2004年05月30日
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 桜の名所を、何ヶ所か訪ねた。
祭りの撮影とは、ひと味もふた味も違った雰囲気がある。

 祭りの会場で、多くのカメラマンが集まるときには、どこもが殺伐とした雰囲気になる。決められた狭い場所、決められたコースを進む主人公を、他のカメラマンよりも少しでも良い場所で写したい。そんな心理が、他人を排除しようと言う行動に、結びつくようである。
 和歌山県の某所に行ったときには、私は最良の撮影ポイントなど、微妙なことは解らないので、ほかのカメラマンよりは、かなり早い時間に場所の下見をして、土地のカメラマンから情報も戴き、とにかく適当な場所を確保した。
 それから待つこと数時間。主人公の列が、麓から石段を上ってきた。どれがアマチュアで、どれがプロのカメラマンかは、混沌とした状況が生まれた。新聞社や地元テレビ局のスタッフは、腕章でそれとなく解るのだが、フリーとなると、皆目判別ができない。とにかく、一斉にシャッター音が、林の中で響き始めた。
 そのときに、明らかに地元新聞社のカメラマンと解る人が、祭りの列に近寄った。誰もが、自分の撮影位置から動かなかったが、そのカメラマンは遅れて来たために、最良の場所が確保できずに、『職業カメラマン』としての“特権”を行使しようとしたのである。

 そのとたんに、周辺のカメラマンから一斉に、怒声と罵声が、彼に浴びせられた。容赦なく、シャッター音よりも激しい攻撃に、彼はまた、アマチュアカメラマンたちの列の後方に戻らざるを得なかった。それまでのわずかな間に、何枚のシャッターを切れたものか、他人事ながら、気になったものである。
 その後のカメラマンたちの興奮は、しばらく冷めやらなかったようである。交通整理の警察官がじゃまだと言っては、怒鳴りつける。会場整理の係員は、座らせてしまう。
 幸いなことに私は、一つの場所を動かなかったので、罵声の洗礼を受けることがなかった。ただ、凄まじいばかりのカメラマン魂に、感動は覚えた。


祭りと全く雰囲気が違うのは、時間の制約が少ないからだろうか。また、花を写すカメラマンと、祭りをターゲットにするカメラマンとは、人種が違うのか。それほどのことはないだろうが、花は殺伐としがちな人の気持ちを、和らげてくれるのかもしれない。
 姫路城は広いが、桜の撮影ポイントは、多くはない。同じポイントに、自然とカメラマンが吸い寄せられる。
 そのような場所に、私も誘い込まれていた。しかし当然に、天守閣を花の間から覗くアングルは、非常に狭い。レンズを変えて表現を他者と違うものにするのだが、それでも『最高のアングル』は、数メートルの範囲に限定される。
 私がその場所に行ったときには、一瞬、空白が生じていた。三脚を立てて、30分ほども、風の動きや、光の角度を見ていただろうか。数本のフィルムを使って、その場を離れるときになって、後方の人に気がついた。数人の人が、私がそこを離れる時を、静かに待っていたのである。

 花を写すカメラマンは、静かな人が多いのだろうか。私が知る写真家は、結構激しい気性の持ち主だが。私が軽く会釈をしてそこを離れると、数人の人もまた、黙って会釈を返してくれた。

 青森県の弘前城も、桜の名所である。日本有数の、と言っても間違いではない。ところがその弘前城に、桜の季節にあわせて、数年間も通いながら、いつも天候に恵まれず、まともな写真が撮れなかった。
 そして通うこと数年。ようやくにして、天気にも恵まれて、花も八分咲きを迎えていた。撮影ポイントも、解っている。
 勇躍、その場所に行き、絵はがき的にはなるが、橋と櫓が写せる場所に、三脚を構えた。ところが、それまでの年とは違った、思いがけない光景が待っていた。
 桜の名所で天気に恵まれたのだから、当然と言えば当然なのだが、橋を渡る団体旅行客の列が、途絶えない。橋までの距離は、20メートルほどあるだろうか。とにかく我慢を続けて、人がまばらになる時を、待つことにした。
 30分も待っただろうか。姫路城では撮影に費やした時間を、弘前城では待つために費やしたのである。しかしそれでも、人並みはとぎれない。
 そうこうするうちに、二人連れのカメラマンが、橋を渡って外に向かってきた。橋の中程で、私を見つけた。彼らは、城内に向かうときにも、私を見ていたらしい。

「どこから来たのかねぇ。」
「横浜からです。人が多いですねぇ。」
「そりゃぁ、そうだぁ。弘前城だもの。まだ待つのかい?」
「そのつもりです。そのうちに、人が途切れるときもあるでしょう。」
「いつになっかなぁ。ちょっと待ってね。」

「ちょっとでいいから、止まってけろ。あっこで、写真撮ってる人がいるから。」
 その声で、人々の流れに、空白ができた。あっという間の行動だった。その状態を数十秒ほど続けてくれてから彼らは、
「もう撮れたかねぇ。」
と私に声をかけて、“通行止め”を解除した。そして何事もなかったように、橋を渡って外へ出て行った。
「ありがとうございました。」
私が声をかけたときには、二人は気にする風もなく、人混みに紛れていた。 もしも私が“花の町”に住むならば、訪問客にあのくらいのもてなしは、やってみたい。

 気っ風のいい人は、どこにでもいるものである。だがあんな行動は、今の私にも、できるとは思えない。私はまだ、馬齢を重ねているらしい。





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最終更新日  2004年05月30日 21時16分44秒


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