濫読屋雑記

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2005年12月27日
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昨日紹介した、 ピーター・パレット 白須英子 訳『 クラウゼヴィッツ 『戦争論』の誕生 』(中公文庫、2005年)について、 クラウゼヴィッツ が名著『 戦争論 』を書き上げた当時の戦争について少し、私が読んだ中からですが、取り上げて解説してみようと思います。

さて、 クラウゼヴィッツ 不倶戴天の敵、祖国プロイセンを蹂躙した悪魔として憎んだのが フランス皇帝ナポレオン・ボナパルト 厄病神 でしかありませんでした。

この ナポレオン が率いたのがフランスの「 大陸軍 」です。フランス革命により徴兵制が施行され、市民が政府に信頼を寄せ、政権を守るべく、様々な階級から軍隊へと入隊した人間が、旺盛な民主的精神と規律ある教育・訓練と、そこから生まれた自立心による将校への忠誠心(将校も、貴族中心の将校団が能力重視の試験で選ばれた士官に入れ替えられ、売官制度で士官の地位を買った貴族ではなく、真の戦争のプロである仕官へと変貌したことによる。)が形成されたことにより、強力な軍隊が誕生したのです。

そして、この集団が 縦隊 機動力 (進軍する時の隊形。自衛隊の観兵式の行進の隊形を思い浮かべて下さい。)と 横隊 火力 (横数列に、薄く広く並ぶ隊形。当時の滑空式マスケット銃は命中率が悪く、さらに黒色火薬は無茶苦茶煙を出すので、戦場での視界がすぐ悪くなりました。そこで、当たらず敵も見えなくなるなら、兵隊が一列に並んで筒先を敵に向けて、水平にぶっ放し、文字通り「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」方式で一定の空間に弾丸を密集させてしまおう、という発想でこのような隊形を取ったのです。当時のヨーロッパの軍隊では、「狙え」という号令がなかったそうです。)を組み合わせ、さらに散兵戦術(横隊とは逆に、兵士個々人が散開して自分で目標を見つけ、狙撃するというもの。)を組み合わせた「 オーダー・ミックス 」( 混合戦闘隊形 )というドクトリンと、師団・大隊・中隊…と構成される今日の陸軍の同じ指揮・編成のもとで(ナポレオン戦争前に、初めて確立した制度です。)行動する軍隊が誕生したのです。

これまでの軍隊とは異なり桁違いの機動力と火力、そして融通の利く部隊と、有能な将校に愛国心に燃える兵士 (どのくらいいたのか、甚だ疑問ですが…。当時の軍隊はどこでも、刑務所よりマシ、若しくはそれ以下の状態が普通な場所でしたから…。)を持ったナポレオンは、アレヨアレヨと言うままにヨーロッパを席捲します。この事に、一番プライドを傷つけられたのが クラウゼヴィッツ プロイセン です。(ちなみに、一番大損を喰ったのが イギリス です。)

なぜなら、 プロイセン フリードリッヒ大王 指揮する 恐怖のプロイセン陸軍 (金目当ての傭兵ですら、裸足で逃げ出すほど、軍律が厳しい事で有名でした。そのため、人も集まらず脱走も日常茶判事なため「強制徴募」といって、ほとんど誘拐や詐欺みたいな手段を使って兵隊をかき集めていました。さらに、普通、銃殺になるような罪を犯した兵士ですら「戦場で使えるから勿体無い」という理由で鞭打ちで済ませるような、とんでもなく非人道的な軍隊でした。)によって、 オーストリア、ロシア、フランスと戦い、勝利を得、ヨーロッパの一流国に躍り出た国だったからです 。それが、 コルシカ島出身の田舎モノの指揮するナポレオンのフランス軍に蹴散らされ、国土が占領されたのですから堪ったもんではありません。誇り高きプロイセンの将校団は我慢が出来ようはずがなく クラウゼヴィッツ のように、占領下の祖国からロシアに移り、フランスに一矢報いようと活動したわけです。

そうした動きの中で、昨日、紹介した、 クラウゼヴィッツ の師匠、 シャルンホルスト や上官、 グナイゼウ はフランス軍に対抗すべく、 プロイセン軍 の改革を行い、その成果が ワーテルローの戦い に結実するわけです。( ワーテルロー では、 ウェリントン 指揮するイギリス軍の活躍が有名ですが、その前日には フランス軍 プロイセン軍 と一戦を交え、 ワーテルローの戦い でも戦場での致命的な一撃を加えたのは プロイセン軍 でした。ちなみに、この時の プロイセン軍 の参謀長が グナイゼウ です。)

このように、当時の技術力からみて極めて完成された軍隊を運用して戦った ナポレオン戦争 (若しくは、 フランス革命戦争 。)は、火器は18世紀のママの代物を使い、通信・輸送体制もお粗末なもので、作戦指揮体制もナポレオン側には情報・作戦将校がいないという状態でしたが、 近代戦の嚆矢というべき要素を多分に含んだ戦争でした 。また、軍隊を運用する政府も、旧態依然な絶対王政を敷くアンシャン・レジーム体制に対して、自由と平等を文字通り銃剣で突きつけるフランス革命政府との対決という、これまでの 制限戦争 (若しくは、 限定戦争 。特定の地域、目標を制圧して勝利を得る戦争。)から、文字通り相手を抹殺する 無制限戦争 (革命側は、生存意義かけて。旧体制側は、自らの生存のために相手に無条件降伏を迫ったのです。)を戦うことを余儀なくされました。このような、激動の時代の中を当事者としてフランスと戦った(軍政改革を邪魔する連中との戦いも) クラウゼヴィッツ が書き記したのが、『 戦争論 』だったのです。

え~、話が長くなったので今日はこれくらいにして、次回は ワーテルローの戦い ついて書いた本でも紹介してみたいと思います。(明日になるか、1周間後になるかは、分かりませんが…。気分次第です。)

戦略戦術兵器事典(3(ヨーロッパ近代編)) 戦略戦術兵器事典(3(ヨーロッパ近代編))
↑今日の日記を書くのに、参考にした本です。書店では、中々手に入り難いと思いますので、図書館で借りてみてください。イラストや写真も多く、掲載されている記事も、大学や元防研の先生、軍事史・海事史の研究家が書いていて、読み応え・見応えがありますよ。






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最終更新日  2005年12月28日 01時30分49秒 コメント(8) | コメントを書く


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