サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.02.24
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カテゴリ: 文学
 しかしそっちの話に入るまえに、もう一方の葵の上に取り憑いた「物の怪」の話をしなければなりません。もうお気づきかと思いますが、これまでは六条御息所におこった出来事だけを、意図的に選んで話してきました。今度は当然、源氏と葵の上におこった出来事を追いかけねば、フェアじゃないですよね(ちょっと疲れますね)。

 御息所が、伊勢下向と光源氏への思慕との間で、心惑うたびに、身重の葵の上に「いと執念き」物の怪が取り憑いて、おおいに苦しむという話は、すでにしてきました。で、いよいよ物の怪が姿をあらわす段となるわけですが、葵の上が、にわかに産気づいて苦しんでおられるので、験者どもにおおいに祈祷させたところが、物の怪は、

― さすがに、いみじう調ぜられて、心ぐるしげに泣きわびて、
「少し、ゆるべ給へや。大将に聞ゆべき事あり」
と、のたまふ。 ― 同上
 さすがに、はげしく調伏せられて、苦しそうに泣きながら、
「少し、祈祷を緩めてくださいませ。源氏の方にお話したいことがあります」
と、(葵の上の口が)おっしゃる。

 というわけで女房たちは、光源氏を葵の上の側近く、御几帳(みきちょう)の陰に案内する。ひょっとすると、遺言でもするのかと、付き添っていた父の左大臣や母の大宮殿も、少し側から離れて控えなさった。源氏が御几帳の帷子(かたびら)を引き上げて、葵の上をご覧になると、お腹が大きくなって大変お辛そうだけれど、素のお顔のままのせいか、いつになくかわいげに思われた。


― 「いで、あらずや。『身の上の、いと苦しきを。しばし休め給へ』と、聞えむとてなん。かく参り来むとも、更に思はぬを。物思ふ人の魂は、げに、あくがるゝ物になむありける」
と、なつかしげにいひて、… ― 同上
 「いえ、そうではないのです。『(ご祈祷で)体が、あまりに苦しくて。で、しばらく休めてください』と、申したのです。こうして参ったのも思いもよらぬことで。不吉なことを思っている人の魂は、まことにフワフワと我が身を離れていくものでございます」
と、懐かしそうに云って、

― 嘆きわび 空にみだるゝわが魂を 結びとゞめよ したがひのつま
と、のたまふ声・けはひ、その人にもあらず、変り給へり。「いと怪し」と、おぼしめぐらすに、たゞ、かの御息所なりけり。 ― 同上
 嘆き悲しんで、空中に乱れ飛んでいる私の魂を、どうか元の身に引き止どめてください。(あなたには)どこまでも従っていく女ですから。
と、おっしゃる声や気配は、葵の上のそれではなく、別人である。「これは、どうしたことか」と、怪しみ驚いてご覧になると、それは紛れもなく御息所の姿であった。

 この生霊の歌う和歌の部分、相当私の意訳が入っています(原文は山岸徳平校柱、岩波文庫)。すいません。「したがひのつま」を円地さんは「着物の下前の褄(つま)」と訳されてます。自己同一化はダメと言ってる本人が、その誘惑に勝てません。

― つづく ―





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Last updated  2009.02.24 10:58:29
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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