サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.01.29
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カテゴリ: 文学
 元来、一夫多妻の古代王権において、王の后と王の息子というのは微妙な関係でありました。ややもすると息子と第二第三の后の年齢は王との年齢よりも近く、この関係にはたん恋愛感情の危険だけでなく、権力奪取の危険も孕むのです(げんに藤壺の宮は、光源氏の五歳ほどうえの設定です)。
 古代王権においてはこの危険回避の策として、息子に生物的な大人の兆候が発現した瞬間に、元服の儀式を行なって、息子を父のハーレムから追放したかのごとく思われ、みだりに近づくことは許されなかったであろうことは、源氏の時代でも本文に書かれているとおりです。

 ここで私が古代王権といっているのは、もちろん平安中期摂関政治の時代のことではなく、王と王が直接権力闘争を演じていた飛鳥時代以前を指します。別の話でも触れたことですが、王の兄弟や息子というのは、本来的に王にとっては危険因子であるのですが、王権を支える組織にとっては、王たちの権力闘争というのは、より強いリーダーを生み出すために、構造的に内蔵されたしくみそのものであった(強いリーダーでないと、他の集団に滅ぼされる)とみることもでき、壮絶な闘争は組織社会的には、むしろおおいに望まれたのではないかと思われるのです。「古事記」や「日本書紀」の人代史は、さながら王たちの権力闘争史です。
 しかしこれは、自分の領土を山に登って国見すれば、ひとわたりで見渡せるほどの牧歌的な時代の話であって、領地が日本の各地に拡がり始めた奈良時代前期には、王が直接統制する官僚機構が各地を治める大陸の律令制が制度的に定着したと思われます。律令制にあっては王の私的な権力争いというのは、統治の空白を生むので忌避され、むしろ王には権威だけを付着させて、実質的な権力は官僚が握るという組織に変貌したのでした。権威だけならば誰がなっても、組織全体が脆弱になることは無いのです。これがたぶん天武朝以後の時代にあたると思うのですが、兄から権力奪取した天武天皇は、自らと同様の行動を以後の組織で封印するためのしくみを作りあげたのでした。

 では有力貴族が権力を操った平安中期というのは、どういう時代であったかというと、私領(荘園)で急速に財力を増した有力貴族たちが、権力の中枢たる天皇に自分の娘を送り込むことで、自分たちの血筋の皇子をもうけ、その外戚たる立場で実質的な権力を振うという構図に変貌した時代といえるのです。日本になぜ権威も権力も掌握(皇帝)して、その強い統制下での官僚(宦官・科挙)が育たなかったのか、という命題は今だ日本史の未解決の問題のようにみえますが、それはさておき、この 摂関政の宮廷社会においては、権力闘争は必然的に天皇の私的生活の内部に関わってくる ことになるので、「源氏物語」はすぐれて当時の政治小説の一面も持ちうるということになります。
 このあたり、紫式部がどの程度意識していたかは分かりませんが、彼女自身下級貴族の端くれである受領の娘であることで、少なくとも当時の政治制度のしくみは相当意識していたでしょう。ことに摂関政治の本質が、表向きの公事に存在せず、天皇を中心とした私的生活そのものである場合、それはストレートに下級貴族の女たちの生活にかかわってくる問題なので、彼女に限らず当時の受領階級の娘からは、いわば同時代の男たちよりもはるかに 自意識に目覚めた女たち が数多く輩出したことはよく知られていますね。「源氏物語」のなかで、彼女が政治向きの話を厳密に排除しながらも、描かれる女たちの運命が、多く当時の政治社会制度に絡めとられて翻弄されているということを、彼女はよく知っていたのであり、言葉少なで間接的ではありますが、それを示すいくつかのエピソードも本文にはあります。
 まあしかし、このへんの話はいささか彼女の印象を、社会派作家に傾けすぎるきらいがあります。こういう背景を充分に知悉したうえで、彼女は「源氏物語」で光源氏をどう描こうとしたのか。







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Last updated  2009.01.29 11:15:25
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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