,これは完全無欠に慰謝料請求ができないことになる。とはいえ,もともと日本のように不倫をした場合に慰謝料を支払う義務が発生する,という国の法が珍しいのであって,慰謝料請求ができないという結論は国際的にはおかしいことではないかもしれない。なので,海外でワンナイトの不倫をすれば,かなりの事案で慰謝料を請求できないという事案はありえるのだろう。一方で,日本国内で外国人と不倫をするのはまずい,そういうことになる。ただ,海外での不貞が民事上,不法行為になるかどうかという話と,離婚原因となるかどうかは別の問題だろう。どこの国だろうと,不貞はさすがに離婚事由だろうから。ケース別 離婚協議・調停 条項作成マニュアル【電子書籍】[ 宇田川濱江 ]
2020.04.28
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弁護士費用特約によって,簡裁では少額の物損事故の案件が増加したそうな。まぁ,そうだろうなぁと思う。ちょっとタイトルが「弁護士費用特約を活用した」とキャッチーだし,薄いので読んでみた。弁護士費用特約を活用した 物損交通事故の実務 [ 狩倉博之 ]まず,目次をおおざっぱに眺めるとこんな感じ。わりとそっけないので,括弧内は僕の補足である。第1章 総論 (LAC制度の解説など)第2章 物損事故解決のための基礎知識 (請求権者,車両損害,着衣やペットなどその他損害)第3章 物損事故解決の実務 (立証資料,示談書作成)タイトルに,「弁護士費用特約を活用した」とあるけれど,そのあたりの解説はさほどないかなぁ・・・。弁護士費用特約保険について色々な意見があるだろうが,これを使ってしまうと,弁護士は自分の取るべき報酬の金額を自分で決めるということができなくなる。わりと使うにしても,素直に着手金・成功報酬のやり方でやるか,事務作業の繁雑さを我慢してタイムチャージにするべきか,見極めがかなり大事になるのだ。なので,「弁護士費用特約を活用して,高額の報酬を得る裏技」みたいなのが掲載されているのかと思えば,あまりそんなことはない。そういう意味で想定していたのと違った。ただ,物件事故をどうやって解決するか,という点について特化して書かれているので,この点では良書というべきである。だいたい,交通事故系の実務本を買うと,物件事故についての解説の分量は少ないように思う。メインは人身事故になってしまうだろうから,それはそれで仕方がないのだろうけど。色々面白かった点はあるけれど,2つくらいに絞って感想を書こう。1つは,第2章の基礎知識編の「請求権者」のコーナーである。車というのはローンで購入することが多く,所有権留保の状態であることが多い。そんな所有権留保の状態で事故にあった場合,損害賠償請求をすることができるのは誰になるのか,という話である。本書によると,東京地裁交通部の運用だと,全損の場合は所有権留保者(売主)だが,例外もあるとか,分損なら買主でいい,など解説されている。普通の感覚だと,「車を運転していた人が請求権者なんじゃないの?」と考えてしまいがちなんだけど,親名義の車に乗っている状態で事故に遭うだとかあって,僕なんかもけっこう困った経験がある。もっと早い内に読んでおくべきだったね,と思う。2つに,車両損害以外の記述が手厚い,ということである。全塗装か部分塗装か,とか評価損なんてたいていの本にも書かれている。だが,本書はそれにとどまらず,車両が建物に突っ込んだ場合の建物損害,店舗が休業に追い込まれた際の休業損害,トラックの積荷損害などについて裁判例なんかを丁寧に紹介してくれているのが嬉しい。ペット損害なんか低額になるのが相場なのだけれど,競馬の競走馬が死亡した場合に逸失利益で780万円が認められている事案なんか興味深い。話が全然変わるんだけど,学生の頃読んでいた漫画で,1億だったか2億だったかの価値のある「競争馬の精子」を巡って殺し合いが起きるというのがあった気がする。人命よりも,馬の精子の方が価値があるという悲しい現実を思い知ったのだけど,あれば何だったか,いまいち思い出せない・・・。弁護士費用特約を活用した 物損交通事故の実務 [ 狩倉博之 ]
2020.04.02
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「当職は、保全・執行事件が大好きです」という、ヘルシングに登場する少佐みたいなはしがきから始まるのがこの、『失敗事例でわかる! 民事保全・執行のゴールデンルール30』である。 こんな、保全・執行が好きなんて、これはよほど変わった方ではないかな、と思う。僕なんて保全・執行は大嫌いだもん。多分、たいていの弁護士は嫌いだよ…。 失敗事例でわかる! 民事保全・執行のゴールデンルール30 [ 野村創 ] そもそもなんで保全・執行が嫌いな弁護士が多いのだろう? 僕の場合は端的に経験不足というのがあるかもしれない。保全・執行なんて年に1件あるかないかだもの。たぶん、経験不足は僕以外の弁護士のほとんどがそうだと思う。 保全は必要があればやるしかないけど、執行は努力で避けることができる。例えば、執行の前提には債務名義、つまり判決を取らなきゃならないのだけど、たいていの事件では和解で終わらせてしまうからなぁ…。 なので、いつまでたっても保全・執行には苦手意識がある。 本書の特徴はサブタイトルに「失敗事例でわかる!」とあるとおり、失敗事例をつけてくれるところ。 例によって目次を書き出すとこんな感じになる。 第1章 保全事件の申立てにまつわる失敗 第2章 不動産の仮差押え、競売事件にまつわる失敗 第3章 債権等の仮差押え、執行事件にまつわる失敗 第4章 仮処分、明渡執行事件にまつわる失敗 怒涛の失敗ラッシュで、1人の弁護士として読んでて辛くなる…。 冒頭失敗事例の1で、全面勝訴したものの被告の破産で判決が紙屑になった事案、クライアントからのクレームに対し弁護士が心の中で、「取れるとか言ってない。勝てると言っただけだ」とつぶやくシーン(12ページ)なんかは笑いとともに、激しい共感をさせられる…。 また、失敗事例22の添付命令が飛んでしまうという事案は、背筋がヒヤリとする。 僕の個人的な経験だと、不動産の保全・執行はほぼ経験がないので、この部分は非常に興味深く読めた。 座右に置いておいて、保全・執行事件が来たときに該当部分を軽く読み返す感じにしようかな、と思う。もちろん、保全・執行が嫌いな弁護士としては、なるべくお世話になりたくはないのだけれど…。 一方で、著者も「架空の事例だから…」とはしがきで断っているが、「これを失敗例といのは酷だよ」というものや、「こんな失敗例、あるか?」というのもある。 例えば、失敗例19の、債権差押えの割付の失敗例、「単純割付はするな」という形になってるけれど、これを失敗というのは言い過ぎではないか…。決して、僕がこの失敗をしたから私情でケチをつけるわけではない…。そうだとも、僕もこれで悲しい失敗をしたけれど、諦めずに2度目の執行で全額回収したという経験がある。 同様に後半の仮処分の失敗は、ほぼ仮処分を怠って漫然と訴訟やったケースが多くて、それはダメだろ、という気持ちになる。そうは言っても、失敗例で学ぶ体裁になってるから仕方はないんだけれど。 ところで、事例が30も掲載されているのだけれど、意外にも養育費の差押え事案は1つも載っていない。 養育費の差押えは第三者からの情報提供というシステムができて、民事執行法の改正で大きく変わるところだ。 これから僕は養育費の回収には力を入れたいと思ってるんで、執行の勉強は続けていきたいかなぁ。 失敗事例でわかる! 民事保全・執行のゴールデンルール30 [ 野村創 ]
2020.03.12
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鉄道のロクに発達していない田舎で弁護士をやっていると,たまにみるのが配達業者だったりトラック運転手が交通事故を起こした際,会社が賠償金を払ってくれないという悲しい事案がある。会社的には保険料が上がるのを嫌がって保険を使うのも嫌だし,力関係として従業員より圧倒的に上だから,事故の相手への賠償金は従業員に持たせるのだ。交通事故事件処理マニュアル補訂版 [ 永塚良知 ]かねてから,こういうことが許されるのかな,と思っていたが,これについて2月25日発売の判例タイムズ3月号で論文が載っていた。これはすごいなぁ,と思っていた矢先,2月28日に最高裁判決が出た。タイミングがすごいなぁ,と思うがこの点について感想など書いていく。まず,最高裁令和2年2月28日判決はだいたいこんな事案だ(最高裁リンク)。原告の従業員はトラック運転手だったが,業務中に交通事故を起こしてしまった。けっこう重たい人身事故で,賠償額は2500万円を超える。これを従業員が支払ったので,従業員は会社側にこの2500万円を払ってくれと請求したのがこの事案である。なお,被告の会社側はけっこう特殊で,資本金300億円以上をいうマンモス会社であって,「自家保険政策」というシステムを使っていた。これは損害保険に加入せず,その都度自己資金で支払うというシステムだ。個人的には衝撃を受けたシステムなのだけど,保険というのはそもそも「大数の法則」という統計みたいなシステムを使っているわけで,超巨大企業になると保険に入らなくても巨額の賠償金も支払うことができるというわけだな。たぶん,支払う保険料よりも自己資金で積立てておく方が安くすむのだろう。だいたい,保険料には賠償に回る分プラス保険会社の維持費もあるわけで,全部自己資金でできるんならその維持費の分がいらないからな。僕は常々,この手の事案について,従業員の請求は当然に認められるべきじゃないのか,と考えていた。だって,会社側には使用者責任があって,会社は事故の被害者には賠償義務はあるのだ。先に従業員が支払ったからといって,この義務が消えるのはおかしい。普通に考えると,誰だってミスはするのだから,経営者自身が荷物を運んだところで,1万回に1回くらいは事故も起こすと仮定しよう。ここで,100人雇えば運べる荷物は100倍になるけど,どうしたって事故の確率も100倍になるから,100回に1回は事故が起きてしまうだろう。ここで,会社は100倍の仕事ができるという利益だけをえて,人が増える場合のミスを全く負わないというのはあまりにもおかしい。ところが,これには反対説もあった。民法715条1項を見ると,被用者が他人に損害を与えた場合,使用者も損害賠償責任を負うという規定がある。これについて,3項をみると,使用者から被用者への求償はできる,と定められているのだが,逆に被用者から使用者への求償に関する規定はない。なので,こういった逆求償はできないんじゃないか,という見解もあったのだ。実際,原審は逆求償はできないという結論を導いている。ここで出てきたのが最高裁である。今度は逆に「損害の公平な分担」というマジックワードを使いつつ,逆求償を可能としたのだ。なお,いくら求償できるかという点については判断をせず,差し戻した。個人的に,面白かったのは本文よりもむしろ裁判官の補足意見である。菅野博之,草野耕一裁判官はこの事案について,「運送会社とドライバーの関係である場合,ドライバー側の負担は僅少になる場合が多く,零とすべき事案もあり得る」と言っている。こうしないと,ドライバー側は会社が守ってくれないから,恐ろしく不利なのである。同じく,三浦守裁判官も,「日常的に運転しなければならないドライバーが事故を完全に回避するのは困難なのに,自ら保険にも入れないまま巨額の賠償義務を負担しなければならないのは不合理だ」としている。この補足意見もある程度高裁を拘束するだろうから,従業員の負担割合は小さくなりそうだ。ところでこの最高裁判例が出たのが2月28日だったが,このわずか3日前,25日発売の判例タイムズ3月号に会社と従業員の間の求償・逆求償の論文が掲載されていた。この論文,100以上の裁判例を丁寧に一覧表にして深い分析をしていたのだけど,この最高裁判決を掲載していないということでわずか3日ほどで価値は暴落したと言える。いや,これほど深い研究をしたのだから,論者はこの分野の最先端の知見をもっていることは間違いないのだ。この流れで最高裁判決の解説もしてもらいたいものだ。こんなところでつまずかない! 交通事故事件21のメソッド [ 東京弁護士会 親和全期会 ]
2020.03.06
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弁護士を含めた法曹関係者は,文書作成のことを「起案」という。そこにはなんとなくのカッコ良さがただよう・・・ような気がする。僕が「起案」という言葉を初めて使ったのは司法試験に合格し,司法修習が始まった頃だ。「起案」という言葉を口にするだけで,法律家になったような気分になったものだ。ところが,この「起案」はたちまち嫌な言葉ランキング上位にランクインする。つらいからだ。きついからだ。苦しいからだ。そんなこんなで『起案添削教室』を読んだので感想を書いていこう。弁護士はこう表現する 裁判官はここを見る 起案添削教室 [ 柴崎哲夫 ]内容的には牧田弁護士が,弁護士の感性から本文を執筆し,各章の終わりに柴崎裁判官がコラム的な解説を挟むという形式。いくら弁護士の目から見て良い起案でも,裁判官の目から見てどうかな,という多角的な視点から起案というものを学ぶことができる。そんな本書の目次は以下の通り。第1編 基礎知識編 1章 なぜ文章作成術が必要なのか 2章 文章作成の約束事 3章 メールの文章術第2編 実践編 1章 裁判外の書面(内容証明や関係者宛て手紙の起案) 2章 裁判上の書面(訴状,答弁書,仮処分申立書の起案)どうだろう。極めて実践的であることが分かる。第1編,2編を通して素晴らしいのは,まずはいったんダメな例を示した上,良い例を示してくれるところ。社会に出るとよく「正解はない」という問題にぶち当たるのだが,起案もまさにそうだろう思う。人によって好みもあるだろ。ただ,不正解というのは往々にしてあるものだ。また,司法試験の勉強中につくづく思ったけれど,成績優秀者の論文というのはあまり役に立たないのだ。特に何の感想も出てこない。ところが,ダメな論文のダメな点を,どうしてダメなのか,そしてどうしたら良くなるかをやるというのは,ずいぶん勉強になった記憶がある。結局,正解がない問題にも不正解というものは確実に存在するわけだから,不正解の事案を知っておくことこそが上達するための方法になるのかもしれない。そんな本書の見どころといえば,弁護士と裁判官の目線からの説明があるところ。この柴崎裁判官は決してイエスマンではないので,たまに牧田弁護士の書いている本文に否定的な見解を示したりもする。たとえば,牧田弁護士は「1文を短くするように」と言うが,柴崎裁判官は公文書に限定してだが,「文章を短めにすればわかりやすさの点は相当クリアできると思われるが,格調の高さを維持しにくくなってしまう傾向があることもまた,否定できないのではないか」とちょっとした反対意見を唱える。こういったところ,起案における画一的な正解のなさ,立場の違いが見えていて面白い。具体的な文章術について色々な点で活用できるものが多いのだが,2つほど見ていく。1つは,「接続助詞の’が’」は使わないというところ。接続助詞の「が」は否定の「しかし」の代用しても使われるが,そうではなく「一度謝罪に伺いたいのですが,ご都合はいかがでしょうか」のように「留保・抑制」を表す場面でも使う。曖昧で,使い勝手がよいために多用すると,論理の流れが曖昧になるから,いっそ使うな,というのだ。なかなか,面白い指摘だと思う。2つは,余計なことを書くな,という点。結局,何が大事か把握し,何を書いて何を書かないかの判断が大事だよ,という話である。なお,本書は学習のためにもいいが,牧田弁護士の文章は堅苦しくないし,ときおり読者の興味を引く話題を入れてみたりと,読み物としても面白い。特に架空の事案についてはけっこう凝っていて,交通事故の当事者が「松田日乃」と「豊田昴」だったり,離婚事件の当事者が「白馬応治」と「白馬雪子」だったりする。牧田弁護士の遊び心が見えてきて,ときおり笑いながら読んでしまった。弁護士はこう表現する 裁判官はここを見る 起案添削教室 [ 柴崎哲夫 ]
2020.02.26
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僕が弁護士になったころは超高難度だったネットトラブル、発信者情報開示の法的手続だけど昨今はわりと普通の弁護士が普通にやる程度の事件になってきたように思う。 そんなおり、新刊で『インターネット権利侵害〜削除請求・発信者情報開示請求後の法的対応Q&A』が出た。ざっと読んでみたので感想を書いていく。 インターネット権利侵害 削除請求・発信者情報開示請求“後”の法的対応Q&A [ 深澤 諭史 ] まず、本書だけどメインとなるのはタイトルの後段にある「発信者情報開示請求後の法的対応」にある。 つまり、ネット上の名誉毀損なんかをしている者を突き止めた後、どういう対応をするべきか、という内容になっている。つまり、慰謝料などの金銭請求のやり方、相場などの解説ということになる。 そうすると、ターゲット層としては発信者情報開示をする能力があるということが、本書を読む上で最低限必要なスキルということになる。 かと思えば、「法的措置を取ります」と内容証明を送ってから提訴するまでの間隔はどうするべきか、初手でいくらくらいの請求をすべきか、と交渉術の範疇に含まれるような解説もあったりする。まあ、交渉をやる上では裁判例の傾向は知っておく必要があるので、これは丁寧に説明してもいいとは思うけど。この手の交渉術は本で読むというより、事件処理の経験うちに自然に覚えるのだろうが、活字になっていると思うところもある。 著者が重要なポイントとして繰り返し解説する、慰謝料の相場や発信者情報開示にかかった弁護士費用が請求できるかという点については、裁判例をいくつか紹介するということになっている。 個人的には裁判例をざっと一覧表にしてまとめて欲しいとは思うところ。ただ、著者も「交通事故みたく大量の事例が集まるわけでもなく、赤い本みたいな相場を作るのは難しい」というようなことを述べているので難しいとは思うのだけど。 なお、この手の研究は進んでないのでネット検索したときに上の方に出てくるのを「脅威度」と、発信者情報開示後の対応がまずくて対応をした弁護士とともに炎上することを「共同炎上」と造語を作ってみたりしている。 そのうち業界的に定着するかもしれないし、そうでないかもしれない。特に共同炎上は……特殊すぎて僕も例を1つしか知らない。 まとめに入るが、本書は最低限、発信者情報開示請求の手続きができる中級者以上向けということになるから、全くこの手の事案をしたことのない弁護士はあまり対象にしてないのだろう。そこは理解した上で読むべきだろう。 僕はたまに発信者情報開示から慰謝料請求をするのだが、年に数件くらいしかやらないので経験を積むことが難しく、またほとんどを訴訟外で終わらせてしまうから最新の裁判所の傾向を知れたことは役に立ったかなと。 一方で全くネット上の名誉毀損について扱ったことがないという方は、この本じゃなくて別の書籍を、オススメする。 200頁くらいと薄いので、とりあえず読んでみてもいいかも。 インターネット権利侵害 削除請求・発信者情報開示請求“後”の法的対応Q&A [ 深澤 諭史 ]
2020.02.19
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法律の専門書を読むのも大変なので,たまにはライトに新書でも読んでみようかと手に取ったのが『裁判官失格』である。色々と思うことがあるので,つらつらと感想など書いていきたい。裁判官失格 法と正義の間(はざま)で揺れ動く葛藤 (SB新書) [ 高橋 隆一 ]そもそも論だけど,この『裁判官失格』という本のタイトル。これはもしやすると,2012年に出た『検事失格』を意識しているのもしれない。この『検事失格』の方は不当な取り調べをしてしまった元検事の自伝という形になっており,かなりのベストセラーになったんじゃないかな。僕も読んだし,当時の弁護士会でちょっと話題になったから。ただ,本書はどうしても『検事失格』より多少はクオリティが下がるんじゃないかな・・・。ちょっと『検事失格』と比較しながら見ていこうか。まず,本書の目次を見てるとこうなっている。第1章 法廷はドラマに溢れている第2章 裁判官だって,最後まで迷っている第3章 1人でも受け入れてくれるなら説諭をする,たとえ裏切られても第4章 裁判官の胸の内第5章 裁判官こぼれ話一方で,『検事失格』はこうだ。検事失格【電子書籍】[ 市川 寛 ]第1章 検事への志第2章 「検事」への改造第3章 挫折第4章 束の間の復活第5章 大罪第6章 「暴言検事」の死第7章 償いどうだろうか。目次を眺めているだけで,1人の若者が検事になるという夢を持ち(第1章),検事になったものの激務のために挫折し(第2~3章),健康を取り戻すも(第4章),取調中に自白を強要する暴言をして問題になり退職する(第5~6章),といった流れがイメージできるだろう。そして,著者は7章で償いも果たし,法曹として立ち直るのだ。そのため,大きな1つのスジに沿って構成が立てられており,章の並びそれ自体に意味がある。これと比較すると,『裁判官失格』の方は単なる雑談をまとめたものになっており,別段に章の並びに意味はない。1章の次に3章を読んでもいいし,逆から読んでいってもいい。そもそも,『裁判官失格』の著者は普通に裁判官を勤め上げた後,公証人に再就職し,現在は弁護士もしているそうなので,普通に裁判官をしていたようだ。最終経歴が家庭裁判所の少年部部長裁判官で,所長までいってはいないようだけど。さて,内容に入っていこう。ただ,基本的に雑談を集めたもので特に大きなテーマみたいなものはない。民事も刑事も少年事件も,ごった煮のように集められている。色々あるけれど,たとえば「死刑にすべき事案だったけど,検察官が無期求刑だから無期懲役にした」(16頁以下)だとか,「自分が詐欺で実刑判決を下したXという男の一言がきっかけで,麻原彰晃がオウム真理教を作ったに違いない」(58頁)など,書いている。特にどうかな,と思ったのが「私自身はたとえ責任能力がなく罪に問うことはできなくても,精神病院に入院させて一生出さないなどの措置が必要なのではないかと思っています」(60頁),だとか遺産分割なんかについては「そもそも裁判所に来る時点で醜い」(136頁)とか見出しをいれている。そう感じるのは自由だし,たとえば酒の席なんかでそう口にしてもいいとは思う。ただ,書籍として出版しなくても良いではないか。国民の裁判官に対する信頼を損ねるのではないか,と思うところはある。楽天ブックス裁判官失格 法と正義の間(はざま)で揺れ動く葛藤 (SB新書) [ 高橋 隆一 ]
2020.02.08
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セクハラの成立には故意過失が必要なのだろう。なんとなくそう思っていたけれど,そうでもないという裁判例に遭遇した。アカデミックハラスメント,略してアカハラも絡んでいて色々と,参考になりそうなので見ていきたい。紹介するのは,東京高裁令和元年6月26日判例タイムズ1467号54頁。問題になったのは,とある大学である。原告の大学教授は,ある学会終了後,学生たちとの慰労会に出席したのだ。慰労会が終わった後,女子院生に声をかけ,「家まで送っていく」とか言って,女子院生の家の最寄り駅まで行ったのだ。で,駅近くのファミレスで飲食後,「もう終電ないから帰れない。家に入れて欲しい」など言って女子院生の家に入れて貰い,一晩泊まったのだ。女子院生が拒否したため一線は越えなかったが,それでも「落葉の宮も3回夕霧を拒んだのですよ」と迫ったり,ブラウスのボタンをはずしたり,胸を触ったりしてる。なお,原告の教授はベットで眠り,女子院生はキッチンで一睡もせず一晩を過ごしたのだ。このあとも,色々教授からメールを送ったのが,セクハラだったりアカハラだとして,大学は懲戒処分として教授を降格させたのだが,教授側がこれを不服として地位確認と未払い賃金を求めたのがこの事件。これで,高裁が面白いのが,「セクシャル・ハラスメントに該当するかどうかという点の判断においては,行為者の主観的要件(故意・過失)は考慮に入れるべきではない」と判断しているところ。そうしたうえで,故意・過失の有無なんかは,懲戒処分をするかどうかの裁量に影響を与えるだけであるとし,降格は相当だとして原告教授を敗訴させた。一瞬,「え,そうだっけ?」と思ったが,よく考えてみたら,これは不法行為の次元ではなく,労働法の次元で,懲戒処分ができるかどうか,という問題なのである。タイムズの解説でも説明されていたけれど,セクハラというやつ,している側には故意・過失がない,つまり悪気がないというのがままある。性犯罪の弁護をたまにやるのだが,被疑者・被告人には「同意があった。被害者も俺に好意があったはずだ。」という人がそれなりにいる。彼らの頭の中では,「拒否されなかったから,同意があった」と変換されているっぽい。このあたりは非常に難しい問題で,性的な行為をする際,女性が本当に嫌がっていないのか,僕だって正確に事実認定できている自信はない。とりあえず拒否されてないから,嫌じゃないのだろう,くらいにはどうしてもなってしまう。なので,労働法上の懲戒事由としてのセクハラの成否を考えるためには,行為者に故意・過失があろうがなかろうが,使用者としては注意し,指導する義務があるわけだな。言われてみれば当たり前なのだろうが,どうしても故意・過失が要件のように考えていた。ところで,興味深かったのが教授が「落葉の宮も夕霧を3回拒んだのですよ」と言って女子院生に迫ったというところ。僕なんかは「雅だなぁ」とのんきに考えてしまったが,女子院生は「自分の研究対象である中古文学の分野,ひいては自分の学問をけがされた」と証言している。この一事を見ても,僕には正確に女心が把握できていない,ということであり日頃の言動がセクハラにならんか,注意すべきなのだろうと思う。源氏物語 あさきゆめみし(1)【電子書籍】[ 大和和紀 ]
2020.01.30
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Twitterやってると、保守速報が、「大阪維新に潰されるかも」等と緊急声明を出したとのニュースが入ってきた。 色々とまとめサイトなどにも記事があるけど、単に2ちゃんの書き込みをまとめてるだけで、あんま本筋に踏み込んだ記事がなかった。せっかく法律家なんぞやってるので、俺が軽く解説してみようと思う。 なお、俺は保守速報についてはろくに知らないので、その点で間違いあるかもしれない。コメ欄で指摘してくれたら、訂正します。 まずは、問題になってるのはこの保守速報の2019年12月17日の記事。画像という形で引用しよう。 【維新にブログが潰されるかもしれません】という見出しで書かれているが、どうやら大阪市ヘイト条例とやらの規定により、通知が保守速報に届いたとのことである。 これを受けて、保守速報は「ブログが潰されるかもしれません」としつつ、支援を求めている。具体的に、今はどういう状況で、大阪市は保守速報をどうしたいのか。 まとめサイトを見てても、その辺がよくわからない。 ヒントになるのが通知書のに「条例第5条第3項本文の規定により」とあるところ。 さっそく、大阪市ヘイト条例とやらを検索してみよう。昨今のネット文化により、条例やら法律なんぞは簡単に検索できるようになってる。およそ条例には著作権なんぞなしい、皆んなに知らしめなきゃならんからね。 内容なのだけど、大阪市ヘイト条例、正式には「大阪市ヘイトスピーチの対処に関する条例」というそうだが、構造自体は非常に単純である。たったの12条しかないから、そこらの法律家なら10分もあれば大まかな内容を掴むことができる。 そこで、5条を見るとこうだ。まずは1項本文。 「市長は次に掲げる表現活動がヘイトスピーチに該当すると認めるときは、事案の内容に即して当該表現活動に係る内容の拡散を防止するために必要な措置をとるとともに、当該表現活動がヘイトスピーチに該当する旨、表現内容の概要及びその拡散を防止するためにとった措置並びに当該表現活動を行った者の氏名又は名称を公表するものとする」 長々と引用したが、第一にヘイトスピーチの拡散を防止する措置を取ることができるし、第二にヘイトスピーチを行った者の名前を公表できる、ということになる。 拡散防止というといまいちよくわからんが、大阪市の方で「これはヘイトスピーチやで、デマやで」と発表することもあるのかもしれない。 が、たぶん問題になるのはヘイトスピーチを行った者の名前の公表というやつだろう。 この氏名の公表というの、行政法的には比較的新しいやり方で問題もあるとされるが効果は大きいだろうと言われてる。 今回のケースであれば、たとえば大阪市が、「保守速報はヘイトスピーチしてるサイトやで」と公表する、つまり悪質サイトだとお墨付きを与えることになるだろう。いや、それを超えてたとえば、「◯田×太郎は保守速報というヘイトサイトを運営してるやで」と個人の氏名まで公表するのかもしれない。 この氏名公表なんかは、された方は大ダメージだということで、条例5条3項で「公表の前に反論の機会を与えるよ」とされているのだ。 つまり、保守速報は現時点で大阪市から「ヘイトスピーチをやってるサイトだ」というふうに考えられていて、また大阪市は氏名なり名称公表の必要まであり、と考えているようだ。 さて、これから保守速報はどうしたものかな…。 もし、単に「保守速報はヘイトサイトやで」と大阪市が公表してヘイトのお墨付きを与えるくらいならそんなものかもしれない。絶対に避けたいのは、運営してる者の氏名の公表だろう。 ネットは匿名だと思ってる人も多いが実際はそうではなく、弁護士に依頼するなりして正規の手続きを取れば容易に発信者情報開示がなされたりする。特に保守速報は過去に裁判沙汰になって賠償金支払いまで命じられてるから、発信者の特定は容易だろう。 大阪市の方としても、メールじゃなくて紙の通知書を送りつけているのだから、当然に保守速報管理者の住所氏名は特定しているのだろう。 もし、保守速報の管理者の氏名が特定されたとき、それでもヘイト表現活動はできるものだろうか。やっぱりやめちゃうのか。 なお、氏名公表といっても、思い切り顔を晒してヘイト表現をしてる活動家も珍しくはない。その辺に対象できん以上、不十分なところはあるのだろうけどね。 行政法概説2〔第6版〕 [ 宇賀 克也 ]
2019.12.19
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田舎で弁護士やってると、刑事事件をやらないわけにはいけない。何人もの被疑者・被告人と話をしていく中で、色々と思うところもあったのだが、そんなおり『ケーキの切れない非行少年たち』という新書が話題になったので読んでみた。ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書) [ 宮口 幸治 ]タイトルの由来になってる『ケーキの切れない』というのは、児童精神科医である著者が少年院で、「ケーキを三等分してみて?」と課題を出すと、非行少年たちは上の図のような切り方をするというのから来ている。こんなの、ちょっと考えれば、いや考えるまでもなく120度の角度をつけて切ればそれでいい話だ。しかし、非行少年たちにはそれができない。もともと、刑務所に入る人たちは知能指数が低い傾向にある、ということは聞いたことがあった。受刑者の2割は知的障害があるとか言う話だ。弁護士をやっていると,犯罪歴のある人と話すことは多いのだが,それは強く感じるところである。心に刺さる指摘は数多いが,冒頭で著者が指摘する「見る力」,「聞く力」,「想像力」についての点。著書によると,そもそも非行少年は「見る力」が低く,図形を見たとおり正確に書き写すということ自体ができないそうだ。もちろん,これは見る力に加えて書き写す力が必要だろうが,僕たちの見ている世界と彼らの見ている世界は違う可能性がある。著者はこの点について,「歪んで見えている可能性がある」という指摘をしていたが,これは分からなくない。僕自身の話に引き直して見るが,僕は「人の顔を覚える」というのが極端に苦手である。全然覚えられない。人間であること,男女の別などは認識できるものの,人の顔を見分けることができないのだ。こういった点で,僕なんかは非常に「見る力」が弱いのだと思う。きっと,普通の人とは見ている世界が違うのだろう。「聞く力」でいえば,社交辞令を真に受けたりする人なんかそうだろう。交通事故現場で相手方が「できる限りの賠償はします」と言ったからといって,修理費用どころか新車の購入費用まで弁償すると言ったとか,そういう人がいたりする。ところで,刑事弁護を熱心にやっている長老弁護士先生とこの本の感想を話し合ったことがある。その長老弁護士も,「ケーキを切れない少年が30歳になったら突然ケーキを切れるようにはならないだろう。そういう意味で,刑事弁護をやる上で,この本は読んでおいてもいいかもしれないね」というようなことをおっしゃってた。刑事弁護の9割くらいは自白ありの事件で情状を争う活動がメインになる。つまり,再犯可能性が低さを裁判所にアピールすることがかなり重要な仕事になってくる。そうすると,なぜ犯罪をしてしまうのか,犯罪をしてしまう人にはどういう傾向があるのか,学ぶためにもこの本は読んだ方がいいだろうなと思うのだ。ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書) [ 宮口 幸治 ]
2019.12.06
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給料を差し押える場合はその4分の3が差押禁止の債権になる(民事執行法152条1項,国税徴収法76条1項)。たとえば,給料が20万円だとすると,差し押えられるのは4分の1の5万円だけになるわけだ。ところが,預金についてはその全額を差し押えられる関係上,たとえば給料日に差押えできた場合,口座に入金された給料全額が差し押えられることになる。これはどの教科書にも書いてあるのだが,学生の頃から疑問はあった。これにある程度答える形の裁判例が出てきたので,簡単に紹介したい。事案は,民事執行ではなくて国税の話だけれど,差押禁止の範囲も民事執行法と国税徴収法とで同じなのだけど,ある程度参考にもなるだろう。事案は,こうだ(大阪高裁令和元年9月26日)。原告は税金滞納していた者であるが,ちゃんと働いてはおり,だいたい20万円くらいの給料を得ていた。ここで,税務署は銀行に調査をかけて入出金履歴を見たところ,原告の勤務先を把握した上,給料日が毎月15日前後であることまでも理解していた。ただ,口座の残高は引き落としなんかのために,基本的にゼロ円である。そこで,税務署は「15日から19日までの間」に差押えができるように段取りを組んだ。この結果,15日に20万が入り,そこから携帯料金の引き落としや払い戻しで残高が減っていたものの,17日には約10万円を回収したのだ。これに対し原告は,給料差押えをすれば回収できないのに,あえて預金差押えをしたのは違法だとして,過剰に取り立てた分を返せとして①国家賠償を求と,②不当利得返還を請求したという事案である。これについて大阪高裁は国賠は認めなかったが,不当利得は肯定した。理屈は,こうだ。国賠について,まずは違法性を考えるのだ。これについて,「実質的に差押えを禁止された給料等の債権を差し押えたものと同視することができる場合にあたると言うことができ,本件給与により形成された部分を超える部分のうち差押可能金額を越せる部分については,上記差押禁止の趣旨に反するものとして違法」とされてしまった。しかし,故意過失については別だ。ブログ冒頭にも書いたとおり,「銀行口座に振り込まれた給料を差し押えることを禁止する規定もないので,これを差し押えると違法になるのか,またなるとしてもどのような場合に違法になるかについて,法律解釈や実務上の取り扱いも分かれていて,処分行政庁において差押えが違法になるかどうか予見し,または予見すべきであったことはいえない」として過失を否定した。こういうわけだから,まずは国賠は認められない。一方で,不当利得については,「差押えが違法だから」という非常にあっさりした理由付けで原告の請求を認めている。なんかもっと,損失と利得の因果関係とか,そういう話はカットであまりにも雑な気はするのだが・・・。最終結果として,差押可能金額を超えた部分,本件だと2万5000円は不当利得だとししたのである。色々と思うところはあるよ,この事案。まず,国や税務署側の言い分として「給料を差し押えたらクビになっちゃうかもしれないから,預金差押えをしたのだ」という反論。これはまさしくそのとおりで,僕も喜び勇んで給料差押えをしたら,相手方がクビになったという悲しい事案を目にしたことがある。いや,もともとの勤務態度が悪かったらしく,因果関係があるか疑問ではあるのだが。次に,調査すればするほど,結果的にマイナスになるのではないかという恐れである。また,単純に高裁の判決文だけを読むと原告に同情してしまう面もあるが,大阪地裁の判決文を読むと,原告が複数回にわたって税務署の連絡を無視していたり,税務車が何度口座を差し押えても数百円しか回収できていないという悲しい事実が目に入り,税務署側の対応も分からなくもない。問題は,これが最高裁でひっくり返るかどうかと言うところだと思う。国税の話とはいえ,射程は民事執行にも及びそう。もっとも,弁護士の調査能力と税務署の調査能力にはかなりの差があるので,そこまで調べることはできなんだけどね。たとえば,僕なんかは差押えの時期として,給料が入った直後を狙うのがセオリーだと思っている。この辺は,勘でやるしかないが,給料は15日や25日が多いので,月末を狙うとか,普通に僕はやってる。この程度ならば,勘でやってるだけだし,だいたい回収はしきっているから問題はないと思うけれど。クロスレファレンス民事実務講義第2版 [ 京野哲也 ]
2019.11.17
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マツコ・デラックスがどうだこうだ,裁判と最近は色々とあるけれど,ある人物がNHKに対して行った裁判が不当訴訟だとして賠償を命じられている判決があるという話を聞いた。Wikipediaでも普通に紹介されている事案だ。普通に判例時報にも掲載されている事案なのだけど,読み飛ばしたのか,ほぼ記憶がない。バックナンバーを引っ張り出して紹介していく。事案はこうだ(東京地裁H29.7.19判例時報2354号60頁)。まず,被告が2人いるのだけど,話を分かりやすくするため,AとBだということにする。ある日,NHKの職員は,Bの家を訪問し,受信料の支払いなどを請求した。これに対し,BはNHKに対し,受信料の請求が違法だとして,慰謝料を請求したのだ。この訴訟には背後にAがおり,このAは弁護士ではなかったが,Bのために訴状を作成したり,Youtubeで色々とやっているのだ。この裁判については,受信料の支払いを求めることに違法性はないということで,NHKが勝訴した。問題はこの後で,NHK側がABが協力してNHKを訴えた点をもって不当訴訟だとして,賠償を求めたのが,今回見ていく東京地裁の判決である。で,このAが前の裁判中,Youtubeで色々やったことだが,たとえば「NHKの業務を妨害するために裁判してるんです。」とか「NHKに対する嫌がらせなんです。」とか言ってる。また,勝訴する気があったかについても,「何も正直,勝ちに行ってないんです。」とか述べたりもしている。これが普通に判決中も書かれてていて,どことなくカオス感が漂っている。しかも,NHK側の主張によると,Aが扇動したことにより,平成24年から平成28年の期間に,「NHKによる戸別訪問が不法行為に当たる」という裁判を21件起こしているそうな。なお,この21件にA側の勝訴は1件もない。こういった事実により,東京地裁はA,Bが前に行った裁判は,「事実的,法的根拠を欠く」し,そのことも理解していた,と認定されている。ちなみに,賠償金は54万円だが,これはもともとNHKが前の裁判で支払った弁護士費用だけを損害額に計上していたためであり,請求金額が満額認められている。感想として,「面白くはあるが,あまり参考にはならないな」という感覚。僕も商売だから,「あぁ,これは敗訴確実だなぁ」と思いつつ裁判をすることはある。弁護士である僕が自ら敗訴確実だと思っていても,お客さんがそう思っていなかったりするし,5%くらいの確率で勝てるかもしれないので,それが不当訴訟とも限らない。現に「絶対無理だよ…」と思いながらやってみたのに色々あって勝訴したケースも,その逆も経験がある。何より,Youtubeで「嫌がらせなんです。勝ちに行っていないんです。」とか自白してくれる事案なんてまずお目にかかれないだろう。また,さすがに類似の事件があったとして,もうこんな発言をYoutubeではやるまい。なので,本件はあまり参考にはならないかな…。NHKにようこそ!(1)【電子書籍】[ 滝本 竜彦 ]
2019.09.05
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僕の中のネット関係トラブルに関する聖書,『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』の第3版が出た。自分語りなどもしながら,本書について色々と思ったことを書いていきたい。インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル〈第3版〉 [ 中澤 佑一 ]まず,本書の何がすごいかと言えば,数年前のネットトラブル関係についてほぼ何らの経験もない田舎の弁護士だった僕が,本書の旧版を読みながら2ちゃんねる(当時)に対し,発信者情報開示をやって書き込みをした者を特定し,書き込みの削除をやり,賠償金を取るという一連の流れをやることができた,といえばわかるだろうか。それ以降も本書にはずいぶんと稼がせていただいているなぁ…。さて,まずは簡単に目次などを見ていく。第1章 法的対処における基本第2章 対策マニュアル~手続きの流れを理解する第3章 コンテンツプロバイダ対策第4章 アクセスプロバイダ対策第5章 検索エンジン別対策第6章 各種書式大雑把に言えば,1~2章が総論で,3章以下が各論というべき内容になっている。2版と比べてみると,ひとまとめにされていたコンテンツプロバイダ,アクセスプロバイダ対策などの部分を3~5章に分割したのが,大きな変更になっている。また,2版にはなかったInstagramやDMCAに対する言及もされている。特に,2版は2016年の発売だから3年も前の本になるので,「2ちゃんねる」が「5ちゃんねる」に名称を変えた話だとか,すでに古くなって使えなくなった情報の更新や,某漫画村みたいなリーチサイトについての見解の紹介など,細かなところはかなり変更されている。そんな本書の何が凄いのか,といえばそこらの弁護士が知りたい内容を1冊に詰め込んでおり,また内容が極めて実践的というところだろう。僕は何冊ものネット対策本を読んだが,たとえば他の書籍ならば2ちゃんに書き込んだ者を特定するためには,「2ちゃんに対し,発信者情報開示の仮処分をしましょう。」と記載してくる。ところが,まず2ちゃんは外国法人が経営している体裁なのだけど,外国法人に対してどうやって訴えればいいのか,申立書はどうするのか,説明がなかったりするのだ。ところが,本書ならば「2ちゃん,というか現5ちゃんはフィリピン法人が経営している。発信者情報開示の仮処分は東京地裁が管轄になり,仮処分の書式は6章に掲載してある通り。また,仮処分の前提としてフィリピンから商業登記はこうして手に入れる」と極めて詳細に解説してくれるのである。なので,本書を片手にやれば,とりあえずは何とかなるのだ。一事が万事のこの調子で,たとえば他の書籍が「ネット掲示板にはこう対策する」と書いてしまうところ,本書ならば「2ちゃんにはこう対策する。同じ掲示板でも爆サイについてはこう。したらば掲示板についてはこう…。」と非常に細かく,相手によって同やり方を変えるべきかまで説明してくれる。しまいには,仮処分で立てた担保の回収の仕方まで説明してくれる。ここまで実践的な実務書はそうそうないのではないだろうか。なお,本書にも弱点というか,欠点はある。実践的でありすぎて,時代の変化に非常に弱い,というところだ。たとえば,本書2版のころから3版が出るまで3年が経過しているが,その間に「2ちゃんねる」が「5ちゃんねる」になったりした。そうすると,仮処分のやり方などに違いが出てくる。また,2版では扱ってすらいなかったInstagramが3版がでるまでの間に登場し,一躍大人気となっている。例えとしては微妙だが,六法と同じで賞味期限が極めて早いというところ。今の爆サイのやり方が,2年後も同じかどうかはわからない。常に最新の情報にしておかねば物の役に立たないのだ。ちなみに,発行ペースを見ると,第1版は2013年,2版が2016年,3版が2019年。だいたい3年おきに出るとして,2年目くらいには「ちょっと古いな…」みたいな気持ちになってくる。なので,改版が出たら必ず買わなければならない。そうはいっても,本書はたかだが3000円くらい。1件でも仕事をやれば十分利益は出ると思うよ。インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル〈第3版〉 [ 中澤 佑一 ]
2019.09.04
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弁護士会の人権擁護委員会などに入っていると,定期的に刑務所から人権救済申立が来る。待遇が悪いから,助けてくれというものだ。ある意味,刑務所というのは最も人権が侵害されやすい場所ではあるのだが,色々とあるものである。すでに人権擁護委員会からは足を洗った身ではあるが,判例タイムズ9月号を読んでいたら,ちょっと面白いのを見つけたので見ていく。事案(最高裁H31.3.18判例タイムズ1462号5頁)は,こうだ。刑務所というところは結構規則に厳しいのだが,「便せんやノートその他許可された用紙意外に許可なく書き込みをしてはならない」とか「許可なく物品を書こうしてはならない」という遵守事項が定められている。なんでこんな遵守事項を定めるかというと,外部との不正な連絡を厳しく制限するためなのだ。ここで,原告死刑囚は,便せん綴りの台紙や,付属についている吸取紙に書き込みをしたりした。それから,未使用の封筒を半分に切って,ふくろ的なものを2つ作り,切手を保管するために使っていた。これを原因として,拘置所所長が原告死刑囚を懲罰したのが,違法だとして原告が国家賠償を求めたのだ。これについて,色々とあったものの最高裁は,所長が原告を懲罰したことは違法ではない,と判断したのだ。最高裁の理由付けは要するに,「どんな規則を決めるかは,刑事施設長に裁量がある」。そのうえで,「便せん以外の紙に文字を書いたりするのは,外部との不正連絡につながる可能性が高い。加工や書き込みをするのを一律禁じ手も裁量のうちだ」というもの。行政訴訟特有の裁量論で切り捨てられた感じだ。憲法論にまでやってもいいかも。恥ずかしながら,僕は「受刑者が指定された便せんやノート以外の紙に文字を書いてはいけない」というルール自体を知らなかった。最近はほとんど聞かないけれど,特別権力関係というやつだわな。普通の学校や会社で同じようなルールを決めようものならばアウトであろう。論文を書けとなると最高裁判決が出てきたから厳しいが,司法試験の憲法択一あたりだろ出てきそう。そんな話である。ところで,商品リンクを貼り付けようと芦部憲法を見ていたら電子版を売っていることに気が付いた。時代は進んだものだ。書き込みなんかできないけど,音読機能を使えばランニングしながらとか移動しながら聞くことができて重宝しそう。憲法 第六版【電子書籍】[ 芦部信喜 ]
2019.09.04
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僕は機械に指図されるのが嫌いなのでカーナビをあんまり使わないのだが,そんなカーナビについての裁判例が時報に載っていた。ちょっと面白いので紹介していく。事案(福島地裁H30.12.4判例時報2411号78頁)はこうだ。原告はカーナビ搭載の自己車両で,最上三十三観音所巡りをしていた。かなりの田舎らしく,カーナビに従っても,細い,舗装されていなくて道路の両側に草木の茂る道なんかも指示される。それでも,原告がナビの指示に従って車を走らせたところ,車に擦過痕,つまりスリ傷ができたというのだ。そこで,原告がカーナビ業者に対し,「車にキズがついたのは変な道を案内したナビが悪い!」,といって43万円を支払え,といって裁判をしたのだ。争点はカーナビがPL法にいう製造物なのか等色々あるが,最大の問題は「カーナビのルート案内と,キズの間の」因果関係になった。この点につき,裁判所は,ナビの取説で「地図が最新ではないかもしれないから,常に実際の道路状況に従って運転しろ」と警告していたり,音声ガイドで「実際の交通規制に従って走行してください」と言わせているという点から,「カーナビは運転者の判断を補助するものにすぎず,ルート案内された道路を走行するか否かは運転者が実際の道路状況や車両の種類・形態等の事情を踏まえて自ら運転するべきもの」と判断している。実際に,原告の使っていたナビに収録されている地図は1つ型の古いものであったし,どうやら最新のを使っていれば,今回問題になった道を通らずにすんだようだ。そのうえで,裁判所は,最上三十三観音のパンフレットを見るなどのやり方で,回避できた,と判断し,原告の請求を棄却したのだ。わからなくもない判断である。ただ,パンフレットを見て道を調べろ,というようなところはかなり言いすぎな気もしなくもない。しつこいくらい,カーナビが「実際の交通規制に従って走行してください」と言っているのは,こうやって予防線を張るためだったのか,と思うところ。どうしてもカーナビは便利な反面,道を覚えなくなるので,僕はあんまり好きじゃない。ところで,僕も車で四国のお遍路88か所を巡ったことがあるけど,寺というのは結構田舎に建てられていて,一車線の山の中の細い道を走らされたものである。そのときはさすがにカーナビに頼りっきりで運転をしたが,どうしても初めての道だと頼ってしまうのはやむを得ないという思いもあるのだ。交通事故事件処理マニュアル[本/雑誌] (単行本・ムック) / 永塚 良知 編
2019.08.28
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今回のは、ちょっと前に最高裁判決も出た離婚に伴う慰謝料というのを見ていきたい(最高裁H31.2.19判例タイムズ1461号28頁)。 事案は、簡略化するがおおよそ、こんな感じだ。 事件の原告夫と、訴外妻は夫婦として生活していたのだが、ある日妻が被告男性と不倫をした。 原告夫は妻の不倫に気がついたものの、このときは不倫を追及することなかった。また、妻と被告男性の不倫も、発覚と同時期に解消された。 ところが、不倫発覚から4年後、原告男性は妻と離婚することになり、被告男性に慰謝料を請求した、という形になる。 法律の基礎だけど、普通に不倫を原因として慰謝料を請求する場合、貞操権の侵害というやつで請求を組み立てていくことになる。「不倫をされて、心が傷ついた」ということを請求の根拠とする形になる。この場合、時効は不倫の事実を知ったときか、最後の不倫の時期から3年になる。 今回の事案だと、この貞操権侵害は使えない。不倫を知りつつ、4年放置してたし、不倫解消からも4年経っているから。 そこで、原告男性側が考えたのが、「離婚に伴う慰謝料」というもの。これは、「お前のせいで離婚しなきゃならなくなったから、心が傷ついた」という組み立て方。時効はどうするのか、いまいち分からないけど、離婚したところから3年になるのかなぁ…。 曖昧なこと言っているけど、結論として最高裁は原告男性の請求を認めなかった。理由としては、「離婚するかどうかは夫婦の間で決めるべき事柄だから」としていて、基本的には認めない方針を言ってる。 理由の外の話になるけど、前述した不倫した場合の、貞操権の侵害による慰謝料請求ができる以上、重ねて離婚に伴う慰謝料を認める実益があまりない、というのがあるのかも。 ただ、最高裁も離婚に伴う慰謝料というものをいつも認めないわけではなく、「夫婦を離婚させることを意図して不当な干渉をして、離婚させた場合」はいいという判断をしている。 じゃあ、逆にどんな場合なら「夫婦を離婚させることを意図して不当な干渉をして、離婚させた場合」になるのだろう。 タイムズの評釈を読んでいたけど、不倫に関する事案はないが、内縁関係での「嫁いびり」の事案で3件の最高裁判決があるそうな。不倫ではないけど、こういう形になるんだろう。 恐らく、町弁的に参考になるか、と言えば自分が積極的に使う事案ではないだろうと思う。相手がこういう、「離婚に伴う慰謝料」なんて主張してきたとき、慌てず騒がず迎え撃つために知っておく必要はあるだろうけど。 もし、この離婚に伴う慰謝料ができるとしたら、「別れさせ屋」みたいなものかな。 対価をもらって依頼者のために夫婦なり、カップルを別れさせる商売があるらしいし。ソースは永嶋恵美先生の小説、泥棒猫ヒナコシリーズ。内容はこれまでの話とタイトルから察して欲しい。 ちなみに、僕はこの永嶋恵美先生が20年ほど前に別名義で執筆したものの、未だに2巻が出ない『紅衣英雄譚異聞 オデュッセイア』をこの20年、延々と待っている。僕のオデュセウス好きの半分は永嶋先生のせい。 泥棒猫ヒナコの事件簿 あなたの恋人、強奪します。〈新装版〉【電子書籍】[ 永嶋恵美 ]
2019.07.31
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弁護士をやってると、法律の知識というのも大事なのだが、それと同じくらい大切なのが証拠の収集である。今回は、第一法規の契約更新特典として貰った証拠収集の本を読んだので感想を書いていく。 実践弁護士業務 実例と経験談から学ぶ 資料・証拠の調査と収集 [ 第一東京弁護士会第一倶楽部 ] 目次を引用しようと思ったが、各章タイトルが長いので、僕の方で適当な見出しをつけるとこう。 第1章 はじめに 第2章 基本編。市役所、法務局 第3章 弁護士会照会の勘所 第4章 裁判上の証拠収集 第5章 その他 使える、というか僕にとってかなり有用だったのは第2章と第3章かな。知らなかったことがそれなりに書かれている。 僕なんか、戸籍や登記の読み方を誰から教わるわけでもなく、必要に応じて色々考えたりしていたのだけど、ここまでしっかり解説されると、意外に知らなかったというか、見落としていたこともある。 具体的にどういうことか、と言われると説明が難しいところ。この本に書いてあることはあくまで基本的な、弁護士なら知ってなきゃならんようなことばかりなんで、ここに書いちゃうと、「コイツ、この程度も知らなかったのか…」と思われそうでさ。 ただ、恥を忍んで2点ほど。 1つが戸籍を郵送で取るときに使う定額小為替について。あれ、有効期間は6ヶ月なんだ。ただ、それを過ぎても5年以内なら再発行できるとのこと。 これ、僕は知らなかった。6ヶ月以内に使い切っていたから、知らなくても問題なかったからだ。漠然と「有効期間過ぎるとマズイんだろ」とは思ってたが、そんなやり方があったとはね。 2つに、提訴予告制度あたりかな。 これ、民訴法に規定があるのだけど、全く知らなかった。ただ、解説を読むと全く使われていない制度っぽい。じゃ、僕が知らなかったことを自白しても、傷は浅いよね。 総評として、2章と3章は本当に使える。 たとえば、弁護士会照会について大銀行について個別具体的な銀行ごとの対応なんかも書いてて、東京なんかの弁護士なんかには超有用だろう。なお、僕の住む田舎には三井住友銀行もみずほ銀行もないので、具体的に解説されても使えなかったりする。 一方で、戸籍の読み方や、各銀行ごとの弁護士会照会のやり方を詳細に解説しながら、第5章の「その他」は雑である。ネットの発信者情報開示についてわずか6ページで説明しようとするのは無理があるし、そちらの専門書に任せた方がいいのではないか、と思う。 たぶん、本棚に入れておいて、何か困ったときに2章と3章は読み返す感じになるんではないかな。 実践弁護士業務 実例と経験談から学ぶ 資料・証拠の調査と収集 [ 第一東京弁護士会第一倶楽部 ]
2019.07.15
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日経から出てる『なぜ倒産 23の破綻に学ぶ失敗の法則』を読んだ。感想など書いていく。 なぜ倒産 23社の破綻に学ぶ失敗の法則【電子書籍】[ 帝国データバンク ] タイトル通り、本書は倒産した23の会社の事例を収録し、なぜ会社が倒産したのかを分析、解説していくという内容になっている。ここでいう「倒産」には破産のみならず、民事再生も含んでいるので、本書に収録された会社でも、いまだ存在しているものもありそうだ。 本書のコンセプトとしては、倒産した会社を反面教師にし、そこから何かを学んで欲しい、というところにある。 冒頭で著者が指摘しているが、成功事例は色々は条件が組み合わさっていて再現が難しい。なぜ成功したのか、要因の特定はそんなに簡単ではない。ただ、失敗例は原因の特定がしやすいから、反面教師として有用だ、ということ。 これはある程度の真理のような気はしなくもない。反面教師を使う方が、わりと学びやすいような気はする。 さて、内容だがもともと月刊誌『日経トップリーダー』に収録された連載を編集したものになっている。これを23も収録しているわけだが、大きく3つの類型に分けている。 1つは「無理のある急成長の反動で倒産したもの」、2つは「ビジネスが陳腐化したが、新しいものに対応できなかったもの」、3つが「リスク管理を誤ったもの」になる。 そうは言ってもこの要因が重なることもあるだろうし、世代交代に失敗した事案だとか、リーマンショックみたいな例外的な事情もあるだろうが、概ね分類としてはそんなものだろう。 僕も小さな弁護士事務所を経営しているけど、色々と思うところはある。失敗の原因が特定できたとして、じゃあどうすればいいのか。 自分に置き換えると、こうだ。その1であげられていた無理な借入や設備投資で急成長、というのはやらないとしても、AIの影響でいつ弁護士業陳腐化するか分からない。 たとえば、僕が弁護士になった頃は過払金請求が1つのトレンドになっていたものの、グレーゾーン金利の撤廃だとか、貸金業界の方針転換でいまや過払金というもの自体がなくなった。要するに、過払というジャンル自体が陳腐化したわけだな。もし、将来的の技術革命で交通事故がなくなるとかになると、保険会社から仕事もらってる僕なんかけっこうヤバいことなる。 リスク管理を言うなら、こうやって仕事くれる1つの保険会社に依存しすぎるのもダメだわな。 そうは言っても、どうしたらいいのか。失敗事案の原因は分かっても、自分に置き換えてどうしたらいいのか、答えを出すのはかなり大変だろう。 ところで、欠点としては1つ1つの内容が薄くなっている印象を受ける。 取材を申し込んでも元社長や、破産申立代理人弁護士に回答を拒否されるケースばかりで、ある程度の回答を得られているのは東京もちと、テラマチくらいのものである。あとは、完全に匿名のインタビューが2件ほど。 そりゃ、実際そうだと思うよ。僕も弁護士やってると破産業務をやるんだけど、たまに帝国データバンクとかから電話が来たりする。当然のように守秘義務を使って答えたりしないわけだもの。 ただ、書評を見ていても、僕みたいなことを言っている人はそういない。1つを掘り下げるより、23という豊富な事例と分析に満足しているようだ。 よく考えたら、弁護士というのはかなり近い距離で倒産する会社に接するわけで、この本の内容では物足りないと感じてしまうのだろうか…。弁護士の心の闇は深い。 なぜ倒産 23社の破綻に学ぶ失敗の法則 [ 日経トップリーダー ]
2019.07.14
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軽い読み物として買い集めてる21のメソッドシリーズ、労働事件編を読んだ。感想を書いていく。 こんなところでつまずかない! 労働事件21のメソッド [ 東京弁護士会 親和全期会 ] まず、僕の立場だけれど、労働事件はほとんどやったことがない。年に1件か2件くらい、あるかないかというレベルである。ただ、どれもこれも色々あったなぁ、という気持ちがあるし、あまり頭を使わずにルーティンでできる仕事ではなかったものばかりであっただけに思い入れは深い。 縁があればやりたいなぁ、とは思うものの、あんまないんだよね。そんなわけで、弁護士の体験談を集めた21のメソッドシリーズは基本書や判例では掴めない、生きた法律の使い方だとか、現場での悩みを追体験できて非常に面白い。 しかも、体験談は労働者側と使用者側がバランスよく配置されている。使用者で印象に残ったもなといえば、労働審判の席で「妊娠した労働者を雇い続けなければいけないなんて、おかしいでしょう?」とか言ってしまう人事部長に弁護士が頭を抱えるシーンとか(179ページ)、想像すると読んでいる僕まで胃が痛くなる。 そんな労働事件のメソッドだが2つくらいに絞って見ていく。 1つがメソッド17、合同労組との団体交渉である。 あえて合同労働組合、つまり1つの会社の従業員だけで構成されている組合じゃなくて、複数の企業の従業員によって構成される労働組合で章立てしてる以上、やはり対応が変わって来るのだろう。 自分が対応していた事案を思い出し、読んでて胃が痛くなってきた。ユニオン系はなんかすごい強硬なイメージが強くて…。 自分語りはいくらでもしたいが、差し障りがあるので割愛する。 それから、メソッド19の残業代請求の章。会社がタイムカードの開示を拒否した場合の事案を掲載している。 僕は、自分がやったとき、あんま悩まずに保全やっちゃったけど、掲載されている2つの体験談はいずれも保全はやってなかった。 ある日、突然に裁判官といっしょに会社に乗り込み、タイムカードをコピーして帰ってくる、というのはかなり痛快だったし、またやりたいものだが、あんまやらないのだろうか。そう言えば、相手方の弁護士に「まさか保全までやるとは…」と言われたけど、あれば嫌味だったのかもしれない。 ところで、番外編として面白かったのが、『勤務弁護士は労働者か(11〜13ページ)?」という、若手弁護士が酒飲みながら思考実験としてやるテーマである。 昨今は弁護士の増加から、酒の席の冗談ではなくて、訴訟沙汰になっているケースもあるようだ。本書も一定の考察はしているが、「一様の結論にはなりません。」と、ケースバイケースになることを述べ、考慮要素を提示するに留めている。 常識的と言えばそうだが、白黒ハッキリしない。 法律事務所を構成する上で、資格を持たない事務員と異なり、弁護士というはピンキリで、緩やかな拘束しかない者や、個人受任禁止で事務所の事件しかできないところもある。 このへん、弁護士でないと面白くもなんともないのだろう。そのうち、判決まで行く裁判例が出ないかな、と思ってる。 こんなところでつまずかない! 労働事件21のメソッド [ 東京弁護士会 親和全期会 ]
2019.07.12
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第一法規の判例検索ソフトの契約を更新すると、2万円分の書籍をくれるというので、色々とピックアップしたのだが、21のメソッドシリーズを何冊か貰った。まずは『破産事件21のメソッド』から感想書いていく。 こんなところでつまずかない! 破産事件21のメソッド [ 東京弁護士会 親和全期会 ] この21のメソッドシリーズなのだが、弁護士が事件処理をする上での体験談をまとめた書籍である。 対象としている読者は弁護士であり、法学部の学生が読んでも全く役に立たないと思われる。いや、「学校で学んだ法律というのは、実践ではこう使われるのかー」とか、「弁護士というのはこんな仕事なのかー」くらいのはあるかもしれない。 見どころは、様々な体験談に混じってる失敗談である。人間というのは成功より失敗で学ぶものであり、成功例をマネするより反面教師を見て「こうしたらダメだ」とやる方がたぶん簡単だからだろう。 色々と見ていくのだが、個人的に印象に残ったのを2つくらい紹介したい。 1つ目が、メソッド4、「郷に入っては郷に従え』。 裁判所ごとに破産の書式が違い、また同じ県であっても本庁と支部によって運用が全然違う、というのは基本書には書いてないが、弁護士にとっては超重要である。 僕は、てっきり「他県であっても書式自体が合理的なら見てくれるんだろうな」と思ってたら、そういうわけでもないみたい。また、仮に裁判所が開始決定を出してくれても管財人が「県の書式で全部出し直せ」と言ってきた体験談には悲しい気持ちにさせられる。 それから、メソッド15『換価方法には要注意!』。 管財人による換価なんだけど、私的年金は差押禁止財産になる場合があるのに、うっかり換価しそうになって裁判所から指摘されたというヒヤリハットが載ってる。 うん、これは僕だって素でやっちゃいそう。本書を読んだからやらないだろうけど。 基本的に21のメソッドは200ページくらいの薄い本であるのに、価格は2500円くらい。コスパを考えるとちょいと高い。また、実務書として困ったときに開く本としては微妙である。だが、使い方としては電車での移動中や、待ち時間に読むのに最適であるし、別に困ってないとき、将来困ることに備えて幅広い知識を頭に入れておく分にはちょうどいい。 僕は申立ばかりで管財人はほぼやんないので、その意味では将来に備えてイメージ作りで役に立った。 こんなところでつまずかない! 破産事件21のメソッド [ 東京弁護士会 親和全期会 ]
2019.07.03
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現代日本では,アパート等を借りるときほぼ必ず保証人を求められる。 危険なのが,この手の保証は根保証で上限が決まっていないし,賃貸借契約更新の際,自動的に保証も継続していく点。つまり,支払う金額も,期間についても上限がないから,過酷なことになりがちだという点だ。 判例タイムズ7月号を読んでいたら,この手の事案に使える事案が載っていたので紹介したい。 事案は横浜地裁H31.1.30判例タイムズ191頁。 要するに,被告が賃料3万円強の建物について保証したところ,肝心の賃借人が数年にわたって賃料を滞納し,250万円近い請求を受けたという事案である。 保証人側の主張はおおざっぱにまとめると,「大家側で数年も家賃を滞納させないで追い出せば良かったのに,これほど多額にして請求するのはひどい」という主張だ。 これについて,横浜地裁は大筋で保証人側の主張を認めている。 理屈としては,2通りの法的構成を示したのだ。 第1は,信義則上の義務を根拠とするやり方。 その義務というのは,この手の継続的契約については当事者の信頼関係が基礎になっていることから,賃貸人側には不当に保証人の支払い義務が拡大しないようにする信義則上の義務だ。 あまりにも賃借人の滞納が目に余るのに,大家の方で明渡請求をせず,漫然と滞納金額を増やしている場合には,保証人からの一方的な意思表示で解除ができる,とした(具体的な要件は長くなるので省略)。 第2は,権利濫用を根拠とするやり方。 仮に保証人側から解除の申出がなかったとしても,あまりにも滞納をため込んだ賃貸人からの請求は信義則に反するという考え方。 わざわざ裁判所が2とおりも保証人に有利な法的構成を判決文の中で示すというのが,中立であるべき裁判所としてはどうかと思うが,それほど目に余ったということか。 ちなみに,この保証人は70歳の年金暮らし,保証してから12年ほどたっているという,結構かわいそうな事案だった。 最終的に,横浜地裁としては保証人側が賃貸人に対し,「賃借人とは長年連絡が取れないから,早く追い出してほしい」と述べた時点で解除を認め,支払う金額は約40万円という判断にした。もとの請求額が250万だから8割カットくらいだな。 もともと,源流をさかのぼれば第1の信義則を根拠とした解除の方のアプローチは大審院だとかあるみたい。で,より要件の緩やかな解除すらいらない,という第2のやり方は高裁で数件あるみたい。 実際に弁護士をやっているとこういう法律相談は年に何回かはあるのだ。たぶん,素人が思っている以上に家賃を滞納している人は多い。 今後,この手の依頼を受けたら,今回の横浜地裁の主張をやって,うまくやろうと思う。 あと、保証人になった結果、大家があまりに高額な請求してきたら、「どうせ負けるよ」と思わず、諦めずに弁護士に依頼をしてもいいかもしれない。 こんなところでつまずかない! 不動産事件21のメソッド [ 東京弁護士会 親和全期会 ]
2019.06.29
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婚姻関係破綻にしぼった実務書が新日本法規から出たというので、買って読んでみた。ちょっと感想など書いていく。 事例解説当事者の主張にみる婚姻関係の破綻 [ 赤西芳文 ] 「婚姻関係破綻」というと、法的には大きく2つの側面があると思う。 1つは、不貞行為を原因として慰謝料請求をするという場面において、抗弁として現れるというケース。実務的にはとてもよく見るが、裁判所はほとんどこれを認定しない。 2つに、家事事件において、離婚の原因として主張されるケース。 本書では、55の裁判例を紹介してるが、メインは2の家事事件でのケースになる。1の、不貞行為に関する慰謝料請求への抗弁としての事案は2つくらいしか紹介されていない。 実は、僕が本書を購入したきっかけは、1の不貞行為に関する慰謝料請求への抗弁としての婚姻関係破綻について学びたかったからだ。 前述したが、この主張はほぼ認められない。それでも、主張はされるのであるが、どういうケースで認められ、どういうケースでは認められないのか、じっくり検討してみたかった。 逆に、離婚原因としての婚姻関係破綻は実務上は協議離婚ができるし、別に法定の離婚原因なくても、わりとなんとでもなる。だから、研究者としてはともかく、実務的にはあんま掘り下げて学ぶ必要があんまないのだ。 ただ、それはそれとして、離婚原因としての婚姻関係破綻は面白いテーマだとは思う。 例えば、セックスレスが離婚原因となるかという典型的なテーマから、配偶者がLGBTだったケース、刑事事件を起こして実刑に処せられたケース、宗教活動をやっていたケースなんかも裁判例が紹介されている。 軽い読み物として楽しめるかな。 あと、個人的にすごく参考になりそうなのが、夫が風俗を使っていた場合について、風俗嬢に慰謝料請求できるかという事案(東京高裁H27.7.27)。 東京高裁は、お店でセックスした分については妻に対する不法行為にならないとしたものの、風俗嬢がお店を辞めた後に1回2万5000円で月1〜2回程度、セックスしてた分については不法行為だとしている。 店内でも、店外でもお金が発生してるところには違いないような気もしないでもないが、ちょっと興味深い。 なお、あくまでこの事案でこうなった、というだけなので、お店での行為が常に許されるとは言わない。そこのところは気をつけて欲しい。 事例解説当事者の主張にみる婚姻関係の破綻 [ 赤西芳文 ]
2019.06.16
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判例タイムズ6月号を読んでいたら,離婚後に父親側が再婚をしてしまいさらに子供が生まれた場合の養育費の話が載っていた。再婚と養育費の論点については色々あるのだが,テーマにもなっていなかった公正証書の話なんかも見ていきたい。 事案はこうだ(札幌高裁H30.1.30判例タイムズ1459号110頁)。 父親Xと母Yは色々あって離婚した。子供はAの1人。 父Xと母Yは,養育費について公正証書を作成し,4万円の養育費を支払うことにした。ちなみに,算定表というので計算すると,実際の相場は1万5000円だから,2万5000円くらい高い養育費になる。 のちのち,父Xは再婚し,再婚相手の連れ子2人を養子にしたのだ。ただでさえ相場より高い養育費を払っているうえに,子供も増えたので,元妻Yに養育費を下げてくれ,としたのが今回の事案。 これについて裁判例の傾向を見ていても,裁判所は父親側が再婚して新しく子供ができた場合だとか,養子をとった場合,元妻に支払う養育費を下げてもいい,としている。新しい子どもたちも生きていかねばならいからだ。 札幌高裁もそうして,養育費を再度計算して下げてもいいとした。 ただ,ひっかかるのが,「もともと相場より2万5000円多く払う合意があったのだから,父親は相場より高く支払う意思があったのだろう。」として,相場は1万円くらいのところ,「一切の事情を考慮」というブラックボックスを経て,ちょっと高めの2万円を支払うべし,とした。 個人的に,「算定表の相場より高めの養育費を支払う合意があったから,再度養育費の計算をするときも高めにする」という理屈がいまひとつよくわからない。 この事案だけかと思って軽く調べた。東京高裁H28.7.8判タ1437号も,算定表相場より高めの養育費を定めた父親について,再婚相手に子どもができた場合,やはり元妻への支払いは相場よりも高めにするという理屈を使っていた。 どうなんかなと。 理屈の上で,「当事者には相場よりも高めの養育費を支払う合意があった」ということにはなるのかなと。仮に,夫側が算定表を知っていて,それでも高めの養育費を支払う公正証書を作ったというのならばともかく,いちいち算定表で相場を調べない人も相当多そうだ。 前提が欠けているような気がしないでもない。 ところで,省略した,「再婚相手に子どもができた場合,元妻に養育費をいくら払うべきか」も結構面白いテーマだと思う。 しかし,色々な裁判例を見ていたが,統一した計算をしていないのでよくわからんのだ。とにかくも,減るということは間違いがないのだけど,「具体的にいくらになるか」は即答ができない。 ただ,暇があったので,札幌高裁の計算方法でExcel計算シートなど作った。 左のシートに年収と子どもの数を入れると、右のシートで計算し、左のシート下で答えを出す仕組み。ほかの裁判例の数値を入力してみても,ほかの裁判例と大きな差は出なかったから,今後は法律相談で使ってみるとしよう。
2019.06.13
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最近では浮気調査なんかにも使われているGPS発信機なんだけど,これを設置することがストーカー規制法で定める「見張り」に当たるかという裁判例がタイムズに載っていた。いろいろと興味深いテーマなので見ていく。【新品】【本】刑法各論 大谷實/著事案は福岡高裁H30.9.20判例タイムズ1459号118頁。論点が多岐にわたるので,簡略化すると,こうだ。被告人と被害者は,当時夫婦の関係にあったが,いろいろあって,妻はDV防止法の保護命令を申し立てたりして,家から出てシェルターだとか親族の家で住むようになっていた。そこで,被告人は妻の居所を調べるため,妻の使っていた車にGPS発信機を設置したというのだ。まず,ストーカ規制法のストーカー行為についての要件は大きく2つ。①恋愛感情その他の行為の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で,②住居,勤務先その他通常所在する場所の付近において見張りをすること①も重要だとは思うけど今回については割愛する。テーマは,②で,GPS設置と観察がストーカー規制法の「見張り」かどうかに限定したい。この点,福岡地裁は「見張り」というのは主に感覚器官によって相手方の動静を観察する行為だとしつつ,直接に目で見ず,電子機器を使って相手方に関する情報を得ることも「見張り」だとした。こうやって,ちょっとした拡大解釈をしたのも,ストーカーを規制したいからだ。これと逆の判断をしたのが福岡高裁だ。あくまで「見張り」は広辞苑なんかを引きつつ,「視覚等の感覚器を用いて相手方の動静観察行為」ということに限定した。これは罪刑法定主義からの要請ということになる。さらに,福岡高裁は地裁のいう「見張り」だと,たとえば相手方のSNSを継続的に観察することもストーカーになってしまい,処罰が広がりすぎるというのもの理由にしていた。こうして被告人はGPS設置については無罪になった。ただし,上告したそうなので最高裁でどうなるかわからない。(ちなみに,被告人はGPS以外の方法でもストーカーしているので,全体でみれば有罪である。)GPSというものは最近のテクノロジーの産物であって,法律はGPSなんて想定していないというのが難しいところ。タイムズの解説では,刑事事件の捜査なんかにも影響があるかもしれないとしている。ただ,僕が読んでて思ったのが,不倫の調査でGPS使うの,大丈夫かなというところだった。東京や大阪の方にはピンと来ないかもしれないが,「車にGPS」は車がなければ移動できない田舎では絶大な威力を発揮し,不倫調査ではGPS信号を頼りにラブホテル駐車場にたどりつき,出てくるのを待って撮影なんて手が非常によく使われる。今回はかなり特殊なものだったから,普通の不倫調査なら①の目的の点でも切れるかもしれないが,とりあえず「見張り」にならないという点でも切り捨てられそうだ。ただ,最高裁が出るならその判決次第でいろいろとGPS業界にも動きがあるのかもしれない。
2019.06.07
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最近,全国のいたるところで無料求人広告トラブルが増えている。このあいだ,このテーマで友人弁護士と軽く話もしたが,背後には消費者契約法の改正があるのではないか,という話になった。ちょっとまとめてみる。事案の概略だがだいたいこうだ。まず,従業員数10人くらいの小さな会社なんか,ネットで求人募集をかけないかとファックスだとか電話だとかが来るのだ。料金は1か月10万円だったり20万円だったりするのだが,最初の1か月は無料という説明を受けると,社長としても「とりあえず,やってみようかな」と思ってネットに広告を載せてもらうことになる。落とし穴として,ネットの広告は自動更新されてしまうので,広告掲載期間前の1週間だとかまでに解約というか更新しないという手続きをしなければならない。これを忘れると,まとめて3か月とか半年分の広告料で数十万円の請求がされてしまうというのだ。問題点はこの自動更新を忘れてしまうという点。それから,広告料は3か月分がまとめて請求される方一になり,掲載料として数十万など結構大きな金額の請求が来る点。厄介なことに,今回の求人広告を出すのは会社なので消費者契約法が使えない。なので,詐欺,錯誤,公序良俗といった民法の一般的なもので戦わなければならない。全国の弁護士が色々知恵を出し合っているようなので,まだ語るようなレベルまで僕は到達していないが,そのうち何か方法が生み出されるかもしれない。今回の件で,消費者契約法なんかを調べていて気が付いたのが,平成29年に10条が大きく改正されていたという点だ。そして,消費者契約法10条がこの自動更新を狙い撃ちにする形になっている。改正前後を比べるとこうだ。旧10条民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって,民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは,無効とする。要するに,旧消費者法10条は,著しく消費者に不利な条項を無効にするという,民法90条を発展させるような形になっているわけだ。それが改正され,こうなった。新10条消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって,民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは,無効とする。下線の部分を追加した形だが,「不作為をもって云々」がまさに自動更新を念頭においているのがわかる。つまり,一般人をターゲットにして高額な自動更新の条項をつけてむしり取るという手法が著しく困難になったのだ。もしかすると,平成29年の消費者契約法10条の改正が約2年という時間をへて,この小規模企業をターゲットにした無料求人広告トラブルを生んだきっかけになっているのかもしれない。コンメンタール消費者契約法第2版増補版 [ 日本弁護士連合会 ]
2019.05.29
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政府が「国民は年金をあてにせず自助努力してくれ」と言い放つ事態になっている昨今ですが,判例業界にも高齢者関係のものはよく見る。今回は,雇止めと高齢者の最高裁判決を見ていく。事案は最高裁H30.9.14判例時報2400号96号,おおざっぱにこうだ。原告労働者たちは非常勤というか,6か月の労働期間で6回~9回ほど労働契約の更新をされていた者たちだ。ただ,被告会社は原告労働者たちが65歳になると契約を更新しないという上限規則を理由に契約更新をせず,雇止めにした。これに対し,原告労働者たちが違法な雇止めだといって,労働者としての地位確認を求めたという事案である。これに対し,最高裁は雇止めを合法だとした。論点は多岐にわたるが,65歳以上について契約更新をしないという上限規則についてだけ見ていく。雇止めについて労働契約法19条で色々と定められているが,最高裁はそのへんをあまり論じていない。内容的には,65歳以上について契約を更新しないちう上限条項があるから,そのときに契約が終了する予定のものであったとしている。まず,定年もそうなのだが加齢により労働力が落ちるので,制度として合理的なものだとしているのだ。なお,色々と分からんところもあった。まず,この上限条項という定年を定めた条項の位置づけだ。高裁の書きぶりだと,上限条項による更新拒否は雇止めとは別の契約終了原因だとしていた。これに対し,最高裁は上限条項による更新拒否については,「本件各雇止めの理由に過ぎず,可本件各有機労働契約の独立の終了事由」にならない。と判断している。要件事実的に考えようとして色々考えてみたが,これがずいぶんと難しい。地位確認訴訟に対し,定年つまり上限条項が独立の抗弁にならず,あくまで更新拒否の中でということになると,抗弁としては単なる期間満了が来て,再抗弁に雇止め法理,再々抗弁に合理的事情の評価根拠事実として定年を定めた上限条項という具合になるだろうか。このへんの整理は学者がそのうちやるだろう。改正労働契約法の詳解 Q&Aでみる有期労働契約の実務 [ 第一東京弁護士会 ]
2019.05.27
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実務的には常識となっているが、預金を差押える場合、銀行の支店を特定しなきゃならない。これが最高裁平成23.9.20民集65.6.2710であり、実務的にはこれは動かせない。相手方がどこの銀行使ってるかだけでもわからんというのに、支店までどうやって特定するのだという話で、世の中には泣いてる債権者がいかに多いことか。特にシングルマザーなんかが養育費回収できないなんての、執行法がロクに機能してないからというのが大きい。これについて、全店一括順位づけ方式、つまり支店を特定せず、「複数の店舗に預金があるときは店舗番号の若い順」というようなやり方を認めた高裁決定が判例時報に載ってた(名古屋高裁金沢支部H30.6.20判例時報2399号33頁)。どういう場合に、どうやれば全店一括順位づけ方式が取れるか、参考になりそうなので見ていく。事案として、預金差押えの第三債務者となった銀行に大きく二点ほど特殊な点があった。第1は、対象となった銀行はネット専用の銀行ではないが、実店舗は首都圏や関西に十数店しかないという、ネット専業銀行に近いという点だ。あんま支店が重視されないということだ。ただ、時報ではZ銀行になってて、具体的にどこの銀行かまでは時報で書いてないので不明である。第2に、これがたぶん一番大きなところだが、事前に弁護士が銀行に弁護士法23条の2に基づく照会をしたところ、銀行は「本店に差押命令が送達された場合、全店を調査して預金差押えできます」と回答してるところ。さらに銀行側は照会に対する回答として、「全店一括順位づけ方式をとる場合、店舗の若い順でやってほしい」とまで回答してる。債権者の弁護士はこの照会結果を資料として執行裁判所に提出し、富山地裁は最高裁決定に拘泥して拒否したが、名古屋高裁は個別の事情から認たという形になる。時報を読む限り、具体的に「どこの銀行か?」というのが分からんのがツラいし、また「どんな照会をしたのか」までは書いてないが文脈からすると「御行は支店を特定しない、全店一括順位づけ方式で対応できますか?」というような照会をしたのだろうね。一手間はかかるものの、預金差押えする前に、「全店一括順位づけ方式で対応できますか?」と照会をして、照会結果を資料として提出すれば認められる可能性がある、ということになるかもしれない。順番として最初に論じるべきかもしれなかったが、そもそもなぜ預金差押えする場合に支店を特定しなきゃならないのか、といえば別に民事執行法にそこまで書かれているわけではない。裁判所が、「銀行さんの方で速やかに、かつ確実に差押えられた権利が識別できないだろう」と配慮してるという理由である。逆に言えば、法改正までしなくても、ここさえクリアできたら別に支店を特定しなくてもいいということになる。この全店一括順位づけ方式を否定した最高裁決定は平成23年だからもはや10年近く前。いまやネットバンクはどこの銀行でもやってて、僕たちはネット上から預金の動きは簡単に見られたり、振込なんかまでできる時代だ。ならば、本店の方で支店の預金くらいわかってるんじゃないか。このあたり、弁護士会とか金融庁なりなんなりが音頭をとって動いて欲しいものだ。【送料無料】 模範小六法 平成31年版 / 判例六法編修委員会 【辞書・辞典】
2019.05.12
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いまさら人に聞けないような初歩の,それでいて極めて実務的な法律問題についてまとめた『Q&A分けて弁護士からの相談374問』を読んだ。軽く感想を書いていく。 Q&A若手弁護士からの相談374問 [ 京野哲也 ] まずは簡単に目次を見ていこう,とおもったが全部で19章もあるので,いちいち列挙するだけで大変なことになる。とりあえず面白そうなのを3つほど上げるとこんな感じ。 第1章 情報収集と情報の取り扱い 第2章 相手方の行方不明・不在の場合 第14章 小さな会社・団体のよくある相談 まず,「職務上請求で取った戸籍を依頼者に見せていいのか」とか,「相手のおおよそ住所が分かっている場合の住民票取得」とか,基本書にはあまり掲載されていないだろう,現場での対応について書かれている。 このほか,「不貞相手への受任通知を送る際の注意」だとか,「字が書けない人からの委任状の取り方」たとか,極めて基礎的であるが,実務的に迷いやすいものばかり書いてある。 特に第14章の「小さな会社・団体のよくある相談」は必見である。法人なりしている家族会社は株式会社ではあるものの,実質は個人商店と変わらない。それでも一応は会社になっているため,株主総会をしてないとかはザラであり,名義貸し的に取締役になっているものの,登記を抹消してくれない等の奇妙な相談が来る。 会社法を知っていれば自力で答えが導き出せるのだが,意外とこういうのは自信をもって答えづらく,こんなもの解説している書籍は貴重である。 正直,374問もQ&Aを集めれば,「こんなの常識だよ」というものもあるけど,自分があまり扱わない分野だと,「危な…知らなかったぞ…。」というものもある。 具体的に,何を知らなかったかは恥ずかしくて書けないが,弁護士を5年以上やっている僕でも知らないことは平気で書いてあるし,Twitter見てると修習生時代に僕を指導してくれた民事弁護教官ですら「役に立つ」と述べているのだから。 また,量を重視しているため,1つ1つの解説は短い。その代わり,必要な参考文献を網羅して,いちいち適示してくれる。「より深く知りたければ,この参考書籍を読め」ということだ。必要な知識があるが,どの本を読めばいいか分からない,という状態を解消できるのも魅力だな。 Twitterでもバズったが,本書54頁には「無知ゆえに不安がない,というのが最も危険です」とある。これはまさしく至言であり,法律家たるもの理屈や頭で考えるより先に,危険なところが感覚的に分かるようにならなくてはいけない。そのためには広い知識を入れる必要がある。 「質より量」という考え方もあるが,「量は質を担保する」という考え方もある。この本はそのために役立つというべきだろう。
2019.05.07
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弁護士やっているとありがちな「父親の相続のとき,長男は多めにとったから,母親の相続のときに多めに貰いたい」という形の事案について,遺留分という形でアプローチしたものがタイムズ5月号に最高裁判決が載ってた。ちょうど判例時報の5月1日号付録の評釈にも,これと類似する東京高裁の解説が載ってたから,少し見ていく。判例タイムズ 2019年 05月号 [雑誌]事案を少し簡略化して紹介する(最高裁H30.10.19判例タイムズ1458号95頁)。前提として,原告と被告は兄弟である。まず,父親の遺産が1200万円の現金のみを残して死亡した(この1200万円は割り算がしやすいから改変した)。このとき,母親は自分の相続分である2分の1(600万円)を長男に譲渡し,長男と次男はそれぞれ相続分に応じて父の遺産分割をした。つまり,母親は自分の相続分を長男に譲渡したからゼロ円,長男は遺産の4分の3である900万円,次男は4分の1の300万円だ。のち,母も亡くなるのだけど,母の死亡時に持っていた財産はゼロだった。長男としては,「母の遺産はなし」で終わらせたかったのだろうが,次男はかねてから不満だったのだろう,「母親の長男への相続分の譲渡」によって遺留分が侵害されたとして,長男に遺留分減殺請求をしたのだ。これについて,最高裁は次男の言い分を認め,母親から長男への相続分の譲渡は次男の遺留分を侵害すると判断し,高裁に差し戻したのである。具体的に考えると,次男の母親の財産であるべき600万についての遺留分は2分の1の2分の1,つまり4分の1である125万円が貰えることになる(実際,こんな分かりやすく現金のみを残して死亡ということではなくて不動産等もあるから価格算定の問題は残る。)要するに,問題は遺留分減殺請求の根拠条文である民法903条1項にいう「譲渡」には,「相続分の譲渡」が含まれるのか,という論点になる。実務で非常にありがちな話であるが,僕はこういう「父の相続のときの不平等を母のときに調整したい」について遺留分という発想自体したことがなかった。ブログを書きながら,現金のみ残して死亡した場合を具体的に考えると,「確かに普通の贈与と変わらんな」とは思い至ったが。ちなみに,この最高裁判決の原審も原々審も,次男の請求をしりぞけて抽象的な相続分だからとか,色々な考え方があるにせよ,次男の請求を認めていなかった。ちなみに,前述のとおり,こういった事案について5月1日発売の判例時報2398号の付録,判例評釈723号に別事案の高裁判決についての解説がされている。下級審で判断は分かれていたようだから,今後は最高裁のやり方が実務のスタンダードになるのだろう。それにしても,この判決は実務にかなり大きな影響を与えるのではないかと思う。だいたい,男性の方が女性より平均寿命が短いのだから,基本的に財産を持ってる父親の方が財産をほとんど持っていない母親より先に死ぬというのは自然の摂理だ。そして,母親も「どうせ老い先短いし」とか言って,父親の相続のときに自分の分を長男に先渡ししてしまうというのもありがちだ。こういうありがちなところに対応できるし,何より遺留分減殺請求はいくらでも過去に遡れる。そのうち,この手の遺留分減殺請求の使い方はどの町弁でも絶対に知っていなければならない知識になるかもしれない。予防法務的な観点からすれば,遺産分割のやり方次第では将来の争いのタネになるから,持ち戻し免除とか何らやと,遺産分割協議書作成の際にも必須の知識になるだろう。と思いきや,前述の判例評釈では丁寧に相続法改正にも触れられている。これによると,相続開始から10年以上前にされた贈与は損害を与える認識があった場合に限って算入だとか色々変わるみたい。そうは言っても,基本的な考え方は変わるまいから,これは頭に刻んでおくべきだと思うな。
2019.05.01
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ゴールデンウィークながらちょい判例タイムズを読んでいたら,速度を競うように複数の車両が危険運転をした場合の,危険運転と共犯の関係についての最高裁判決(判例タイムズ1458号110頁)が載っていた。時報にも去年くらいに地裁の判決が載っていた事案だ。軽く見ていく。判例タイムズ 2019年 05月号 [雑誌]最高裁は法律判断しかしてないから,地裁を参考にすると事案は以下のとおり(札幌地裁H28.11.10,札幌高裁H29.4.14判例時報2373号113頁)。被告人Aと被告人Bは,友人たちと居酒屋で酒を飲んだあと,別の店で飲みなおすことになった。被告人A,Bの車両にそれぞれの車に友人たちを乗せ,別の居酒屋に向かったのだ。このとき,A,Bはそれぞれ公道でスピード勝負を始め,赤信号無視の状態で交差点に突入した。そのため,Aは青信号で交差点に入ってきた被害者たちの車に衝突した。さらに,Bは車外に放り出された被害者を轢いてしまい,最終的に被害者一家4人が死亡,1人が重傷を負った。細かな論点があるけど,地裁はABが共同正犯だということにした。こうすると,一部実行全部責任ということで,実際に車に衝突しなかったBにも全責任を追及できることになる。これにBは異議を唱えた。共謀はしていないから,共犯ではないと主張したのだ。これについて,最高裁まで争ったが,最高裁はABは互いに赤信号を無視する危険運転をする意思を暗黙のうちに通じ合い,危険運転をしたと判断したのだ。今回の事案だと,BもBで車外に放り出された人を轢いてはいるので,その分は個人的に責任を負ったのだろうけど,共同正犯ということになるとになると全責任を負わなければならない。なお,時報の解説によるとこの手の複数の車両で速度を競うようにした結果の事故について危険運転になるかは他に前例がないそうだ。今回の考え方で言えば,仮にBが全く人を轢いていなかったとしても,Aと同じ危険運転致死罪になったのだろう。今後は公道レースや暴走族なんかの事案で使われそうだ。ちなみに,刑罰はABにそれぞれ懲役23年。飲酒もあったり,4人も死亡している事故だということを考えると,過失犯とはいえかなり重いものだ。
2019.04.30
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判例時報読んでたら、高齢者の囲い込みに関して裁判例が載ってた(横浜地裁H30.7.20判例時報2396号30頁)。 迅速を第一とする仮処分に対する保全異議という事案の性質上、事案の把握はよく分からないところもあるが、ざっくり見ていく。 実例弁護士が悩む高齢者に関する法律相談 専門弁護士による実践的解決のノウハウ [ 第一東京弁護士会法律相談運営委員会 ] 「高齢者の囲い込み」なんだけど、実務上、たまに見る案件だ。子が、他の兄弟と年老いた親を合わせないよう、囲い込んでしまうのだ。 典型的には、兄弟間で認知症になってる親の財産を巡って対立がある場合に見られることが多いと思う。老いた親は施設に入ってたり、自宅にいたりするけど、とにかく親が自分以外の子と合わせないようにする。 囲い込んでいる方は事実上、親の財産を自分の物のように使えることになる。じゃ、囲い込んでる方が悪者かと言えばそうでもないだろう。この逆に、子が老いた親の年金を取り上げるなどの経済的虐待をしてるの助けるため、兄弟が親を助けるために囲い込む場合もありえる。 時報の解説によると近年、この手のトラブルが増えてるらしい。これも、なんもかんも政治が悪いのがいかんのだと思う。 今回の横浜地裁の事案では、囲い込んでいるのが長男で、訴えた方がその妹だ。長男がなぜ老いた親を妹に合わせないのか、これはよく分からない。 妹の方には弁護士がついているけど、長男の方は弁護士がおらず、本人訴訟の形になっているから、有効な反論が出てきてないように見える。 この事案につき、妹は仮処分を申し立てた。この仮処分が認められたから、次は保全異議がなされた。 ちょい面白いのが、妹側が被保全権である「子が親に会う権利」を引っ張りだすために人格権を使っているところだ。 ただ、保全異議に対する決定をよく読むと、裁判所はおおよそ、「子は両親の状況を確認し、必要な扶養をするため、面会交流を希望するのは当然である。」といって、子が親と面会する権利を認めて妹を勝たせたが、この権利は民法何条から出てきたのか、特に言ってはいない。 ところで、人格権というのは民法上で明文がないものだ。学説では、たかが物の円満な行使ができないというのを防ぐため物権的請求権があるのだから、それより価値があるにんげんのため、人格権があるということになってる。 ただ、その内容はよく分からない。時報の解説によると、老いた親の囲い込み事案は初めてらしいから、先例もないのにその手の不確かなものを使いたくなかったのかもしれない。前述のとおり、長男側は弁護士を使っていないため、ほとんど法的に有効な反論が出来てないように見えるから、しっかりやってれば分からない。 ただ、実務上参考になることは間違いないと思う。仮処分が人格権を使った論法でいけるなら、本訴だって人格権でいけるはずだから。 ちなみに、似た事案として、離婚した場合の、親子の面会交流がある。こちらは民法766条が法的根拠になってるし、実現のための家事調停なんかも充実してるので、あんまり難しい事を考えなくて良さそうだ。
2019.04.13
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弁護士がわりとよくやってる,自己破産の申立なんだけど,これの事務手続きの遺漏で訴えられている事件がタイムズ4月号に載っていたので紹介したい。事案としてはおおよそこんな感じ(金沢地裁H30.9.13判例タイムズ1457号172頁)。A社は破産することになり,被告弁護士に破産申立を依頼したのだ。そこで,被告弁護士は原告会社を初めてとする債権者に受任通知を送った。しかし,原告会社から被告弁護士への債権調査票は,これが返送されなかったのか,郵便事故か,あるいは被告弁護士が紛失したのか不明ながら,被告弁護士は原告会社を債権者一覧表に記載しなかった。色々な急ぎの事情もあり,被告弁護士は依頼から1か月ちょいという短期間で破産手続開始決定までもっていったものの,原告会社の名前が債権者一覧表から抜けていたため,管財人も原告会社に気が付かず,原告会社は破産手続きで配当を受けられなかった。そこで,原告会社は得られたであろう配当相当額の損害賠償を求め,被告弁護士を訴えたという事案である。これについて,そもそも原告会社は債権届を出したのか等いろいろ争いはある。ただ,金沢地裁は「信義則上,申立代理人は受任通知を送った債権者に対しても,信義則上,明らかに債権を有しないのが明らかな場合を除き,債権者一覧表に名前を入れなければならない」という義務を認めている。そのうえで,債権調査票が届いていなかったとしても,原告会社には1000万円以上の債権があるわけでそれなりに取引があるのだし,帳簿を分析すればわかったはずだ,として被告弁護士の責任を認めているのだ。ただし,原告会社も調べれば破産の状況がわかったはずだとして,裁判所は2割の過失相殺をしている。タイムズの解説によると,この手の事案は前例が見当たらないらしい。ただ,比較的にありそうな事件ではある。きんざいから出てる『破産申立代理人の地位と責任』の目次を眺めていたけど,財産散逸防止義務の話だとか,そういう話はあるけど,今回のケースのような話はしていない。今後はこの手の,債権者一覧票からのも増えてくるのかもしれない。破産申立代理人の地位と責任 [ 全国倒産処理弁護士ネットワーク ]個人的な感想なのだけど,今回の破産会社の債権者は99名,負債総額約10億円というかなりの規模の事件である。これをわずか1か月で開始決定までもっていくというのだから,債権額1000万円といえど見落としもありえるだろうな,と思わないでもない。ところで,僕も破産申立の代理をわりとやっている方だと思うけど,一度,すでに配当も終わった事件の件で債権者である某社から問い合わせが来て,冷や汗をかいたことがある。そのときは,僕じゃなくて某社が間違えて僕に電話かけて来ただけだったんだけど,それでも焦ったなものだ。また,金沢地裁は同時に訴えられていた管財人の責任は否定したけど,ブログ記事が長くなるので割愛した。
2019.03.29
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日本会議というものを初めて耳にしたのはいつだっただろうか。たぶん,森友学園が問題になったあたりではないかと思う。Wikipediaなんか見ると,森友学園問題が報道されるようになったのは2017年2月。本書は2016年7月発行だから,ちょっと古い感があるが,読んでみたので感想を書いていく。なお,著者は「そうしたことごとをすべて踏まえ,日本会議の正体とはいったいなんなのか。私なりの結論を一言でいえば,戦後日本の民主主義を死滅に追い込めない悪性ウイルスのようなものではないかと思っている」(245頁)と論じているので,そういう視点で書かれているのを先に述べておく。日本会議の正体【電子書籍】[ 青木理 ]とりあえず,内容に触れる前に目次だけ引用してみる。第1章 日本会議の現在第2章 ’もうひとつの学生運動’と生長の家第3章 いすぶる戦前への回帰願望第4章 ’草の根運動’の軌跡第5章 安倍政権との共振,その実相まずは,第1章から2章くらいで日本会議というものの概略が説明される。それで,歴史なんだが,1997年に設立しているというのだがから,本書執筆の時点で約20年くらい。意外に浅いように思えるが,どうだろうか。ただ,日本会議自体は20年程度の歴史しかないといっても,この源流をたどるとこれが結構古い。その母体ともいえるのが宗教団体「生長の家」だ。これが政治と密接に結びついていて,日本会議のコアメンバーにもかなり「生長の家」の信者が入っているという。ただ,面白いのが「生長の家」の教祖が代替わりしたことで政治との距離が置かれ,現在の「生長の家」は自民党に反対の意思表示をしているというのも興味深い。しかし,日本会議は源流に宗教団体があったとしても,もはや宗教と関係ないのかというとそうでもない。現在の日本会議は神社本庁と強いつながりがあるというのだから,保守という根っこを維持しつつも,宗教はあくまで枝葉ということになるのやもしれない。さて,4章で草の根活動として,日本会議の前身ともいえる諸団体の運動が語られる。元号の法制化だとか,泰邦を巡る動きだとか…。意外に思えるのが,かつての自民党が憲法改正に消極的で,日本会議がクレームをつけたという話。いまの自民党からは考えられないものだ。最後の5章,「安倍政権との共振,その実相」はもう説明の必要があんまりないだろう。このブログ記事をここまで読んでる人ならだいたいわかっているだろうし,日々刻刻と世相は変わっていて,当時と今では色々と世相も変わっているだろうから。現在(2019年)では防衛相の文書隠しや数々の失言で失脚した稲田朋美が「右派政界の時期エース」として紹介されているのは本当に時代を感じる。なお,本書は時期があくまで2016年,森友学園問題が発覚する前という古い書籍であるためだろうか,ネット右翼の活動なんかについては一切記述はない。この辺の情報のアップデートも必要になるだろう。また,本書45頁に日本会議の幹部のリストが載っているのだが,名誉会長に「三好達(元最高裁判所長官)」とあるではないか。本書では司法と日本会議の関連は何も述べていないが,弁護士やってる僕としては,ここは非常に気になるところだよ…。本書を読んで気になったら,菅野保の『日本会議の研究』でも読んでみればいいと思う。日本会議の研究【電子書籍】[ 菅野完 ]
2019.03.17
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判例時報を読んでいたら,「スマホながら運転」についての裁判例が載っていた。事案(大阪高裁H30.10.4判例時報2392号83頁)はこうだ。被告人は,高速道路上でスマホのナビゲーションアプリを使いながら大型貨物自動車を運転していた。途中,スマホを床に落としたから拾い上げたり,画面のチラ見をしていた結果,被告人は渋滞で停止中か減速中の被害車両に追突し,1名が死亡したうえ,4名を負傷させたのだ。実際,スマホながら運転という事案は「新しい」態様の事故であるが,早々珍しいものでもなく,先例が結構ある。なにゆえ,この事案を時報がまとめたかといえば,「なぜスマホながら運転は,普通のわき見運転より重く処罰するのか」という点について判断したからだ。要約すると,「類型的に危険」なんだよね。「単なる注意散漫等というより,運転者が積極的に選択して招いた行為だ」としている。しかも,地裁は検察官の求刑よりも重たく処罰をしているし,高裁もその地裁の判断を維持した形になっている。ところで,時報の解説に,先行するスマホながら運転の裁判例が8件ほど掲載されてた。うち1件は僕の検索ソフトで引っかからなかったが,大阪高裁を含めちょっと興味をもって調べてみたのが,下の表。PDFが見にくいが写真。基本実刑で,1件だけ執行猶予がある。見てて分かるのが,貨物自動車がやたら多い。物理の授業で習ったが,「重量×速度=破壊力」ということだから,車両が重たければ重たいほど,死亡結果が生じやすいということなのかな。また,大阪高裁が,「別に,ゲームだろうが地図アプリだろうが区別はしない」と判示していたとおり,特に差があるようには見えない。むしろ僕が見つけた1件だけの執行猶予はゲームをしていた事案だったし。弁護人としては,この1件だけの執行猶予を参考にすべきなのだが,これはクレーン車の,信号待ちからの発信直後という特殊過ぎる例であんま参考になりそうにない。なお,今後は法改正でより厳罰化するという話もあるから,今調べたのがどれほどの役に立つのか,という考えはあるが,自分用メモ的な意味も含め,記録しておこう。
2019.03.04
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Twitter業界で話題の白ブリーフ裁判官こと岡口基一の新刊買って読んでみた。表紙は、いわゆる「岡口立ち」と言われるポーズを決めた岡口さんのイラスト。帯で隠しているが、帯を外すとブリーフが出てきて、攻めた内容になってる。裁判官は劣化しているのか [ 岡口基一 ]目次を引用するとこんな感じ。1章 思い出話を通じて昔の裁判所を語ろう2章 昔の裁判官の「智」を支えたシステムを知ろう3章 裁判官を劣化させる原因を知ろう4章 裁判官を劣化させない方策を考えよう大雑把に、1〜2章で古き良き裁判所を語り、3章以下で今の裁判官の劣化、質が落ちているという話をしていく。ただ、極端にまとめると裁判官暦25年の岡口さんが、「今どきの裁判所は…」と言っているようなものなのかな。岡口さんは今の裁判所は劣化している、と考えているようだ。色々と原因は述べているが、たとえば、飲みニケーションがほとんどなくなったことをあげている。昔の裁判所は飲み会が多かった。この飲み会の席で人間関係が構築され、先輩裁判官から後輩裁判官へ口頭による智の承継がされていた、とこう言うのだ。これは、どうなんかな…。僕も本で読んだことのない問題について、先輩弁護士から飲み会の場で教えてもらったこともあるし、また人間関係がある程度ないと気楽には質問もしにくい。だか、飲みニケーションの弊害もあろうし、全員が飲みニケーションをしてたわけでもあるまい。また、裁判所以外でも飲みニケーションが減ってるとして、他の職場も劣化してるのかというと…。肌感覚としては分からんでもないけど統計データもないのでなんとも言えない。裁判官の勤務環境の特殊性はあるにせよ、少なくとも、「弁護士業界は飲みニケーションが減ったから質が落ちた」というのは聞いたことがないし、また飲みニケーションをしないけど優秀な弁護士はいくらでもいるから、やや僕は懐疑的ではある。また、岡口さんが問題視しているのは、判決の書式だ。かつての、判決は従来様式という形で作られており、判決理由中で当事者の主張がまとめられ、証拠の採否も記載されていた。ところが、近年になっての新様式だと、争点を中心に書くので、当事者の主張を全て拾い上げるわけではないし、証拠の採否も書かれない。当事者の主張をまとめなくても判決が書けてしまうし、また裁判所的な細かな書き方のルールがなくなったことで、技術と智が衰えた、との話になってる。ここも僕としてはコメントはできない。だって、僕が弁護士になったころまでには従来様式は駆逐されてたから、この時代を知らんのだ。もし、岡口さんの言うように裁判所での智の承継とやらが口頭だというのなら、そこにこそ問題があるんじゃないかな。よって立つものが先輩裁判官の言葉しかないし、書籍もないという状況として、本当に先輩裁判官の口から出る言葉が正解なのか。謎のマナー講師なんかも世にいるが、それが間違ってる可能性はないのか。それにしても不思議なのは、岡口さん以外にほとんど要件事実の書籍ないことだ。別に岡口さんの専売特許というわけであるまいし。実際、岡口さんの要件事実本を読んでない法曹はほぼいないだろうし。需要がないからなのかなぁ?期待していたのは岡口さんのTwitterでの懲戒の話だと、その辺だったのだけど、その話は特にない。かつて運営していたボ2ネタの話はあるのに、Twitterの話がないというのはバランスを失しているのかな。また、僕に言わせれば裁判所の劣化というか、問題は他にも色々あるだろうと。たとえば、人質司法はどうか。裁判所が自販機のように令状出すから起こるのであって、責任の半分は裁判所の問題だ。まことしやかに民事の判決をコピペするコピペ裁判官のことが語られているが,僕は知ってる。刑事の準抗告却下決定なんかがコピペで作られていることを。せめて対応する理由くらい書いてくれよ。難民はどうか。法律文とかけ離れた解釈をしてないか。民事執行はどうか。銀行の支店がどうだろうが、差押命令出してくれと。
2019.03.01
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