サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.07.24
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 さてここから、この「薄雲」の帖の本筋に入るのですが、光源氏の庇護者であり権勢を誇った左大臣が高齢で亡くなり、都内には何やら不穏な空気が流れます。今回はかつての右大臣派などとの政争ではなく、疫病その他、自然の現象にただならぬ気配が満ちて(皆既日食でもあったのでしょうか)、世間を騒がしているのですが、光源氏一人は、何となく思い当たる節があるのです。

 はたして、藤壺の女院がこの春の初めから病にかかって、しかも三月になって重篤になられる。見舞いに来た冷泉帝に向かって、

― 「『今年は、かならず逃るまじき年』と、思ひ給へつれど、おどろおどろしき心地にも侍らざりつれば、命の限り、知り顔に侍らむも、『人や、うたて、ことことしう思はん』と、はゞかりてなん、功徳の事なども、わざと例よりも、とりわきてしも侍らずなりにける。『まゐりて、心のどかに、昔の御物語も』など、思ひ給へながら、うつしざまなる折少なく侍りて、口惜しく、いぶせくて、過ぎ侍りぬること」
と、いと弱げに、きこえ給ふ。三十七にぞおはしける。されど、いと若く、盛りにおはしますさまを、「惜しく、悲し」と、見たてまつらせ給ふ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 「『今年は、逃れがたい(厄の)年で』と、思っておりましたが、ひどく具合が悪いということでもございませんでしたので、命の限りあるのを、知ったかのように振るまいますのは、『人様には、うっとうしくも、事々しくも思えるだろう』と、遠慮されて、(後世の)功徳の法会なども、わざとらしくいつもより、格別に執り行うということもしませんでした。『御所へ伺って、心のどかに、昔のお話も(帝にして差し上げたい)』などと、思っておりましたが、気分がハッキリしている時が少なくて、心にかかりながらも、思うに任せず、過ぎてしまいました」
と、たいへん弱々しげに、おっしゃる。(女院は)三十七歳(の厄年)でいらっしゃる。とはいえ、(今でも)とても若々しく、女盛りでいらっしゃる御様子なので、(息子である帝は)「惜しいこと、悲しいこと」と、ご覧になる。

 藤壺の女院、故桐壺帝の愛后として、中宮まで昇り詰めた人ですが、血筋は申し分ないものの、後見にかんしては世俗的な左右大臣家の威勢に押されて、桐壺帝亡きあと大いに不安がありました。入内間もない若いころに光源氏との密通があり、あまつさえその後、不義の子(冷泉帝)さえ宿した身ですが、結局我が後見の不安を失くすためには源氏との協力が必要だったわけで、「賢木」における源氏の乱心以降、出家してからの彼女の行動は首尾一貫したものを感じます。
 源氏の懸想心を封じながらも、我が子の安泰を図るという一点では、彼と意図を共有して来たわけで、前斎宮(六条御息所の娘)を無理を承知で入内させて、左大臣派(弘徽殿の女御)の威勢を封じることに成功し、彼女の願いはほぼ一定の達成を得たようです。そのあたりの経緯は「賢木」や「絵合」の帖で見てきたとおりですが、では彼女ははたして光源氏を、本当に愛していたのかどうか。
 ここはおおいに解釈が出てくるところで、それは何度も言いますが、読む側の品性を問われるところでもあるのです。最近、読んでいる私の品格を疑わせる文面が多くなっています。一言でいえば「下衆の勘ぐり」ということなのですが?!






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Last updated  2009.07.24 10:48:14
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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