サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2012.01.05
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カテゴリ: カーネーション
 ヴェトナム戦争における、さまざまな黙示録的風景を経過したあと、ウィラードが見たカーツ大佐の王国とは、死者と同居する生者の村であり、彼は死体の見える風景に「心の安寧」を見出している。優秀なコマンドーであったぶん、さまざまな殺戮と残虐を繰り返してきたであろうカーツにとって、復員したアメリカ社会という風景が、実際には「戦争(死体の山)」で成り立っているという「現実」からかけ離れ、到底受け入れ難いものであっただろうことは想像に難くありません。

 「死の淵」に立つ、とはまさしく一度それを見てしまったものは、二度と元の世界に戻ることが出来ない、元の世界は修復不可能で、でなおかつ正気を保つには「地獄と同居」するしかない、そういう種類の経験を指すのでしょう。

 勘助が見たもの遭遇したものが何であったのか、このドラマはそうした説明は一切しない。事柄はすべて我々のほうから「想像」するしかないのです。それは現在に到るも、日本の表向きの「現実」社会が、面と向かっては決して見ようとしてこなかった、真の無慈悲なまでに冷え冷えとした「現実」なのでしょう。勘助はすべての日本人に、その冷え冷えした「現実」の感触を「想像」することを迫っている。かん違いしてはいけないのは、そこで「あらゆる残虐を並べ立てよ」、ということではありません。そうした現実を想像的に「引き受けよ」ということなのです。
 カーツがウィラードに殺されることを許した(なぜならウィラードは、ほとんどカーツの「死の淵」の風景を共有していたから)ようには、勘助はいきませんでした。孤絶した彼が選べるのは「死者の仲間」に入ることしかなかったのであり、正気でそれを選んだ以上、糸子と会うわけには行かない(糸子は完全に別個の「生者の世界」にいるのだから)。「会いたいけど、俺には、資格がないんや、もう」とはそういう意味でしょう。
 「そやけど、それも終わりや」という最後の言葉は、言うまでもなく惜別の辞であり、彼にとって再出征は、それが確実に死を招来するという意味で、むしろ「安堵」を誘うものだったかもしれません。

 こういうエピソード、しかもそのあと間髪入れず、勘助の葬送風景が挿入される(勘助の希望は成就されたのです)と、どうしても「反戦」や「平和」のメッセージを読み込みがちですが、私はあまりそれを強調し過ぎるのは良くないと思う。そういうふうにこのドラマが見えてしまうのは、戦後連綿として続いてきた「反戦平和教」とも言うべき、日本人全体が組織的に行ってきた「記憶の合理化」のなせるわざなのです。私たちはこうしたエピソードを見ると、無意識に「これは反戦ドラマだ」というレッテルを貼って、それ以上に中味を吟味しようとはしません(少なくとも「新保守主義」の人は、絶対立ち入ろうとはしないでしょう)。

 勘助が何を「引き受けよう」としたのか?そしてなぜそれが、ヘタレの勘助でなければならなかったのか?例によってドラマは直接応えようとはしませんが、それは糸子の「勘助!」という慟哭に表れている。我欲の先走った糸子のキャラというのは、決して周囲を安穏な空気には置かない。むしろ、多くの人にとって煙たい存在であったはずで、実際には避けて通る人も多かったでしょう。その中にあって、勘助だけが糸子を全面的に「受け入れていた」、なぜそうだったのか勘助自身にも説明できないけれど、無前提に糸子の在りようを「すべて受け入れていた」のは彼だけなのであって、糸子のほうもこれまたなぜかと説明はできないけれど、彼だけが自分を「受け入れていてくれた」ことだけは、ありありと分かっていたのです。


― つづく ―





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Last updated  2012.03.02 11:18:36
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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