あゝ平凡なる我が人生に幸あれ

哲学の小径の少女

京友禅の秘密 ~哲学の小径の少女~    【京友禅の秘密】所収


キャサリンと浜口一郎は、哲学の小径沿いに咲き乱れている桜の風景を楽しんでいた
すると、絵を描いている少女に出会う
しかし、絵を覗き込んだキャサリンは疑問に思う
なぜなら、少女が描いていたのは冬景色だったからである

なぜ桜が咲いている風景を前にして、冬景色の絵を描くのか?
興味を抱いたキャサリンは、少女に声を掛ける
しかし少女は素っ気無い態度を取るどころか、迷惑そうな顔をして、別の場所に離れて絵を描き始める
完全に嫌われてしまったキャサリンは、それ以上追及することはしなかった

心のどこかで、哲学の小径で出会った少女が気になって仕方ないキャサリンは、京都に雪が降った日に、少女の身に何かが起きたのでは?と推測する
そこで、京都に雪が降った日に何か事件が起きていないか、顔馴染みの京都府警の狩矢警部に聞いてみた
すると、その日、哲学の小径で江田かおりという少女の絞殺死体が発見されたことを知る
かおりの母である江田加寿子が、次女と一緒に心中することをほのめかす遺書を長女宛に残していたことから、警察では加寿子がかおりを殺害して逃げ隠れていると睨んでいるようだった
哲学の小径で雪景色の絵を描いているのは、加寿子の長女鈴子なのである

加寿子は、蒸発した亭主がつくった膨大な借金を抱えていた
返済する目処がないなかで、加寿子と娘のかおりの二人の分を足した生命保険で借金返済ができる
そこで加寿子は、せめて鈴子だけでも生きていてほしいと、かおりを殺し、自分も死のうと思った…
しかし、実際死亡したのはかおりだけで、加寿子は行方知れずのまま
いくら借金の返済に困っているからといって、我が子を殺すだろうか?
たとえ過ちを犯したとしても、もう一人の娘を放って、2ヶ月近くもの間行方を暗ますだろうか?

鈴子が描く雪景色の哲学の小径の絵には、女性と子供が並んで歩いている姿が描かれている
それは、加寿子とかおりなのか?
その絵に、ある疑問を覚えたキャサリンは、かおりを殺害したのは加寿子でないことを確信し、加寿子の借金をまとめているという尾伊川ローンへと向かう…

事件の真相を探るキャサリンを待ち受けていたのは、加寿子の死だった…
死体が発見された場所が密室だったことや、色々な状況判断のなかで、加寿子の死は自殺と警察は見ているようだったが、キャサリンは納得できず、独自に事件の解明を続ける


~感想~
短編の作品で、後半が急ぎ足で物語が進められるせいか、物語の核となる肝心なところが抜けてしまっているような気がして、あっさりとまとめられていることに物足りなさを覚えた
また、主人公と母の帰りを待つ少女の繋がりも十分に描かれていないので、ラストのエピソードもうまく活かされていない気がした
全体的に掘り下げて作品を書いていたら、奥行きが出て面白い作品になっていたと思うだけに残念

という事で、私的評価は星【★★★☆☆】3つです



◆この原作のドラマ化作品◆
平成2年4月2日放送
山村美紗京都サスペンス・スペシャル
『哲学の小径の少女・花よ散るな、やすらい祭り』
出演/高藤きょう子…三田寛子/シスター・浅川…木内みどり/田辺警部…古尾谷雅人(友情出演)/江田加寿子…浅利香津代/江田裕二…津田充博/牧師…オスマン・サンコン/尾伊川竜一…北村総一朗/大学の講師…山下真司(特別出演)/お茶屋の女将…曾我廼家鶴蝶(特別出演)/やすらい祭りの総代…田村高廣(特別出演) ほか


…ドラマの内容
京都精華大学の染色研究室で染色を学んでいる高藤きょう子は、哲学の小径に咲いている桜の花を楽しんでいた
そこで、一人の少年と出会う
その少年は絵を描いていたのだが、なぜか雪景色の絵だった
今は桜が綺麗に咲いている春なのに、なぜ雪景色を描いているのか?
興味を持ったきょう子は、少年に声を掛けるが、少年は素っ気無い態度をとるだけだった

きょう子は、哲学の小径で出会った少年の話を、教会でシスターをしている浅川に話す
きょう子は、幼い頃に両親を事故で亡くし、教会で育った
その時親切にしてくれたシスター浅川は、きょう子にとって親代わりの大切な存在なのである
好奇心旺盛な浅川は、少年にとても興味を抱く

翌日、きょう子はシスター浅川と、哲学の小径へと出かけた
すると、今日も少年は、春の景色を前にして雪景色を描いていた
雪降る哲学の小径を、母親と子供が並んで歩いている画である
二人は少年に声を掛けるが、少年は迷惑そうに一言、二言返すだけで、なかなか心を開いてくれない

雪景色の画には、何か意味があるかもしれない
そう感じ取った浅川は、知り合いの京都府警の田辺警部に連絡を取り、雪が降った2月11日に何か事件が起きていないか調べてもらう
すると、その日、哲学の小径で、江田かおりという少女が絞殺死体で発見されたということを知る
犯人は母親の江田加寿子で、借金を苦に母と子で無理心中をし、その保険金でサラ金を返そうとしたが、自分は死に切れずに子供だけ殺して逃げた…というのが警察の見解だった
その根拠として、「これしか方法がありません、下の妹だけは一緒に連れていきます」という遺書を、加寿子が息子の裕二宛に残していたからである
哲学の小径で雪景色を描いているのが、その裕二なのだ

本当に母親が我が子を殺し、逃げ回っているのだろうか?
事件を知り、裕二に同情したきょう子は、シスター浅川とともに事件の真相に探る…


…ドラマの感想
原作では、哲学の小径で画を描いていたのは少女だったのに、ドラマ化するにあたり、なぜ少年に変わったのかちょっと疑問
それだとタイトルは「哲学の小径の少年」になるんじゃないのかな?
それ以外は、主人公の設定など変わっているものの、内容的にはほぼ原作通り
原作では描かれていなかった、主人公と母親を信じる子供との交流がドラマでは描かれており、物語に奥行きが出ていたのは好感が持てた



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