濫読屋雑記

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2006年06月28日
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カテゴリ: 手に取った本
はい、楽天の期限付きのポイントが切れそうだったので、 毛利志生子 風の王国 』シリーズの未購入分、『 風の王国(女王の谷) 』から『 風の王国(朱玉翠華伝) 』まで楽天ブックスにて購入しました。

風の王国(朱玉翠華伝)

そこで、今日は文庫サイズなのに「 小説+まんが 」と主題の前に記入されている、雑誌『 コバルト 』に連載された毛利さんの短編と、本編のイラストを描かれている 増田メグミ さんのマンガが楽しめる『 風の王国(朱玉翠華伝) 花の名前 」についてご紹介していきたいと思います。

この「 花の名前 」は、主人公 李翠蘭 (りすいらん)が時の大唐帝国の皇帝であり翠蘭の叔父でもある 太宗・李世民 より、偽の公主(皇帝の娘の称号です)として、唐の西方にある吐蕃(とばん:現在のチベット地方)へ政略結婚を命じられます。そしてこの物語は、行儀作法や吐蕃の言葉を習得して、吐蕃への輿入れの準備をするために後宮である掖庭宮(えきていきゅう)へ入っていたときの出来事を描いたものです。

物語のあらすじとしては、皇帝から下賜された鸚鵡(オウム)を逃がした侍女・ 春英 (しゅんえい)とその主、 郭宝林 (かくほうりん:宝林とは皇帝の妃の身分のひとつで称号でもあります)に対する処遇について、郭宝林に鸚鵡を持っていかれて不満たらたらの皇帝の公主・ 紫明公主 (御年十二歳)と公主に仕える 武才人 が、翠蘭の房室にやって来て翠蘭の友であり、宮ではお抱えの占い師である 劉朱瓔 (りゅうしゅえい)に鸚鵡の行方を占じさせようとする場面から始まります。

実はこの鸚鵡、郭宝林が何気なくつぶやいていた故郷の想い人の名前を覚えてしまったいたのです。後宮の妃が、皇帝以外の男性に思いを寄せることは、皇帝への叛意と捉えられ死を賜ることになりかねません。 紫明公主 が突然あらわれ、鸚鵡を逃がしてしまったのです。そこで、 後宮お定まりの陰湿な足の引っ張り合いが始まります 。公主は鸚鵡を逃がしてしまったことで、春英に怒られ鸚鵡が自分のものにならなかった腹いせもかねて、春英を罰して郭宝林に心痛を与えようと画策します。一方、公主付きの女官、武才人は春英をかばい事を穏便に済ませるために翠蘭と朱瓔を利用しようとするのですが、話はこれだけに収まらず・・・。 続きは本で読んでください。説明するにはあまりにも緻密で複雑な設定なので、さわりを少し解説するだけで大変です。そこが、面白いのですがね

さて、この短編で一番興味を引かれたのが 武才人 (才人も女官の地位を示す称号です。この時代、女性は姓に称号や誰々の奥さんと言う風にしか呼ばれていませんでした。)です。この女官の本名は 武照 (ち)として登場する皇帝太宗、李世民の三男で後の 三代皇帝高宗の皇后となり、高宗の死後、息子の中宗を廃し中国の歴史上、唯一の女帝となる則天武后その人です この武才人と翠蘭の作品の中でのやり取りが面白いのです

その中から、とくに私が気に入ったのがこのセリフです。雪見の席で皇帝に詩を献上し、その詩の内容によって、郭宝林を宮中から一切の不名誉を背負わすことなく故郷へ戻す事に成功した武才人に対して翠蘭が「 あなたは、想像だけを頼りに、皇上に進言する危険を犯したのか? 」という問いに対して武才人が「 そうね。想像が主体よ。でも、その想像は、情報と観察の上に成り立っていたものだわ。 (後略)」というものです。 魑魅魍魎の巣食う後宮。その中で生き抜く的確な術を端的に言い表しています

また、武才人の「 私は、国を動かすほどの権威がほしい。自分の力を試したいの。いま国を動かしているのは男だけど私は男より優れているもの 」という言葉。そして、彼女の機転や、詩作の才能や(詩作は科挙の試験となるほど、役人にとって必要な技術の一つでした)、勇気は大抵の男よりも優れているけど、 女は官吏にもなれず (『 彩雲国物語 』では、主人公・ 紅秀麗 は官吏になれましたが、そちらは純粋なまじりっけなしのファンタジーですからね)、 女が才能を生かそうとすると、学士や女官として宮中の雑事のために働くしかなかったのです 。そこで、 女性が国を動かす立場に手っ取り早くなるには、皇帝の正妻、皇后になるのが一番の近道だったのです 。武才人は「 名目なんて、どうでもいいわ 」と言っています。そして、現皇帝、李世民の好み(楚々として影のある美人だそうです。毛利さん、そのネタの元はどの史書からですか?)に自分が合わないけど、皇帝に進言した事により「(皇帝の) 印象を強める事が出来たわ。語るに足る女だと認識されれば、私は皇上のお側にいられる時間が長くなる、そうすればもっと多くのことを学べるわ。そして、いつかその知識を生かす場所を見つけてみせる 」と語っています。事実、 彼女は皇后になった時に政治に口を出して(夫である高宗が年下で、おっとりとした性格だったためです)高宗の朝鮮半島制圧作戦、新羅と組んでの百済侵攻 (日本は、百済を支援し白村江の戦いでボロ負けします。この結果、対馬から瀬戸内海一帯に朝鮮式山城を設置し、大宰府に水城を築き、挙句には朝廷を近江大津宮に移して防衛を固めるのです) を行い、百済を滅ぼし、ついで、隋の時代からの仇敵、高句麗も滅ぼしてしまうのです 。そんな、 武才人・武照の才覚の一部が垣間見れるような楽しいやり取りがこの短編の魅力です

そして、翠蘭が武才人に対して「 華やかな美しさと、凛とした態度、皇帝と対峙したおりに見せた勇気 」に対する 感銘 (これに、十二歳の皇子・治が深い感銘をうけたとあります。この辺りが上手いですよね。史実にさりげなく彩りを添える手法が)を受けています。そいして、武才人の「 苛烈さ (彼女は皇帝に即位したとき、容赦の無く反対派を弾圧しました) と鮮烈さには魅せられてしまう だからこそ逆に、心配にもなる。彼女の内なる炎は、いつか彼女自身を焼き尽くすかもしれない (事実、彼女は皇帝即位したものの老いに勝てず、反対派に担がれた中宗が復位して唐が復活、彼女はその年の内に病死してしまいます。まさしく、燃え尽きたのでしょう。)」と心配もしています。

その後、 翠蘭 は吐蕃へ輿入れをし、 武才人 は唐の皇帝の皇后となります。そして、時は流れて吐蕃の国太となった 翠蘭 と、 皇后武照 互いの国政を担う立場で、再度の公主降嫁について意見を交わすのですが、交渉は決裂して、両国の関係は悪化の一途をたどるという、史実と武照が帝位についた事を記して、筆が置かれています

今日はこんな感じで、史実の間隙を実に上手に使って創り出された小説『 風の王国(朱玉翠華伝) 』より「 花の名前 」を紹介&解説してみました。いや本当に、 唐の時代の太宗の後宮で吐蕃に嫁いだ悲劇の公主と、中華を治めた唯一の女帝、武照の人生がこのように交差して物語が生み出された事に、正直、感服します 。この『 風の王国 』シリーズ、本当に各種資料にあたって書かれているので、凄いリアリティのある内容となっています。コバルト文庫という、一部の人間に誤った偏見をもたれている処から出版されているのが惜しいです。本当に、この作品は 上橋菜穂子 さんの『 守り人 』・『 旅人 』シリーズと同列にしても(チョッと持ち上げすぎかな)良い位の内容だと思います。そして、手法としては 浅田次郎 さん(『 天切り松闇がたり(第1巻) 』)や 田中芳樹 さん(『 纐纈城綺譚 』)などの時代小説と同じものなので、 偏見を恐れず図書館や本屋さんで1回手に取って読んでみてください 。ただ、 読者層がアレなのでその辺の覚悟or寛容さをお持ちになって読んでくださいね





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最終更新日  2006年06月29日 02時06分22秒 コメント(2) | コメントを書く


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