サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.05.12
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カテゴリ: 文学
 古代人が「夢」をもうひとつの「うつつ」と考えていたというのは、要は意識がコントロールしている「この世」という「うつつ」に対して、意のままならぬ「他界」を写し出す回路として「夢」を捉えているという意味で、科学的合理性云々は別として、そこにキチンとした論理性があることが分かるでしょう。
 「他界」とは、かつては農耕共同社会の人智の及ばぬ、周囲の自然(その中に女性性も含まれていることは、先に触れました)全体を指していたのですが、ここでは「死者の国」つまり故院の住まう「あの世」の意で、ここと「この世」の回路は「夢」で開かれている、という図式になります。この回路によって、亡き故院を「この世」に呼び戻し、憔悴した源氏を蘇生させるとともに、都では朱雀帝の夢に現れて、おおいに帝を叱るというわけで、ことがらはすべて「死と再生」という成年儀式の予定調和によって進行するのです。
 さらに大事なのは、故院が光源氏の前に現れるのに「海に入り、渚にのぼり、いたく困じにたれど、… 」とあるように、「あの世(他界)」は海原の彼方にあると考えられていたということで、これが「龍宮伝説」や「常世の国」あるいは大陸由来の「神仙譚」を下敷きにしているのは、明らかでしょう。
 しかし、このあたりの神話的意匠は紫式部のような明晰な頭で、「あまりなるまで」一から見直されて語られると、かえって何となく「神話的有りがた味」というか、Mysticな神々しさが感じられないように思えてしまうのは私だけでしょうか?

 すべては「貴種流離譚」の運行表にしたがって、流遇先での結婚という話に進むのですが、先にも触れたように、おそらく紫式部自身や、周囲のすでに目の肥えた読者は、その絵空事のような筋立てに気付いていたかに思われ、それは必然的に「貴種流離譚」の一方の主人公である、お姫様の造形にも影響したかと思われます。彼女は「紫の上」と並んで、ここから「明石の君」を丁寧に書き込んでいくのですが、この二人は紙数を多く重ねて描いてあるのも拘わらず、(今のところ)あまり 生きた個性 が感じられず、その意味で魅力的とはいいかねるところがあるのです。
 これは前にも言いましたが、今様の生きた人間を、嫉妬のない夢御殿の実現とか、古代神話的舞台で描こうとした当初の構想に無理があるからで、彼女の筆力はこうした書き割り風の下敷きをはるかに凌駕しているのです(しかし彼女が実際に当初の構想を壊しにかかるのは、ずっとあとの「若菜」以降になりますね)。

 というわけで、この二つの帖の面白味は、何度も言いますが、明石入道の奇態なる個性でもっているので、先に挙げたような二、三の挿話でもすでに充分魅力的でしょう。

 光源氏が「夢」に導かれて明石へ赴き、あれこれのやりとりがあって、結局「明石の君」と結ばれるのですが、都では例の春の嵐のあと、朱雀帝の枕辺に桐壺の故院が現れて、



 その年、朝廷では、不吉な前兆がしきりで、物騒がしいことが多かった。三月十三日には、雷が鳴り閃めいて、雨風が激しい夜に、帝の夢に、故院の桐壺帝が現れて、御前の階の下に立たれて、たいそうお怒りの様子で、帝を睨みなさるので、帝は畏まっておられた。故院からは様々仰せになることが多い。源氏の君のことであったろう。

 三月十三日とは、もちろん源氏の夢枕に故院が現れ、明石入道が夢の告げに従って、源氏を舟で迎えに来たのと同じ日なのです。

― つづく -





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Last updated  2009.05.12 13:54:49
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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