Over The Moon.

Over The Moon.

2009年05月31日
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カテゴリ: *能関係の日記*
「上」の続き 。)


楽屋に入ると

「五月さんですか」

私「あ、はい」

「今日はよろしくお願いいたします」

『藤』のシテ、地謡の方々と顔を合わせた。


地謡は、1人お仕事で来られなくなって
急遽女子大の現役の子が入ってのメンバーとなった。


「ええ、是非合わせましょう!」

楽屋の隅っこで、
小声でぼそぼそと合わせる。


一度も一緒に謡ったことのない先輩方。
それが不思議なことに、声がよく合う。
お上手だから、合わせて謡ってくださっているのだ。
ありがたい。心強い。



紋付き袴に着替えて切り戸に向かう。

出番は、『藤』より
仕舞『半蔀』の方が先だ。

そう考えたら手に汗が……




私「あっ、今日はよろしくお願いいたします」

師匠「はは。
   まぁ、 緊張するのもいいことだからね

いやあああ




ああ! 現時点で結構
緊張してしまっている。
落ち着かねば。落ち着かねば。


鴨くん「眼鏡外しましたか。扇持ちましたか。大丈夫ですか」

はい。はい。だいじょぶ。


地謡はおなじみの
熊さん、犬さん、鴨くん、
仕事で来れなくなった山羊さんに替わって

猿さん「熊さんに今日『入れ』と言われ・・・」

猿さん。

現役の時に
何度も謡っていただいたことのある先輩方。

緊張はしているけれど
慣れた方に謡っていただけるのは嬉しい。


「「よろしくお願いします」」



流石記念大会
見所にいる人数も尋常ではない。
目が悪いから、細かくは分からないのが助かる。

ああ、でもドキドキする・・・



シテ「今日の修羅の敵は誰そ」


まずは鹿くん(仮名)の『八島』から。

こうやって、舞台の上で待っているのは
何とも緊張感をあおる時間なのだ。

鹿くんはよく稽古してるしなぁ。緊張してなさそうだなぁ。
きっと危なげない仕舞だろう・・・

シテ「思いぞ出ずる 壇ノ浦の」


そんな私の
うだうだした思いは



地「その船戦 今は早」



地の出と共に

背後から一気に吹き飛んでいった。



地「その船戦 今は早」


ずんと響く低音。
見所を飲み込む声量。

例えるなら100m走で
選手が一斉に駆け出すときの瞬発力と
鍛え抜かれた体躯で突進していく様を思わせる。

能楽堂の空気が一変する。


上手い!


地「海山一同に振動して
  船よりは ときの声」


これまで、一度も全員で合わせたことがなかったはずだけど
この息の合い方と言ったら。


学生時代の4年間、がっちり稽古して
卒業してからも稽古を続けている
生え抜きの4人と言ってもいいほどのメンバーが謡う地。

上手くない訳がないのだ。
圧倒されない訳がないのだ。


地「水やそらそら
  行くもまた雲の浪の
  打ち合い」

間合いの空白に
シテの足拍子一発

地「刺し違ふる」

このタイミングもばっちり。


かつて、能楽とは
男性社会の芸能だった。
今では女流能楽師も沢山いる世となった。

しかし、
しかしだ。
やはり謡曲は、
男性に合わせて作られている。

謡いながら思うのだ。

「やはり男性にはかなわない」

声質と、持って生まれたパワーの差が違うのだ。
男性の方が結局は映える。
そんなとき、男性がうらやましくなる。


格好いい。
気持ちいい。
いつまでも聞いていたくなる。

そんな地を背に舞台にいることの、誇らしいこと。


私も
この地に見合う仕舞がしたい。



万雷の拍手で鹿くんの仕舞が終わって
次は私の番。


緊張はしている。
舞台だもの。

でも、稽古のときほどではない。
先ほどの、背中をぐっと押してくださった
地謡のおかげだ。



息を吸う。


シテ「その頃源氏の・・・」



「下」に続く 。。。)





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Last updated  2009年06月02日 23時39分43秒コメント(0) | コメントを書く
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