インディー(13)



「田舎は・・・?」


うなづいてくれた


(おれの郷里からも、こんな美しい子が出現するんだ・・)

彼女は、ティーカップの口紅の跡を指で拭いながら、話し始めた。


「ことばですぐにわかってしまいますね。わたしの彼も同じ関西出身やけど、ことばの違いについていちいち細かいですわ」

(ですわ・・は語尾が下がる)

「ここははじめてだよね?」


(口を真一文字に結んで、真剣な眼差しでうなづいた)


常に緊張したように背筋をピンと伸ばしている


「姿勢がいいね!」


「バレエやってましたから」

(また真剣な眼差し)


「いつごろまで?」


「ついこのあいだまで」


「大学に入ってからやめたんだ?」


「そうです」


(いつもきっぱり)

「ぼくは、バレエのことは、ほとんど知らない」


「・・」


「ここの眺めはいいだろ?」


(黙ってうなづく)

窓の外は、夕闇が迫っており、行き交う人たちの顔は、もう判別できないほどになっていた。


「専攻は?」


「美学です」


「あぁ・・」

「ぼくは専攻は生物だったけど、2回生のとき美学の先生にずっとついて回っていたことがあるよ。近松良之っていうおもしろい先生だった。」


「もともとはドイツ美学が専門だったみたいだけど、行き着いた先は、日本文化論」

「大蓮生まれのおぼっちゃまでね。生き方すべてがユニークだったね。大学教授を途中でやめて、養護施設を始めたんだ。学生時代に何度かボランティアで施設まで行ったよ」

(しゃべり過ぎ・・)


「ここは良く来られるんですか?」

「うん、常連だよ」

「君が今、座ってるところに陣取って、いつも無意味に時間を浪費している」

(初めて少し微笑んでくれた)

(笑うとえくぼができる)


「おなかは空いてない?」

「軽くおごってもいいよ」

「近くにいい店があるんだ」


すかさずママがチャチャを入れる。


「まあ、そんな風にここで女の子をナンパするのは何人目でしょうね~~」


ママのいつものバカ笑い。


ナオミも釣られて笑っていた。


(つづく)



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