あゝ平凡なる我が人生に幸あれ

偽装の回路

目撃者ご一報下さい ~偽装の回路~     【目撃者ご一報下さい】所収


美恵子は、恋人である吉井邦彦との結婚を控えていて、幸せに包まれていた
三ヶ月前、会社の上司に無理やり見合い話を持ちかけられ、まったく気乗りがしなかったのだが、相手が一流企業に勤めるハンサムな吉井だったので、美恵子はすっかりその気になってしまい、デートを重ねていくうちに、結婚することとなったのである

ある夜、美恵子の自宅に訪問者が訪れる
「どうして?」
その顔を見て、美恵子は絶句する
玄関先に立っていたのは、以前交際していた湯之原だったからだ…

一年前、美恵子が自動車教習所に通っていたときに、教官だった湯之原と知り合った
丁度その時、美恵子は不倫の恋に悩んでいて淋しかったこともあってか、優しくしてくれる湯之原に惹かれてしまい、肉体関係を持ってしまった
美恵子にしてみれば、湯之原との関係はほんの軽い気持ちだったのだが、湯之原はことのほか真剣で、妻子とも別れてしまい、美恵子に執拗に付きまとってきた

はじめは、湯之原との関係をずるずると引き摺る美恵子だったが、吉井と交際が始まると、縁を切るために、湯之原が消費者金融でこしらえていた80万円の借金を肩代わりするかわりに、もう会わないことを約束させる
しかし、湯之原の行動はエスカレートして、美恵子の職場に顔を出したり、どこからか美恵子の結婚話を嗅ぎつけたらしく、相手の吉井が勤める会社に乗りこむと、強気な態度を示してきた
そんなこともあってか、湯之原の言われるがままに、関係を持ち続けた美恵子だったが、吉井との結婚話が正式に決まったのをきっかけに、きっぱりと関係を断つ意味で、手切れ金として湯之原に百万円を手渡す
勤めていた自動車教習所もとうの昔に辞めてしまい、お金に困っていた湯之原は黙ってそのお金を受け取った
これで関係は終わった…

あれから、三週間
もう終わった筈だとばかり思っていたのに、美恵子の前にふたたび湯之原が現れた
湯之原は、美恵子が渡したお金を返し、今までの無礼を詫びると、
「吉井とは結婚してもいいが、週に1回は俺と会ってくれ」
と懇願してきた
突然の要求に驚く美恵子
しかし、そんな事ができるわけもなかった
中年の冴えない湯之原には、男として何の魅力も感じていないのだ
吉井との結婚を邪魔されたくない!
そう思った美恵子は、湯之原を殺すことを決心する

犯行時刻にアリバイが無いと疑われてしまうので、アリバイ工作をする必要がある
そこで思いついたのが、電話の転送トリックだ
毎日必ず夜9時になると、吉井が電話をかけてきてくれる
これを、アリバイに利用することに美恵子は決めた

完全犯罪を実行する日…
計画通りに湯之原を殺害した美恵子
電話のアリバイトリックも成功した
全てはうまくいった

事件後、美恵子のもとに、京都府警の山倉刑事が訪ねてきた
川で溺死体となって発見された湯之原のことについてだった
美恵子と湯之原は、自動車教習所のときに仲睦まじかったことは周知のことだったので、誰かから情報が入ったのだろう
いまさら隠すこともないので、美恵子は、湯之原との関係やサラ金を肩代わりしたことなどの事実を告げた
その不自然な関係に、刑事は疑いを持っているようだったが、死亡推定時刻に電話のアリバイがある事を告げると、刑事は帰っていった

これで、すべて終わった…
ところが、湯之原の死が、泥酔して川に落ちたことによる事故死と片付けられるとばかり思っていたら、殺人の疑いがあると報道されたのだ
果たして、美恵子の完全犯罪の行方は…?



~感想~
真実を確かめることを恐れたがゆえに、真実から目を背けたら、結局は皆が皆、最悪の結果を招いてしまった
相手のことを思っているようで、結局は独りよがりだったのだ
やはり、隠し事はいけないということか
物語のラスト、罪を犯してしまった女性に対して、婚約者の男性が優しい感情を持っていた点は救われたような気がした
でも、その優しさは、彼女からしてみれば、かえって残酷だったかもしれない

という事で、私的評価は星【★★☆☆☆】2つです



◆この原作のドラマ化作品◆
昭和61年10月27日放送
山村美紗サスペンス
『偽装の回路』
出演/狩矢警部…松方弘樹/宮田美恵子…森下愛子/湯之原…泉谷しげる/吉井邦彦…岡本富士太/電話販売員…宮尾すすむ/野々村常務…永井秀明/野々村の妻…小畠きぬ子 ほか



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