「しぶき」(再演)



猫のホテル「しぶき」(再演)
★★+1/2


2004年10月2日@下北沢ザ・スズナリ
(東京公演のみ:2004年9月23日~10月5日)

作・演出:千葉雅子
出演:中村まこと 森田ガンツ 市川しんぺー 佐藤真弓 池田鉄洋
いけだしん 村上航 岩本靖輝 菅原永二 千葉雅子
依田朋子(客演) 中谷竜(客演) 




(あら筋)

※初演は1996年

1986年~1996年。よりよき生活を得るために流されていったかつこときよしの物語。
1986年。かつこ24歳、きよし20歳。新宿コマで某演歌歌手の付き人生活を
していた2人はヤクザな裏世界に耐えられず新たな道を探る。しかし
六本木の美容師では店同士の争いに巻き込まれ、専属ヘア・メイクとして面接を
受けた華道家の一族もヤクザもので、ブティック経営を始めるが融資もままならず、
不況にも突入して借金におわれ店をたたむことに。
ことごとく上手くいかなかった2人は、出会いから10年が経ったころ
田舎町の建設会社(か土建屋さんか工務店)でまかないと雑役夫として雇われていた。
しかしそこでも揉め事に巻き込まれ、さらに2人して大喧嘩となり、クビに。
「やり直しきかないな」「あんたには私のようなのがお似合いなのよ」と
言いながら、また新たな行く先を求めてたたずむ二人。



(感想)

ほぼ満席。前3列ほどが自由席で長椅子。他は指定席でスチール椅子。隙間なくつめこまれ、通路は横はし2ヶ所のみ。そこも芝居で使われるため実質通路はなく、 途中で簡単に席を立てない構造になっていたのでちょっと心配でした。

今回の「携帯電話を切れ(命令形らしい)寸劇」は、千葉さんがサングラスかけた野球選手の格好で現れ客席から「似てる~」との声が。私は誰かわかりませんでした。市川さんは角川春樹氏になってたようです。



*全体感*

1986年辺りって、ドライで軽くて浮ついた時代、というイメージがありますが、 それらしいのは金銭的に豪快なのと、服装、有名人の名前くらい。あとは、ヤクザ映画や白黒映画の世界。 どこへ行ってもヤクザものだらけなのと、あくまでも泥くさく、さらに貧乏くさい方向へと展開していくのはすごいかも。

主役のかつこときよしはどちらも客演の役者さん。年齢的に若い人が必要だった模様。猫ホテの役者さん達は、1人で2~5役ほどしており 入れ替わり立ち替わり、もう誰がどの役をしていたか覚えてません(笑) ありえないような濃さで、時々リアルなキャラクターの数々。 今回個人的に一番ヒットだったのは菅原さんでした。

1つ1つの場面は面白く、かつこときよしの体験に、きよしのいとこの体験が重なり、役や設定が細かく作られていて、見応えありました。
役者さんたちも芸達者で、見事に次から次へと色んな役をこなし、息もきらしません。
けれど、軸になるべき「かつこきよし+いとこ」より、脇の濃いキャラクターの方が強く印象に残ってしまいました。特に一番印象強い池鉄さんは、何をしても「あ、池鉄さんだ」という感じで目立ち過ぎていたかなぁと思います。
千葉さんは「バブル期の反省をこめて作った」そうですが、それ以上に現代の観客にも響くテーマが加えられていれば、ぐっと惹かれて心に残リ、動員もずっと増えそうです(笑)。
観ているときはたくさん笑えて楽しくても、終わったあとは少し物足りなさを感じました。
あくまで「裏世界」に徹するのが、ここの劇団らしいのかもしれませんが。

*各場面ごと*

<冒頭シーン>

実在する大物演歌歌手K.S(中村まこと)、大物演出家N.Y(池田鉄洋)などが登場しますが、
誰も一向に似ていません(笑)いいんでしょう、似てなくて。
「当時K.Sが暴力団がらみで紅白に出られなくて、それに関してN.Yが抗議として審査員の辞退をし、代わりにアイドルグループSが出て、司会の大物歌手Kが曲名を天然に間違えてしまう」っていうのは全部事実かな。
演歌歌手達はやったらとヤクザものとして描かれてました。K.Sが、着物の下着だけ着てるときに「俺、なんか乞食っぽくないか!?」と言ったのと、弟子の歌手(菅原永二)が何かやらしげな大物先生(森田ガンツ)に「共働きの辛さを歌います!」って言ってたのがウケました。それから、NHKにチクった人?(村上航)にK.Sが札束バラまいた挙句羽交い絞めにするシーンにヤクザな美しさがありました。
「そりゃかつこ(依田朋子)&きよし(中谷竜)じゃなくても逃げ出したい」と思わせます。

<六本木の美容室>

派手なぺらぺらしたシャツや、玉置浩二そっくりの店員(いけだしん、岩本靖輝)がいたりするのが当時っぽい? 菅原さんが女性店員役に挑戦しており、側に本物の女性がいてもけっこうかわいい。いやな客(きよしの従兄・市川しんぺー)に濃いメイクを指摘され「ノーメイクです!」と言いはったり、ケンカに内心わくわくしている面白い人。
しんぺーさんは感じの悪い役が上手。ホントに感じ悪く見える(笑)。 きよしは店同士の揉め事に巻き込まれ、「きよしをかばわなかった」とかつこは従兄を怒鳴りつけ、「こんなところにいたらダメになるよ!」と2人して店の金を持ち逃げ。結構すごいことしてます。

<華道界>

派手な洋服のセクシーな女性(佐藤真弓)が家元。側に控えるのはお兄さん(岩本)、使用人?(中村)、そして年の離れた夫(森田)。面接を受けにきて「家政婦は見た」以上に危ない世界を垣間見せられたきよしは早々に退散。この辺りで「なんで、この人ことごとくヤクザものにぶつかるんだろ」と思いますが、きよし自体もお水な世界を選んでいるのですね。

<銀行>

ブティック経営を始めたかつこときよし。かつこは銀行に融資を頼みに行きますが、対応した3名の銀行員(市川、菅原、池鉄)は小さな店だからと相手にせずことごとく、激しく、濃く、熱く、バカにします。キレたかつこ、やっと出された金も「いらないわよ!」と3人を札束ビンタ。一見上品そうで、キレたらヤクザもの。かつこって初演は千葉さんがやったのかも。似合ってたろうなぁと思わせるものが。「私達がどんな道をたどってきたのか、あんた達にみせてあげるわ!」と少し過去に戻ります。ここからが、すき。

<田舎の名家>

「どんなに田舎でも絶対80年代じゃない」んですが有無を言わせません。白いカーディガンにみつあみ、カン高い声で早口の娘さん(佐藤真弓)、ぴったりした白いシャツをきっちりとズボンにいれた家の主人(中村)など、古い日本映画な人達。一見さわやかな文芸もの作品、という感じですけど、娘と息子は使用人夫婦(森田、千葉雅子)にあっさりと殺されてしまいます。この使用人夫婦は、これまで暗転時にしょっちゅう"こえたご"を持って哀しげに通路に登場しており謎だったのですが、やっと出番。通路での無言の芝居は、これまで虐げられつつ健気に働いていたことを表していたようです。

で、主人も縛られるかと思いきや、実は妻とよ(千葉)が夫を裏切っていて、主人と逃げる・・・かと思いきや、実はとよはきよしの従兄とできていて、主人の全財産を持ち逃げ・・・かと思いきや、実は首謀者の悪い男(池鉄)とできていて、2人は主人と従兄の全財産を持ち逃げ。前回はやけに中年を強調されていた千葉さん、今回はやけにモテる役。4番目の男には騙されている訳ですけど。千葉さんと池鉄さんのキスシーンには、驚き!しかも選りによって池鉄さん(笑)。←客席大笑い。

<段々畑のある田舎町>

とよに騙されて財産も失って傷心の従兄、田舎を放浪。追いかけてきたかつこときよしと一緒に民宿に泊まります。民宿のおじさん(村上航)が「うそ書いちゃダメよ、ホントのこと書いてね」と言ったり心づけを渡そうとしたかつこをきよしが小声で止めたり…と宿らしい光景。民宿のおじさん、3人で同じ部屋に泊まるのを過剰に心配して、従兄にからむ様子がかなりおかしい。散々わめいて放つ言葉の意味も不明になった挙句、「どこでカロリー計算を間違えたんだ!」(←しんぺーさんは劇団で唯一太っている)とかまで言い出して。
「東京モンはこれだから」と怒って泊めるのをいやがりながら、3人が地方出身者だときいて機嫌がなおり、去っていきます。

仲のいいかつこときよしに傷つく従兄。段々畑を逃げていく従兄、客席の通路をかけていくのですが…。席が通路に近かった私は近くで見られました。しんぺーさんの足元は、安い宿に見られがちな茶色いビニールのサンダル。部屋に戻る時は、ちゃんと裸足に。細部までリアルで(そんなとこ見てたの私くらいかもしれないが…)驚き。
従兄をなんとかなだめて、部屋へ連れ戻したかつこ&きよしの目的は金策。
「金を貸して欲しい」と土下座。しかし従兄からは「金は全て持ち逃げされた」との告白。

必死で働くも、もちこたえられずブティックは閉店に追い込まれます。


<フグの取れる町>

本州最西の海辺の町へ流れるかつこときよし。千葉さんって「海辺の田舎町」に愛着あるんでしょうか。TVも含め、3、4回見たような。小さな建設会社(か土建屋さんか工務店)で下働きをする2人。作業着を着た社長夫婦(中村、佐藤)がいかにもそれらしく、特に「年上女房」の佐藤さん、さっきまでセクシーな華道家してたとは思えません。
またきよしを窮地に追い込むろくでなしの福祉課職員が、池鉄さん。池鉄さんは一番濃くて、いつも目立ってます。きよしは、かつこが職人達と仲良くして無愛想、さらに福祉課職員にかつこを寄越せと迫られますが、その迫り方のしつこさが半端じゃない。
合間に現れる、社長夫人の息子(菅原)には今回一番ウケました。やたら訳もなくズボンをさわりたがったり、喋り方やら仕種やら、絶妙にリアル。社長に「父さんにはお前が宇宙人に見えるよ」と言われてしまうが、この夫婦なら有り得そうな息子。

過去を思い出してひどくイヤがるきよしの様子に、さすがの福祉職員も諦めはしますが、「職人にかつこを取られる」と言われ不安つのるきよし。
かつこは、社長夫人に職人達と仲良くしすぎることでイヤミをいわれくさってたさなか、登場したカタコト日本語の外国人(千葉)。千葉さん、派手なセーターにショートパンツ…。田舎町にこんな人いるんだろうか、と思わせましたが割とお似合い。
きよしが外国女性に親切にしているのを見てキレたかつこ。日々のうっぷんが爆発した二人は部屋と福祉職員をめちゃくちゃにして、大喧嘩。クビを言い渡されてしまいます。

再び現れた息子、珍奇な態度で親を適当にあしらいながら、乱れた部屋をものともせず、倒れたTVをおこして普通に見始めます。番組は、「ダウンタウンのごっつええ感じ」?
さりげなく母親が「あ、それ、悪い番組。よくない番組」と言っていたり。

<ラストシーン>

かつこときよしの行く末は見えぬまま。「やり直しきかない」といってもまだ2人とも30代前半。 2人の目指した「おしゃれでクリエイティブな生活」は無理でも、ヤクザものに出会う確率がやけに高くても、ちょっと2人してキレやすい性格でも、どうにかやっていくだろう、と思わせるものがあり、ハッピーエンドじゃないからといって暗いものは感じられませんでした。

*終幕後*
今回もカーテンコールは受け付けられず。拍手が続いてぱっと明るくなるともうそこに役者さんの姿はありませんでした。ドライ。
パンフレットもありませんでした。代わりに極彩色の「池鉄Tシャツ」が・・・!池鉄さんの顔が前に大きく印刷されてるんです。着にくいよ!(笑)
前回は学生ボランティア風の人達が受付をしていたのですが、今回はもう少しベテラン風の人達でとても感じがよかったです。傘を預ける時たたまないで渡したのですが、返ってきたときキレイにたたんであって、感激。傘を預かってもらえたこと自体初めてでした。ささいなことですが、うれしいものです。


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