濫読屋雑記

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2006年01月05日
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テーマ: お勧めの本(8110)
今日は、これまでブログで何回か取り上げました、 ドイツの戦史作家である パウル・カレル 大先生とその著作について、紹介したいと思います。

第二次世界大戦時のドイツの戦争について関心を持った人間なら誰でも必ず目を通すという名著の数々を書いた パウル・カレル 氏。氏は、1911年生まれのドイツ人です。(当然ですね。)彼は、キール大学にて経済学・哲学・心理学を専攻し、その後、キール心理学研究所を経て、外務省公館参事官を歴任して、各種の知識を得たとされてきました、ところが、 その正体が戦争中に外相リンペントロップ配下の外務省報道局長 (ゲッペルスと同じ穴のムジナ。)であった パウル・シュミット であったことが判明しました。 シュミットは戦時中、数々の情報活動に従事した人物でもあり、ドイツをはじめ日本、フィンランド、スペインの勲章を受けた功績抜群の人物であります 。そのため、ドイツ敗戦時にアメリカ軍に身柄を拘束されますが、2年後に釈放され、以後、著述活動に勤しむわけとなります。偽名を使用した理由も、情報担当官としてナチス・ドイツの中枢に深く関わったことや、対ソ情報活動を行っていた事にも関係するのでしょう。(そのため、アメリカ軍に拘束され、裁判無しで釈放されたと、考える事ができます。)

さて、そんな パウル・カレル 氏(この名前は、日本で言うと「山田太郎」と同じような、ありふれた名前の組み合わせの1つだそうです。)の作品は、 全てが真実のお話であることが素晴しいところです 何も誇張も無く、敵味方などの偏見も無い、ただ淡々と第二次世界大戦の戦場にいた兵士たちの生の声を、丹念に拾い上げて1つの作品を作り上げているのです 。私の拙い文章よりも、カレルの著書『 砂漠のキツネ 』の訳者、 松谷健二 先生(先生は、カレルの著作の日本語訳を全て担当されています。)の「訳者あとがき」の一節を紹介してみましょう。

「本書(『砂漠のキツネ』)の作製にあたってカレルは三千の文献を読み、六百人と会見し、一ページ分の事件を語るのに、最高三十五通の手紙を当事者に出して照会したそうである。完成に長年月がかかってもふしぎではない。」

このような、 丹念な調査によって作製されたカレルの著作は、まさしくドイツ人の緻密で徹底的に物事を行うという気質そのものを文章にした作品であります 。そして、この作風により、 全世界に広い読者層を持ち、専門の歴史学者の間でも「第二次世界大戦のクロニスト」という最高級の賛辞を送られるほどの評価を得ています

カレル氏は、私の持っている『 砂漠のキツネ (Die Wustenfuchse/uはウムラウトです。)』の他に、独ソ戦を描いた『 バルバロッサ作戦 (Unter-nehmen Barbarossa)』、『 焦土作戦 (Verannte Erde)』、そして私が買いそびれたままのノルマンディー上陸作戦を描いた『 彼らが来た (Sie Kommnen)』(どっちかと言うと、『 奴等が来た ベルリン陥落 (仮)』という作品を手がけられていて、これを以って独ソ戦三部作を完成させる予定であったそうです。残念です!

このパウル・カレルの諸作品は、以前、別の出版社から出ていたものを中央公論新社が『 砂漠のキツネ (Die Wustenfuchse)』(これは、初版が1969年です!)と『 彼らが来た (Sie Kommnen)』の2冊を、学研が『 バルバロッサ作戦 (Unter-nehmen Barbarossa)』、『 焦土作戦 学研M文庫シリーズ 』で文庫にまでして、手に取りやすくしてくれました。感謝、深謝です。

さて、最後に再び『 砂漠のキツネ 』の「訳者あとがき」を引用して、昨日紹介した アラン・ムーアヘッド の『 砂漠の戦争 』についての松谷先生の評価を聞いてみましょう。

「勝者の従軍記者の立場で書かれたムーアヘッドの作品とこの『砂漠のキツネ』とは、性格も叙述の方法もかなり異なる。『砂漠のキツネ』は若干オーヴァーな表現を用いるなら、トロヤ側の詩人による『イリアス』のようなものである。すべて、歴史とは多面的にながめられるべきものであろう」

どうでしょうか?パウル・カレルの戦史が如何に素晴しいものかが、よく分かる一文ですよね。古代ギリシャの叙事詩『イリヤス』に例えて評価されるとは。そして、 日本人が一番苦手とする多面的考察こそが、歴史を学び、議論する上で重要なことが力説されていますね。日本人は、勧善懲悪・判官贔屓が大好きですが、歴史とは簡単に善悪・正邪がつかないものです 。例えば、フランス人にとっては(そして、世界の大部分の人は。)ナポレオンは偉大な人物であったと習い、伝記にもそのように記されますが、ロシアにとっては疫病神以外の何者でもありません。(ナポレオンに侵攻された、ドイツ・スペインなどの国にも、碌な事はしませんでした。まさしく、革命の押し売りです。) このように、とある国にとっての英雄は、別の国では大罪人・疫病神となってしまうのです

司馬遼太郎も良いですが、 本当の意味での歴史、血なまぐさく、オドロオドロしく、しかしどこか温かみのある人々が精一杯「生きていた」という実感を読んで理解しようと思うなら 私は、このパウル・カレルの著作をお勧めします

砂漠のキツネ 彼らは来た

バルバロッサ作戦(上) バルバロッサ作戦(下) 焦土作戦(上) 焦土作戦(下)
↑学研の上記2部4冊は、文庫版2部6冊しか在庫がないそうです。↑





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最終更新日  2006年01月06日 01時13分54秒コメント(0) | コメントを書く


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