「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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2004.07.31
アリスとソラ
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カテゴリ未分類
僕はその日のことを覚えている
ずぶ濡れになって 雨の音を夢中で聞く僕を
そいつは何をするでもなくじっと見ていた
確か僕はうざいからあっち行けと言ったはずだ
そうするとそいつは10メートル離れてまた僕のことを見ていた
何がしたいのか 何のつもりなのか
苛立ちの上に少しばかり不気味さまであった
姿かたちの違う アクマである僕を殺すつもりはないらしい
僕はそのまま パタパタ落ちる雨を直視し続けた
そいつはそのまま 落ち続ける雨を見続ける僕を直視し続けた
そして時々咳を幾つか吐き出した
そいつとの出会いはそれからだ
そいつの名はソラ
僕の名はアリスと言った
僕はその日の大きな水玉と黒い空,雨粒を受けてギラと光るアジサイの花を,忘れはしないだろう。
・・・・・・・
僕たちはどこからともなく沸いてきては
蟻を潰して遊んだりした
ソラとはそういう趣味の悪さは合った
僕もソラもまぁ,変人だったのだ。
ある日僕はソラの自転車を借りてあたりを散歩して廻った
崖まで来て僕は自転車もろとも真っ逆様に落ちた
その時ソラの手が僕の手をつかんだ。
間一髪で助かった僕と引換に,自転車はぺちゃんこに潰れた。
僕がソラの顔を見ると,ソラは普通の顔をしていた
僕と目が合うとニッと笑った。
"助かって良かったね"
助かって嬉しいとも思わなかった。
僕の生きているべき世界ではないと思った。
ソラみたいな明るい脳天気な奴なら,何もかも楽しく見えるのかも知れないが,あいにく僕はそんな力は持っていなかったんだ
逆に悲しくなって僕は思わず泣いてしまった
ソラは雨を見るように僕の涙を 何もせず見ていた
うざいと思わなかった
ソラがけふと咳をする
涙の雨はひどくなる一方だった
・・・・・・・
僕は夕陽を綺麗と思ったことがない
星空を素敵と思ったことがない
世界を,温かいと感じたことがない。
でもソラの顔を見るとほっとした
痛みが和らいだ気がした。
・・・・・・・
雨の降る五月,ソラと出会ってから幾日経ったろう?
あいつは突然僕の前から姿を消した
気にせずに過ごせたのは最初の五日だけだった
僕はわざわざ ソラの部屋まで迎えにいってやったのに。
ソラは既にやつれ 顔の輪郭が変わっていた
病気だと言った
辛そうにしているソラに目を向けれなくて
窓の外の冷たい赤を誇るバラの花を見ていた
ソラの吐く息は熱く頬は土色だった
いっそ殺してやろうかとソラに問うと
アリスに殺されるなら俺別にいいよと言った
悲しいことに僕はソラを殺すだけの力を持っていた
ソラに聞いた
『お前はこの世界が好きか?』
ソラは瞼を押し上げ 降る光をさも邪魔そうに睫毛をばさばさと動かした
『アリスのいる世界は面白かったよ』
…僕もそう思った
ソラのいる世界は太陽の光から道ばたに咲くたんぽぽから 全て何かが違った
ソラもそう感じてくれているだろうか?
『俺お前に死んでほしくないよ…』
自分が哀れに思えた
こんな風に思えたのは初めてで…
・・・・・・・
『俺もお前と別れたくないよ』
そう言ったソラの言葉は温かく 表情は安らかだった
僕はソラが死ぬんだと思った
ソラなら死んでも天国へ行けるんだろうな。
僕の帰る地獄とは違うんだろうな。
初めて別れが怖いと思った
どうすればいいか 分からなかった
その日 眠るソラの顔を見ながら一日考えて
ソラを楽にしてやることに決めた
涙が,止まらなかった。
眠るソラに向かいさよならと一言
もう僕は君に会えない
ごめん。
ソラの体から赤くドクドクと波打つものを取り出し
一気に飲み込んだ。
眠るソラは首をがくっと落とし動かなくなった。
僕は熱くなる身体を引きずり森へと帰った。
いつかソラと一緒に遊んだ大きな木の根元でうずくまると,僕は眠りに落ちた。
さようなら,ソラ。
・・・・・・・
窓から流れてくる雨上がりの冷たい空気で,ソラは目を醒ました。
一体?
医者から治らないと言われた病気。
それを宿しているはずの身体が昨日の重さを無くし,いつのまにか軽くなっている。
アリスは?
そうだ。僕はアリスに,お前に殺されるなら良いと言った。
アリスは僕を殺さず,何を?
寝ていた格好のままサンダルを突っかけ,森へ行く。
アリスの,いつもいる場所は何処だっけ?
ガサガサと葉っぱをよけて大きな木の元へたどり着くと,アリスがいた。
『アリス?』
うずくまっているアリスの身体は既に冷たく,昨日の雨粒が身体に残っていた。
直感的に僕の病気をアリスが取り除いてくれたのだと分かった。
涙が出ていた。
アリスは僕のために死んだ。
こんな悪魔がいるものか。
いるはずがない。いていいわけがない。
僕はその場に泣き崩れていた。
・・・・・・・
暗闇。
どこからともなくアリスが現れる。
"どうだ,俺,お前の病気を治してやったぞ"
何やってんだよ。そんなことされたって迷惑だぞ。
"俺なんかよりずっと世界を生きていける力を持ってるんだ。お前は生きてていい人間なんだよ。"
でも俺はお前がいないと生きてても意味がないよ。
"俺はいつだってここにいるよ?"
・・・・・・・
目が覚めると木の下にいて,アリスの死骸は消えていた。
アリスのはめていた首輪だけが残っている。
――俺はいつだってここにいるよ?
冷たく青い空が広がっていた。うっすらと,白い雲。
生きてやろうと思った。
アリスはいないけど,でもアリスはここにいてくれる。
生きてやろうと思った。
つづく?
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最終更新日 2004.08.02 20:17:30
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