サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.04.11
XML
カテゴリ: 文学
 このあとに続くすったもんだは、三人の性格をあざやかに描き分けていて、しかもそのキャラクターの持ち味が、 話の展開を必然的に進行させている という意味で、とても冴えていると思うのですが、

― かん(尚侍)の君、いと、わびしう思されて、やをらゐざり出で給ふに、面(おもて)の、いたう赤みたるを、「猶、なやましう思さるゝにや」と、見給ひて、
 「など、御気色の例ならぬ。物の怪などの、むつかしきを。修法延べさすべかりけり」
と、のたまふに、薄二藍なる帯の、御衣にまつはれて引き出でられたるを、みつけ給ひて、「あやし」と思すに、又、畳紙の、手習ひなどしたる、御几帳の下に落ちたりけり。「これは、いかなる物どもぞ」と、御心驚かれて、
 「かれは、誰れがぞ。気色ことなる物のさまかな。賜へ。それ取りて、「誰がぞ」と、見侍らむ」
 と、のたまふにぞ、うち見かへりて、我も見つけ給へる。 ― 同上()筆者

 尚侍の君(朧月夜)はひどく当惑されて、そっといざり出られると、お顔の大そう上気せて赤らんでいられるのを、右大臣はまだ(わらわ病の)御気分がすぐれぬためとお思いになって、
「どうして御様子が常のようでないのです。物の怪などはしつこいものだから、もっと御修法をつづけさせるのだった」

「あれは誰のです。見馴れぬさまのものですね。こちらに下さい。それを取って誰のか確かめましょう」
 とおっしゃるので、女君は振り返って、御自分もそれと気づかれた。 (円地文子訳、新潮文庫()筆者)

 この場面、源氏と朧月夜の君は、外に出られないのをいいことに、どうも睦みあいの最中だったようで、「面の、いたう赤みたる」まま、おそらく薄衣をさっとはおって、立ち上がらないまま、あわてていざり出たようです。早とちりの右大臣は、てっきり熱病のなごりかと思うのですが、ふと目をやると娘の薄衣に、男帯がまつわりついているのを発見する、エッと思った瞬間、字などを書き散らした懐紙が、周囲に散らばっているのに気づく。
 父に詰問されて、振り返ってようやく女君もそれに気づく、というのは、この父にしてこの娘といった感じで、右大臣一族の気質なら、さも起り得るだろう、と納得させられると同時に、そうした右大臣が仕切る世俗社会の雰囲気も、自ずと想像されてしまうのです。

― 紛らはすべき方もなければ、いかゞはいらへ聞え給はむ。われにもあらでおはするを、「子ながらも、『恥づかし』と、おぼすらむかし」と、さばかりの人は、思し憚るべきぞかし。されど、いと急に、のどめたる所おはせぬおとゞ(大臣)の、おぼしもまはさずなりて、畳紙を取り給ふまゝに、几帳より見入れ給へるに、いといたうなよびて、つゝましからず、そひふしたる男もあり。 ― 同上()筆者

 取りつくろう術もないので、どう御返事なされようか。われにもあらぬ風情でいられるのを、わが子ながらも恥ずかしいと思われるに違いないと、右大臣ほどの方ならば心を配られるはずであるが、この方は大そう気ぜわしく、深く思案するというところのない人柄なので、前後の分別も消え失せて、懐紙を手にされるなり几帳の内を覗かれると、まことにしどけない姿で、わがもの顔に添い臥している男もいる。 (円地文子訳、新潮文庫()筆者)

 そもそも分別なく娘の部屋に闖入した結果、みずから招いた騒ぎなのに、自身が凍りついているあいだに、あられもない映像が次々と眼に入ってくるので、ますます騒ぎが大きくなる。その映像とは、「いといたうなよびて、つゝましからず、そひふしたる男」とは、他ならぬ源氏の君なのですが、どうも状況からいうと、このとき光源氏は素裸で、のんきにまだ女の横に寝そべっていた、ということで、このくだりを読んだときの当時の女房たちの笑い声が聞えてきそうです。

― つづく ―





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2009.04.11 11:53:05コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Calendar

Archives

2026.06
2026.05
2026.04
2026.03
2026.02

Profile

TNサリエリ

TNサリエリ

Comments

TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

Favorite Blog

まだ登録されていません

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: