インディー(28)


「マッツ・エッグというスウェーデンの振付師がプロデュースした白鳥の湖のビデオをヤベ君に預けておいた」
と連絡が入ったので、さっそくコート・ドールに取りに行くことにした。

平日の午後7時過ぎ

ヤベは、ワイシャツのそでをまくり上げて、生け花の手入れをしたり、トイレの匂い消しに線香を立てたりと、忙しく動き回っていた。

10分ぐらい待たされた後、

「いつものやつ!」

「オカチャンっすね!グアッハッハ!」


「今日は、やけにお早いですね」

「ナオミからメールが入ったものだから・・」

「アッ、ビデオっすね。預かってます!忘れないうちに」


これまで、余り意識していなかったが、カウンターに生けられた生け花が、やけに冴えている。

「ヤベ君は、生け花のセンスもあるねぇ」

「そぉっスカァ?ありがとうございます」

「生け花も、バーテン修行の一部やね」

「えぇ、まぁ、そんな感じッスねぇ」
と照れるところが、かわいい。


「バーテン始めて一年チョイってことだったけど、この店に来てどれくらい?」

「まだ、三ヶ月足らずッス」


「その前は、祇園のバーで修行してました」

「トレードされて来たんや」

「うん、まぁ、前にここでバーテンやってた人が、急に田舎に帰って家業の酒屋を継ぐことになってしまって、お声がかかったんス!」


「前の店とこっちとどっちが楽しい?」

「そりゃ、自分で仕切れるから修行中よりは、楽しいッスよ」
「でも、オーナーと折が合わなくて・・」

「毎晩4時ごろになるとオーナーが、ここに来るんですよ。で、お金の勘定とか全部自分でやって行きはるんです。」


「要するに信用されてないんだな?まだ、三ヶ月足らずだから仕方ないよ」


「それだけじゃないんッスよ!」

「毎晩、売り上げが少ない。店の電話を私用で使うなってガミガミ言われるんッスよ」


「最初の一月は、ぼくのツレとか、前の店の常連さんとかに電話しまくって来てもらったから、売り上げが150万くらい行ったんッスよ。ところが先月は、売り上げが半減。そしたら、ガミガミ言い始めて、もうたまらんのですワ」


「ふーん、銭ゲバオーナーやな。この店やったら家賃はせいぜい20万くらいやろ?月の売り上げが、7、80万あれば、君の月給出してなんとかやって行けると思うけどなぁ」

「オーナーさんがやってるワインバーってもしかして・・・・」


(つづく)





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