「意思を持つお餅:モチオの脱走劇」
2026年、とある下町の小さなお餅屋さん。ここでは最新のバイオ技術(?)により、ごく稀に「感情を持ってしまったお餅」が誕生することがありました。
その名は「モチオ」。彼は自分がただの「正月用の切り餅」として、熱々の網の上でぷっくり膨らみ、醤油の海にダイブする運命にあることを悟っていました。
「……嫌だ。俺は焼かれたくない。俺は、もっと広い世界(外の世界)が見たいんだ!」
モチオは決意しました。ちょうど、店主の頑固親父が居眠りをした隙に、彼はトレイから「ムニッ……ムニッ……」と這い出し、店を脱走したのです。
しかし、外の世界は過酷でした。
まず、乾燥との戦いです。
モチオが意気揚々と公園を歩いていると、冬の乾燥した空気のせいで、みるみるうちに肌(表面)がガサガサに。
「くそっ、このままじゃヒビ割れて、俺のチャームポイントの『なめらか肌』が台無しだ……!」
彼は通りかかった女子高生が落としたハンドクリームを全身に塗りたくり、なんとかテカテカの状態で危機を脱しました。
次に、重力との戦いです。
歩道橋の階段を登ろうとしたモチオ。しかし、彼は「餅」です。階段の角に触れるたび、体が「ビローン」と伸びてしまい、足が一段目、頭が三段目という、見るも無残なストレッチ状態に。
「伸びるのも考えものだな……。誰か、俺を丸めてくれ……!」
そんなモチオに、最大の危機が訪れます。
空腹に喘ぐ一羽のカラスに見つかってしまったのです。
カラスは鋭いクチバシでモチオを突つこうと急降下してきました。
「絶体絶命だ! 食べられるくらいなら、せめて美味しく食べてほしかった……!」
その時です。モチオの脳裏に、店主の親父が言っていた言葉が響きました。
『餅はな、熱を加えれば加えるほど、強くなるんだ。』
モチオは咄嗟に、近くの自動販売機の横にある「あったか〜い」飲料の排熱口に飛び込みました。
熱風を浴びたモチオの体は、みるみるうちに膨らみ、白く、巨大な風船のようになりました。
「くらえ! 究極の粘着攻撃!」
モチオは膨らんだ体でカラスのクチバシに「ペタッ」と吸着。驚いたカラスは、口が開かなくなり、慌ててどこかへ飛んでいきました。
勝利を収めたモチオでしたが、体力を使い果たし、道端で「プシュー……」と萎んでしまいました。
そこへ、一人の小さな男の子が通りかかります。
「あ、お餅が落ちてる。……でも、これハンドクリームの匂いがするから食べられないや。おうちに帰してあげよう」
男の子はモチオを拾い上げ、あのお餅屋さんへ届けてくれました。
店主の親父は、戻ってきたモチオを見てニヤリと笑い、こう言いました。
「バカ野郎、外は寒かったろ。……お前は、鏡餅の『一番上』にしてやるよ。そこなら、一番長く景色が見えるからな」
こうしてモチオは、焼かれることなく、特等席から家族の幸せを見守る「鏡餅のドン」として、輝かしい(?)余生を送ったのでした。
教訓:
お餅は伸びても、根性は曲げるな。ただし、乾燥には要注意。
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