おらんだ曼荼羅
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「ヴァーターランドという村があるんです」と私は言った。 「世界で一番、美しい村なんです。・・・・・」 彼の中の欠落している部分を私が埋めていく。 埋めて埋めて埋め尽くして、それでも足りずに、彼自身を飲み込んでしまう。 彼自身を私の子宮の奥底深く、隠してしまう。 ヤンは・・・、テーブルの上にあった白い紙ナプキンに「De Witte Swaen」と書きつけた。 ・・・・・。僕とリュウヘイは帰りにスワンの店に入って、パンケーキ、食べました。りんごとベーコンのシロップがけのパンケーキがとてもおいしかったです。 私は泣きながら微笑んでいる。・・・・・。 ヤンが心配そうに私を見る。「大丈夫? ミキ」 「大丈夫」と私は言う。 ヴァーターランドの家を思い描く。 行ったことのない村の見たこともない家。そこで自分と遼平とが、日々繰り返される生活を営んでいる。 互いがかつて体験した悲しみや痛み、絶望や孤独のすべてが、静かな泡のようになって消えていく。 彼の中にあって、長年彼を苦しめてきた熱い風も、少しずつ凪いでいき、そのうち、そんなものが吹き荒れていた、という記憶すら薄れていく・・・。 ・・・・・、美しい村の小さな家は、生涯、永遠に自分の中に生き続けるだろう。 そして自分を支え続けるだろう。 注:テキストはすべて小説「熱い風」(小池真理子作)からの引用です
2010/01/09
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