あゝ平凡なる我が人生に幸あれ

くらやみ祭に人が死ぬ

京都の祭りに人が死ぬ ~くらやみ祭に人が死ぬ~    【京都の祭に人が死ぬ】所収


六月五日、宇治の“くらやみ祭”の日、加奈子は、姑の貞子を殺すことに決めていた…

夫の河上康夫と加奈子は、三年前に結婚した
東京生まれの加奈子は、なかなか京都の習慣に馴染むことができず、貞子との折り合いは初めからうまくいっていなかった
子供ができれば生活が変わるだろうと考えていた加奈子だったが、いざ長女を出産すると、状態はさらに悪化した
育児すべてを貞子が指図するので、子供も貞子に懐いてしまったのだ
それでも、我が子との暮らしに生き甲斐を感じていた加奈子だったが、その子供が誤って川に転落して死亡してしまう

子供の死に悲しみが癒えない加奈子だったが、再び妊娠が発覚する
今度こそは、姑に何を言われようとも自分で育てる!
そう決心した加奈子だったが、ある日、2階を掃除しているときに、階下から姑に呼ばれて、慌てて階段を下りたときに足を踏み外して転げ落ちてしまう
子供は流産し、しかも加奈子は二度と子供が産むことができない身体となってしまった
その一件があって以来、河上家には美知子という女性が顔を出すようになった
美知子は親戚の娘で、もともとは、康夫の嫁にと貞子が考えていた女性なのである
子供を失った悲しみ、積年の恨みは、やがて姑への殺意へと変わっていった…

くらやみ祭の日は、親戚を呼んで歓待する習わしがあり、貞子の家にも親戚が何人か来た
それと入れ替わりに、貞子が「用事があるから」と、外出をする
しかし、これは嘘で、外出したようにみせかけて、貞子は裏口から家に戻り、自室に隠れているのだ
これを加奈子は、今回の殺人計画に利用しようと思いついた
親戚をもてなしながら隙を見て、家の中にいる貞子を前もって汲んでおいた宇治川の水で溺死させ、そのまま死体は家に隠しておく
そして、親戚が帰ったあとに宇治川に死体を遺棄するというもの
親戚は貞子は外出していると思っているので、宇治川で溺死した死亡推定時刻には、親戚と一緒にいた加奈子には完璧なアリバイがある

当初の計画通りに、席をはずしたときに加奈子は、自室に篭っていた貞子をバケツに汲んでおいた宇治川の水で溺死させる
その後、親戚たちとくらやみ祭の見物に出かけ、親戚たちと別れたあとは、近所に住む姉妹と話し込み、23時過ぎに帰宅した
これで、23時までは誰かと必ず一緒にいたというアリバイがある

息つく間もなく貞子の死体を車に乗せると、暗闇の街の中を走らせた
くらやみ祭というだけあって、今は街の殆どの明かりがついていないので、誰に見られる心配もなく宇治川の川岸へと到着した
いざ死体を川に落とそうとしたとき、加奈子は忘れ物をしたことに気づく
傘が無いのである
今日は小雨が降っていたので、貞子は傘を持って外出した
その傘が無いと不自然に思われてしまう
慌てて車に駆け戻ると、忘れていたと思った傘は助手席に置いてあった
一安心したのも束の間、川岸に視線を戻した加奈子は棒立ちになった
なんと、貞子の死体の傍で、男が屈みこんでいたのだ

このままでは、計画が台無しになってしまう!
そう思った加奈子は、手にしていた傘で男の背後から頭めがけて何度も振り下ろし、意識の無くなった男を宇治川へと放り出してしまう
そして、傘を貞子の脇に挟むと、その死体を宇治川へと放り込んだ

翌日…
貞子が帰宅しないことを心配する夫の康夫は、常日頃から折り合いが悪い加奈子をなじる
そんな二人の前に、つけっ放しにしていたニュース番組から事件の報道が飛び込んでくる
それは、宇治川下流で、茶問屋の石山良夫という男性の遺体が発見されたというものだった
それは、紛れもなく加奈子が殺害した男性だった

それから程なくして、河上家に警察官が訪ねてくる
それは、宇治川のかなり下流にある観月橋近くで、貞子の水死体が上がったというものだった
事情を聞かれるために警察に呼ばれた康夫と加奈子の二人は、事件当夜の詳しい話をする
アリバイを聞かれた加奈子は、23時まで人と居たというアリバイを主張するが…



~感想~
姑に殺意を抱く気持ちは共感できるし、完全犯罪を実行に移す過程も丁寧に描かれているが、予期せぬ出来事をきっかけに計画が狂ってしまうところが、ちょっと理解しがたい所があり、この辺りから主人公に感情移入できなくなってしまう
というのも、初めは悲劇のヒロインなのだが、途中から自分の完全犯罪を成し遂げるためなら手段を選ばない身勝手な嫌らしいヒロインになってしまうからである
マザコンの夫からは妻に対する愛は感じられず、彼女が姑を殺したところで、果たして幸せな生活を取り戻せたか?となるとかなりの疑問
それゆえに、彼女が完全犯罪で姑を殺すという行動に説得力がやや欠けた

最終的には、罪は暴かれてしまうのだが、その過程がなんとも皮肉
悪いことは出来ないということか

という事で、私的評価は星【★★★☆☆】3つです



◆この原作のドラマ化作品・1◆
昭和62年2月19日放送
木曜ゴールデンドラマ
『くらやみ祭に人が死ぬ』
出演/河上加奈子…大竹しのぶ/河上康夫…山下真司/河上貞子…乙羽信子/馬渕晴子/清水クーコ ほか



◆この原作のドラマ化作品・2◆
平成15年3月23日放送
水曜女と愛とミステリー
山村美紗サスペンス
『不倫調査員片山由美4~京都宇治伏見殺人慕情・密室の変死体、河原の溺死体!・壮絶な嫁姑戦争が生んだゆがんだ醜い連続殺人?』
出演/片山由美…池上季実子/片山俊作…神田正輝/河上貞子…宮下順子/河上加奈子…長谷川真弓/石打良三…江藤潤/片山昌代…三条美紀/岡島乃梨子…山村紅葉/楢崎昌之…中島久之/楢崎まさる…緒方幹太/坂巻…丹古母鬼馬二/桑本均…小宮孝泰 ほか


…ドラマの感想
原作は「京都大原殺人事件」と表記されているが、ストーリーは「くらやみ祭に人が死ぬ」を引用している



◆この原作のドラマ化作品・3◆
平成15年10月11日放送
山村美紗サスペンス
『京都の祭に人が死ぬ・嫁VS姑VS愛人、祗園祭に燃えた殺意・新妻の完全犯罪超絶トリック!』
出演/河上加奈子…松下由樹/河上貞子…山本陽子/河上康夫…大浦龍宇一/杉井美知代…高橋かおり/杉井剛志…長門裕之/高瀬正文…井田國彦/柳田春子…山村紅葉/林信江…山田スミ子/花村久子…雪代敬子/長友警部補…木村栄 ほか


…ドラマの内容
ルポライターをしている加奈子は、夫の康夫と姑貞子の3人で暮らしている
東京で夫婦で始めたベンチャー企業が失敗し、一千万円の借金を貞子に肩代わりしてもらい、その条件として同居をはじめたのだった
しかし、京都の風習に馴染めない加奈子は貞子との折り合いが悪く、また、康夫の許嫁だという美知代の存在もあり、居心地の悪さを覚えていた

康夫の亡父と、美知代の父親が親友の間柄だった関係で、杉井が社長を務める会社に勤務し始めた康夫は、保津峡で開かれるキャンプに夫婦揃って参加する
そのキャンプで、社員の妻である小笠原千春が崖から転落して死亡するという出来事が起こる

千春の死が事故とは考えられないことから、警察では殺人と断定するが、捜査線上には千春を恨んでいる人物が浮かんでこない
そこで警察は、千春は加奈子に間違われて殺されたのでは?と睨む
というのも、加奈子と千春は背格好が似ていて、服装も似ていた
しかも、千春は加奈子に借りた日傘をさしていたのである
「誰かに恨まれる覚えは?」
そう長友警部補に尋ねられた加奈子は、姑貞子の顔を思い浮かべるのだった…

相変わらず貞子に辛く当たられる日々を送るなか、洗濯物を取り込もうとした加奈子は、階段を踏み外して転げ落ちてしまい、流産してしまう
退院後、階段を調べてみると、誰かが細工した跡を見つける
直感的に貞子の仕業と感じた加奈子は、貞子を問い質すと、釘抜きと木の板から抜き取った釘を黙って加奈子の前に出すのだった

赤ん坊は貞子に殺された!
その事を夫に言う加奈子だったが、康夫は信じられないの一点張りで取り合ってくれない
一人で悩む加奈子は、次第に貞子への殺意を募らせていく

ある日、物置を整理していた加奈子は、ある一冊の本を見つける
それは、康夫の父正臣が学生時代に所属していたミステリー同好会の本だった
そのなかの作品のひとつに加奈子は注目する
それは、葵祭の夜に新妻が姑を殺すという完全犯罪の内容だった

積もり積もった不満から貞子に殺意を抱いていた加奈子は、小説をヒントに、祗園祭の宵山の夜、貞子を殺害する決心をする
宵山の日、義姉の春子や親戚の信江が訪れる
客をもてなすことが煩わしい貞子は、一旦外出したフリをして勝手口から入って、こっそりと自室に戻る
そこで、あらかじめ汲んでおいた鴨川の水を使って、隙を見て貞子を溺死させ、あとで鴨川に死体を遺棄する
こうすれば、自分に疑いが向けられても、家に居たことを親戚が証言してくれるはずで、外出していた貞子を殺すことはできない加奈子のアリバイは成立する

宵山の日、すべては計画通りに事は進んでいる
しかし、いざとなると躊躇ってしまい、加奈子は貞子を殺すことができず、春子らに誘われるがままに宵山見物に出かけてしまう
春子らと別れて帰宅すると、自室に居るはずの貞子の姿は無かった…

翌日、貞子の溺死体が鴨川から発見される
警察から疑われ、アリバイを主張する加奈子だったが、事件と酷似した内容の本を加奈子が持っていたこと、そして事件当夜、鴨川の水を汲んでいる加奈子の姿が目撃されていたことから、窮地に陥ってしまう
たしかに貞子に殺意を抱いていて、計画まで練り実行しようとまでしたが、殺してはいない
一体誰が貞子を殺したのだろうか?
夫にも疑いの目を向けられた加奈子は…


…ドラマの感想
前半は姑に殺意を抱く過程が描かれ、後半は趣が変わり、姑の死の真相を探るという二部構成のようなつくり
原作の骨格を残しつつ、かなり大胆にアレンジが加えられて話が膨らんでいるが、うまくまとまっている



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