サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.09.14
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 どういうこだわりかと言えば、彼は故桐壺帝に対して、父としても主上としても、かぎりなく畏敬は払いながらも、こと我が身に対する帝の取り扱いに対しては、教育その他について、決してすべてを納得していたわけではないのではないか、ということです。
 先に挙げた「絵合」の帖の、光源氏の述懐の中にある、故帝の「品高く生まれ、さらでも、人に劣るまじき程にて、あながちに、この道、な深く習ひそ(身分高く生まれて、才学によらないでも、人に劣らないで居られるのなら、強いては、この(学問の)道を、深く究めようとはするな)」という教えで、そこでも触れましたが(絵合 10.)、これは王家の考えかたなのです。臣籍降下して親王の立場を去った光源氏にとって、世間を渡っていく唯一の寄る辺といえば、我が血筋の高貴さしかなかったわけで、その演出というか芝居染みたと言えば、ちょっと源氏がかわいそうですが、彼の振るまいには、おそらく相当な苦心があったと思われるのです。

 で、そうした高貴な血筋という演出が通用するのが、源氏姓一代限りであることも彼は良く知っていたので、息子が産まれた時以降、彼は相当早くから、言ってみれば市井の人になるべき、我が子の世間を生き抜くための振るまいかたについて、いろいろ考えていたのかもしれません。これは見かたを換えれば、自身の振るまいかたは我が身一代で終わりということであって、そこにはまことに漠寂とした孤独感のようなものが、あったかもしれませんね。

 話は別ですが、ずうっと先に出てくる、彼の直系の孫である匂の宮は、この点を最後まで理解していませんでした。一代目はどんな成功も失敗も、結果はどうであれ、すべて本人のオリジナル(どんな恥さらしな話でも)ですが、二代目以降がその血筋だの権威だのをなぞって、同じような振るまいをし出したら、それらは仮に成功したとしても、すべて結局周囲からは、まやかしにも滑稽にも見えてしまうのです、しかしまあこれは先の話。

 夕霧には当然こうした父の計らいの真意など、理解できるわけもなく、若さの特権でしばらく恨んだりもするのですが、これは一種の反抗期でしょう。私はここを読んでいて、むしろその反射程としての光源氏の十代というか、青春が逆に浮かび上がってくるような気がするのです。彼の元服から十七歳あたりまでの、いわば人間形成期というのは何度も云うように、なぜか空白になっているので、ついつい想像をしたくなります。
 もうすでに十七歳ごろに、彼が六条御息所や朝顔の宮に懸想し、なかんずく父妃である藤壺の宮に天下第一の禁止を破って、強引な契りを結んだであろうことは何度も触れました。しかし彼をして、このようなアブノーマルな振るまいに駆りたてたものが何であったか、源氏物語は一言も語っていないのですが、このあと語られる夕霧と雲井の雁との、本人たちには悪いですが多少児戯じみた恋愛劇に比べれば、おそろしく反社会的な、あるいは肥大化した誇大妄想、律しきれない情念の噴出のようなものが、帝側去らずで育まれた光り輝く御子にはあったはずなのです。
 この部分がもし描かれていたとするならば(想像ですよ)、ひょっとすると1000年前の宮廷を舞台とした、一大ピカレスク物語が出来上がったのではないか?ホールデン・コールフィールドが十六歳の傷つきやすい心で、大戦後のニューヨークを彷徨したように。

― つづく ―





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Last updated  2009.09.14 14:17:59
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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