サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.06.02
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カテゴリ: 文学
 というわけで、いささか紫の上とのやりとりに倦んだ光源氏は、忙しい公務のなか、思い立って花散里を訪ねます。身分剥奪という政変の最中に唐突に現れた花散里という人、源氏物語全編を通じて比較的存在感の薄い人で、決して美人ではなく影のような存在なのですが、唯一嫉妬心や世俗的欲望から免れている人物として描かれています。
 紫式部がこの人を挿入したのは、源氏の公と私の狭間にあって、一種慰安所のような場面の設定を必要としたかとも思われ、となると何だか今どきのサラリーマンが、退社して家に帰るまでの途中に立ち寄る、一杯飲み屋の女将さんみたいな感じがしないでもない。後々、この人は源氏が次々持ち込んでくるややこしい用事も、嫌な顔一つせずに引き受けることになる(それはまた彼女が源氏の庇護を受ける、唯一の手段でもありました)のですが、さしあたって源氏としては、寝所に戻ると紫の上にチクチクやられるのがイヤで、とりあえず避難した気配があります。

 女性方から見れば、いかにも都合のいい話で、「許せないっ!」ということになるのですが、 「山の神!?」が怒った場合、男=オスというのは帰る場所がない のです。今どきの男系社会のサラリーマンは、家族に責任があるので、それでも家に帰らなくてはならないですから、気を取り直す意味でも途中の一杯飲み屋が必要なわけですが、まだまだ母系性社会のシステムが生きていた平安時代では、男=オスというのは、ある意味生きている間はずうっと女=メスの間をさまよう存在であったのかもしれません(責任がないということは、どこにも所属が許されない、ということにもなるのです)。
 おおいに結構じゃないか、という声が聞えてきそうですが、これは逆に言い換えれば、男=オスとは 基本的に安寧の所在地を持ち得ない存在 だということで、古代母系性社会というのはサルやクマのような動物の社会システムに近い部分があったのではないか。今よりはるかに自然界の動物と接する機会が多く、またその自然界の人智の及ばぬ力を畏れ奉っていた古代なら、サルやクマの母系性社会を周囲に観察する機会も多かったはずで、それが人間社会の営みにもマッチするシステムであることは、同じ生き物としてごく自然に理解されたでしょう。彼らの社会では、若いオスは成人するとその社会からはじかれる(追い出されて、自分で新しいメスを探さなくてはならない)のです。
 しかしそれは同時に、男=オスという存在が地上の安息地を、永遠に奪われるということも意味するので、倭建命(ヤマトタケルノミコト)に代表される「古代英雄」というのは、古代社会が経験した男=オスに対する挽歌でもあったのです。倭建命の示す狂気のような荒ぶる振るまいと、子供のような故郷への思慕の同居というのは、それが生きている間は、ついに達成されないという予感に満ちているからで、彼が死んでのち白千鳥になって天高くいずこかヘ去っていったというのも、あるいは男=オスが 地上では永遠に所属を拒否された存在 であることを象徴しているのかもしれません。

 平安時代はもちろん古代母系性社会ではなく、形上は大陸由来の男系のシステムが入り込んでいるのですが、実際社会は子育ても相続も母方の家を中心に回っていたのです。というふうにみてくると、男系社会というのは、放っておくとフワフワ舞い上がって仕方がない男=オスを、うまく飼いならしてムラ社会につないでおく古代農耕社会の必然が生んだ仕組みとも言えますね(それは同時に女性から地母神的聖性を奪うことも意味します)。


― つづく ―





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Last updated  2009.06.02 14:00:07
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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