サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.07.02
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カテゴリ: 文学
 都から派遣されて鄙に行く受領とは、今でいう中央官僚のドサ回りみたいなものですが、当時の地方回りは、今よりはるかに役人個人の器量が、その後の人生に影響したようで、うまくやればとてつもない財を成して、都に錦の御旗を飾って戻ってくることが出来る、しかし不器用で管理がままならないと、在所の豪族などからは脅されたり、税の取り立てもうまくいかないとなって、都に戻れずそのまま鄙に骨を埋めるということもあったようで、そのあたりのよすがは「玉蔓」や「宇治十帖」に詳しいですね。
 この入道の場合は、その鄙とはいえ明石の立派な邸構えからみても、決して在所の経営に疎かったのではなく、むしろ中央(上役)でのいわゆる政治的折衝が苦手だったのかと思われます。

 とはいえ、入道はことの仔細を光源氏に伝えて、明石の方と姫君を大堰の邸に入らせることにする。源氏のほうも事情を納得して、例の腹心である惟光(これみつ)に大堰の様子を探らせて、邸の修繕を手伝わせたりする。で、次の引用となります。

― 親しき人々、いみじうしのびて、くだし遣はす。のがれがたくて、「今は」と思ふに、年経つる浦を離れなむことあはれに、入道の、心細くて、一人とまらんことを、思ひ乱れて、よろづに悲し。「すべて、などかく、心づくしになり始めけむ身にか」と、露のかゝらぬたぐひ、うらやましくおぼゆ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 (源氏の君は)親しく使っている部下を、ごく内々に、(明石へ)下し遣わせられた。(女君は)逃れがたい運命を、「今となっては」と思うにつけ、長年住み慣れた明石の浦を離れることがわびしく、父である入道が、心細くも、一人留まるだろうことに、思い乱れて、何事も悲しくなる。「何かにつけて、なぜこのように、物思いに沈む身になってしまったのだろう」と、(源氏の)懸想の露さえかからない人たちのことを、(かえって)うらやましくも思った。

 ここでなぜ入道だけが明石に残ることになったのか、確たる説明がないのですが、晴れて源氏の嫁となって上京する以上、明石の領地は入道から源氏に移ったとも言え、あるいは領地経営の問題があったのかもしれません。入り婿が嫁方の財産を相続するというのは、前にも触れましたが、母系制社会の名残りとも見えるのですが、ここはハッキリしません。

― 親たちも、「かゝる御迎へにて、のぼるさいわひは、年頃、寝てもさめても願ひわたりし心ざしのかなふ」と、いと、嬉しけれど、あひ見ですぐさむいぶせさの、たへがたう、悲しければ、夜昼、思ひほれて、同じ事をのみ、「さらば、若君をば見たてまつらでは、侍るべきか」と、いふより外の事なし。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 親たちにとっても、「このようなお迎えがあって、都に上るなどという幸せは、年頃から、寝ても覚めてもずうっと願ってきた思いが叶った」とて、たいへん、嬉しいこととはいえ、(そうなると)家族がお互いに合わずに過ごすことになる辛さが、耐えられないほど、悲しいので、(入道は)夜昼、思い呆けて、同じことをのみ、「ということは、姫君をお見上げできないまま、(これからは、ここで)過ごすことになるのか」と、繰り返し言うよりほかなかった。

 自ら頼むところがあって、家族にも無理を強いてきた入道ですが、大願成就のためには、自身が一番痛みを引き受けなければならないのです。しかし、



 母君は、とりわけ哀れである。年頃から、(入道は出家しているので)同じ屋根の下にも住まず、離れて暮らしていたのが、まして(娘が出ていったなら)、誰をあてにして、(一人ここに)留まることが出来よう。 … (入道は)我から世をすねたような顔つきや心の持ち方こそ、心許無いとはいえ、また、そうは言っても、「こここそは、終の住み家になるのだろう」と、いつまでもある命とは思わずに、心を決めて過ごしてきたのに、(こうして)にわかに生き別れになるのも、心細いことである。

 この母君、結局明石の方といっしょに京に帰ることになるのですが、それは実質的にダンナとの永久の別れを意味するので、見かたによっては自ら選んだ人生でないぶん、痛み具合は入道よりも大きいかもしれませんね。

― つづく ―





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Last updated  2009.07.02 10:27:47
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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