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室内汚染物質

深刻な室内汚染物質

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人に被害を与える汚染物質で、もっとも影響の大きいものは室内汚染物質です。
2005年3月24日付けのレーチェル・ニュース810号がこの問題を取り上げました。

家庭・学校・職場などの室内環境で使う多くの製品に、室内を汚染する可能性のある物質がきわめて多数ふくまれています。事実、それらが私たちの体内を汚染しているという報告が数多くあがっています。にもかかわらず、規制のないものが大部分をしめている、だから規制にだけ頼っているわけには行かない。さらに大きな努力が必要だ、と主張しています。

▼有害物質は大部分が室内起源のもの
人の健康を守るはずの法律が、実は主な汚染源、つまり室内の汚染源となるものを規制していません。一般の人びとは、この事実に気づかない。これらを減らすのは、大気や水の汚染を減らすのにくらべてずっと簡単で、費用もかからないはずです。

これまでの環境調査は、被害があるとまず汚染源を特定して、その汚染物質を人体がどれだけ取り込んでいるかを調べるというやりかたでした。しかし逆に実際に人体が取り込んでいる物質から辿って、どこに汚染源があるかを調べることもできます。人の健康を第一に考えるなら、汚染源から発想するのではなく、人体汚染の事実から遡っていくやりかたの方がいいことが分かります。

80年代~90年代にかけて米環境保護庁が人の体内に取り込む物質の総合調査を実施したことがあります。3000人以上が被験者として参加し、モニターを身につけて、揮発性有機化合物、殺虫剤、一酸化炭素、大気中微粒子、フタル酸、多環芳香族炭化水素などを調べました。

この調査は、いやおうのない結論を導きました。私たちが取り込んでいる有害物質は大部分が室内起源のものだという結論です。その起源とは、私たちが選んで使っている製品にほかなりません。この考え方は、これまでの発想とは違います。
そして、戸外の汚染にもとづいた規制の考え方とも違います。その発生源とは、次のような製品です。

空気清浄剤、消臭剤、洗剤、農薬、化粧品、ドライクリーニング、殺虫剤など。
建設用材料、家具、ペンキ、ニス、接着剤、溶剤、カーペット、フローリング、集積材、焼却炉など。塩素消毒した水、木材の燃焼、ろうそく、自動車のガソリン、喫煙など。

その結果、次のような数字が出ました。

VOC(揮発性有機化合物)は室内の方が5倍~50倍濃度が高い。新しい建物は VOCの濃度が戸外より数百倍も高いことがある。炎症、頭痛、神経障害、がん、アレルギーなど。芳香剤がVOCの主な源。
上記以外にもブリーチ、シャンプー、石鹸、ローション、ヘアスプレー、ひげ剃りクリーム、マニキュアとリムーバー。芳香を出すために使われている物質の95%以上は石油から合成された物質。

農薬の濃度は室内の方が 5倍~10倍高い。これは戸外で使った農薬が室内に溜まるから。室内では自然に分解しにくい。カーペットからも DDTが検出されたりする。多環芳香族炭化水素のカーペット・ダストに含まれる濃度も大変高い。室内で子どもは、タバコを1日に2.8本吸うほどのベンゾ(a)ピレンを吸い込んでいることになる。こうした結果から、室内汚染によるリスクは、ごみ処理施設などによる室外汚染のリスクと比べても遥かに大きい。


▼21世紀に入って、CDC(アメリカ 疾病管理予防センター)が大気・水・食品・土壌・ダスト・生活用品などについて、有害物質の調査を行いました。

01年の第1回は、鉛・カドミウム・その他の金属・有機りん農薬 (代謝生成物)・コチニン(ニコチンの代謝生成物)・フタル酸 (塩化ビニルの柔軟剤など)について行われました。03年の第2回は以上の物質に加えて、多環芳香族炭化水素(PAH)、ダイオキシン類、ジベンゾ フラン類、PCB類、植物ホルモン、有機りん化合物、有機塩素化合物、カーバメイト系殺虫剤、除草剤、殺鼠剤、消毒薬について行わ
れています。

その結果、鉛やタバコの煙など、従来から知られていた問題について新しい局面が明らかになっただけでなく、新しい問題が出てきました。一つはフタル酸です。すでにすべてのアメリカ人の体内に入っています(日本人も同じ状況でしょう)。フタル酸は塩化ビニルの柔軟剤として知られていますが、実はさまざまな日常品に使われています。ビニル製品に多く含まれているのはもちろん、レーチェル・
ニュースの記事をそのままここに引用すると、「農薬、医薬品、ローション、おもちゃ、接着剤、洗剤、潤滑剤、食品包装、石鹸、シャンプー、ヘアスプレー、マニキュア」などに使われています。

もう一つの問題は、子どもたちの体内に多種類の農薬が存在していること、しかもその濃度が高いことです。クロルピリフォスの代謝物(体内で変化したもの)の濃度は大人より子どもの方が、ほぼ2倍高い濃度。またすでにずっと以前に禁止になっているDDTが12歳~19歳の青年の体内に明らかに存在していること。(農薬の体内濃度について、日本で調査した最近の資料があるかどうかは不明)

一方、ニューヨークのマウントサイナイ医科大学が、首都ワシントンで精力的な活動を進める環境ワーキンググループ(EWG)などと協力して行った03年の調査によって、新たにさまざまな問題が浮かび上がってきました。化学品を扱っていない健康な9名の被験者を調べたところ、最大167種・平均91種の 工業化学物質が血液や尿から検出されました。含まれていたのは、有機塩素化合物の分解生成物、有機りん農薬の分解生成物、PCB 類、ダイオキシン類、ジベンゾフラン類、フタル酸類のほか、最もよく見られたのは、普通の日用品に含まれる揮発性有機化合物(VOC)と準揮発性有機化合物(SVOC)でした。これらはCDCの調査では調べられていなかったものです。

この調査報告は EWG のサイト

環境調査財団


有害性をすべて調べつくすことなどできません。あらゆる物質が混合されていて、その複合作用を調べつくすことなど不可能ですし、濃度が高いほど有害性が高いかというと、必ずしもそうともいえない。蓄積による影響もある。一人ひとりによって受ける影響が違う。物質の影響がすべて分かっているわけではない。
新しい物質がどんどん登場する。こうして誰も問題点を指摘できないまま、有害性が証明されないかぎりその物質は安全だということに、事実の上でなっています。

ところが健康状態の実情はどうか。最近アメリカで化学物質とかかわりがあると考えられる病気がどれだけ増加しているでしょうか。その上昇率を見てみましょう。(  )内は比較の対照年代。

 ぜんそく         160%(80年)
 自閉症         1000%(80年代)
 尿道下裂        100%(68年)
 小児がん         26%(75年)
 急性リンパ性白血病  62%
 脳がん・神経がん    50%
 精巣がん         85%(73年)

こういう影響はすぐには分かりません。というのは、初めは風邪のような症状が出る程度、ということが少なくないからです。それがやがて慢性的な症状に移行していきます。また、濃度が低いほうが強い影響がでるという厄介な現象もあるようです。私たちは常時こうした汚染物質にさらされ、これが数多くの病気に関係している可能性がありますが、それが何に由来しているか認識されていませんし、規制されてもいません。

このように、私たちが一日の大部分をすごしている室内の有害物質が人体汚染の大部分をなしていますが、法律の規制は室外汚染に圧倒的に偏っています。しかも、室内汚染について包括的に規制するような法律がなく、主管官庁もばらばらという状態です。日本でも「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」というような法律があるにはありますが、対象物質がごく限られています。シッ
クハウス対策が動き出しているのは確かだとしても、それも、室内空気の汚染をほんの一部だけ問題にしているにすぎません。

「企業秘密」とされているような成分や、農薬の「活性成分」以外の成分(界面活性剤など)は表示されないことが多い。こういうものが 95%を超えることもあり、活性成分より毒性が強かったりします。ホームセンターなどで売っている農薬に含まれる成分を調べると、72%が大量の(95%を超える)不活性成分を含んでいました。また空気清浄剤が「パラジクロロベンゼン」を含んでいても、それを表示する義務がないというような例もあります。芳香剤では、単に「芳香剤」と表示するだけでよく、具体的な成分を書いていないことがある。 (以上いずれもアメリカの状況で、日本では少し違うかもしれません)

全体に、排出量を規制することはあるが、人の取り込み量を規制することはないのも問題です。特定の人が特定の環境で、大きな量を取り込んでいることがありますが、排出量の規制ではこのような場合に対処できません。そうすると、個々の物質の排出を規制できても、全体としてその混合物を取り込んでいるわけですから、人体の中でどのようなことが起きていても、問題とされないことになりま
す。複合作用の可能性があるというだけでなく、別々に違うルートから取り込んでいて合計で有害な量に達してしまうことだってある。

CDC(疾病管理予防センター)やEWG(環境ワーキンググループ)が出したデータを見ると、従来の規制では主な汚染源が見逃されてきたことが分かります。いまでは室内空気汚染と日用品による危険性が最大のものとなっていて、これまで規制されてきた屋外大気の汚染よりずっと大きくなっています。皮肉なことに、私たちが漠然と安全だと考えている場所や製品が、いまでは最大の汚染源となって
いることに気づかなければなりません。それがほとんど規制されていない。

したがって危険性を避けようとすると、有害の可能性がある製品や資材を使わないことです。しかし残念ながら、医学界もこのことに気づいていません。一般の常識と現実との間におおきなギャップがあります。このギャップを埋めるには、製品に含まれる工業化学物質について正しい情報を得られるようになっていることが必要です。

具体的には、ケア用品、ドライクリーニングに使う溶剤、芳香剤、ペンキ、ニス、殺虫剤、除草剤などといった製品に安全な成分を使っているかどうかを知ること。より安全な成分を含む製品の製造・使用を増やしていくこと。室内汚染を減らすことで、全米で年間1000億ドル(10兆円)が節約できます。

それと同時に、人がどんな物質をどれだけ取り込んでいるか、もっと詳しく調べることも必要です。これには人工化学物質や重金属類だけでなく、生物起源の汚染物質や、電磁波・放射性物質など物理的な汚染も含まれます。

結論。――人体への取り込みを監視することは解決策の一部にすぎません。予期せぬところに汚染物質が見つかってきました(例えば母乳に含まれる農薬)。どうしてこんな汚染が起きるのかと問題を立ててみるだけでなく、そもそもこんな汚染物質がなぜ作られているのか、と疑問を持つことも必要です。そうすると、ここで予防原則が役立ちます。次のような物質があると、どれをとって見ても私たちは害を受ける可能性があるし、その証拠があります。難分解性のもの、生物に蓄積するもの、発がん性があるもの、内分泌かく乱作用があるもの、変異原性のあるもの、重金属、免疫・ホルモン・神経に対して毒性があるもの、こういうものが特に問題です。ですから、この種の物質に依存するのを止めるか、出来るだけ少なくしていくことが目標になります。汚染物質が排出され、人体の中に見つかるのを座して待つのではなく、そのためにどれほどの害が生じるかを予測し、すでに分かっている取り込み量の情報を使って、その害を防ぐよう努力したいものです。

レーチェル・ニュース 3月31日

(出典:世界の環境ホットニュース[GEN])

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