サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2008.01.26
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カテゴリ: 映画
 ところで、世の中には笑っていられないタイプの「喜劇」というのがあるようで、例えば年末にこれもBSでやっていた伊丹十三の一連の「~の女シリーズ」。
 天才というよりは奇才の印象が強かった伊丹十三ですが、「ミンボーの女」を初めて映画館で観たときの観客の反応が強く記憶に残っていて、みんな笑うべきか否かすっかり戸惑っていたのでした。同じような反応は前に勤めていた販売会社の社員旅行のバスの中で、このビデオをやっていたときにもみられたので、ひらたく言えば気の強い人はムッとしているのに対し、私のような気の弱い人は(ほとんどの人は)、苦し紛れに笑い飛ばすという図柄になっていたのです。
 誰が観たって、次から次へと現われるやくざのユスリの手法には、多かれ少なかれ現実に受けた覚えがあるはずで、いくらカリカチュア化されても笑っていられる場合じゃない。それでもそれを見せるには「喜劇」しかないのです。
 これはご覧になれば分かるとおり、伊丹はテーマの重さを、「喜劇」仕立てにすることで何とか最後まで貫徹しようとしているので、その格闘しているさまが、この映画にはあからさまに出ているのです。こういう手法はアウシュヴィッツを描くのに、そのテーマの重さを回避して喜劇仕立てにしたR・ベニーニの「ライフ・イズ・ビューティフル(La vita è bella)」にもみられる手法ですが、こちらのほうは伊丹以上に、とてもじゃないが笑っている場合じゃない映画でしたね。
 ユダヤ系の文学や映画には、たんなる笑劇ではなく、人生の悲哀を背負った(チャップリンのような)すぐには笑えない喜劇にすぐれた作品が結構多いのですが、これは当然、悲劇性を背負ったユダヤの民族と歴史に結びつけて考えざるを得ません。しかしこれはまた深刻で、限りなく重いテーマになるので別に改めます。

 さて、伊丹のように「暴力」に異様に執着する作家というのは、映画にも文学にもけっこういるので、例えばビートたけしや伊丹の義理の弟の大江健三郎などがそうですね。元来「悲劇」だの「喜劇」だのといっても、作品はしょせん作家の想像力の産物であって、現実とは似て非なるものなのですが、想像力の守備範囲は夢のような荒唐無稽な地点から、あからさまな現実に近いところまで、とてつもなく幅がありますから、その作品を観て(読んで)現実そのものとかん違いする連中もときには出てきます。そういえば、伊丹も大江も右翼や暴力団の襲撃を受けましたね。
 しかし現実とはじつは「悲劇」でも「喜劇」でもなくて、単調な出来事だけが自然物のように連なっているに過ぎないのです(もちろん悲劇性や喜劇性を帯びた人生というのはあります)。結局「悲劇」とか「喜劇」というのは、単調な現実から飛躍して想像力に身を任せる、仮想の地点にどこまで自分をジャンプさせられるかで成り立っているので、伊丹やたけしや大江の暴力やセックスに対する異様な執着性というのは、もっとも鋭敏な現実を取り上げることで、自己と観客の想像力の極限を測ろうとしているのです。

 オウム真理教もどきの新興宗教を取り上げた「マルタイの女」で、津川雅彦が「世の老人には二種類あって、一つは老いてもいつまでも生に執着するタイプ、もう一つは生にうんざりした奴で、私は後者だ」でしたか、殴りこんできた信者にこうしゃべると同時に、拳銃を撃ちまくって自分も自殺してしまうというシーンがありましたが、虚実皮膜の境界面であやうく進行しているこの映画のなかで、ここだけがあまりにも唐突なので「社会派コメディ」としてのバランスが崩れているようにみえる。伊丹監督もそれを意識してかどうか、結局この映画全体を劇中劇のような構成にして、コメディとしての軽さを保ったようなところが感じられるのですが、この直後に伊丹自身が自殺したことを考えると(直接的な契機は別としても)、案外このあたりが彼の本音だったかもしれませんね。
 というわけで、「喜劇」が決して人生から遊離した「笑劇」でなく、深刻な自然物としての人間が、現実との格闘の末に生み出した想像力の産物であることを、伊丹十三は奇しくも彼自身の人生の最後に示したのでした。







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Last updated  2008.01.26 13:15:07
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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