人生必昇

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貧乏学生アテネ五輪観戦旅行7日間(前半)

貧乏学生アテネ五輪観戦旅行7日間(前半)



イスタンブールからアテネへ行くことを決意-「野宿すればいっか」
 2004年8月。ギリシャでアテネオリンピックが開かれた。7月から9月にかけてトルコのイスタンブールにあるトルコ航空でインターンシップに参加していた僕は、五輪を見るというチャンスをどうしても逃したくなかった。ある新聞の記事がますますその気にさせた。
「五輪チケット売れ行き不調―」
でもホテル代が高い・・・噂によると値段が10倍まで跳ね上がっているところもあるとか。一泊数百ユーロ(1ユーロ=135円ぐらい)とか学生の僕にそんなに払う能力はない。あー、でも行きたい!これを逃したらいつ行けるかわからない。学生の今がチャンスだ。ということで
「じゃ、野宿すればいっか」
と思い、五輪を見に行くことに決定。チケットはヨーロッパに住んでいる人以外はネットで買うことが出来ないので、現地に行ってから見つけるしかなかった。せめて女子マラソンやサッカー、野球は見たいなー。初日だけは様子を見たいのでホテルを予約した。一泊60ユーロ。ただしアテネから電車で2時間かかるコリントスという街にあるホテル。

1日目



●アテネへ
イスタンブール-アテネの航空券と寝袋を購入。そして五輪日本代表田中達也のTシャツを持ってアテネに向かった。フライト時間は約1時間。ギリシャらしくオリンピック航空という名前の会社を使った。空港に着くとそこはすっかり五輪気分。ボランティアがたくさんいる。まず五輪チケットを買わないと。空港のチケットカウンターには行列が出来ていた。一人一人の購入時間がものすごく長い。チケットを売る人は実に面倒くさそうにノロノロと動く―。そして僕の出番。
「野球決勝のチケットは?」
「ない」
「-は?」「ない」「-は?」「ない」・・・(自分の気分で勝手な翻訳してます)
野球の決勝戦のチケットも一部サッカーも残っていないらしい。仕方ないので野球3位決定戦、女子マラソンと女子バレーのチケットを買った。しかしなんて態度の悪い人だ。タバコを吸いながらノロノロとやる。この人に五輪を成功させたいという気持ちがあるんだろうか。外国に来るとこういうことが多い。

●アテネ中心街
 バスでアテネ中心街へと向かった。五輪の看板がたくさん建てられている。世界中から人が来ていた。ああこれが五輪なんだ。今日は試合を見ずにアテネ市街をブラブラ歩き、あとはコリントスに移動することにしよう。僕は重い重い荷物を持っていたので、暑いアテネを歩くのは本当にキツかった。五輪を実に来ている多くの人は自分の国の国旗を持って歩いていた。マントのように付けている人も多い。ここは自分、いや自分らをアピールしなきゃと思い、僕も大きな日本国旗を買った。
 実はチケットはいろんな場所で売られていた。公式に認められたチケット売買所の他にも、いろいろな場所で売られていた。しかも人気のない試合などは格安で。試合直前で人気のない競技(確か陸上の何か)なんて5ユーロで売られていた。とりあえず他にも見たい競技のチケットを買おうとマラソンのゴールであるパナティナイコスタジアムの前で男子サッカー準決勝と女子レスリングのチケットを買った。でも待ち時間だけでかなりかかったので、もう観光している時間はない。コリントスへ行こう。

●コリントス
コリントスへは電車で向かった。時間通り来るのかが心配だったけれど、無事乗ることができた。写真は撮っていなかったけれど、電車から見る青々としたエーゲ海は格別だった。コリントスに着いた夜7時ごろ。暗くなる前にビーチの写真でも撮りたいと思い、チェックインの後ビーチへ向かった。一変ここは五輪ムードなどほとんどない。アジア人が珍しいのだろうか、不思議そうな顔で皆僕を見る。写真を撮る姿をジーッと見ている。
   「やりにくいなぁ・・・」
パッパと終わらせて夕飯を食べてホテルに戻ることにした。ユーロを導入したせいなのか、何もかも高い。夕食に10ユーロもかかった。駅で売っているサンドイッチ一つにしても3ユーロする。日本よりも正直物価が高いんじゃないか。アテネはともかくコリントスもこうなのか・・・。とまぁ今日はあまりいいことがなかったけれど、明日に備えて寝ることにした。

二日目



●あぁ、寝坊-「OK」
 朝5時半のバスでアテネに行く予定だった。しかし起きたのは5時40分。昨日5時に起こしてもらうように頼んでおいたのに何で?ああ、日本対ケニアの女子バレーの試合に間に合わないかも・・・。仕方なく次のバスで行くことにした。チェックアウトのときにカウンターのおじいさんに言った。昨日頼んだときには彼はいなかった。
   「今何時だと思っているですか?5時に電話をかけてほしいと言ったのに。試合が始まるんですよ!」
   「OK」
   「間に合わないんですよ!」
   「・・・」
   「OK」
英語が通じないらしい。ギリシャの多くの人は英語を話すことができるけど、お年寄りには苦手な人が多いようだ。どうしようもないので6時半のバスで行くことにした。あ、モーニングコールを受けたけど目覚めなかった“かもしれない”ことは置いておきます。

●野良犬
 なんと、寝ていて気付いたらそこはアテネだった。1時間しかかからなかった。アテネのバスのターミナル周辺にはかなりの数の野良犬がいて、正直ちょっと気味が悪かった。五輪のためにギリシャ政府は数万匹の野良犬を殺したらしい。その処置はかなり惨い。それでも多くの野良犬がいた。どうしてこんなに増えたのか。

●仲間ができた

バレーボールの会場(左上にファンがメッセージを書いた国旗が見える)


volleyball

試合が始まってしまうと思って急いで会場に向かったのだけれど、なぜか日本人の客が会場周辺をブラブラしている。聞いてみると日本の試合は第2試合でまだらしい。どうやら一枚のチケットでその日の試合を全て見られるのだった。チケットに書かれた時間は第1試合の開始時刻だった。僕の席は体育館の中の一番上で、ただ一人。
   「ここじゃ声出しにくいなぁ・・・」
試合は圧倒的に日本が強かった。向かいのスタンドでは日本人客がニッポンコールで応援していた。すると、自分の前に座っていた若いギリシャ人グループがマネをして
   「ニッポンニッポン」と言う。
ケニアが点を入れるたびに高い声を出して喜んでいたのに・・・。いかにも馬鹿にしたような行為だったのでイヤな気分だった。我慢ならなくて僕も
   「ニッポーン」
と叫んだ。すると彼らは一斉に僕の方を向いた。
   「あぁ、まともに応援できない自分が情けない・・・」
勝ったのはいいけど後味悪いなぁ。すると試合後にサッカーの日本代表ユニホームを着た男性が一人で選手に向かってニッポンコールをしていたのを発見した。僕もうっぷんを晴らすように彼の隣でニッポンコールをした。これをきっかけに彼とはアテネにいる間行動を共にすることになる。

●インドのテレビ局にインタビューを受ける
彼はタツさんといって、イタリア、ブルガリアを経由してアテネに来たらしい。元々ボクシングをしていて体格がいい。彼も偶然近くにいたので五輪を見にくることにしたとか。タツさんと一緒にアテネの市街地にあるオープンカフェで昼食をとった。彼が泊まっているのはHostelling Internationalのユースホステルだった。ユースホステルというと普通2000円ぐらいをイメージすると思う。ところがここは、
    一泊100ユーロ!!
ユースでさえこれなんだ。ホテルになんか泊まれるはずがない。中身を見せてもらったけれど、ユースにしては綺麗で、泊まり心地は良さそうだった。
ユースの前に二人でいると、カメラマンとアナウンサーが近づいてきた。彼らはインドのテレビ局から来たらしい。
   「私たちはオリンピックに来ている世界中の人たちにどういうところに泊まっているのかを聞いてまわっているの」
ということで僕らはインタビューを受けることになった。実は朝もTBSのインタビューを受けたけどあまりにもひどく、たぶんカットでしょう。アナがユースを指して、
     アナ「あなたたちはここに泊まっているんですか?」
   タツさん「はい」
      僕「いいえ」
ここで僕はアナではなくカメラを向いていたので、アナにカメラ目線をやめるように注意される。
     アナ「オリンピックということでどこも高いようですが、気になりませんか?」
   タツさん「高いけれど、オリンピックは滅多にない貴重な機会です。ですから僕は気にしていません。」
      僕「いやぁ、僕は学生だし貧乏なので野宿します。」
これが貧乏日本人学生のインドデビューだった。僕は野宿をしてでも五輪を見るという魂を多くの人に伝えたかっただけなんだ。

●女子マラソン-首位でもビリでも応援を

パナティナイコスタジアム


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 夕方はお互いに見る試合が異なっていた。タツさんはボクシングを、僕はパナティナイコスタジアムで女子マラソンのゴールを見ることになった。パナティナイコスタジアムにいるのはほとんどがイギリス人と日本人で、やはり多くがラドクリフと野口に期待して見に来たんだろうと思った。マラソンはスクリーンで中継されるけれど、待っている間は本当に暇。その間は隣の日本人の人と話したり、写真を撮ったりしていた。イギリス人もノリのいいもので、音楽に合わせてスタジアムで踊っていた。
 僕の後ろには一緒に観戦に来ていた二つの日本人家族が座っていた。彼らは初めての3回前の五輪で知り合い、以来五輪のたびに一緒に見に来ているらしい。こういう出会いを与えてくれるのも五輪の醍醐味だと思う。
 するとアクシデントが・・・。ラドクリフがリタイアしてしまった。多くのイギリス人がさっきまであんなに盛り上がっていたのに一気に元気をなくしてしまった。かわいそうに・・・。必死で立ち上がろうとするラドクリフからは五輪にかける意気込みと悔しさが伝わってきた。
 一方首位をキープしているのはダントツで野口みずき。目の前で日本人が金メダルを獲得するまでもう少しだった。そしてそれは現実となった。皆でみずきコールをした。ゴールの瞬間は本当に最高で、涙が出そうだった。隣にいるギリシャ人がおめでとうと言ってくれた。彼女はデンマーク人とギリシャ人のハーフだった。
   「ギリシャもデンマークも応援できるね」
と言うと、
   「私は全ての国の人を応援しているわ」
と笑ってみせた。

ゴール直後


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 マラソンではもう一つ感動することがあった。それはほとんどの客が最後の一人がゴールするまで応援し続けたこと。最後の選手はモンゴルの人で、野口がゴールしてから1時間以上たってからだった。いい成績をあげた選手だけでなく、最後まで頑張る選手にも声援を送る人がこんなにたくさんいて素直に心が温かくなった。最後のゴールで、ゴール後に倒れてしまったけれど、あのモンゴル人の選手は幸せなんじゃないかな。

●空港で一泊-国旗を羽織って寝た
 マラソン会場を後にすると、偶然タツさんと再会した。彼もハイレベルなボクシングの試合を見て、とても満足していた。夕飯を食べて、その僕は空港へ向かった。寝袋は荷物預かり所にあるし、公園に寝る気にもなれないので、空港が無難だと思ったんだ。ところが地下鉄は空港まで行かずに途中で止まった。もう市街地に戻る地下鉄はない。空港まではタクシーで行くしかない。地上に上がると僕以外にもタクシーを待つヨーロッパ人がたくさんいた。
   「こりゃすぐには乗れないぞ・・・」
しばらく待って、ようやく乗ることができた。一応方向が同じなので、他の人とシェアで乗ることにした。空港に行くとけっこう多くの人が寝ている。皆ホテルが高いからここで寝ているんだ。男も女も。たくさん汗をかいて気持ち悪かったので、トイレの洗面所で頭と顔を洗い、濡れたタオルで体を拭いた。正直夏のギリシャでこれはキツい。その後、ベンチの上で寝ることにした。寒いので国旗を羽織って寝た。また、国旗を羽織ることはどこから来たのかを示す意味でも使える。日本に対する外国の信用はけっこう高いので、こおういうときに役に立つとも思った。不審者だと思われるといろいろと面倒なので。

三日目



●女子レスリング
wrestling


 レスリングは見たことがないし、日本人の優勝候補が多かったということで、見に行くことにした。予想通りメダルラッシュ。
 五輪というと多くの有名人を見ることができる。この日レスリングの会場では松岡修三さんが国旗を持って必死で叫んでいた。また、最近気合だーで有名なアニマル浜口もいた。日本応援団の中で何かいろいろと叫んでいる。海外のメディアもアニマル浜口にカメラを向けている。しかも浜口京子がまさかの準決勝敗戦だったので、お父さんもいろいろ大変だったのかもしれない。
 試合後の帰りのチャーターバス。ここで、日本でよく見られる光景が見られた。バスは何台もあるのに、多くの日本人客がバスに座るために走りこんだ。正直少し恥ずかしい・・・。歩くのを遮られる他の国の人たちは迷惑だったんじゃないかな。「旅の恥はかきすて」とよくいうけれど、僕も気をつけたい。

●初・野宿

野宿したシンタグマ広場


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 この日僕はアテネ郊外にあるキャンプ場を予約していた。一泊35ユーロだからホテルよりもはるかに安い。一応二泊予約していた。僕の荷物はかなり多かったこともあり、親切にもキャンプ場の担当者が事前に荷物を受け取りに来てくれていた。キャンプ場行きのバスは夜中の12時に陸上などが行われるメインスタジアムの前に来ることになっていた。しかし・・・。
 バスは来なかった。というより見つけることができなかった。たぶん僕が英語を聞き間違えたんだろう。もっと正確に情報を把握しておくべきだった。どうしよう・・・仕方なく僕は市街地に戻った。泊まるところがない。僕は野宿を決意した。元はといえば野宿を覚悟してアテネに来たんじゃないか。この夜僕はアテネ中心街のシンタグマ広場のベンチの上で寝ることにした。寝袋はキャンプ場にあるので、再び国旗を布団代わりに寝た。野宿をしているのは僕だけじゃなく、他にも何人かの若い人がいた。しかし寒い・・・日中はあんなに暑いのに・・・。しかも寒いだけじゃなく、朝までいろんな国の人たちが集まって自分の国の名前をコールしていたのでうるさかった。結局2時間しか眠れなかった。


後半へ



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