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2008.10.16
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カテゴリ: その他

昨日までそして明日から(2)by yuki

♪あー だから今夜だけは 君を抱いていたい

    あー明日の今頃は 僕は汽車の中♪

「ごめんネ・・・約束が守れなくて・・・」

「なに言うてんねん!悪いのはオレや!オレが一番悪いんや・・」

そう言うだけで精一杯で、恥ずかしいほど涙があふれてきた

そして、受話器からの「カチャッ、カチャッ」と

乾いた音だけが二人の静寂をつないでいた。

「あのネ・・今、お姉ちゃんのところにいる。」

思い出したように彼女が言った

「本渡のか?」

「うん・・」

「待っとれ!そこで・・オレ・・すぐに行くから!!。すぐやぞ!」

「すぐに迎えに・・・」全ての言葉を言い終わるまえに

『ジ~ッ・・・』電話が切れる予告音が無情にも低く鳴った

「ええか!そこにおるんやぞ!」

『ツー・・ツ・・ツー』

私は急いで部屋に引き返した。

そして引き返す途中で初めて、

下駄すら履き忘れていたのに気がついた。

声が聞こえたことが私を安心させたのか

「ああっ・・元気かどうか聞くの忘れてた・・」

「聞こえたのだろうか?伝言・・・」

ついさっきまでのことを振り返ることが出来る自分がいた。

部屋に入りジーパンを穿き替え、

なけなしのお金をポケットに捻じ込んで

今度はしっかりと下駄を履き表に飛び出した。


♪にぎやかだった街も 今は声を静めて

    なにをまっているのか なにをまっているのか♪


走った、走った息が切れるほど。

アスファルト道に下駄の音がこだまして

その音は私に「もっと早く!もっと急げ!」と

急き立てるように聞こえた。

倒れそうな程の意識のなかで、

「そうだ。むかし・・昔も同じようなことが有った・・」

それは私が彼女と知り合って程ないころの出来事だった。

当時高校生であった私は訳あって 

家を飛び出し一人で住んでいた。

彼女は私の部屋からは10キロほど離れた

小高い山の上の『療養所』の寄宿舎に住んでいた

この頃の多くの『療養所』と呼ばれた病院は

『結核』や『進行性筋ジストロフィー』

『ハンセン病』と言った、当時でも難病と称された

治療にあたる機関が多く

彼女の務める『療養所』もこの類で、

おもに『結核』の方が多かった。

そして、その治療に携わる看護師さんの多くは

地方出身の方が多く、

彼女もまたそうであった。


そんな彼女に何日か会えない日が続き

心配した私は彼女の友人に

事情を問い詰めると、

どうも彼女が院内感染の疑いが生じ

一時隔離されている。 とのことであった。

その友人の話では、まだ疑いの段階であり

私が心配をするといけないので

、知らせないよう口止めをされていたらしい。

その事を確かめると、

私は彼女の友人にどうしても彼女に会いたいと懇願し、

なんとか手筈を整えてもらうことにした。

そして、その翌日の早朝に彼女の元に向かった

町はまだ眠りのなかにあり途中の橋の上からは

川面にたち込めている朝霧が隙間見え、

街灯は鈍く輝くようにガスにつつまれていた。

その静寂の中を私は駆け抜け 彼女をめざした

やがて道は山をつづれ織るような上り坂にさしかかった

息ははずみ、白い息が勢いよく吐き出され蒸気機関車のようだった

小一時間ほど山道を登り詰め、

ようやく彼女の勤める病院の門が見えてきた

もう、体中は汗だくで、喉はヒリヒリに涸れ上がってはいたが

私は駆けるのをやめず、一気に入口を目指した。

門を抜けようやく、歩を弛め息を整えようとしていた時

「ボン~ン」と言う声とともに私の背中が軽く押された

「あっ・・おったん?」

「うん」

彼女がそこに居た。

「大丈夫かぁ?。いつから待っとったん?」

「つい、さっき。」

「そうか・・・」

「大丈夫だよ、女はいつも待つものだから・・」

なんだか、切なくなつてきていた。

しかし、病院の門の前でいつまでも話し込んでいるわけにもいかず

近くの公園まで移動することにし、

私は彼女の手を握った。

その手は私の手よりも充分と冷え込んでいた。

私は彼女の冷え切った手を

私の学生ズボンのポケットへ導いた。

「あったか~い」

彼女は子供のように喜んだ。

そんなことを思い出していた。






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最終更新日  2008.10.16 20:30:34 コメント(3) | コメントを書く


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