サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.10.22
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 もう何度も触れて、その古代巫女的な豊饒すぎる感性を持っていた、六条御息所の特異性については、繰り返しませんが、紫式部もあるいはそれまで描いてきた数多くの人物の中でも、ことのほか彼女には思い入れがあったのかもしれません。今の中宮(秋好中宮)は、ご存知のとおり御息所と先の東宮との間の娘で、その東宮は若くして死に(その原因は明らかにされません)、朱雀帝が桐壺帝の後を継いだのでした。
 その後の政変で、左大臣派と源氏方が巻き返し、藤壺の宮の東宮(実は源氏との間の子)が、右大臣派の陰謀を覆して帝位を継ぎ(現冷泉帝)、斎宮の女御(秋好中宮)は源氏と藤壺の宮の強力な後押しで、左大臣系の弘徽殿の女御を押しのけて、現帝の中宮の座を拝したわけです。これはしかし弘徽殿の女御が、頭の中将(内大臣)と右大臣系の四の君との間にもうけた、ごく政略的な娘であることを考えると、前にも言いましたが、左大臣系というよりは、右大臣派も含めた世俗勢力と、親王系の高貴な血筋を守ろうとする、源氏や藤壺の宮の間の争いであったとも言えるのです。

 というわけで、ここに源氏を含めた親王系の世俗勢力に対する、壮大な勢力巻き返しの構図を想定して、新たな物語を創作されるような、今どきの作家もおられるようですが、それはさておき、高貴な血筋と格調ある趣味の家柄として、自他共に認めていた六条御息所の家系というのは、平安仏教が浸透しつつある都にあって、おのずから古代的な皇孫=神道系の色合いを、強く残した家であったでしょう。
 光源氏が寵愛する姫君たちを、一同に会して住まわせることを思いついたとき、皇孫系の高貴な血筋を守ることを専願に考えたなら、秋好中宮の旧居、つまり故六条御息所の邸を守るように、取り囲む形で造営したのは必然なのでした。しかしそれは同時に御息所個人の、豊饒すぎる情感ゆえ、今だこの世とあの世の間をさまよっているらしい彼女の魂を、鎮める意味も当然あったはずで、六条院とは彼女ための鎮魂の神殿でもあったとも思えるのです。たんなる血筋ゆえでなく、御息所の個人的なパーソナリティーにも着目して、このパンテオンを想定したというのが、紫式部の独創であったと言うべきでしょう。
 それにしても、六条御息所の話になると、なぜかこのブログは力が入りますね。

 さて、光源氏や紫の上、花散里が数多くの車を仕立てて、夕霧も随員として従って六条院に入った後、数日して秋好中宮も里下りします。位階の上では彼女は源氏より上なので、源氏もことさらに気を使ったでしょう。
 さらに、

― 大井の御方は、かう、かたがたの御移ろひ定まりて、「数ならぬ人は、いつとなく紛らはさむ」と思して、神無月になん、わたり給ひける。御しつらひ、事の有様、おとらずして、渡したてまつり給ふ。ひめ君の御ためを思せば、大方の作法も、けぢめこよなからず、いと、ものものしく、もてなさせ給へり。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 大井の御方(明石の方)は、このような、方々のご移転が落ち着いたあと、「(私のような)ものの数でもない者は、いつとはなく目立たないように(移ろう)」と思われて、十月になってから、お引越しになった。(部屋の)しつらえや、引越しの次第なども、見劣りのないように、(殿は)段取り申し上げなさる。(明石の方の)姫君の先々をお考えになって、たいていの作法も、(ことさらに)差をつけずに、たいへん、ものものしく、お扱いになったのである。



 というところで、「乙女」の帖はおしまいです。ここの話の最初に掲げた、数多くの登場人物が紛れることなく、各々明晰に描かれ、しかもそれらが絡み合って話を飽きさせない。その柔らかい語り口が、b系の「空蝉」や「夕顔」を経た筆致であるということを、明らかにするつもりで、ながながと「中継?」してきたわけですが、はたして上手く再現できたかどうか、いささか長蛇を逸した感があります。
 それにしても、この地上の夢御殿の完成を、彼女がこの物語のa系物語の一区切りと考えていただろうことは、この帖でa系の主な人物をほとんど登場させていることからも明らかで、このあとは、少し本筋を離れたb系のいわゆる「玉鬘十帖」の話になるのです。
 もしここでの主役をあげるとすれば、私は一も二もなく大宮を押しますね。息子や孫のゴタゴタに巻き込まれて、歳も忘れて若やいでいる感じが、その前の「槿(あさがお)」の帖に登場して、半ばボケたような妹の女五の宮と対称的に描かれて、私はこの人が好きです。つづいてその息子の内大臣、この親子の確執は、それぞれの性格が左大臣一族の気風まで感じさせて、今でも充分面白い。夕霧と雲井の雁は幼すぎて、何となく狂言回しのような役柄になってしまいました。しかしこの二人については、先々まだまだ話はつづくのです。

― 源氏1000年 乙女 おわり ―





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Last updated  2009.10.22 08:39:21
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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