Over The Moon.

Over The Moon.

2009年02月11日
XML
カテゴリ: *能関係の日記*
師匠(仕舞)が
『胡蝶』という能のシテをされるということで
大阪の能楽堂へ。


熊さん(仮名)「おお五月さん」

狭い世の中、

鴨くん(仮名)「こんにちは」

同じ電車に次々と、見知った顔が乗ってくる。


鴨くん(仮名)「今日は面白そうな番組ですね」


師匠の『胡蝶』に

そして
『海人(あま)』。


『海人』は、
物語の展開がドラマチックなので
私は謡本だけ持っていて、
『玉の段』という、サビの部分しか稽古したことがない。

能を観るのも初めてだから
どういった感じになるのか、楽しみだ。



「五月さん、こっちこっち」

また顔見知りの人に誘われて
正面の、めっちゃ見やすい良い席に陣取る。






シテ「鳴るは~~~」

絶対

シテ「滝の~み~~ず~~」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

って書いてあるよバックに!( ̄□ ̄;)


相変わらず凄い威圧感……。

「こんな人に守られてたら勝てん」って感じがする。

凄ぇ……(それしか言えん)。



そして師匠の
『胡蝶』。

とてもふわふわとして

ふわふわと……

……


……やっぱり胡蝶って
つかみどころが分からんなぁ。


ちゃんと鑑賞するには
もう少し鍛錬が必要かも……。



そして、『海人』。


『海人』は、題名の通り
海女がシテの物語。


“宝珠”を竜宮に盗まれ
取り返そうと浜にやってきた大臣が、
その地の海女と契りを結び
子供が生まれる。

 『もし宝珠を取り返してくれたら
  この子を大臣にしてやろう』


普通、海女の子が大臣になるなんてあり得ないから
海女は宝珠を取り返す約束をするのだが・・・



この、取り返す様の部分が
『玉の段』と呼ばれる、超有名な部分。
仕舞だけでもドラマチックな感じだから
能になるとどうなるんだろう、と思っていたのだ。
ある意味、軽い気持ちで。


それが・・・




「海人の刈る
 藻に住む虫にあらねども」

シテの出てくるところから

「われから濡らす袂かな」

空気が違っていたのだ。


以前、“無形文化財”でもある方の能を
何度か観たことがあるけれど
私にとっては、それに近いくらいの感じを覚えた。


それほど、シテがこの能に込めている
想いが違ったのかもしれない。

シテをされたのが、女性だからだろうか。
それは分からないけれど。



「御目にかけ候ふべし」


問題の、玉の段が近づく頃
シテは舞台の真ん中で
静かに床几(しょうぎ。樽みたいな椅子)に
腰を下ろす。

かなりお年を召されているから
激しく動き回る玉の段を、立って舞うことが出来ないのだ。

どうされるのだろう、と思いながらも
とても自然に話は進んでいく。



「もし此の珠を取り得たらば」

身分の全く違う、
子供の父である大臣に

「この御子を
 世継の御位になし給へ」

海女は静かに願う。


表情のない小面。

動かない海女。


でも


「さては
 我が子ゆえに捨てん命」


それが尚更
海女の、母親の
決意の深さを感じさせて

気づけば


「露ほども惜しからじと」


涙があふれていた。



私は、この後の悲劇を知っている。
海女も海女で、悲劇が訪れることを知っている。
だからこそ、悲しいのだ
海女の言葉が。


 “我が子ゆえに捨てん命
  露ほども惜しからじ”



この後海女は、竜の棲む竜宮に潜り
驚くべき方法で、宝珠を盗み取って
そして死に絶えるのだ。


けれどそれは、海女にとって
「露ほども惜しからじ」こと。
愛しい我が子が大臣となり、
何不自由のない中で生きていけるのなら・・・。


なんと静かで
揺るぎない決意なのか。



「ひとつの利剣を抜き持って」

そして、『玉の段』に突入する。


「かの海底に飛び入れば
 空は一つに雲の波」

やはり、シテは座ったまま。
けれど

「海漫々と分け入りて」

少し身を乗り出し
手を分け入る仕草をするだけで
悠々と海底に潜る、海女の姿が

「かくて龍宮にいたりて
 宮中を見れば其高さ」

少し面を照らすだけで
そびえる竜宮の高さが、目に浮かぶのだ。


「又思ひ切りて手を合わせ」

そして、合掌。

「南無や志度寺の観音薩タの
 力を合はせてたび給へとて」

その場で足踏みをし
念仏を唱える。

そのとき


「大悲の利剣を額に当て」


シテが立ち上がった。


「龍宮の中に飛び入れば」


ここで立つのか、と思った瞬間


「左右へばつとぞ退(の)いたりける
 其隙に宝珠を盗み取って逃げんとすれば」

信じられないほど俊敏な動きで宝珠を盗み取り

「かねてたくみし事なれば」

その、かねてから考えていた
驚くべき方法


「持ちたる剣を取り直し」


剣で


「乳(ち)の下をかき切り」


乳をかき切る。

その切る様が、あまりにリアル。
観ていられないほどに。


「珠を押し籠め」

子供を胸に抱くように
切った部分に、そっと手を当てて

「剣を捨ててぞ伏したりける・・・」



竜宮に棲む悪竜たちは
死人は『忌むべき存在』として、近づかない。
だから無事、宝珠と、宝珠を抱いた血まみれの海女は
海上に引き上げられるのである。




……能の可能性は
本当に、無限に広がるものだ。


ああやってシテが、全く一歩も動かなくても
シテの演技と心持ち、
観客の想像力とシンクロすれば
こんなにも深い感動を生み出す。


こりゃー凄いもんだと
改めて思い知った感じである。




師匠「あの海人のシテの方に
   『呼びかけだけは良かったわよ』って言われたよ」

がくー、とうなだれている師匠。

これから益々お上手になられるのだから、
本当に素晴らしいことである。



私もずーっとずーっと下の方だけど
それなりに、頑張るのだ!





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2009年02月13日 09時36分41秒
コメント(4) | コメントを書く
[*能関係の日記*] カテゴリの最新記事


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


お元気そうで何よりです  
ZAGZAG さん
以前、といってもまだ五月渡理さんが学生のうちに、二三度コメントさせていただいたZAGZAGです。その後も時々ブログ拝見しています。
早いもので就職されてからまもなく一年ですね。もっとも現職場は学生時代から通算すると・・・なんだかすっかり仕事にも慣れて、活躍されている様子がうかがえて何よりです。
ところでこの記事を読んでいて、ようやく五月渡理さんのお師匠さまがどなたか分かりました。東京の会にも良く出ておられるので、昨年の暮れには和布刈のツレで拝見しています。優しい雰囲気を感じる方で、俊成忠度のシテでは趣のある忠度を見せていただきました。今後もさらに活躍されると良いですね。 (2009年02月14日 22時08分09秒)

コメントありがとうございます~  
五月渡理  さん
★ZAGZAGさん
 お久しぶりです! 嬉しいです、ありがとうございます。
 そうです。早いもので、就職してから1年が経とうとしております。
 まだまだご迷惑をおかけすることも多いのですが・・・何とかやっております。

 あっ(汗) 師匠お分かりになりましたか。そうです、あの方なのです。
 師匠は、師匠でもあり私たちのサークルのOBでもあるので、学生の頃から大変良くしていただいております。
 近年から、どんどんシテをこなされるようになって・・・
 今後ますますお上手になられるのが、本当に楽しみです。

 ここ数ヶ月、多忙に追われてなかなかブログを書けなかったのですが、最近また書いていこうと思っております。
 またお暇なときにはお越しくだされば幸いです。

(2009年02月15日 09時59分44秒)

始めまして  
鷹峰 さん
始めまして
 数ヶ月前から読ませて頂いてました。
私も宝生流のお能を習っています。ド!素人ですが、ずっと師匠はどなたなのだろうと思って読んでいました。 が、やっとすっきりしました。私は五月さんの仕舞の師匠には直接教えていただいたことはないのですが、師匠の師匠にはかなり昔に基本を教えていただきました。そして知らないのは怖いことなのですが、初めての舞囃子が「田村」で、その指導をしていただいたことがあります。 満足にお稽古もせず、お囃子の先生方に目もあわせられないほどの緊張で足が震え、何とか立ち止まらずに帰っただけしか覚えていません(゚-゚) 今は違う先生にご指導いただいてますが、今後も楽しみに読ませて頂きます。 (2009年02月20日 23時39分16秒)

コメントありがとうございます~  
五月渡理  さん
★鷹峰さま
 初めまして、コメントありがとうございます!
 数ヶ月前から来られていたとは・・・。嬉しいです(そしてやはり師匠の正体がばれている……)。

 お能を習っておられるのですね。しかも宝生流、舞囃子『田村』をされてるとは!
 私も2年前、舞囃子『雲雀山』をさせていただく際に、師匠の師匠に教えを請いました。
 私も本番は緊張して……なかなか満足に舞うことが出来ませんでした。

 是非、これからもお稽古を続けられてください。私も頑張りますので!
(2009年02月21日 11時34分20秒)

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: