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村上龍



昨年365冊の小説を読んだ私としては、間違いなく質、量ともに
ナンバー1に掲げたいのが、
村上龍御大の幻冬舎創立11周年記念特別書き下ろし作品、1650枚という
この超大作である。

村上氏は、この小説を10年にも渡ってこの構想を温めてきたのだと言う。

まさにあり得ない、いやあり得るかもしれない、数年後のわが国の姿。

財政破綻し、超インフレ時代に突入し、
中国にGDPでもすべての面で追い抜かれ、
アメリカと中国の2大国というシナリオができた。

そんな時、懸念の隣国
北朝鮮のコマンド9人が開幕戦の福岡ドームを武力占拠し、2時間後、複葉輸送機で484人の特殊部隊が来襲、市中心部を制圧した。彼らは北朝鮮の「反乱軍」を名乗った。

2010年。日本。

 経済が破綻し、預金貯金の自由な引き落としができなくなった国。国際関係の枠組みから外れたこの国は孤立化の一途をたどっていた。

 増加し続けるホームレスたちの中には若者の姿も交じる。心に闇を抱え一般社会に溶け込めない青年たち。いつからか彼らはある詩人の下へと集まり始めていた。詩人の名は「イシハラ」。土地の名は―――福岡。

 北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国を取り巻く国際関係は大幅に変化してきていた。核施設の破棄に対応する形での燃料および食料援助を受け米国との関係は良好に進み、むしろ米中関係の緩衝地帯である朝鮮半島の統一をおもしろくないとする中国との関係がアキレス腱となっていた。

 そんな折、共和国内である極秘作戦が組織指導部により採択された。

「反乱軍であって反乱軍でなく、反乱軍ではないが反乱軍でもある。そういった部隊を海外のある都市に送り込む作戦」

「どの都市だ」
九州の突端の都市を指差し答えた。
「福岡だ」


ファン・プングが挙手をして、作戦名はもう決まっているのですか、
と聞いた。
(中略)
キム・グァンチョルは胸を張り、
全員を見回しながら
得意そうに作戦名を告げた

「半島を出よ」


福岡ドームの野球観戦中に一発のバズーカを打ち込まれ、その後、
隣接のシーホークを占拠、一帯を簡単に制圧してしまった。

反乱軍の頭のよさは、まずは福岡県民と普通に接触すること。
そして、今まで悪徳な稼ぎをした犯罪者と呼ばれる人間を
逮捕、監禁することにより、資金を確保していった。

下巻は、この反乱軍に対して、誰も抵抗ができない日本、アメリカ・・・
に誰が向かって崩壊させて行くのか。

ここに一種の希望が見えると思っている。武器と昆虫を駆使して
それを実現させてみた少年達の勇敢さに天晴だろう。

日本政府の閣僚達
コリョと呼ばれる高麗遠征軍
福岡県民をはじめとする孤立された九州の人々
そして、この物語の主人公であるイシハラと呼ばれる
ならずもののリーダーを含む少年達。

北朝鮮研究レポートや、武器についての詳細、
そして、昆虫の神秘さなどかな~りマニアックに
徹底的に調べ上げているところが村上氏らしい。

とにかく登場人物が多い、そして福岡と特に北朝鮮の
地理に不明瞭だと難解なところも数多くある。

こんな非日常の世界に連れ出してくれる小説としては
やはり文芸の位置に属するのだろう。

少年たちに住居を提供している49歳の詩人イシハラは言う。
「暴走族は寂しくて、ただ愛に飢えているだけだ。お前らは違う。お前らは別に寂しくないし、愛が欲しいわけじゃない。愛も含めて、どんな社会的な約束事に対しても、そもそも最初から折り合いをつけられないんだ。だからお前らは誰にも好かれないが、誰にも騙されない。暴走族はすぐに多数派になびく。だがお前らは多数派のほうから拒絶されている。だからお前らは面白いんだ」

イシハラグループでは「趣味的」「おせっかい」などという言葉が嫌われる。彼らは単なる「マニア」や「おたく」ではなく、何かを模倣してその気分を味わうような洗練された希薄な趣味性や、表面的な共有感覚とはかけ離れた場所に孤立する存在なのだ。わけのわからない破壊への欲求を秘めた少年たちに可能性があるとしたら何か? それがこの小説のテーマだ。こういう少年たちと、北朝鮮という特殊な国から来たゲリラたち。ふたつのマイノリティを戦わせることで、多数派の思考停止状態と貧弱さをあぶり出す。ゲリラと正面から対決できるのは、社会から見捨てられたマイナーな少年たちだけなのである・・・という美しい御伽噺的要素を感ずる。

「共有する感覚というのは静かなものなんだ、モリはそう思った。みんな一緒なんだと思い込むことでも、同じ行動をとることでもない。手をつなぎ合うことでもない。それは弱々しく頼りなく曖昧で今にも消えそうな光を、誰かとともに見つめることなのだ」

ミッション終了後の数年後、イシハラはこう呟く。

「それはお前の自由だ!」


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