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まだ、アンプ全体の構成について述べていなかったが、下図のように考えている。 前に述べたように、出力段は固定バイアスで、フィラメントは直流点火とする。ドライブ段は(1/2)5687のカソードフォロワーとし、300Bを低インピーダンスでドライブする。300Bはグリッド抵抗の制限がなく、390kΩなどとしている設計も多いので、カソードフォロワーの必然性はないが、前段の負担を軽減するとともに、傍熱管が暖まるまで出力管をカットオフしておくためである。もちろん、多少の出力アップも期待できるが、プレート電流が最大定格を超えないように注意しなければならない。 2段目が実質的なドライブ段になるが、(1/2)5687を投入して美しい歪を発生させることを狙う。この段ではカソードのパスコンの処理に頭を悩ませるところだ。あまり時定数を大きくしたくないところである。初段とは直結として、2段目のグリッド電流を吸収する必要がある。初段は全体のゲイン配分によって選択が変わってくるので、今のところ12AU7のパラレル接続としておく。これではゲイン不足の場合、12AT7とするか、12AU7でカスコード接続にするかもしれない。 設計の順序としては出力段からスタートして、前段に遡っていくつもりだ。
2022.01.25
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前回の記事から、だいぶ間が空いてしまった。今回はまず、300B出力段の動作点を選択しようと思う。 使用する出力トランスF-2007Cの1次側インピーダンスは3kΩであり、プレート電圧は400Vの予定である。真空管マニュアルに示されている動作例では、この条件の場合、プレート電流50mAとして出力11.5Wを得ることになっている。しかし、特性曲線上に動作点を取ってみると、ずいぶん電流が絞られていることに気が付いた。 そこで、中林氏のモデルによるTINA7のシミュレーションを行ってみよう。出力トランスの1次側直流抵抗を実測値の60Ωとして、プレート電圧が400Vになるように調整しながら、無信号時プレート電流を50mAから80mAまで変化させた。その時の出力とひずみ率を求めてグラフ化した。無信号時プレート電流が65mAまでは、明らかに1サイクルの中で電流がカットオフしており、歪も10%以上ある。出力も到底11.5Wにはならない。出力と歪率はそれぞれ、70mAで10.7W・6.4%、75mAで10.8W・5.1%、80mAで10.8W・4.6%となった。 ここで問題となるのは、プレート電流を何mAまで流せるか、と言うことであろう。自己バイアスにするつもりはなく、当然、固定バイアスとなる。最大定格は100mAであるから、最大信号時においても、プレート電流が100mAを決して超えないことが求められる。実はシングルアンプの場合、最大信号時のプレート電流は無信号時と比べてあまり大きくならない。シミュレーションによれば、無信号時80mAに対しても最大信号時85mAと言うところである。 雑誌の製作例を見ると、プレート電圧350V、プレート電流60mAくらいの軽い動作が多く、自己バイアスを採用している設計が多い。しかし、必要以上に300Bを軽く使うのはいかがなものかと思う。案外だったのは、浅野勇氏の設計で、自己バイアスではあるが、プレート電圧400V、プレート電流80mAと言うアンプがあった。そこで、今回は固定バイアスで無信号時プレート電流75mAの動作を選択することにした。最大信号時のプレート電流は80mAである。歪の分析では2次歪5.1%、3次歪0.6%であって、3次歪が少ない感じである。
2022.01.20
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前々回のコメントで、300Bは内部抵抗が低いのでNFB無しでも行ける、とあったので、この点について述べておこうと思う。【仮説3】 DF(ダンピング・ファクター)は5くらいが真空管アンプらしくて良い音になる。 DFが音質に影響を与えるのは、スピーカーのように周波数によってインピーダンスが変動する負荷をつないだときに、周波数特性がDFによって変わってしまうからだ。スピーカーは電圧駆動(内部抵抗0)されたときに所定の特性が出るように設計されている。スピーカーのインピーダンス特性の例を下図に示す。( https://mobius-el.cocolog-nifty.com/blog/2017/12/post-5227.html より)低域にある2つの山は、f0の山と、バスレフポートの山であろう。高域ではだらだら上昇しているのが分かる。古いタイプのスピーカーであれば、周波数によるインピーダンスの変化はさらに顕著である。 DFが小さい、つまり内部抵抗が大きいと、内部抵抗による電圧降下が無視できなくなる。例えば8Ω負荷のアンプに32Ωの負荷をつないだとき、どれだけ出力レベル(電力)が変化するかを計算してみよう。DF=∞のときは0.0dB、DF=10で+0.31dB、DF=5で+0.58dB、DF=3で+0.90dB、DF=2で+1.25dB、DF=1で+2.04dBとなる。もっと負荷抵抗が大きくなれば、レベル変化はさらに大きくなる。DFが小さくなると、周波数特性のグラフでかなり大きな面積が持ち上げられることになるので、聴感上もはっきり差が出る。DFが2~3くらいの音を好む人も多いが、無帰還シングルアンプでDFが2を超える出力管は少ない。300Bはまさにその一つである。 どれだけのDF値が良いかはスピーカー次第であるが、今回のアンプでは、DFを5程度と考えている。従って、NFBは必須となる。NFBの効用は歪みを減らすことにもある。300Bは決して歪みが少ない球ではないのだ。前に述べたように、前段との歪み打ち消しが起こりやすいが、それだけでは定格出力時の歪みは小さくできない。歪みが大きいと音が濁るのだ。そこで、少量のNFBが用いられる。NFBの効用はさらに、Gainの安定にもある。無帰還の場合、左右のレベル差が無視できなくなる場合がある。0.5dB以内には収めたいものだ。4~10dBくらいの少量のNFBを施すことで、大きく改善できると言える。 決して大量のNFBをかけるつもりはない。3極出力管は素子の個性が出やすいところが良いのであって、NFBのかけ過ぎはその個性を殺してしまう。で、今回の仮説は次のようにも置き換えられる。【仮説3’】 少量のNFBはアンプにとって有益である。
2021.09.12
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300Bはご存じの通り直熱管である。フィラメントの点火方法については、交流点火でなければダメという人も多い。B電源の整流も整流管でなければダメだとか。この2つはかなり関連しているのではないかと思う。交流点火の場合、そのままAC電源から供給すると、電源トランスを介して、B電源で発生した雑音の影響を受けやすいのだ。しかし、単なる交流点火では雑音レベルを十分に下げることはできない。0.5mVくらいでは不満である。と言って、100kHz以上の高周波点火や7Hzの超低周波点火を採用している例があるが、大ごとになるのでやりたくない。 直流点火がダメな理由として挙げられるのが、フィラメントを直流点火すると、そのプラス側とマイナス側ではバイアス電圧が異なるため、フィラメントの片側ばかり電流が流れてしまい、特性が大きく変わってしまう、と言うものである。例えば送信管の211を考えると、バイアス電圧が-50Vくらいなのに対してフィラメント電圧が10Vもある。このような球では点火方法によって特性が変わってしまうのではないか。しかし、300Bはバイアスが-85Vくらいと深いのに、フィラメント電圧は5Vと小さいので、影響は少ないのではないだろうか。【仮説2】 300Bはバイアス電圧に比べてフィラメント電圧が小さいため、直流点火でも特性の変化は小さいので問題ない。 この仮説を検証してみよう。211のEb-Ib特性は下図のようになる(TINA7で描画)。グリッド電圧は10Vステップである。プレート電圧1000Vのとき、バイアス-50Vでプレート電流は95mAほどであるが、バイアス電圧-45Vから-55Vに変化させたときのプレート電流の変化は35mAとなり、変動率は37%である。 これに対して300BのEb-Ib特性(TINA7で描画)は下図の通りである。グリッド電圧はやはり10Vステップである。だいぶ曲線の傾きが異なるように見える。300Bの場合、プレート電圧375Vのとき、バイアス-80Vでプレート電流は66mAほどであるが、-77.5Vと-82.5Vでのプレート電流の変化は25mAくらいあるので、なんと変動率は38%とほぼ同じになってしまった。電流変化は思いのほか大きいですな。 ということで、仮説2は間違いだった。そこで、以下のように修正しよう。【仮説2’】 300Bや211は直流点火でも特性の変化は小さいので問題ない。と言うことにして、先に進むことにする。
2021.09.04
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さて、アンプを設計する際は自由度が大きいため、何らかの方針を定める必要がある。こうすれば良いアンプができるはずだという発想、思い込みから出発するのが普通だ。客観的に証明されたものである必要はないので、これを「仮説」として示していこうと思う。今回は300Bはなぜ音が良いかを考えてみよう。300Bは音が良い真空管だと言われている。Western Electric という、当時世界最高の技術者を集めた会社が作った映画館のシステムに使われたことも影響していると思われる。WEオリジナルのの300Bシングルアンプ、WE91の回路をコピーして作る人も多い。しかし、何しろこのアンプは1930年代の設計である。前段は5極管で構成されているため、Gainも高すぎるように思われる。実際、今販売されている300Bアンプはこれとは異なる現代的な設計のものが多いのだ。ではなぜ、他の出力管に比べて、300Bは音が良いと言われているのか。【仮説1】300Bアンプではドライバ段と出力段の歪打ち消しが自然に起きるため、トータルの歪が少なくなるのが音の良い理由である。 解説しよう。300Bは大電流を流せる出力管なので、歪は決して小さくない。シングルの動作例でも5%くらいの歪があってその成分は主に2次歪である。一方、300Bはバイアス電圧が-80Vなどととても大きいため、前段は大きなドライブ電圧を要求されることになる。従って、前段の歪が大きくならざるを得ないのだ。ここで、前段の歪と出力段の歪は位相が逆なので、歪打ち消しが自然に起こることになる。このため、トータルの歪が少なくなるわけである。この目的から考えると、ドライブ段はあまり強力なものにしないで、適度に歪ませるのがよいと考えられる。実際、武末一馬氏のようなベテラン設計者は、ドライブ段に12BH7Aを好んで使用していた。12BH7Aは特に歪の多い球だから、歪打ち消しに都合が良いためである。ただ、私は12BH7Aを使おうとは思わない。歪打ち消しが起こると言うことは、300Bの歪とドライブ管の歪の差分を聴いているわけなので、ドライブ段にも歪の少ない球を起用したいところだ。と言うわけで、ドラ-バーには5687を用いる予定である。ところで、仮説1は確たる根拠があるわけではない。トータルの歪が少なくなることは本当だが、それで音が良いかどうかは分からない。あくまでも仮説というゆえんである。
2021.08.18
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さて、このアンプのために用意したトランスはTAMURA製である。選んだ基準は単純で、背の高いトランスを選んだのである。私はアンプを調整するとき、逆さまに置いて行う習慣なので、背の高い300Bよりさらに背の高いトランスはないかと探したのだ。300Bはソケット位置からおよそ140mm位の高さである。カタログで調べると、TAMURAのF-2000シリーズの出力トランス、PC-3000シリーズの電源トランスは高さが145mmあるのだ。と言うわけで、単純な理由でこのシリーズの採用が決まった。このとき、実際に購入したのはF-2007CとPC-3004である。出力トランスのF-2007Cは当時(2002年)のノグチトランスがTAMURAに特注して作らせたF-2007のカットコアバージョンである。ところが、説明書がどこかに行ってしまったので、両者の性能の違いはよく分からない。分かっているのはCタイプの1次インダクタンスが37Hと大きくなっている(普通のF-2007は25H)ことくらいである。1次インピーダンスは3kΩ、出力は10Wと同じである。300Bの場合、負荷は3.5kΩに選ばれることも多いが、3kΩの方が出力は大きくなる。10Wを目指すなら3kΩが良いのだ。いずれにしろ、出力トランスは特性を測定してみる必要があるだろう。PC-3004は現行品と同じであるが、当時のものはケースの角が丸い絞り加工となっている。チョークのA-4004も買ってある。電源トランスは必ずしも使いやすくないのだが、最近は電源トランスもチョークコイルも高価になっているので、持っているものを活用して作るつもりである。シャーシーはモノラル用に旧鈴蘭堂のSL-8である。さて、このシャーシーの上面は2.0mm厚のアルミ製である。ここに問題がある。TAMURAのトランスを取り付けるためには巨大な角穴をあける必要があるのだ。手持ちのシャーシーパンチはアルミ1.8mmまでとあるし、丸穴のみだ。ハンド二ブラーは2mm厚までだが、あまりきれいに開けられそうにない。そう言えば、昔リードから油圧パンチが発売されていたのを思い出し、調べてみたら、お値段が84,000円と出てきた。角穴用の刃は別売りで50,000円とのこと。穴開けのためにこの値段はちょっと痛い。そこで、Yahoo!オークションを当たってみたところ、亀倉精機の未使用オリジナル品を入手することができた。リードと同じモノで、本体と角穴用替え刃が合わせて40,000円である。あまり高価にならずに良かった、良かった。
2021.07.22
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さて、これから取り組む予定なのは、3極出力管シングルアンプである。実は2008年に、製作する計画を立てて、シャーシー、トランス、真空管などを購入していたのであった。2009年の正月には、「いま300Bシングルアンプ(モノ)の構想を練っている」と、このブログに書いたほどである(写真参照)。しかし、それから12年の間、これらのパーツは日の目を見なかったのである。●まず第一に、なぜ3極管シングルなのか?以前、エレキットのシングルアンプを改造したとき、これは多極管シングルであるが、なかなか音が良くて感心したので、3極管ならもっと良くなるのではないかと考えたのである。3極管は効率は悪いが、スピーカーのように負荷抵抗が変化する場合、特性の変動を抑えることができる。ひずみ率を低めに抑えられるし、ダンピングファクターもそこそこの値が得られるのだ。●第二に、なぜ300Bなのか?特に古典球を愛好しているわけではなく、3極管で出力10Wが欲しかったからである。その条件に当てはまる球はほとんどない。国産の50CA10は入手困難となっており、KT88の3結は入手可能だが魅力に欠ける。300Bであれば、価格はともかく、いまや最もポピュラーな真空管であって入手は容易である。というわけで、300Bを選ぶことにした。●第三に、なぜモノラルアンプとするのか?最高の性能を求めるには、パワーアンプはモノラルが望ましいと思う。具体的にはセパレーションが確保でき、雑音対策も立てやすくなる。重くなりすぎないことも重要だ。これから300Bシングル・パワーアンプの設計と製作を開始するところなので、このブログでは、その様子を逐次報告していきたいと思っている。
2021.07.13
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