専業トレーダー DaTsU

石持浅海



ルールはひとつ。信じること。
メロスの友の懊悩を描く、本格の新地平!


荒れ狂う海で、六人のダイバーはお互いの身体をつかんで、ひとつの輪になった。米村美月、吉川清美、大橋麻子、三好保雄、磯崎義春、そして僕、児島克之。
石垣島へのダイビングツアー。その大時化の海で遭難した六人は、信頼で結ばれた、かけがえのない仲間になった――。そんな僕らを突然襲った、米村美月の自殺。彼女はダイビングの後の打ち上げの夜に、青酸カリを飲んだ。その死の意味をもう一度見つめ直すために、再び集まった五人の仲間は、一枚の写真に不審を覚える。青酸カリの入っていた褐色の小瓶のキャップは、なぜ閉められていたのか? 彼女の自殺に、協力者はいなかったのか? メロスの友、セリヌンティウスは「疑心」の荒海に投げ出された!


「セリヌンティウス」というのは太宰治の『走れメロス』の登場人物。メロスの身代わりとなった友人ですね。メロスは有名ですけど、セリヌンティウスの知名度はいかほどでしょうか。私もすっかり忘れていました。その名にちなんで『走れメロス』がキーワードとも言えます。

セリヌンティウスは自分の命を賭けてメロスを信じました。生きるか死ぬかという中で得た彼等の友情はその二人に共通するものがあると言うわけです。お互いの絆の深さ。友情。信頼の絶対性。それがモチーフです。

登場人物たちの心情にどれだけ共感できるかで、読み終えた後の感想も違ってきそうです。もちろん私にも信頼する友達はいます。しかし、彼等のそれは妄信的とも思える程。ちょっとついていけない感じです。一歩下がったところでみてしまうので、「解った」と言う気分を持ちにくいのです。私だったらきっとあんなこはとしない、って思えるから。大切だと思う人なら、なおのこと生きていて欲しいと思うのが普通だと思えて。

そもそも自殺するなんてことは、他のメンバーに対する裏切りじゃないの?

それはともかく。「事件」でもないことを最後まで飽きさせず読ませる手腕は流石。青酸カリによる服毒自殺にもかかわらず容器のキャップが閉められていた。そんな些細なことをきっかけに、死の真相に想い巡らせてゆく展開は充分面白い。「謎解き」の美しさも申し分ない。気持ちの部分での判りづらさはありますけれど、ミステリとしては捨てがたい味わいのある一作であるのは間違いないでしょう。

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