サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.04.03
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カテゴリ: 文学
 何だかずいぶん政策的な出家じゃないか、ととられそうですが、当時の社会制度や女の立場というものを踏まえたうえで、今の自分自身と東宮、そして光源氏の置かれた状況を、一挙に解決する手段として、これは最善の選択であったでしょう。とはいえ、それは藤壺の宮自身の犠牲という、個人的な痛みを伴うものでありましたが、それを乗り越えさせた動因とは何であったのか?
 それはたぶん、もっともシンプルな意味での「女は弱く、母は強し」という、古来からの女性性の特性に基づくものであったでしょう。若い源氏にはまだまだとても理解できないこと(というより、男=オスには理解できないこと)ではあっても、源氏との俗世の絆(ほだし)を遮断することが、結局彼を守ることになり、我が子である東宮の安泰を図ることになる、ということは、ひるがえって源氏と藤壺の間の 貴種としての血筋 を守ることになるので、それこそが彼女の源氏に対する、隠された愛の証であったでしょう。

 こうした血統(表向き桐壺院との間の子)に対するこだわりというのは、今どきの日本では天皇家を除けば、ほとんど無いに等しく、感覚的に理解しづらい部分があるのですが、こののち主人公の振るまいかた、あるいは紫式部の振まわせかたには、 貴種の血(選ばれし者) に対する独特な捉えかたが潜んでいるようにも思われ、あるいはむしろヨーロッパのハプスブルグ家のような、貴種の一族と共通する感覚があるのかもしれません。
 前にも触れましたが、これは光源氏の行動パターンを形成している大きな要素の一つだと、私は思っているので、今結論を急ぐことはしません。ただ一つあげるとすれば、俗世の後ろ楯のない(左大臣家や右大臣家と違って)彼が、宮廷社会で勢力を維持しようとすれば、みずから恃むところは、結局我が身の 貴種の血(血統) しかない、ということを彼自身、薄々理解していたであろう、ということなのです。

 そのあたり、早くに実母を失くし、母の記憶のない主人公が、桐壺帝のお側去らずとして寵愛され、元服までは藤壺の宮とも親しく顔を会わせる関係であったことをみれば、藤壺の宮との密通というのは、上にみたような貴種の血という意識とは別に、擬似的な近親~(この場合は、母子~、~部分は禁則語句だそうです)の構図もまた浮んできます。げんにそれに言及した研究書もあるようですが、これは血統の問題と並んで、私たちのような並々の世界の人間には(つまり1000年後の人間には)、もっとも理解しにくい分野ではあります。
 擬似的な近親~といえば、源氏と紫の上との関係も(この場合は、父子~)これにあたるので、彼の行動パターンの典型としての「世間第一の禁止を、軽々と飛び越える」という、古代英雄的な振るまいかたの奥には、これまた古代以来の「上通下通婚(おやこたわけ)」の罪を犯す、という掟破りも含まれていたのでした。


 というわけで、いよいよ藤壺の宮が出家を決意し、忍んで宮中に東宮(実は源氏との不義の子)を訪ねる場面は哀切ですね。

― (藤壺)「御覧ぜで、久しからむ程に、かたちの、ことざまにて、うたてげに変りて侍らば、いかゞ思さるべき」
 と、聞こえ給へば、(東宮)御顔、うちまぼり給ひて、
 「式部がやうにや。いかでか、さはなり給はむ」
 と、笑みてのたまふ。いふかひなく、あはれにて、
 「それは、老いて侍れば醜きぞ。さはあらで、髪は、それよりも短くて、黒き衣などを着て、夜居の僧のやうに、なり侍らむとすれば、見たてまつらむ事も、いとゞ久しかるべきぞ」
 とて、泣き給へば、まめだちて、
 「久しうおはせぬは、恋しき物を」
 とて、涙の落つれば、「恥づかし」と、おぼして、さすがに背き給へる、… ― 同上()筆者

(藤壺の宮が)「あなたとお目にかからないまま、日にちが過ぎて、私の姿が、変わり果てて、見苦しくなったとしたら、どう思われますか」
と、おっしゃると、東宮は母君のお顔をじっとご覧になって、

と、笑っておっしゃる。(年若くて)説明のしようもないのが、あわれで、
「式部は、年をとっていらっしゃるから見苦しいのですよ。そうではなくて、この髪が今より短くなって、黒い衣など着て、夜おそばに仕えている僧のような姿に、私が変わってしまったら、このようにお会いすることも、めったに出来なくなるのですよ」
とおっしゃって、泣かれると、(東宮は)真顔になって、
「なかなかお出でにならないのは、今でも恋しいのに」
とおっしゃって、涙が落ちたので、「恥ずかしい」と、思われて、さすがにお顔を背けてしまわれる、…






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Last updated  2009.04.03 14:58:46
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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